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1章

酷薄

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「俺が契約したって......どういうことなんだよ?」

今目の前の悪魔から放たれた残酷な事実を前に六花は戸惑いを隠せない。

「そのままその通りさ。君は春野芽生に“嫉妬”していたんじゃないの?」

確かに春野芽生は何でもそつなくこなす__いや、人並み以上に何でも出来てしまう人間だった。

そのことに対して六花が劣等感を覚えることは仕方のないことなのかもしれない。
しかし、六花は劣等感こそ覚ゆれど、春野芽生を殺したいほど嫉妬するはずがない。
主体的に悪い感情を抱きようがないのである。
なぜなら、六花と芽生は家族同然に育ってきて、愛し合っていたのだから。

「そんな......そんなわけがあるかっ!俺は......俺は__春野芽生を心から愛していたんだ!」

六花は憤怒した。
自分が愛していたものが揺らぎ、それを引き起こした目の前のモノがたまらなく憎い__殺してやりたいほどに__

『良い「憤怒」だ......実に実に実に......素晴らしいっ!
まあ、君がそう言うんだったらそうなんだろうね。君の憤怒は本物だ。その憤怒に免じて可能性を与えてやろう。
準備は良いかい、深雪六花__』

目の前のソレは六花に対して異常なまでに白いその手を差し伸べてきた。

__コレに触れたら、マズい__

六花の本能が警告を告げる。今まで感じたことのないような威圧感に六花は自分が立っているのか座っているのかその状態すら感覚が曖昧になって分からない。先程の芽生以上の恐怖に対して六花は__

差し伸べられた手を掴んでいた__

『契約成立だね。深雪六花__』

先程の会話では感じることのなかった圧倒的な威圧感の前で六花は呆然と立ち尽くしていた。

『僕の名前を教えていなかったよね。』

目の前の悪魔がこちらを見つめている。その目を、その唇が__
六花を殺している。

『僕の名は__“サタン”。
「憤怒」の大悪魔にして悪魔の王さ。』

瞬間、六花は自分が聞いてはならないことを聞いたかのような気がした。死ぬことよりも辛い__と聞くがまさに今、六花の状況はそうであった。

『君、凄いよ。自分のこと要領が悪いとか言ってるけど僕が堕天して人間に召喚されたのは初めてのことだよ。パラケルススでさえ出来なかった偉業だよ!生まれて初めてってこのことなんだね!』

やめろ......自分はそんなつもりがなかったんだ。
六花は必死に会話を止めようとするが言葉が出ない......
やめr.......自b分はそんnつuもり......

『おや、もう壊れてしまったのかい?おっと、すまない。僕の魔力の調整が上手く出来てなかったようだね。』

直後、六花は包み込まれていた圧倒的な威圧感から解放される。

『ボオェ__アガッ、グフェ』

胃の腑から胃液が流れ落ちる。どっとした疲労感と倦怠感が内側から湧き出てくる。

『ハハッ、君やっぱり面白いね~
でも女の子に向かってゲロを吐きかけるのはどうかと思うな~』

ソレは女々しい仕草でそう言ってくる。

「ふざけんなっ!お前、俺に何をしたんだっ!」

『ひどいな~ただ君に契約を持ちかけただけだろ?最終的に決定権をあげたあたり良心的だと感謝されても良いくらいなのに。』

「感謝だとっ__ふざけn」

『あーもう五月蝿いナァ。お口はチャック。今喋っているのは僕なんだからね!』

自分の話と噛み合わない混乱した六花の言葉を煩わしく思ったのか、ソレは六花に対して黒い粒子を放った。刹那、六花の口は圧倒的な存在に抑え込まれているような感覚がした。

『今から言うことをちゃんと聞いてよ!もう一度しか言わないからね!
まず、さっき言った君の幼馴染の今の状態だけど、君が悪魔を召喚したんじゃないんならいくつかのパターンが考えられる。
まず一つは、君以外の誰かが彼女に対して悪魔をけしかけた場合さ。さっき話したように悪魔と人間との間で取り行われる契約だが、基本的に死後その取り引きが執り行なわれる。
だけど例外があってね。他人に対して何かしら強烈な感情を抱いていた場合、悪魔をけしかけることができるんだ。呪いのようなものだね。この場合、悪魔は大抵対象の魂を吸い取った後、自分を呼び寄せた人間の魂をさらって消える。「人を呪わば穴二つ」ってね。彼女の場合、こういった場合も考えられるんだ。』

「じゃあ、芽生は誰かに呪われて__」

芽生のことだ。誰かに「嫉妬」されることも十分あり得るだろう。

『いや、僕はその可能性は低いと思うな。だって君以外に彼女と付き合いが長い人がいたかい?
さっき話した場合の強烈な感情ってゆうのはね、本当に異常な状態のことなんだよ。』

十六夜高校に入学して間もない芽生にとって、そのような状態も考えられず......

『そしてもう一つは、悪魔が人間に恋している場合だね。これは彼女に憑いている悪魔が問題でね......“レヴィアタン”は「嫉妬」しているのさ。君にね。春野芽生が君を殺そうとしたってゆう状況を考えても僕はこの説が本命だと思うな。』

アレが芽生ではないことを知って六花は安堵した。芽生は自分を殺そうとしたのではなく、芽生に憑いている悪魔のせいだと。

「じゃあ、その“レヴィアタン”ってゆうのをどうにかすれば良いのか。」

六花はどこか嬉しそうにそう言った。“悪魔の王”だとゆう目の前のソレならば“レヴィアタン”を滅ぼすことも可能だろう__

『残念だけど、それは無理だよ。』

六花の淡い希望はすぐさま掻き消された。

『“レヴィアタン”にはどんな悪魔払いも通用しないってゆう権能があるからね。』

「じゃあどうすれば良いんだ?」

『知らないよ。そんなこと。』

「勝手に惚れられて魂を吸われるなんて勝手にも程があるだろ。」

『君、何か勘違いしていないかい?悪魔に恋心を抱かれるってゆうのは極めて非日常的なことなんだよ。君は毎日交通事故に会うかもしれないとビクビク怯えながら道を歩くかい?事故のようなものなのさ!それが彼女の運命なのさ!』

「ふざけんな、運命だと?そんなの......そんなの認められるか!」

『君が認めるかどうかなんて僕達にとってしてみればどうでもいいことさ。それとも君は“レヴィアタン”を殺すことができるのかい?出来なかっただろう!出来もしないことに対して許さないだとか君って......「傲慢」過ぎやしないかい?』

「ウワァーーーーーーー」

六花は発狂した。
自身の無力さを。不甲斐なさを突きつけられて。発狂した。

『ハハッ、良いね良いね良いね~人間の狂う姿ってゆうのは実に愉快だ!これだから悪魔はやめられないっ!』

狂った白髪の少女の甲高い声と狂った青年の慟哭が響き合う。

『いい加減、落ち着きなよ。』

六花の発狂にうんざりした様子で少女は冷めた声でそう言った。

『君はまだ本当に狂っていない。狂った振りをして逃げているだけだ。だって君はまだ人間ダロォ!まだ......悪魔じゃないっ!』

狂っている__
彼女はいや、アレは間違いなく狂っている。

『狂った振りまでして逃げてばかりいるなんて、君って「怠惰」でもあるんだねっ。実に実に実に実に実に実に......素晴らしいっ!』

狂った悪魔の声がする。

『でも、そろそろ話を再開したいんだ。僕としてはこのままずっとこうして君を味わうことを行なっても良いんだけどね......春野芽生がこのままじゃ危ない。春野芽生を救うことは僕と君の大切な契約だからね!契約の違反は駄目だから......君を味わうのは、君を殺してからにしよう。ああ、でも君って実に愛おしいナァ。今ここでタベテしまいたいよ。』

「ア......あはははあはははははは......」

六花はまだ狂っている......いや逃げている。

「グハァ......」

刹那、強烈な圧力が六花の首を覆う。

「......っ......っ................」

ナニかが六花の喉仏を締める。否、潰そうとする。

バァン。

強烈な蹴りが六花の膓を襲う。




























痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い熱い熱い痛い痛い熱い痛い痛痛い熱い痛い__














『目が覚めたかい?』

そこには愛おしげに六花を見つめる悪魔がいた。

『少し荒っぽかったけど、君を殺したよ。まあ、ここは君の精神をだけどね。ここは君の精神世界だからね。言ってなかったけどね。』

「こ......こ.......は......?」

『うん?ここ?ここはね“地獄”さ。』

頰まで裂けんばかりの歪んだ笑みをたたえて
__嬉しそうに
__ショウジョハソウユッタ__

「芽生......芽生......」

『そうだ!六花!君にはまだやるべきことがあるっ!
春野芽生を救わなきゃダロォ』

「芽生......芽生......芽生......m」

『うん。そうだとも!早く春野芽生を救わなきゃだよね!六花。』

虚ろな表情で
何度も何度も何度も何度も__
最愛の人の名を呼ぶ六花に悪魔はそう囁いた。

『まず、“レヴィアタン”を殺すことだけどソレは君一人分の魂じゃ出来ない。方法の一つとしては君が死ねば“レヴィアタン”の「嫉妬」はおさまるだろうけど......』

「芽生......芽生......m」

『自分が死んで芽生が助かるなら死ぬ。殺してくれだって?まあ、落ち着きなよ六花。』

「芽生......芽生......芽生......芽生......m」

『良いかい、春野芽生から“レヴィアタン”を追い返すことが無理なら、“レヴィアタン”から春野芽生を奪えばいいんだよ。』
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