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第四章 脚光を浴びる

第142話 棄権しろ?イヤだね! ブレアside

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俺、ブレアはヴィドと言う腐った性根の持ち主と戦い終わり、少々気が立った状態で闘技場の通路を進んでいた。その時、出来れば聞きたくない声が響く。

「おい、貴様、待ちやがれ!」
「…どうしたんです」

ヴィドだ。俺は可能な限り嫌悪感を鎮めて話しかける。ヴィドは俺に訳の分からない道理を押し付けて来た。

「貴様、何故あそこで負けなかった!私はブラクウェイ家の子息だぞ!私が勝って然るべきだろう!」
「いやあの、実力が及ばなかったから負けたのでは…」
「うるさいうるさい!私の方が強いのだ!何ならここで証明してやろう、今ここで勝負しろ!」

いや、そう言われても…俺はヴィドを無視してそそくさと歩き始める。

「待て、貴様!私を侮辱すればどうなるか分かっているのか?貴様の大事な人間諸共牢に入れる事位造作も無いのだぞ!?寧ろここで棄権すれば決勝進出の権の正当な持ち主に渡るのだから喜ぶべき事だ!」
(ククク、さぁかかって来い。ここで飛び掛かってきても貴様はルール違反で退場、棄権すれば勿論負けだ。例え逃げても家柄から直ぐに特定して取り潰しにしてやろう!)

念の為真意を探った事を俺は後悔した。ここまで腐っていると最早何も残らないのでは無いかと思ったが、それ以上にはてどうしたものかと俺は考える。

(たしかにこの男の言う事は的を射ている。無視はラバンさん達優先だから除外、攻撃は勿論アウト。棄権はアラン達に何があったと問い詰められてブチ切れたアイツらが盛大な報復をするのは自明。となると…)

俺は数秒考える振りをしてそして会話を再開する。

「申し訳ございません、俺あんまり貴族様とかを知らなくて。えっと、先程言われた事をもう一度言ってもらえますか?」
「ふん、良いだろう。ブレアとやら、貴様は今すぐここで棄権しろ!そして私に決勝進出権を渡すのだ!」
「んーと、棄権って言うことは…勝利の事実を覆せって事ですか?」
「何だ、下地民の癖に理解は早いのだな。そうだ、私こそが決勝に進むのに相応しい!」

良し、言質取れた。俺は面倒臭い事に巻き込まれたのに対し内心溜め息を吐きつつ、徐々にヴィドとか言う愚か者を追い詰めて行く。

「言っては何ですが、仮に俺が棄権しても次の試合で当たるセドリックか運営に俺がコレを報告すれば彼らはまず間違い無く全戦力を揮ってヴィドさんを潰しに来ますよ?生憎同じパーティで活動しているもので」
「フン、あの冒険者上がりの伯爵の息子か!残念だな、私の家は侯爵家だ。それ位の弊害何ともない!それに負けてもまた奴にコレと同じ話を提案すれば良いのだからな!」

俺は最早眼に見える様に溜め息を吐いてしまった。ここまで愚かだと一周回って清々しいな。

「いや、それもそうですけど…セドリックを完全に怒らせたら恐らく提案とかそれ以前に魂の段階でこの世界から滅せられますよ。俺なんか比べるのもおこがましい程に」
「何を戯言を。魂を消滅させるなど出来る訳がない!せめてもの抵抗か?今すぐにでも家を潰してやろうか?ん?」

ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべるヴィドに対し、俺は右手を壁に向かって伸ばし、手を一度パーに広げて握った。

『はいはいはいはい~!聞きましたか、観客の皆さん!何と戦いの場でも無いのにヴィド・ブラクウェイがこんな提案をしていました!コレは聞き捨てならないですねぇ~』

やけに陽気な声でアランが会話に介入して来る。それと同時に『マイク』と言う道具を持ったアランが複数の騎士と共に現れた。既に前後道を塞ぎ逃げ道を無くしている。

『いや~良い映像を見させて貰いましたよ~。一般市民を権力を縦に脅す侯爵貴族!Yo○Tu○eに上げたら大ヒット物ですね~!!』

ケラケラと笑いながら近づくアランにヴィドは敵意を剥き出しにする。そして薄汚い笑みを浮かべながら言う。

「お前は、アラン・ベネットか。丁度いい、お前も決勝を辞退しろ。そうすればより楽に私が優勝出来る」
『おやおやおやや!ヴィド氏は中々根性がある様です!コレが観客全員に見られている事に気が付いて居ないのでしょうか!?それだとしたらもっと良い画が撮れたかも知れませんね~非常に残念です!』

いかにもわざとらしい演技にヴィドは笑い飛ばす!未だ余裕があるのか、この男。

「ハ!コレが見られているだと!?馬鹿馬鹿しい。おい、そこの兵士、ソイツを摘み出せ!」
『え、ええ~!この状況になっても未だ余裕を崩しておりませんヴィド氏!では決定打にご登場いただきましょう!ネウダ王国国王陛下、ロゼスト・ネウダ様です~!ロゼスト陛下!目の前の光の球に触りながら今のご感想をお話し下さい!』

アランがマイクのスイッチを切って数秒後、エコーの効いた声が辺りに響く。

『ロゼストだ。ヴィド・ブラクウェイ…貴様にはつくづく失望した!あれ程良い男をしていたと言うのに、裏でこの様な姑息な事を演じていたとは!国に帰ったら最高の褒美をくれてやろうぞ!日を数えて待っておれ!』

エコーの響きが長い廊下に消えて行った後、それまでの余裕を完全に崩されたヴィドは地面に膝立ちになる。そこに地獄の大王の如き気配をばら撒くアランが近づく。

「た、頼む!悪かった!だから、コレを無かった事にしてくれ!詫びなら払う、幾らでも払うから!」

アランは手でマイクを握り潰す。中に仕込まれていた音声伝達の術式などが描かれた紙や魔力増幅の鉱石などが溢れ、更にパチッパチッと小さな雷の様なものが数回光った。
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