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第四章 脚光を浴びる

第116話 これ貰いますね

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「…はぁ?」

コメットの初めての発言はそれだった。無理も無い。対戦相手が突如木の加工を
したと思ったら『貰う』とのたまい始めたからだ。ルフィノもオードラも、
『何言ってんのコイツ?』と言う顔をしている。同時に、観客が全員『私達は
一体何を見させられているのだろう』と言う感情を抱いたのは言うまでも無い。

俺はそれを横目に涼しげな顔で創作空間に角材をしまう。そして、残った枝を
チラリと見た。

「これを無駄にするのも気が引けますね。竜巻風・裂傷トルネードウィンド・ラスレート
「っ!!」

俺を中心に高さ4アブデリ程、半径2アブデリ程の領域に置いて暴風が吹き荒れる。
この技は近くの剣やら魔法やら小石やらを吸い込み、超加速させてから差出人に
返してあげるカウンター技だ。今回は周りの枝を吸い込み吸い込み、そして一気に
放った。この風のトップスピードは大体秒速2イブデリ(200m/s)位。
風というのは強力過ぎる武器だ。
秒速0.6イブデリで長時間風が吹くと鉄骨が変形する場合があり、
秒速0.8イブデリだと一瞬吹くだけで人が飛ばされる。
秒速1.3イブデリだと住宅が吹き飛ばされ自動車や列車が持ち上がって飛行する。

こんなの人に向かって直接放てばまあまずタダでは済まない。それ相応に魔力も
使う。今回は秒速0.35イブデリ(35m/s)位だが、トップスピードに置いては
セドリックに単体で使って明確な反応を示させた数少ない技でもある。

「うっ!」

偏差撃ちで移動先に打ち出した枝は、真っ直ぐ飛んで行く。それらが到達し、
コメットが呻いた瞬間、フードとマスクのスレスレを枝が数本通り抜けて行った。
それにより、フードの布が破られる。しかし…

「!?」
「うわあああぁぁ!」

そのうちの一本が軌道にも関わらず、手応えと共にその軌道が
明らかに逸れたのだ!僅かな時を挟み、破れたフードから顔が露わになる。

彼は水色の内巻きにカールした髪を持ち、それらを分けて先の尖った耳を側頭部に
持っていた。彼は…エルフだった。俺は背筋の凍り付く感情になり、周囲に煙を
放出した上で急いで鑑定ジャッジを発動する。

………………………………………

名前:コメット・ヴィロック
種族:エルフ族
性別:男
年齢:125
健康状態:不調

傷病:左耳の怪我

………………………………………

この国…引いては人間の住む国の一部には、エルフ族含む亜人族の生活を認めない
国が存在する。ログワート王国及び同盟4国は亜人族に寛容だが、他の国から
迫害を受けた亜人族は大陸の北端に群落を築き人間の国に敵対する宣言を
している。更に国の方針で亜人族を認めているだけで、奴隷商館には平然と
『亜人族だから』という理由で彼らを売り捌く商館もある。それもあってか、
偽名を使っていたのか。

つまり…ここで彼がエルフである事がバレた事により、この瞬間から安全が保証
されない生活を送る事になるのだ。
俺は即座に対応を迫られる。まずは会場の全員に視覚異常を施し、この耳を
人間のそれとしか見えない様にする。叶う事なら観客全員の先刻3秒位の記憶を
消したい気ではある。流石にそれは叶わないが。

……誤魔化せれるか?ここまでの時間は2秒を要したが。

「おおっと、煙が放出されました!これでは中の様子が見えません!」

俺はひとまずバレていなさそうな事に最大限の安堵の息を漏らした。
それと同時に完全回復フルヒールで対戦相手にも関わらずコメットを癒す。

そしてその中で、恐らく顔を晒された事に対する怒りで爆発的に魔力量を増幅
させたコメットが一気に切り掛かってきた。

「…くそっ!」

俺は受けてやろうかとも考えたが、流石にそれは俺の体が可哀想になるので
やめた。

カキンキキン!

金属同士がぶつかる音がした後、コメットが決めの突きを繰り出して来た。
俺はひとまず邪念を取り払い、試合に勝つ事だけを考える。

大体互角に見える位まで体の機能を落とした状態で剣を捌く。
そして、一瞬彼が退いた瞬間俺は動く。口パクで言ったから伝わったかは
分からないが『ごめんなさい』と言っておいた。

超速で動き一瞬で背後を取る。コメットは後ろに付いた俺に気が付いて振り向こう
としたが、俺の速度に付いてこれる筈もなく。スッと差し出したナイフが首筋に
沿えられた。

「おおっと、アラン氏のナイフが沿えられたぁ!勝者は、アラン・ベネット
 おおおおぉぉぉぉ!!」

俺は沿えたナイフをポケットに戻し、帰還魔法陣で帰る。コメットと一言でも話す
べきだったのかも知れないが、今の俺にそこまで出来る勇気は無かった。
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