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第四章 脚光を浴びる

第95話 トランプってそんな貴重?

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俺たちはペイトンさんに連れられデミリー商会の本部にお邪魔させて貰っていた。
外見は冒険者ギルドとそう大差が無いように感じたが、中は大きく違った。
でっかい受付に、ありったけ並んだ商品の数々。そして、忙しなく行き交う
事務員だと思われる方々。更に、商談に興じる各方面の精鋭達。

「なんか、凄い浮いてる感じが…」
「否めない」

セドリックの言葉に俺は頷いて肯定する。ペイトンさんはハッハッハと笑い、
言葉を続ける。

「そこまで畏まる必要は無いよ。それに、君達はベネット家の子息だろう?
 王城から話も来ている。冒険者をしているらしいな。堂々としていれば良い」
「はは、ありがとうございます。ですが、ベネット家の子息と言う立場は余り
 振り翳したくないので、公の場では伏せて貰えると」
「おお、これは失敬。ささ、早く行こう。ここでは見つかりたくない人
 にも見つかる」

さあさあと進んで行くペイトンさんを俺たちは慌てて追いかける。途中、一人の
女性と出会った。

「商会長、お戻りですか。今日は随分と時間に余裕…を…」

そこまで言って、女性は口を噤む。そして、こっちとペイトンさんを2回程
交互に見て、そして盛大にため息を吐く。

「はああぁぁ~…早く帰ってきたと思ったら。誰です、彼らは?」
「極めて革新的な遊びで遊んでいた者たちだよ。何、怪しい者では無い。
 これから商談に移ろうと言うところだ」

トランプってそんな革新的な遊びか?と俺は疑問に思ったが、口には言わない。
女性は俺たちに近寄ってきて、頭を下げた。

「申し訳ございません。私達の監督が行き届いていませんでした。私はそちらの
 ペイトン氏の秘書をしております、フィーナ・モニと言います。
 以後お見知り置きを」
「アランです。宜しくお願いします」

軽く握手を交わした後、ペイトンさんが早く早くと目線で急かしてくるので
『ちょっと行ってきますね』と会釈する。フィーナさんは眼力を飛ばしつつ
ペイトンさんを見つめる。

「分かっているでしょうが、興奮して喋り続けるのはタブーですよ。相手を
 そっちのけで商品ばかり見るのも失礼ですからね。長々と話を続けるのも
 呆れられますからね」
「んもう、分かってるよ」
「分かってないから言ってるんでしょうが…」

フルフルと震えるフィーナさんを横目に、ペイトンさんは歩き出してしまう。
これはフィーナさん、かなり苦労しているな。ご愁傷様です…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺たちは大きなソファが置かれた冒険者ギルドのギルド長室より少し狭い
部屋に案内された。ソファに腰掛け備え付けのポットに入っていた紅茶を注いで
一口飲んだ後、直ぐに話を始めた。

「よし、静かになった所で話を始めようか。先程のトランプをもう一度良く
 見せてもらえるかい?」
「はい、どうぞ」

今回出したのは、スキル『創作・置換』で出すレプリカでは無く、手作業で
作ったオリジナルの方。魔力を流すだけでシャッフルしたり順番通りに仕舞う
といった機能も無い。

…これがこの世界産初めてのトランプであることは、彼らも薄々気が付いては
 いる。ただ、さしてそれの重要性に気が付いてないのも事実である。

俺が素手で出したそれを、ペイトンさんは白い手袋を着けて宝を扱うかの様に
それを見る。箱、カード、装飾。視線でケースをチーズみたいに穴だらけに出来る
のでは無いかと思う程凝視した彼は、ずり落ちた眼鏡を戻した。

「実に面白いな。制作にはどれ位かかる?」
「無駄な装飾を省けば一つ当たり…どうでしょう、厚紙と木箱があれば作れるので、
 4時間もあれば十分ですかね。そこまで凝ると1日、2日は掛かりますけど」
「成程、大量生産は難しく無いか。では、先程言ってくれた遊びを説明して
 くれるかい?」

俺は少し困った。今俺が知る物を全て説明していたら日が暮れてしまう。それに、
もし商品化するなら今全部我が物顔で明かすのは少々気が引ける。
俺の顔が示している事に気が付いたのか、ペイトンさんは手を振って否定する。

「ああ、もちろん全部とは言わん。面白い物を…そうだな、出来る人数ごとに
 一つ、説明してくれるか」
「んーと、ならそうします。」

俺は実演しながら、ソリティア、スピード、オーサー、豚のしっぽ、ダウト、
ババ抜き、大富豪、神経衰弱を説明して行く。

全部説明し終えたあと、ペイトンさんは踊り出さんと言う感じで叫んだ。

「ふむふむ!実に面白い!一つのセットでここまで遊びの拡張が出来る
 のみならず、それらの傾向すら大きく異なるとは!しかも安価、
 大量生産、制作難易度…全てにおいて驚くべき性能!奇跡だ!
 この世界の奇跡だ!この品物は!」

ええ…そんな?たかだか54枚のカードが?俺は目の前でフシュフシュと鼻息を
出すペイトンさんに半ば引きつつ、そう考えてしまった。
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