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第四章 脚光を浴びる

第86話 バイソンの処理

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「…ちなみに、これどうやって運ぶ?」
「う~ん…」

一連の後処理を終えた俺たちは、目の前に倒れるバイソンの巨体を見上げる。
いや、これを回収する事は然程難しい話では無い。しかし…
俺はこれを回収した後の未来を予測する。

1、これを回収してギルドに戻る。
2、ギルドで魔石を提出して依頼を達成する。
3、買取カウンターでこれを出す。
4、ギルド大破!

…駄目だ。そのまま持ち帰って出すのは危険すぎる。こんな事ならアリシアさんに
どうすればいいか聞いてくれば良かった。放置する訳にも行かないし、
どうしたものか。

「片付ける?」
「仕舞えても、出した時碌なことが起きないと思う」

セドリックの質問に、ブレアは顔を横に振る。どうやら、全員同じ結論に至り、
ギルドの平穏を案じているらしい。レシアルドは解決策が思い付いたらしく、
ポンと手を叩いて話し始める。

「我が体を丁度いい感じに刻もうか?そうすれば部分に分けて出せるだろう」

…うっぷ。想像しただけで吐き気が。俺は口角を引き攣らせ、セドリックは
苦笑いしながら丁重に断る。

「いや、それじゃ原型を留めて殺した意味が無いから…大丈夫だよ」

俺たちはでっかいバイソンの死体を前に考え込む。放置という手も考えたが、
マウンテンバイソンの毛皮や肉は上等な素材や食材になるから人間からしたら
宝の山がある様な物なんだよなぁ。これをみすみす逃すのは惜しい。

俺たちは数分間話し合い、『アイテムボックスに偽装した創作空間にしまって
後はギルドの判断に任せる』事にした。アイテムボックス代はランクアップ選考会
が生んだ莫大な金銭で賄った…と言う事にする。

俺は風船を膨らませる感じで大体半径100アブデリ位の空間を作る。それを
折りたたんで同じくスキル『創作・置換』で作った麻袋の中の空間に収まる程まで
小さくし、麻袋内の空間と置換した。これで簡易アイテムボックス完成!

「おかしいな、アイテムボックスってこんな数十秒で作れて良い代物じゃ
 なかった気が…」

ブレアが苦笑いしながら言う。俺は一理あると思ったがそれにツッコミを
入れ始めたら俺やセドリックがしている事の半分位訳分かんなくなる。

「普段から一個人が作った世界で鍛錬しているんだから今更でしょ」
「確かに、今更言ったところで意味無いね」

ブレアは何かを諦めたような笑みを浮かべる。…どうやら俺やセドリックを常識の
物差しで測れない奴と思ってるかも知れないけど、ブレアよ、君も十分
の人間だぞ?俺たちとタイマンを張って互角に戦える辺り。

(まあ、もしセドリックが自らの神のの力に掛けている超巨大の枷を完全に
 外したら仮にこちら側にいる生物であっても目で捉える事すら出来ずにあの世
 行きだろうが)

頭ではそんな事を考えながら、手に持った麻袋をバイソンの死体に被せるように
押し当てる。バイソンの死体はブラックホールに吸い込まれる様に麻袋に
収まった。

「よし、帰るか」
「だね」
「また我の出番か?ここからなら今すぐ飛び立てよう」
「じゃあお願いしようかな」

俺たちは竜に戻ったレシアルドに手早く乗り込んで、帰路に着いた。
帰りはレシアルドが速度を自由にして良いとセドリックが伝えたので、ジェット機
並の速度で帰る事になった。

そして、王都に帰ってきて瞬間移動で王都内に戻る。
ううむ。何やら違和感が…こう、知らない間にやらかしてしまった先の
空中浮遊事件の時に感じた違和感と同じ…

「ちょっと、なーんか嫌な予感がするから城門から戻らない?」

俺は詳しい事情を伏せて言う。セドリック達は頭上にハテナマークを浮かべながら
も承諾してくれた。

「ん?城門が、開放されてる?」
「みたいだね。衛兵も立ってないし」

そこには、門を開け放たれて人の気配がしない城門があった。俺たちは若干
気味が悪くなり、足早に通り抜ける。
そして、城門から王都に入って冒険者ギルドに向かう。そして、その道中で
違和感の正体を知る事になった。

「失礼。王都に戻ってきた方ですか?」

王国お抱えの騎士団…と思しき武装した兵団がズンズン王都の外に進んで
行こうとしている所にすれ違い、しかも声を掛けられた。

果てし無く原因不明の嫌な予感を感じている俺を横目に、セドリックが対応する。

「ええ、丁度依頼を達成してギルドに提出しに行く所です」
「どちらからお戻りになったかお伺いしても宜しいでしょうか?私達は王国の
 騎士団です。怪しい者ではありませんのでご安心を」
「ああ、はい。グワ…」

セドリックがグワスハチルス山脈と言いかけた所で後ろに居たブレアがトンと
セドリックの左足の腱を突いた。セドリックが後ろを見る前に
そのまま念話で話す。

(適当な嘘を吐いて。心を読んだ限り、正直に言わない方が良い)
(え?ああ、了解)

事情が掴めないがブレアの心眼に嘘は通じない。ここは彼を信じるのが吉だと
セドリックも判断したのか、切磋に後ろを向いた事のカバーに入る。

ズボンをパンパンとはたく真似をした後、前へ向き直る。

「すみません、虫がいたので。えっと、ヘイマネス山に行ってましたね」
「ああ、そうですか。申し訳御座いません、お時間を取ってしまって」

ヘイマネス山は、グワスハチルス山脈とはほぼ90度違う方面に有るので、
嘘としては上等だろう。セドリックはそのまま、事情を聞きに入る。

「いえ。それで、騎士団の方々が出動するということは何か事件でも
 あったのですか?」
「はい、イエローイノアの森林からグワスハチルス山脈方面に向かって竜が
 飛行しているのが発見されたので、急いで調査に向かおうとしていた所です」

…おおっっとお!?
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