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第三章 成長

第57話 最強竜の諸事情

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「はああ…」

俺は先程から感嘆の息ばかり洩らしている。理由は簡単、目の前の好青年である
レシアルドだ。彼、生物としての威圧力だけで中ボス格の敵も全員蹴散らしちゃう
ですもん。お陰様で周りの魔物が寄って来なくなりましたよ、ええ。

いや、最強竜が普通の魔物とマトモに戦えって言っても無理な相談であることは
分かってる。分かってるけども。

「退屈…」
「暇…」

俺とブレアは同時に呟く。暇なのもある。だが、それ以上に自我が無いはずの魔物
に怖い物を見るような目で遠巻きに見られるのは心が…

「…すっごい分かる。ひっどい恐れられ方」

心を読んだのだろう、ブレアがそう言った。あまり心は見て欲しくないが、この
状況においては別で有る。感覚を共有できる仲間がいたことに、俺は少ながらず
安心した。その光景を見たレシアルドはなんとなく状況を察したのだろう。

「殺していないだけ良いだろう。主らも死体や血を進んで見たいとは思うまい」
「いや、それはそうだけど…」

正論をぶつけられ、俺はどうしようかと少し悩む。確かに、血や死体は苦手では
あるけども。俺は少しセドリックに視線を移す。彼はどうしようかと
考えているらしく、黙って首を横に振った。

「…レシアルド、その…出来るだけ原型を留めたまま倒せる?」
「一撃で倒す位なら問題ない。ただ、多少は死体が崩れてしまう可能性はあるな」

レシアルドは少し目を伏せてそう言う。セドリックは少し考えた後、
レシアルドに結論を伝える。

「ま、多少なら良いよ。レシアルドが魔物相手に手加減しろって言うのも酷だし」
「心遣い、感謝する主よ」

そう言って、彼は放出する魔力と気配を止め、竜の体を消す。
すると、階層を上がった辺りから再び魔物がゾロゾロ出てき始めた。
オーガ、リザードマン、ソルジャーゴブリン、ボルトボア…総勢18体の大歓迎だ。
その全員が俺たちを狙っている。多分、下の階から威圧しまくっていた反動だな。
レシアルドは1人前に出て、物を言った。

「すまんが、主を害そうとする者を契約者としては放っておく訳にいかんな。
 こう言った言い方はヤツのようで好きでは無いが、今ここで我に会ってしまった
 己の不運を呪うことだ」

そう言い残して、彼は

「はっや…」

消えた直後に魔物の方を見れば、胸元にでっかい傷を付けて倒れた。さらにその奥
には手の指先を黒い竜の爪で覆ったレシアルドが立っている。あれで引っ掻いて
倒したのだろう。目にも止まらぬ早業を見た他の魔物は僅かに対応速度に差が
出た。それをレシアルドは見逃さず、反応が遅れた者から次々倒して行く。

…俺も参加しようかと思ったけど、これはヤバいな。早すぎる。

「やはり、風を使うだけではこれが限界か」

全員狩り終えたレシアルドはそう呟く。これが限界って…これ以上があるんかい。
もはやそれは俺やセドリックのマックススピード超えてんじゃね?
セドリックは多少苦々しい表情でレシアルドに問う。

「やっぱり、奪われた力の分が無いと全力は出せない?」
「そうだな。昔は8つの頭と胴体でそれぞれ属性を一つづつ持っていたが、
 今は弱化された火と水に胴体の風、さらに頭の光属性のみだからな」

弱化されて、あの強さって一体…
俺は昨日のセドリックとレシアルドの戦闘を思い出す。あれで、か。

「火と水はもう一つ請け負っていた頭を取り返さないと完全体にはならぬ。さらに
 地に至っては二つあって二つとも取られている状況だ」

昨日の一件を思い出す俺を横目に、レシアルドは悔しそうにそう言う。
セドリックは力強い目付きで『必ず、取り返そう』と言った。

俺たちは再び進み出す。もう半分は過ぎているので、一回休憩を挟んでも
良いのではと思うがもうそろそろこの階層も終わりなので、攻略後に休憩を
挟む事にした。


「やはり、我はこの激辛味が好みだな」

階層攻略後、俺たちは7階で食事を取っていた。窓際(とは名ばかりのでっかい
穴)に椅子と簡易机を置いて、食事を食べている。目の前には、激辛骨付き肉
を相変わらずバリバリ骨ごと食べるレシアルド。

「レシアルドに痛覚って備わっているのかなぁ」

俺は思わず呟いた。辛味は甘味や塩味と違って痛覚として感じられていると理科の
授業で習ったことがある。超回復系のスキル持ってるし、もしかしたら…?
すると、レシアルドは心外だとばかりに不満を口にする。

「再生するとは言え、治るまでは痛いわ。別に辛味を感じない訳じゃないぞ、
 ただ単に辛味に強いだけだ」

だから渋い味のティオ(茶)は苦手だ。と付け加える。

「確かに、アランの真似してティオを飲んだ時のレシアルドの
 あの顔、酷かったね~」
「思い出さないでくれ、主よ」

そう、昨日俺が夜に茶を嗜んでいた時にそれを見た彼がティオを飲んだ時、
思い切り噴き出したのだ。余程苦手な味だったのか、
思いっきり咽せていたっけ。まあ、茶の席を勧めた俺にも責任の一部は
有るのだが。

「昨日は、まあ…俺も悪いし…」
「いや、気にしないでくれ、アラン殿。ああ言う味もあると良い勉強に
 なった」

そう言って彼は再び激辛肉にがっつき始めた。
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