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第二章 駆け出し

第40話 進化

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「っち、何ちゅー速度だよ!早すぎるだろ!」

俺は連撃による突破を諦め受け手に回っていた。隙を見て一気に叩き込む魂胆だ。とは言っても…

(恐らく俺の思考その全てがバレている。余計に物を考えれば考える程自分の首を絞めるだけだな)
「さすが、勘いいね!」

ブレアの反応を見て俺は一つ息を吐き、ここまで読めるか。と思わず溢した。もはや圧倒的不利である。自分のやる事なす事全てバレてると考えれば良くここまで保っているなと自分を褒めてやりたい。

…いや待てよ。もしかしてこの策なら。俺は僅少な希望を掛けナイフを3本纏めた物を5個投げつけた。

「!何をする気!?」

俺は何も反応しない。ただ無心で剣を振る。迫ってくる剣の切っ先に反応して、経験のみでそれを受ける荒技。単純すぎるが故10秒も持たないだろう。しかし、それだけ時間を稼げれば十分である。頼む、成功してくれ!

「グハッ!!くっ!!?」

ブレアの体に先ほど投げたナイフが食い込んだ。怪我は無いと思うが、相応の痛みは入った筈だ。俺はそっと木剣を首筋に当てる。

「…勝ったぞ」

俺がそう告げると同時に、セドリックが叫んだ。

「勝者、アラン!!」

ブレアはあの技の副作用かはたまた別の原因か、肩で息をしてあぐらを組んで地面にどっかり座った。

「マジかあ。あの攻撃何で気が付かなかったんだろう」
「俺も当たると思って投げた物じゃないからな」
「どうゆう事?」

ブレアがキョトンとしてこちらを見るので、俺はさっき投げた3本ナイフを拾い上げた。それらはブーメランのように120度間隔で持ち手の先が固定されている。俺はそれをポーンと投げた。ブーメランナイフはクルクル回りながら15アブデリ程飛び、再び戻って来て俺の左横を通って地面に落ちた。

「…成る程、魔力も掛けずに物理的に帰ってくるよう仕組んだのね。だから急に突風が吹いた訳だ」

セドリックは事の顛末が掴めたらしく手をポンと叩いた。ブレアは中々理解できないらしく未だ首を傾げている。

「これは俺が作ったブーメランっていう道具。風が吹いている所で上手く投げると手元やその近くに戻って来るんだよ。なんの魔力も使わずに」
「ああ、そう言うことか!それで運試ししたって訳か!」

合点が入ったらしくブレアは俺が貸したブーメランを投げるマネをしている。俺側の小手先テクニックの説明が終わった所で、俺もブレアに質問をする。

「そう言えば、試合の途中。あれ、何!強くなったとかその次元じゃ無いんだけど!人が変わったの方が正しいよ!」
「う~ん…俺も分からない。何か妙に血行が良くなって頭が冴えると思ったらああなってた。自分でも不思議」

揃って悩む俺たち二人に、セドリックは冷静にツッコミを入れる。

「…鑑定ジャッジ使えば分かるんじゃない?」
「あ、そうだった」

俺は忘れてた、と言いブレアに対して鑑定ジャッジを発動する。

………………………………………

名前:ブレア・アスピオン
種族:人族
性別:男
年齢:13
健康状態:快調

装備品:

体力:268573/268573
魔力値:1259511/1259511

属性:火、水、光
スキル:保持…非概念的事象の位置や勢い、質量などを保つ。(進化スキル)
    心眼・極…近・中距離にいる2名まで思考していることを完全に把握
         できる。時間経過でより詳しく知れるようになり、最終的に
         条件反射の深さまで探知することが出来るようになる。
         (進化済スキル)
特殊効果:体力増加率…8倍
     魔力値増加率…20倍
     魔力変換効率…35倍

備考:スキル『心眼』が進化した直後。魔力消費量が一時的に上がっている。

………………………………………

おいおい。ちょっと待て。試合前最後に見た時より魔力値が200000上がるってどう言うことだよ。いやそれもそうだけどスキル進化しちゃってるじゃん。普通に俺やセドリックと同じ土俵立っちゃってるじゃん。ダメだ。頭がキャパシティオーバーしそう。

「…これは、ヤバいね」

セドリックもそれっきり食い入るようにステータスを見つめてしまった。

「あの、大丈夫?生きてるー?」

はっ。衝撃の余り魂が向こうに行ってしまっていた。セドリックも揺さぶりコッチ現世に連れ戻す。

「はあ…。いい、ブレア?不用意に人の心を覗くのは辞めてあげて。怪しいと思ったらいいんだけど、僕たちも不用意にプライベートには余り踏み込まれて欲しくないから」

普通に俺も困る。とセドリックの言葉に頷きながら言うと、ブレアは分かった
と笑顔で頷く。

「…まあ、明日からギルドの依頼再開するから。その時に詳しい実力は知れるし」
「だね。今日はもう休もう。ブレアもこれで鍛錬は終わりだよ。お疲れ様!」
「いやったぁ!!!」

ブレアは飛び上がって喜んだ。長くも感じたし短くも感じた11週間だったなぁ。
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