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第二章 駆け出し
第16話 事情聴取
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「聞こえなかったのか?金品と食料を出せと言っているんだ!」
声を荒げる盗人。だがここで動じることはない。
(ふっ!)
盗人の意識がこっちに向いたのを機にセドリックがアクションを起こした。左手で素早くナイフの背を掴んでナイフを弾き飛ばす。そのまま右手でナイフを持っていた手を掴んでそのまま横からバランスを崩して地面に突っ伏させる。俺はその間に弾き飛ばされたナイフを拾い上げた。
(…ん?このナイフ…)
俺がそのナイフの違和感に気づく頃、既にセドリックは盗人を椅子に縛り付けていた。ひとまずナイフを仕舞う。
「さて…まずは聞かせてくれるかな?君の名前と年齢」
「…くそっ」
忌々しげにセドリックを睨み付けたまま、盗人は黙っている。まあ、だんまりになる事は承知の上だ。
「黙っててもこのままだと捕まっちゃうよ?もしかしたら助けれるかも」
「…自分の命を狙った奴を助ける?嘘つくな。」
そりゃそうだ。俺だってそう思うし。だが、俺はこの言葉に嘘が混じっていることに気づいでいた。
「どうなんだろうな?君、本当は殺す気なんて全くないだろ」
「何だと?」
セドリックもこっちを見た。俺はさっき拾ったナイフを再び差し出し、話を続ける。
「このナイフ、刃先を丸く削ってエッジを切れないように潰してある。明らかに人による加工だ。こんなナイフ、野菜の一つも切れないぞ」
「!!」
セドリックはそれを聞いて、もう一度盗人の方を見る。
「…本当はお金と食料が欲しかっただけなんだ?…名前だけでも教えてくれない?」
ここでようやくだんまりを貫いてきた盗人が事情を話し始めた。
「…ブレア。セカンドネームはない…スラムの出身だから。13歳だ」
「そうなんだ。…何で盗みを働いたの?生活費のため?」
ブレアは黙って頷く。そのまま言葉を続ける。
「最近、急に採っていた作物が採れなくなった。生活が行き詰まって家族や友達を助けるためにも金銭や食料を盗んでた」
その一言に、セドリックの眉根が動いた。
「アランごめん。この一件は僕に任せてくれない?」
「分かった。俺はもう一回肉と野菜焼いとくよ」
俺は離れてもう一回肉を焼き始める。話は聞くが。
「お願いだ、助けてくれ!このままだとみんな死んじまう!」
「…少し、目を瞑っておいてくれる?」
何をする気だ?
自分でも気づかないうちに作業を止めて成り行きを見据えてしまう。
見ると、セドリックの右手に光る腕輪ができている。周りも僅かに光り慈悲が満ちている。10秒くらい経った後、周りの慈悲の気配が収まると共に腕輪も消え、セドリックは言葉を続ける。
「うん、嘘もついていないし、行った悪行を上回る善行をしている。僕たちも協力してあげるよ」
成程、ブレアの過去の行動を見ていたのか。流石神だ。
感心しながら俺は意識を目の前の夕飯に戻す。
「…本当か?」
「大丈夫だよ、ね、アラン?」
「ん?あぁ、この件はセドリックに任せてるから。もちろんイエスだ」
急に話題を振られて少し反応が遅れてしもうた。
「よし、じゃあ明日君の故郷に連れてってくれる?」
「…ありがとう、ありがとう…!!」
「自己紹介が遅れたね。僕がセドリックであっちがアラン。兄弟で冒険者をしているよ」
「よろしくお願いします…セドリックさんにアランさん」
「おう」
俺たちはブレアを縛っている縄を解き、そのままできた夕飯をブレアに差し出す。今日の夕飯はバンズに肉と野菜とチーズを乗せピリ辛ソースをかけ、上からもバンズを乗せて手で食べるファーストフード、ハンバーガーだ。
「ほれ、飯だ。味は俺が保証する」
「…ありがとうございます」
ブレアは恐る恐るあげたハンバーガーを口に運ぶ。1口食べた瞬間に、目を見開いて感動したようにハンバーガーを見つめる。
「美味しい、本当に…!」
「それは良かった。まだあるから急がなくていいぞ」
お腹が空いていたのだろう、あっという間に完食してしまった。
「明日はスラムに行って作物が採れなくなった原因を調べよう」
「依頼は達成してるしこれで終わりにしようか」
「だね」
「よし、ひとまず寝よう!君も毛布貸してあげるから寝て明日に備えて」
俺はテントに潜って予備の毛布をブレアに渡す。
「あの…一つ聞いてもいいですか?」
「?なんだ?」
「なんであなたたちは今日知り合ったばかりの俺にこんなに優しくしてくれるんですか?普通スラム出身ってだけで煙たがる人もいるのに」
そう聞かれると返答に困ってしまう。と言うより、俺に限らず日本人に『何で他人を助けるの?』と聞いても同じような反応の人が多いだろう。
「あー…困っている人がいたら手を差し伸べる。これをして損するってことは少ないだろ?」
「そういうモンなのか…」
その夜は何事もなく終わった。
声を荒げる盗人。だがここで動じることはない。
(ふっ!)
盗人の意識がこっちに向いたのを機にセドリックがアクションを起こした。左手で素早くナイフの背を掴んでナイフを弾き飛ばす。そのまま右手でナイフを持っていた手を掴んでそのまま横からバランスを崩して地面に突っ伏させる。俺はその間に弾き飛ばされたナイフを拾い上げた。
(…ん?このナイフ…)
俺がそのナイフの違和感に気づく頃、既にセドリックは盗人を椅子に縛り付けていた。ひとまずナイフを仕舞う。
「さて…まずは聞かせてくれるかな?君の名前と年齢」
「…くそっ」
忌々しげにセドリックを睨み付けたまま、盗人は黙っている。まあ、だんまりになる事は承知の上だ。
「黙っててもこのままだと捕まっちゃうよ?もしかしたら助けれるかも」
「…自分の命を狙った奴を助ける?嘘つくな。」
そりゃそうだ。俺だってそう思うし。だが、俺はこの言葉に嘘が混じっていることに気づいでいた。
「どうなんだろうな?君、本当は殺す気なんて全くないだろ」
「何だと?」
セドリックもこっちを見た。俺はさっき拾ったナイフを再び差し出し、話を続ける。
「このナイフ、刃先を丸く削ってエッジを切れないように潰してある。明らかに人による加工だ。こんなナイフ、野菜の一つも切れないぞ」
「!!」
セドリックはそれを聞いて、もう一度盗人の方を見る。
「…本当はお金と食料が欲しかっただけなんだ?…名前だけでも教えてくれない?」
ここでようやくだんまりを貫いてきた盗人が事情を話し始めた。
「…ブレア。セカンドネームはない…スラムの出身だから。13歳だ」
「そうなんだ。…何で盗みを働いたの?生活費のため?」
ブレアは黙って頷く。そのまま言葉を続ける。
「最近、急に採っていた作物が採れなくなった。生活が行き詰まって家族や友達を助けるためにも金銭や食料を盗んでた」
その一言に、セドリックの眉根が動いた。
「アランごめん。この一件は僕に任せてくれない?」
「分かった。俺はもう一回肉と野菜焼いとくよ」
俺は離れてもう一回肉を焼き始める。話は聞くが。
「お願いだ、助けてくれ!このままだとみんな死んじまう!」
「…少し、目を瞑っておいてくれる?」
何をする気だ?
自分でも気づかないうちに作業を止めて成り行きを見据えてしまう。
見ると、セドリックの右手に光る腕輪ができている。周りも僅かに光り慈悲が満ちている。10秒くらい経った後、周りの慈悲の気配が収まると共に腕輪も消え、セドリックは言葉を続ける。
「うん、嘘もついていないし、行った悪行を上回る善行をしている。僕たちも協力してあげるよ」
成程、ブレアの過去の行動を見ていたのか。流石神だ。
感心しながら俺は意識を目の前の夕飯に戻す。
「…本当か?」
「大丈夫だよ、ね、アラン?」
「ん?あぁ、この件はセドリックに任せてるから。もちろんイエスだ」
急に話題を振られて少し反応が遅れてしもうた。
「よし、じゃあ明日君の故郷に連れてってくれる?」
「…ありがとう、ありがとう…!!」
「自己紹介が遅れたね。僕がセドリックであっちがアラン。兄弟で冒険者をしているよ」
「よろしくお願いします…セドリックさんにアランさん」
「おう」
俺たちはブレアを縛っている縄を解き、そのままできた夕飯をブレアに差し出す。今日の夕飯はバンズに肉と野菜とチーズを乗せピリ辛ソースをかけ、上からもバンズを乗せて手で食べるファーストフード、ハンバーガーだ。
「ほれ、飯だ。味は俺が保証する」
「…ありがとうございます」
ブレアは恐る恐るあげたハンバーガーを口に運ぶ。1口食べた瞬間に、目を見開いて感動したようにハンバーガーを見つめる。
「美味しい、本当に…!」
「それは良かった。まだあるから急がなくていいぞ」
お腹が空いていたのだろう、あっという間に完食してしまった。
「明日はスラムに行って作物が採れなくなった原因を調べよう」
「依頼は達成してるしこれで終わりにしようか」
「だね」
「よし、ひとまず寝よう!君も毛布貸してあげるから寝て明日に備えて」
俺はテントに潜って予備の毛布をブレアに渡す。
「あの…一つ聞いてもいいですか?」
「?なんだ?」
「なんであなたたちは今日知り合ったばかりの俺にこんなに優しくしてくれるんですか?普通スラム出身ってだけで煙たがる人もいるのに」
そう聞かれると返答に困ってしまう。と言うより、俺に限らず日本人に『何で他人を助けるの?』と聞いても同じような反応の人が多いだろう。
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「そういうモンなのか…」
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