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***
「ゲホッ、ゴホッゴホッ!」
「りつか、大丈夫かよ」
「か、風邪、大したことな……ゴホンッ!」
先日新しく図書館から借りてきた本を読む間もなく、今度は風邪をひいてしまって寝込んでいた。咳き込む僕を心配した青月は仕事にならないようで、ただ僕の背中をさすり続ける。
「青くん、仕事……ゴホゲホッ! し、しご……」
「うるさい!もう、静かに息しろよ、りつか」
「お、お兄ちゃんって呼びなよ、また……」
「二十歳も過ぎた男が呼ぶわけねえだろ」
そう怒鳴りつけるも、優しい目……僕はそっと青月の頭を撫でる。
「や、やめろって」
「……大きくなったねえ、青くん」
幼い子供だった。甘い玉子焼きで喜んで。
あれからもう何年たったのだろう……振り返ればもう昔の話だ。
その晩、青月は徹夜で絵を描いていた。僕はその様子を見ながら眠りにつく。
いつか離れなければならないものを、僕はただ密かに追い求める。
僕はあといくつあきらめなければならないだろう。描かなくなった絵、これから成長しようとしている青月……。
夜が明けない、でもどうかこのまま青月と二人で。
***
「りつかー、起きるか?」
「青くん……なに?」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。すっかり朝の訪れた窓、汚れたエプロン姿の青月。
彼の持った真新しいキャンバスには、幼い頃の……。
「何、青くんってば人物画すらうまいんだから……本当、いつの間に絵を覚えたの」
「……お前が、スポーツカーを描くからだ」
「え?」
「なんでもねえよ!」
幼い頃の僕たちだった。幼い青月と僕が寄り添っているアクリル画。
「人物画も、また描くよ。お前がモデルになるんだよ、これからもずっとり俺はりつかしか描かない」
「ふふ、その才能、もったいないなあ……」
僕だってわかっている。こんな日々がそう長くは続かないってことを。
だけどどうか、一日でも長く青月のそばにられたら……。
二十歳の真嶋青月の描くもの。
それはなんて優しい、この世の果ての風景だった。
おわり
「ゲホッ、ゴホッゴホッ!」
「りつか、大丈夫かよ」
「か、風邪、大したことな……ゴホンッ!」
先日新しく図書館から借りてきた本を読む間もなく、今度は風邪をひいてしまって寝込んでいた。咳き込む僕を心配した青月は仕事にならないようで、ただ僕の背中をさすり続ける。
「青くん、仕事……ゴホゲホッ! し、しご……」
「うるさい!もう、静かに息しろよ、りつか」
「お、お兄ちゃんって呼びなよ、また……」
「二十歳も過ぎた男が呼ぶわけねえだろ」
そう怒鳴りつけるも、優しい目……僕はそっと青月の頭を撫でる。
「や、やめろって」
「……大きくなったねえ、青くん」
幼い子供だった。甘い玉子焼きで喜んで。
あれからもう何年たったのだろう……振り返ればもう昔の話だ。
その晩、青月は徹夜で絵を描いていた。僕はその様子を見ながら眠りにつく。
いつか離れなければならないものを、僕はただ密かに追い求める。
僕はあといくつあきらめなければならないだろう。描かなくなった絵、これから成長しようとしている青月……。
夜が明けない、でもどうかこのまま青月と二人で。
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「りつかー、起きるか?」
「青くん……なに?」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。すっかり朝の訪れた窓、汚れたエプロン姿の青月。
彼の持った真新しいキャンバスには、幼い頃の……。
「何、青くんってば人物画すらうまいんだから……本当、いつの間に絵を覚えたの」
「……お前が、スポーツカーを描くからだ」
「え?」
「なんでもねえよ!」
幼い頃の僕たちだった。幼い青月と僕が寄り添っているアクリル画。
「人物画も、また描くよ。お前がモデルになるんだよ、これからもずっとり俺はりつかしか描かない」
「ふふ、その才能、もったいないなあ……」
僕だってわかっている。こんな日々がそう長くは続かないってことを。
だけどどうか、一日でも長く青月のそばにられたら……。
二十歳の真嶋青月の描くもの。
それはなんて優しい、この世の果ての風景だった。
おわり
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