群青の三日月

雨水林檎

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「お兄ちゃん」

 その日、十歳にして事故で両親を失った僕は母方の親戚の元へ行くことになる。賭け事に夢中の父親と、日々携帯電話をいじりながら煙草をやたらと吸っている母親は少しの遺産を得るために僕を引き取った。可愛かった子供、青月は三歳。

「青くん?」
「そう、あおくん」

 一人で遊んでいた少年は、僕を追いかけて離れなかった。オムツもまだ取れていない
ろくに両親に相手もされないあの子は、きっと寂しかったのだろう。

「青くん、絵を描いて遊ぼうか」
「くるま、くるまかいて」
「スポーツカーを描いてあげるよ。何色がいい?」
「赤!」

 青くんの好きな、赤。
 それがおかしくって笑えば、青月も笑ってぐるぐると線を描く。そんな関係から、もう十年以上たったのか……。

振り返れば、なんて時間のたつのが早かったこと。

「……りつか!」

***

「青くん、あれ……?」
「りつか、このばか!」

 幼い子供だった青月はもう高校を卒業しようという頃。窓の外は雪、だけどこの部屋はちっとも寒くはなくって。

「何、ここ」
「病院」
「……病院?」

 記憶が遠い、なんでも仕事中に僕が倒れて病院に……限界は働き出して、五年で訪れた。

「青くん、ごめん」
「謝る理由なんかねえだろ」
「青くん……」
「卒業したら、今度は俺が働くから良いんだよ。お前はしばらくゆっくりしてろ」

 負担が、弟に。
 血の繋がりはなくとも、青月は可愛い弟であることに違いはなかった。

「起き上がりたい、青くん」
「無理すんな、寝てろ」

 周りは静かだった、病院独特の薬臭い匂い。そこへカーテンを開けたのは、数年ぶりに会った高校の友人の奈津だった。
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