純白のレゾン

雨水林檎

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複雑な関係

03

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「お兄ちゃん、どこ、どこ!」
「ここにいるよ、無垢」

 また無垢が泣いている。もう七つになると言うのに、その声は甘えて二、三歳の幼児のもののような。
 無垢は夜が苦手だった。
 明るく遊んでる間は元気にしているものの、宵が訪れた途端私がいないと泣きわめく。もうすぐテストもあるのだけれど……しかし共働きの養父母に頼ってしまうのは心苦しく、何より無垢が私を呼ぶから。

「おいで、怖いことはないよ。もう一緒に寝てしまおうか?」
「やだ、暗い部屋が怖い」
「それなら明かりは点けたままでいいから。なにすぐだよ、眠って起きたらもう朝になっているよ。明日の朝食には一緒にホットケーキを焼いて食べよう。シロップを買っておいたんだ、ケーキシロップ」
「本当? ホットケーキ焼きたい、大きいの!」

 最近、子守が上手くなったと褒められた。今まで子供になんて触れたことすらなかったのに、この子が来てから学校以外一日中一緒にいたせいだろう。しかし無垢はまだひらがなすら上手に書けない。この家に来るまではどのような生活をしていたのか……通わせている小学校でもその幼さのせいか孤立して、最近では教室を嫌がり保健室で過ごしているらしい。

「むこうじ……ま!」
「おしかったな、じ、が逆になってるよ」
「むこうじま!」
「そう、正解」
「むこうじまさわ!」
「うん、正解やっと書けたな」

 それは私の名前だ。
 日曜日の朝、ホットケーキは食べ終わって無垢とひらがなの練習をしていた。辺りに散らばった無数のチラシの裏のやま。せめて自分と私の名前くらいは書けないと、迷子になった時に困るから。

「そろそろ漢字の練習も始めないとな」
「漢字きらーい」
「ひらがなだって少しずつ書けるようになったんだから、漢字だって簡単に書けるよ」
「たかなしむく、は全部漢字なんだもん」
「私の名前だって漢字だよ」

 私の膝に座って、一生懸命に机に向かう無垢。亜麻色の髪は朝の日差しに輝いていた。子供ってどうしておひさまの匂いがするのだろう。その背中が愛おしい、恋とか愛とかそう言うのとは少し違って。

「……お兄ちゃんはあったかくて優しいね」
「そうかい?」
「お母さんはね、僕が嫌いだったんだよ」

 無垢の言葉に答えられなかった。向島の母ではない、お母さんとはきっと実母のことだ。幸せに暮らして来たわけではないのだろう、だって無垢の背中には小さないくつかの傷があって……そんな私の左手首にも消えない傷はあったのだが。本当のことを知る術はいつだってあった。けれど、無垢の過去を知るのが怖くて、私はまだそれを全て掌握したわけではない。自分の過去ですらおぼろげで、未だ怖くて知ることが出来ない私は……。
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