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篠原side

「・・・さぁ、どうだろう」



中山さんの声を遮るように、タイミングよくドアが閉まってしまう。

我ながら馬鹿らしい事を聞いた自覚はあるけど、それでも聞かずにはいれなかった。「あいつ、いましたか?」なんて。

いるはずないのに、わかってるはずなのに。

それでも、それでも、聞いた気がしたんだ。



『ただいま・・・ “ 裂 ” っ!』



あいつが、ただいまって言ってくれて。

泣きながら、俺の名前を呼んでくれて。

随分と都合の良い夢を見たもんだ。詳しい内容は覚えてないけど、なんていうか俺の願望を詰め込んだみたいな夢だった。

結もいて、謝れて。

目が覚めて当たり前だけど、あいつがいなくて酷く落胆した。



「・・・あー、馬鹿みてぇ」



仮にも倒れた訳なので、早く寝てしまおうと思い、洗面台に向かう。歯磨きしないと。

壁にあるスイッチを押してみるが、電気がつかない。いつのまにか電球が切れていたらしい。

時間帯も時間帯なので、電気なしは暗い。手探りで歯磨きを探し、済ます。

ベットに向かう途中、壁にかかった飾りが傾いているのに気付く。結の趣味で割とこういう飾り系がそのまま付いているけど、俺はそっち方面に無関心だったため、金具が取れていても気付かなかった。

・・・っていうか



「俺、本当に何してたんだろ・・・」



あの日から、意識なく生活していた、というか。言い方を変えれば “ 大学と家の間を行き来していただけ ” というか。

自分がいる家の変化にも気付けず、なんて。
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