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第六章 魔神討伐・神々の業
103 商業都市コルドヴァ
しおりを挟むリチェスター南部、商業都市コルドヴァ。アリア商会の御膝元であるこの都市は建物が近代的で他の都市と比べてもかなり異質だ。高いビルが立ち並んでいる。物資を運ぶ為か道も広く整備され、人々の往来も多い。遠い都市には本社の転移門から移動するらしい。高いビルが立ち並ぶ様は、この中世ファンタジーな世界観をぶち壊している。いいのか、これ?
「なあ、アリア。このビルに近代的ぽい街の造りとかオーバーテクノロジーにならないのか? ていうか神様が元締めの商会都市が一番スレスレじゃねーか。大丈夫なのか?」
「むふー、とはいっても建物はレンガ造りですし、道も石造りですからね。見た目がちょっと大きいだけです。取り敢えず中心部にある商会本部ビルに行きましょうかー」
「なるほど、見た目は近代的だけど技術は中世ってことだね。それならオーバーテクノロジーにはならないってことだねー。貴族学院時代に一度来たことがあるけど、建物の大きさに圧倒された思い出があるよ。今思うとまだ記憶が封印されていたからそう感じていたんだろうねー」
アヤが言う通り、この世界の人なら一見圧倒されるだろうな。記憶が戻ったアヤにはなんちゃって大都市に見えるようになったということか。
アリアに連れられて中心部の巨大な建物に向かう。道沿いにも様々な店が立ち並んでいる。だが他の街と違うのは、屋台が出ておらずちゃんと一軒一軒が建物のお店だということだ。軒先が屋台の様な造りにはなっているけどね。
アリアによると、人の通りを活発にするために道は大きくスペースを開けているとのことだ。今は昼前だが、人の往来はかなり多い。さすがは大商業都市。珍しい物なんかも売っているんだろうなあ。馬車での荷物の搬送もひっきりなしだ。道も広く左側通行に整備されている。さすが別世界を半世紀も研究した女神様。合理的に造ってある。馬車の駐車場的なものも至る所に配置してある。道が混雑しないための配慮だろう。
見た目は中世だが、アイデアは完全に現代的だ。こそこそと裏を突いてるなあ、こいつは。確かにこれではオーバーテクノロジーには抵触しないだろう。便利な街造りをしている様にしか見えないもんな。生臭女神め。
北口から街に入って徒歩で数時間後、中心にあるアリア商会本部の巨大なビルに到着した。デカい。内部もデパートの様な造りになっている。この世界にはどう見ても異質な建物だ。内部に入った時、アリアが認識疎外を切った。
「まあここまで来たら問題なしですねー。二人も認識疎外を切って大丈夫ですよ」
「ああ、わかった」
「じゃあ解くね」
この街の大商会の会長だしなあ、みんなに顔バレしてるだろう。そういう訳でここまで認識疎外をかけて来たんだよね。そしてガラス造りの回転扉を通り抜けて受付に向かうアリアの後をアヤと追う。
「やほー、昨日念話で連絡しといたんだけど?」
「これは、会長!? ごきげんようでございます。ええ、全スタッフ今日来られることは承知でございます」
受付のお嬢さんもスゲー美人。これは見た目も考慮して採用してるなアリアめ。やりたい放題だぜ全くよー。
「社長はいる?」
「はい、恐らくお待ちしているかと。では其方の魔石エレベーターで最上階にお向かい下さい。繋いでおきます」
「ほいほいー、ありがとねー」
「いえ、ありがたき幸せです」
独裁者か何かかな、こいつは? 向かいにあるエレベーターの様なものに向かう。設置してある丸い魔石にアリアが魔力を込めると扉が開いた。内部は丸い床に安全柵がぐるっとしてあり、階数を選んで、それに見合った魔力を内部にある魔石に注ぐことで動く仕組みになっているようだ。最上階を選び、魔石に魔力を注ぐアリア。
「すごいね、魔石の運用でこんなこともできるんだ」
「むふふー、あくまで魔力で動かしているという点でオーバーテクノロジーには引っ掛からないんですよー」
「ホント、こういうことには必死だよな……」
チーン! と音が鳴って、最上階に着いた。柵が開き、続いて扉が開く。外に出ると最上階には社長と思わしき赤髪にツーサイドアップ、スーツを着用した女性が慇懃に頭を下げたまま此方を出迎えてくれていた。そこまでアリアルックにしなくてもなあ。
「久しぶりですね、エルザ。態々立って出迎えなくても良かったのにー」
「いえいえ、そういう訳にはございません。アリア様あっての商会ですからね。それにここのスタッフは誰もがあなたに救われた者達ですから」
「そんなことは気にしなくていいですよー。じゃあティールームにでも行きましょうかー」
「はい。では此方に」
少し小ぢんまりした部屋に案内され、他のスタッフからお茶とお菓子が出される。教育が行き届いてるなあ。
「最近は何か変わったことはありましたかー?」
「大魔強襲で被害に遭ったカーディスとローマリアの復興作業に人員を割いています。親を失った子供達は近くの国の孤児院に。怪我人は医療魔導士によって一通りの治療は済ませました。まだ国が復興するまでは時間が掛かりそうですが……」
「相変わらずの手際ですねー」
「いえ、ありがたき幸せに存じます」
「すげえ、アリアの下で働いている人とは思えないくらい真面目だ……」
「うん、ちょっとびっくり……」
「失礼ですねー」
「会長、此方の方々が例の……?」
「はい、この世界の特異点。そして私の神格を継いだカーズとアヤちゃんですよ」
「えええ?! そんなこと言ってもいいのか?」
「ひょっとして……」
「はじめまして、私はエルザ・アストラリア。このアリア商会を会長に託されて経営しております。カーズ様、アヤ様、あなた方のことはいつもアリア様から念話でお聞きしておりました。そして私はアリア様の神格をほんの少し引き継いでおります」
「『強制譲渡』という眷属化の神格譲渡なんですよ。だから苦痛は伴いません。彼女は私の信念に同意してくれた信頼ある人族です。アリア商会は彼女によって機能しているくらい有能ですよー」
「その貴族姓は大丈夫なのか? それにエリユズに行ったルクス達の神格譲渡と何が違うんだ?」
「『強制譲渡』は苦痛はありませんし、誰でも受けることができます。でも一つ欠点があって、その神が死ぬと眷属も死ぬということです。まあ神が死ぬなんて早々ないので問題はありません。後は絶対服従という形になります。神々の20人まで持てる軍はこの強制譲渡で成り立っていますねー。ティミスの月闘士なんかもそうですよ。もう全滅しちゃいましたけど」
「えー、じゃあエルザさんは操り人形みたいなものなのか? ちょっと酷くないか?」
「いえ、私は最小限の神格しか引き継いでおりません。自分の意志で商会を動かすこともできますから。アリア様が人間らしさを失わないレベルで調節して下さったのです。まあ逆らうなんて気持ちなど最初から全くありませんけどね」
「へぇー、そんなこともできるんだ……」
「無理難題を押し付けられたりしてないか?」
「失礼ですねー。エルザはSランク冒険者並みの戦闘能力もありますから、荒事になっても収拾可能です。そしてその神の姓を名乗れるのは眷属の証なのですよ。だからあなた達みたいな神格者以外は誰も不思議に思わない様になっているんです。それにこの商会は確かに私のお金稼ぎの為でもありますけど、世界中で困っている人々の救済を第一に掲げています。孤児院や学校を経営しているのもここの売り上げから出しているものですからー」
「そういうことです。孤児だった私を見出してくれたアリア様には感謝しかありませんよ。それにどのスタッフもアリア様の権能『魂の天秤』を私を通して使い、採用しております。汚職を働く者もおりません。ここで働けるということは普通の貴族以上のステータスが与えられるということに匹敵します。アリア商会のスタッフは尊敬の対象なのですよ」
「マジか……、まさかアリアがこんなにまともなことをしているとは……。今迄で一番驚きだ……!」
「社長さんからそう言われるとね、凄いと思っちゃった……」
「アヤちゃん……、私が言うと胡散臭いみたいに言わないでくださーい」
「そりゃお前が言うと胡散臭いに決まってる。今迄の行動を省みろー」
「あはは、まあまあ、会長のそういう自由奔放なところにスタッフも救われているのです。勘弁してあげて下さい、カーズ様。ところで今日の用事は一体何でしょうか? アリア様」
「ああー、そうそう、1週間程ここに滞在するんです。バルドリード公国の噂は知っていますか、エルザ?」
「ええ、存じ上げております。アリア商会の資金で運営している貴族学院での事件ですよね?」
「さすが早いですねー。それが今回追いかけている魔神の仕業と言う可能性が高いんです。さすがに相手が悪いのでスタッフの派遣はしていませんが、情報は伝わっているようですね。我々はギルドの依頼で、1週間後にそこに学生として潜入捜査する予定なんです。準備が済むまでここで息抜きをしていこうと思いましてねー。『フリーパス』ありますか?」
「なるほど、そういうことでしたか。では此方をどうぞ」
エルザが空間に手を突っ込む。異次元倉庫かよ。さすが神格持ちだ。それににこやかにしているがこの人には全く隙が無い。Sランクレベルっていうのも本当だな。交渉などで荒事になってもこの人がいれば問題なしだ。アストラリア流も使えるみたいだし。俺の鑑定にはそう映っている。とんでもない人に社長を任せてやがるなあ。
取り出した首から掛ける赤い宝石の様なネックレスを受け取る。これがフリーパスか?
「フリーパスって何ができるんだ? 全部タダになるって訳じゃないだろ?」
「いえ、全部タダですよー。賭け事以外は」
「ええー、飲食店全部潰れるじゃん……」
「さすがにそこまではしませんよー」
「…………」
「エルザさん黙っちゃったよ」
「過去に何回かねー、あははははー……」
「アヤ、こいつに絶対一つの店に入り浸らせないようにしよう」
「うん、そうだね……」
「会長、程ほどでお願いしますね」
「はーい……」
しかしこんなものまであるとは商業都市なのにエンターテイメント要素も沢山あるんだろうな。面白そうだ。
「そう言えばカーズ様は今は女性になっておられるのですね。任務の為ですか?」
「え、あー、うん、致し方なく。女性として行動することで女性の所作を学ばされてるところだよ。結構ツラい」
「なるほど、それでも真摯に任務に取り組もうとする姿勢は立派でございますね」
「うーん、さすがにリーダーの俺が投げる訳にはいかないからね。しんどいけど受けた以上は頑張るよ」
「カーズ、『あたし』ですよー」
「ああーもう、わかったよ」
「今日はソッカーの女子リーグの日ですね。そう言えばカーズ様はこの世界に来られる前はプレーしていらしたとか。調度怪我人が出ていて『コルドヴァ』チームが棄権するか悩んでいたようです。相手は『ライデン』ですか……。代わりに出場してみますか? 試合開始は午後7時なのでまだ時間はありますけど。一通り街を回ってから合流しても構いませんし。『コルドヴァ』のスポンサーはウチの商会なので、此方から出場の許可を取ることはできますよ」
「おい、アリア。ソッカーって何だ?」
「地球で言うサッカーですね。人気が高かったのでこの世界でも流行らせてみました。各国に沢山チームがありますよ。基本的にリーグ戦はここコルドヴァでやってますけどねー。大きなスタジアムがありますからー。比較的新しい文化ですからねー、サポーターも転移門で来たり、近くの街から見物に来たりとかしてる様な人気のエンターテイメントですよー」
「ああー、カーズは確かに向こうでプロ間違いなしって言われてたもんねー」
「うん、まあ怪我でダメになったけど。て言うかお前無茶苦茶しよんな!? 大丈夫なのか?」
「この世界には娯楽が少ないですしねー。だから地球で一番人気のあるスポーツを取り入れたんですよー。人間には攻撃的な本能がありますからね、それを発散させるには一番でしょー? 犯罪も減りますよー」
「言ってることが一々当たっているのは腹立つけど、その通りだなー。ぶっちゃけクソ親父の方がよっぽど上手いんだが、女性の姿で参加するなら得るものもありそうだな……。よし、わかったエルザさん、『コルドヴァ』チームに参加してもいいか? この体なら過去の怪我の後遺症もないし、前世の身体よりも身体能力も高い。あとは感覚が鈍ってないといいんだけど」
「まあそれは大丈夫でしょうー。一応スタジアムにはメチャクチャなスペック対策としてある程度能力を抑える結界が張ってあります。その中でどう動けるかですねー」
「久しぶりにカーズのプレーが見られるんだねー。楽しみー!」
ヤバい、アヤのスイッチが入った。これは下手なプレーはできないな。
「ではウォーミングアップが始まる前の午後5時には南西部のスタジアムに向かって下さいね。チームには今回の任務の偽名、『カリナ・カラー』の名前で登録しておきますから」
「うーん、でも女子リーグなんだよなー。本来男の『あたし』が出てもいいもんなのか?」
「カーズ、この世界で男女の能力差を感じたことがありますか?」
「え? ううーん、そう言われるとそんなにない気がする」
「そう、この世界で男女の身体能力に差はありません。どちらで出ても関係ありませんよー。それに女性特訓には女性の中でやった方がメリットが大きいでしょうしねー」
「一石二鳥だね、カーズ、じゃなかった、カリナにとっては。カッコいいプレーを期待してるからねー」
「ああー、もうわかったよ。じゃあそれでお願いするよ、エルザさん。やるからにはベストを尽くそう」
「はい、ではチームの方には連絡しておきます。そして折角なのでこの都市の構成を。北東部は工業地域、工場や工房などが多く、特に目立った見る物はないでしょう。北西部は様々な研究が盛んです。未知なるものに対する研究、化学、科学、生物学、薬学などですね。南部は逆に食の街。至る所に食品店やレストランがありますし、ファッション関係、冒険者の装備なども売っています。後はソッカーのスタジアムや、馬獣人が走る競馬などでしょうか。他にも色々とありますので見物していくといいと思いますよ」
ほう、馬獣人ね……。馬じゃなくて馬獣人と言うところに引っ掛かるな。
「おい、アリア。なぜ競馬が馬じゃなくて獣人なんだ?」
「馬獣人は走るのが好きな一族でしてー。しかも何故か女性しか産まれないんですよねー。その子達を走らせて競馬をやってますねー」
コイツ……、日本の国民的作品をまるパクリしていやがる気がする。
「そしてその子達を私達はウマ―もがっ!?」
「よーしわかった、もうそれ以上喋るな!」
危ねえ、こいつはホントに碌でもないことをしやがるな。口を塞いで危険なワードが出るのを止めた。
「そこは賭け事だから行っても見るだけにしよう。あとアリアは喋るな」
「ええー。折角人気のスポットなのにー」
「取り敢えず何か食べに行こうよ。そろそろお昼だしね」
「じゃあエルザさん、『あたし』達はここで。フリーパスありがとう」
「ええ、楽しんで下さいね。困ったときはいつでもいらしてください」
「エルザまたねー」
アリアを引き摺って本社ビルから抜け出した。こいつは本当に碌でもない。
「アリア、南部で一番美味しい店に行こう。そこで昼飯だ」
「いいですよー。じゃあ南部で人気の『ハチの巣亭』に行きましょうか。料理もお酒も美味しいオススメのお店です」
「でもお昼だし、混んでるんじゃないのかな?」
「ふふふー、そこはとても大きな店ですから。入れないってことはないですよー」
時間の短縮の為にここからは転移で移動。アリアの転移で一気にお店の前に。確かに規模がデカいお店だ。昼時で賑わってはいるが、すんなりと入ることができた。空いている席に着くと、メイド服を着た給仕のピンク髪のお姉さんがメニューを持って来た。客も多いが、スタッフも多い。さすが流行っているお店だな。
三人でフリーパスを見せると、驚いた顔をされた。まああんまりそんなの持ってる人いないんだろうな。
「アリア、適度にしとけよー」
「わかってますよー。んー、今日のオススメとかありますかー? それと一人夜からのゲームに出るので直前に補給できる様な物を包んで下さいねー」
「あ、はい。そうですねー、今日は魚介が新鮮で良いものが入っていますので、シーフードメインにお任せとかでもいいですか?」
「あ、そうか。ここって南西に外海アトランタがすぐあるんだよね。冷凍魔法があるから新鮮な海の幸が食べられるんだ」
「ええ、そうですね。今日は幻の虹色マグロが捕れたらしくて、今ならお刺身などがオススメですよ。後はシェフの気まぐれディッシュでいいですか?」
「どんな風に気まぐれなのですかー?」
「おい、やめろ。そこは気ままに気まぐれにさせてやれ」
「そこにツッコむ人初めて見たよ……」
「ということで気まぐれで大丈夫です。あと果実ジュース3つ下さい」
「はい、少々お待ち下さい!」
元気よく注文を受けて給仕のお姉さんは行ってしまった。
「何で変なところにツッコミ入れるんだよお前は」
「その気まぐれがこっちの気に入らないかも知れないじゃないですかー」
「いやー、それは気にしちゃいけないとこだよ……」
「それ言ったらクラーチとかのパーティで出されてる料理なんて、ビュッフェなんだから全部気まぐれになると思うぞ」
「なるほど、それは盲点でした。では私の気まぐれに合うかどうか見学してきます」
「待て。いくら会長でもそれはやり過ぎだろ。シェフを信じてやれよ」
「そうだよアリアさん、どうせ気に入らなければ絶対別のを追加で頼むんだからー」
「それにお前は味よりも量を気にしている様にしか思えんからな」
「味が一番大切ですよー。私の味覚が馬鹿だと思っていますねー」
「思ってるぞ。何出されても『美味い』しか言わねーじゃん」
「それに大量に同じものでも食べ続けるしねー」
「むぅー、そんな風に思われていたとは不覚!」
「誰でもそう思うだろ……」
「味気にしてたんだね……」
その後運ばれて来た、七色に光るマグロの刺身に、気まぐれフルコースをアリアは『美味い』を連呼して食べていた。絶対味覚おかしいなこいつ。結局美味しいなら良かったけどさー。
七色に光る刺身はちょっと勇気が必要だったが、食べると美味だった。味は普通にマグロだったしね。アリアがある程度満足するまで話しながら過ごし、店を出てからは南部のエンターテイメントを色々と眺めて過ごした。デッカイ遊園地みたいだな、この都市は。
魔力で動く観覧車とか、もうね、何でも魔力にすればいいって訳じゃないだろうに。地球の地方の寂れた遊園地みたいな感覚だ。この世界じゃ珍しい物なんだろうけどね。アリアめ、魔力で運用できるものなら取り敢えず持ち込んでるんだろうな。さすがに絶叫マシンみたいなのは無理だったんだろう。メリーゴーランドくらいまでしかなかった。日常的に馬に乗る世界だからあんまり人気って程じゃなかったけど。
そして馬獣人の女の子達が煌びやかな衣装を着て走る競馬場を見た。うん、これは間違いなくパクリだ。絶対に色々とマズイ。走った後に歌って踊るライブまでやっていた。マジでヤヴァイ。メチャクチャ賑わっていたけどね。
「どうでしたかー、ウマ―もごっ!?」
「おっとそれ以上言わせんからな」
「あははは……」
アヤは俺の記憶から何かわかっている。苦笑いだ。
「何でもかんでもパクるんじゃない」
「えー、でも最近ではアレとソッカーが一番の人気なんですよー」
「さも自分が考えたかのように文化に取り入れるよなー、お前は」
「ここには著作権はありませんからねー、むふー」
「俺の心の中に罪悪感と言う著作権が存在する。ソッカーはまだしもアレはダメだろ。せめてネーミングを変えろ」
「むー、じゃあエルザに相談しておきます」
「ねえ、もうそろそろ5時になるよ。カーズ、いやカリナのデビュー戦じゃない?」
「もうそんな時間か。ていうか怪我人って言ってたよな、エルザさん。回復魔法があるのに何で怪我人とかいるんだ?」
「ああ、それはですねー。ソッカーの試合中の怪我は選手生命に関わるもの以外は自然治癒に任せるというルールがあるんですよ。じゃないと常にメンバーが変わらなかったりして面白みがないので」
「変なところでリアルさを求めてるんだなー。まあいいけど」
「じゃあスタジアムに行きましょうかー。エルザが連絡は入れてるとは思いますが、一応私からも紹介しておきましょう。転移」
シュン!!!
スタジアム内のコルドヴァチームの更衣室に着いた。みんなが一斉に此方を向く。キャプテンらしき人がアリアを見るなり挨拶した。
「アリア会長?! ごきげんようです!」
「「「「「ごきげんようです!!!!!」」」」」
「うん、エルザから連絡来てるー?」
監督と思しき女性がアリアの下へとやって来た。二人で何やら話している。
「彼女が言ってた『カリナ・カラー』ね。本場でやってた選手だから好きなところでプレーさせてあげてねー。多分凄いプレーを見せてくれるからー」
「はぁ、そうなんですね……。じゃあ後はお任せください、会長。ユニフォームは、18が空いてたはず……」
本場ってどこだ? 後勝手にハードルを上げるな。監督さんが近づいて来て握手した。
「私が監督のセイルーンだ。よろしく、カリナ・カラー。会長の推薦だし、期待させて貰うよ」
「あ、は、はじめまして。『あたし』がカリナ・カラーです。よろしくお願いします」
「ポジションは何処ができるんだい?」
「攻撃的なポジションなら何処でも。でもどちらかと言うと中盤の前目がいいです」
「なるほど、じゃあ調度トップ下が怪我しててね。カリナはそこに入ってくれるかな。ユニフォームはこれだよ」
赤と紺のカラーのユニフォームを渡されて、二人に手伝って貰って着替える。結構ぴっちりしてる作りだ。まあ体にフィットしてるから動き易いかも知れないな。18番か、選抜で付けてたナンバーだ。縁起はいいな。
しかしこの世界でまさかプレーすることになるとは……。実はさっきから武者震いが止まらない。俺はひょっとしてワクワクしているのか?
「じゃあ私達はフリーパス特権のVIP席から見ておきますねー。頑張ってくださーい」
「カリナー、頑張って!」
偽名で応援され、アヤとアリアは転移で移動した。
「じゃあこれからアップするよー」
「みんなよろしくー」
「「「「「よろしくー!!!!!」」」」」
監督を始め、みんな凄いピシッとしてる。会長が連れて来た人物だし、失礼がない様にしてるんだろうな。全員と握手して、ウォーミングアップの為にピッチへと向かう。
うーん、俺何してるんだろう?
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