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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
83 竜王兄の空回り
しおりを挟むさて、インターバルも終わった。次は誰の出番かな?
『えーでは次の対戦、第四試合は…リチェスターBランク、アジーン・バハムル選手とアレキサンドリア連合王国西の国スクラから、Sランクの上級格闘拳士のゴリゴリオ・キューティ選手の対戦です! 準備を済ませたら、舞台へ上がって下さい!』
「よっしゃー! 兄貴、いってきます!」
「おう、気合入れていってこいよーアジーン」
兄貴呼びはやめてくれねえ。しかし、引っ掛かるのが相手の名前のセンスだ。いや、見た目も筋骨隆々でムキムキマッスルの髭のオッサン。しかもピンクのフリフリなゴスロリドレスを着ているし、すね毛がボーボーでぶっちゃけ直視するのもビジュアル的にキツイ。黒くて長い髭も三つ編みだし、同色の髪の毛も三つ編みで長いツインテ―ルだ。しかもデカい、2m以上はある巨体だ。
「なんか相手の名前変じゃね?」
ディードにそれとなく聞いてみる。
「ああ、あの方は元々クラーチで冒険者をしていたのですが、修行の旅に出ると言って他国へ行ってしまったんですよ。今はこの国にいたんですね」
ああ…、そうか、そうだろうね……。
「やっぱ名前からしてそんな気がしてた……」
『アリアさん、何でもアジーン選手はあの次代の竜王候補と言われる程の逸材らしいですね? そして龍拳闘士と言うからには格闘技に魔法という龍人族ならではのスタイルなのでしょうか? そして相手のゴリゴリオ選手も似た様な格闘術で闘うということでいいんですかね?』
『ハイハーイ! みなさんお待たー?! 解説のアリアお姉ちゃんですよー! そうですねー、マリーさんの言う通りですねー。龍人族は世界の秩序を守る観測者として長くそのスタイルを磨いてきました。ウチのアジーンとチェトレの二人が次代の竜王ですよー。でもまだまだ粗削りなところもありますね。そしてアジーンのレベルが1770に対して、ゴリマッスルさん? は1480ですかー。これは中々拮抗したバトルになりそうですねー。アジーンは稽古でも毎回剣士のエリックにマジウケするほどボコられてますからねー。まだまだこれからの伸びしろに期待ということですかねー?』
あのアホは味方なのか? しかも相手のことディスり過ぎだろ。
「「「ゴーリゴリ!!! ゴーリゴリ!!!」」」
おおぅ、さすが地元だけあってゴリさんに声援? らしきものが飛んでいるが、色々とひでえな。ブーイングにしか聞こえねえ。
そして舞台に上がったゴスロリなゴリさんは巨人の様に見える。進撃して来たら絶対怖いだろうな。鑑定、ドワーフ??? ドワーフってがっしりしてるけどあんまり身長なかったよなあ。街中でみても、少々背丈が低い人が多かったし。
「ディード、ユズリハ、あんなデカいドワーフが存在すんの? いやまあ目の前にいるんだけどさ」
「いえ、普通は体格は良くても高身長の方はほとんどいませんね。女性は結構華奢で小柄な方が多いですし……」
「え? あのオッサンドワーフなのか? デカ過ぎんだろ…」
エリック、鑑定くらいしとこうぜ…。
「突然変異とかじゃないの?」
どこからの変異だよ、ユズリハはいい加減だな。
「さすがに驚いたけどさ、そう言えばエルフとドワーフって仲悪かったりすんの?」
「「いや、特には」」
エルフコンビが口を揃えて言った。
「あ、そうなんだ。俺が元いた世界の物語とかだと仲が悪いって有名なんだけど、まあ所詮はフィクションか。リアルは違うんだなー」
地球のRPGのお約束とは違うのか、まあ仲が悪いよりはいいもんな。
『いやー、格闘対決、ガチンコ勝負ですねー。ドラゴン対ゴリラですよー! 特撮映画ですねー、ププーッ!!!』
『『ハハハハッ!!』』
そんなのこの世界にねーだろ、この駄女神が。ウチの両親は地球の文化を知ってるからウケてるけど……。
『トクサツエーガ? が何かはわかりませんが、同系色のジョブ対決、注目の一戦です。では始め!!!』
舞台上の二人が一礼をし、構える。アジーンも180㎝以上のエリック程ではないが身長はある方だ。そのアジーンが小さく見える程の巨体。まあアジーンの稽古はエリックに任せっ切りだったし、魔王化も解けた今、どう闘うのかじっくりと見せて貰おうかね。
「ウフフフ、あなた中々私の好みねー。私が勝ったらお持ち帰りさせて頂くわー」
「「「「ブフーッ!!!」」」」
俺とアヤにエリユズが吹いた。こいつはまた、中身も濃いのが来たなあ。
「なあディード、あのゴリさんは……」
「あ、ええ、ガチですね。わたくし達女性にはとても紳士的でしたけど。あのザコジャイ一味もいつも怖がって逃げてましたけど、毎回捕まってモフモフされてましたよ」
「ザコジャ…、いたな…そんなのも……」
「負けたら掘られんぞー、アジーン!」
「私は面白そうだからそれでもいいわよー、兄さんー!!」
エリックとチェトレから正反対の野次が飛ぶ。こいつらも大概ひでえな……。自分の番が終わったイヴァにルティは仲良くおやつを食べ続けている。ペット枠のあの二人はあんまり興味なさそうだな。妙に仲いいし、まあ和むからいいんだけど。
さてさて試合だ。
「負けないっスよ! いくぜえええええっ!!!」
「来なさーい!!!」
ドゴオッ!! ガシィッ!!
両者が同時に地を蹴ってぶつかり合う! 舞台の中央でアジーンの右拳をゴリさんが、ゴリさんの右拳をアジーンがそれぞれ受けて、組み合う体勢になった。
「「うおおおおおおおおお!!!」」
ゴオオオオオオオッ!! ズシンッ!!!
互いの闘気がぶつかり合い、球状のオーラの塊になった。舞台の中央がその圧力で沈み、クレーターの様な窪みが出来上がる!
『おっと、いきなりぶつかり合いですねー』
『ほほうー、これは互いのパワーはレベル差にも関わらず拮抗してますねー! さすがキングギドラ対キングコングですよー!!!』
例えがどんどん酷くなってやがる……。しかもアジーンはヒドラじゃねーだろ。
『あのレベル差で筋力的には互角とは…。しかも龍人族相手にゴリー選手は凄いですね!』
マリーさんまで…、あのアホに引き摺られてるな…。
『うむ、凄まじい闘気の鬩ぎ合いだ。しかしこの状態では勝負がつかん。伝説の千日戦争の型になっておるのう』
お、ステファンはまともなこと言ってるな。しかし千日戦争とは、どこかで聞いたことあるフレーズだな。取り敢えずあのまま力比べをしていても勝負がつかない。
「離れろ! アジーン!」
「くっ!!」
「ああん!」
ババッ、ダンッ! ズザッ!
離れる瞬間に互いに蹴りと拳を放ったが上手く相殺したし、されたな。戦闘経験の差はあのゴリさんのがかなり上だ。
「アンタ、やるな……。じゃあ俺も龍帝拳を見せてやるぜ!!」
「あのバカが…、何でいつも猪突猛進なんだよ…」
「稽古でもあんなんなのか? エリック」
「ああ、真っ直ぐ突っ込んで来るからな。恰好の的だ」
ドンッ!!
あ、マジだ。真っ直ぐ突っ込んで行きやがった。
ゴオゥッ!!!
「龍帝拳・闘牙疾走!!!」
アジーンが合わせた両手の掌から、龍が獲物に食らいつくかの様な白く輝く闘気のオーラが撃ち出される!!
「フンッ!! オーラ・シールド!!!」
ドゴオオオオッ!!!
ゴリさんが交差させた両腕に闘気の膜みたいな巨大な盾が出来上がる。この人実力はマジで凄いんじゃないのか?
バチィンッ!!! シュウウゥゥゥ……
「マジかよ、闘牙疾走を防御しやがった……」
「やるわねー、御陰で両腕がちょおっと痺れちゃったわーん。いいわねー、アナター」
「そりゃ撃つのわかってたら、防がれも避けられもするだろうが、あのバカは。しかも魔力が籠ってねえ。だから闘気のみで防がれる」
おお、さすが指導しているだけあって辛辣だな、エリック。
「いいぜ、燃える展開だ! チマチマした技抜きでガチンコで勝負だぜ!!」
ガシッ! と自分の両拳をぶつけるアジーン。ああ、こいつは確かに喧嘩の延長線上レベルだ…、エリックが言うくらいだしなあ。
「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」
ドゴォ! バキィ! ズンッ! ゴキャアッ!
舞台の中央で戦術もへったくれもない、ただの殴り合いが延々と続く。しかも防御お構いなしでぶつかり合っているせいで、互いの『ダメージ肩代わり君』は亀裂が入りまくっている。一撃が重いんだろうが、このままいくとタフネス的にゴリさんが上だろうな。
『両者全く引きません! しかしこれは決着がつくのでしょうか、アリアさん?』
『防御もまるで考えずに渾身の攻撃を繰り出していますからねー、両者の『ダメージ肩代わり君』が同じくらいの破損状態ですねー。ダメージは肩代わりしても体力の減少や痛みは感じますからねー。いやー、脳筋、これぞ脳筋ですよー!! 以前のエリックを思い出させてくれる程のザ・ノーキンズですよ! アハハハハハー!!!』
「言われてるわよ、アンタ……」
「勘弁してくれよー、アリアさん……」
ユズリハの一言がエリックに突き刺さる。まあユズリハもバトルになったら結構脳筋なんだけどな。
「あながち間違ってはいないが…、あいつは身内にも容赦ないな、あのバカ女神は。しかしなあ、アジーンは戦略とか全くないな。チェトレ、あの兄貴は何とかならんのか? もう30分はノーガードで殴り合ってるぞ」
「兄さんは相当ヴァカだからねー。同じ土俵でケンカ出来てるみたいで楽しいんじゃないの? エリックには毎回一方的にボコられてるしねー」
「あいつが馬鹿正直に突っ込んで来るだけだからな」
「相手の戦術や闘い方を学べって言った俺の指示すらも忘れてるな。笑顔で殴り合ってやがる。軽く活を入れてやるかー」
「はい、ラウダー・ヴォイス。かけておいたよ。アジーンに活入れてやって」
「「お、かかってる…、いつも間に?」」
「私を救ってくれた時に使ってた魔法だしね。私も魔法創造は使えるし」
さすがアヤ様、気が利くよ。念話にしようか迷っていたが、この際こっちの方が効き目がある。
「「ありがとう、さて活を入れてやるか」」
座席から立ち上がって大きく息を吸い込む。あのアジーンに聞こえないと意味がないしな。
「「「コルァ!!! アジーン!!! お前はいつまで子供みたいなケンカしてんだー!!! あと5分以内に勝たないと、そのゴリさんと旅に出すからな!!! ダカルーのばーちゃんには、アジーンのヴァカは新たな世界に目覚めたって伝えてやるから心配すんなー!!!」」」
ビリビリビリ!!!
声量を上げ過ぎた。あれほど興奮して殴り合いを見ていた観客までシーンとしている。
「げっ、カーズの兄貴!? マジっすか!?」
あ、こっちに気を取られやがった。
ドゴオオオンッ!!
「ラブラブ・スマッシュ!!!」
ゴシャッ!!
まともにボディにめり込む程の、強烈なアッパーがねじ込まれてぶっ飛ばされた。しかしなんつーネーミングの技だよ……、ただの撃ち上げパンチだろ。劣化版のアルティメット・ヘヴンだ。
「ぐえっ、痛てて…!」
立ち上がるアジーン。だがもう互いの水晶はヒビだらけだ。
『中々勝負がつきませんねー、アリアさん』
『ただ殴り合ってるだけですからねー。しかも闘気も魔力も雑なコントロールの筋力依存の、最早子供のケンカレベルですねー。戦術もクソもないですからー。いやあー、ここまで泥試合だと眠くなりますねー、ふああああー……』
欠伸しやがった! まあノーガードで派手に殴り合っているから、観客は盛り上がっているんだけどな。
「「「ゴーリゴリ!!! ドーラドラ!!!」」」
この声援も、これはこれでひでえな……。
(おい、アジーン。俺の創ってやった武器もまともに扱えないのなら、没収するからなー)
念話を送る。
(はっ、そうでした! 使わせて頂きます、兄貴!)
「モード・ドラゴンネイル!」
ジャキッ!!
アジーンの両手に装着されている格闘専用グローブの甲の部分から鋭いが太めの爪が伸びる。
ゴッド・ハンド。これが俺がダカルーのばーちゃんから頼まれていた龍人族専用の格闘グローブだ。全属性魔力を融合させて創造してある為、相手の苦手な属性に合わせて魔力を流した攻撃が簡単にできる。グローブの一撃に合成魔法を纏わせることすらできる。先程迄のアジーンは魔力そっちのけで殴り合っていたので、この武器の性能を全く使いこなせていなかった。ナックル部分にはドラゴンの爪のデザインが施されており、使用者の意思で出し入れが可能。伸ばせる長さも自在で、剣の様に斬撃を繰り出したり、遠隔から串刺しにもできる、使い方によっては相手の間合いを無視して一方的に攻撃できるという結構エゲつない武器だ。ばーちゃんがPTを抜ける前にギリギリ餞別として渡せたんだよな。
アリアのドラゴングローブの方が一撃の破壊力は大きいが、魔力を込めると衝撃追加の竜の息吹が毎回発動してしまう為、格闘術の組み立てには向かないんだよね。連撃に繋げる初撃で衝撃追加が発動してしまうからな。組み立てなしの一撃必殺が強力過ぎるんだ。
「じゃあ楽しかったがここらでお開きにさせて貰うぜ、ゴリさん。カーズの兄貴の命令だ」
「アラアラ、残念ねー。ならこちらも全力でいかせて貰うわーん」
いいから早くやれ、こいつら爽やかに言い合ってるが見た目は傷だらけだからな。
「龍帝拳!」
ダンッ!
やっぱ真っ向から突っ込むのは変わらないなー。
「龍翼爪斬!!!」
ザキィン!!!
ツメを利用し、両腕を交差させて放つ斬撃か。同じ箇所に斬撃を重ねることで威力を増しているんだな。よく考えてある。
「ぐっ…!?」
さすがに防げなかったみたいだが、このゴリさんやるな。咄嗟に魔力鎧装に切り替えてダメージを軽減させた。水晶に入った傷も浅い。この人アジーンに合わせて闘ってたんだろうな。紳士的というか、ノリが似てるのかもな。
「プリティ・パーンチ!!!」
「豪龍飛翔拳!!!」
ドゴオオオオオォッ!!!
互いの右拳がぶつかり合う!
ドガァッ! ズザーッ!!
ほう、今回はしっかりと魔力が籠められていた正拳突きだ。ゴリさんは吹っ飛んだが、アジーンは衝撃で少し後退っただけだ。
「これで決める!!!」
ゴオオオオッ!!!
アジーンの右拳に全力の闘気と魔力が集中されていく。
「天よ聞け! 地から飛び立つ龍の嘶きを!」
バガアアアアアッ!!!
舞台の床に向けて拳を叩き付ける!
「龍帝拳・龍牙天衝!!!」
ドゴオオオオッ!!! バコオオッ!! ズゴオッ!!!
ゴリさんがいる舞台の床から巨大な鋭い土柱が何本も飛び出し、その土の牙がゴリさんを串刺しにした。更にその勢いで宙に飛ばされるゴリさん。なるほど、土属性の魔力を地面に撃ち込んだのか。
「ごはああああああっ!!!」
バリィイイイイン!!!
『水晶が砕けました! 勝負アリ!!! アジーン・バハムル、Sランク昇格決定!!!』
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
「おっと!」
ガシッ!!
吹き飛んで落下して来たゴリさんをアジーンが受け止める。串刺しに見えたのに傷がない、良く出来てるなあ、あの肩代わり水晶。
「フッ、完敗よ。アナタはもっと強くなれるわ。これからも仲間達と競い合いなさい」
地面に立つと、ゴリさんはそう言い残して退場していく。何だ、かっけーなあの人。見た目の趣味は兎も角……。
「ありがとうございました! ゴリさん!!」
去って行くゴリさんに頭を下げて礼を言うアジーン。何だこれ? スポ根漫画か?
『いやー、何とかアジーン選手の勝利でしたね』
『まあ同じレベルなら完璧に負け試合でしたけどねー。これは初代の、現竜王に報告しないといけませんねー。子孫がスポ根して満足気ですよーって。どこまで脳筋路線を降って行けるのか楽しみですねー、アハハハー!!!』
普通は登るんだろうが、こいつマジで遊んでやがるな。だがアジーンは反省点が多過ぎる。俺もこいつはキツめに鍛えよう。満足気にボコられた顔で戻って来るアジーン。取り敢えずはエリックに任せるが、一言くらい言っておこう。
「兄貴ー、みなさん、勝ちましたよー!」
「こら、このやんちゃ坊主。お前はケンカしに行ったのか? 相手の戦術やらも学んで来いって言ったよなー? 本当にゴリさんと修行の旅に出るかー?」
「アジーン、お前これが堕天神とか相手なら瞬殺されてんぞ。帰ったら死ぬほどしごいてやるからな、覚悟しとけよ」
おお、エリック言うなあ。
「俺もしごいてやるからなー」
「まあまあ、折角勝ったんだから、祝福してあげようよ」
アヤは優しいなあ、だが時に優しさは刃物だ。
「ニャハハ、面白そうに暴れてたのさ、アジーン。でも『攻撃は喰らわないに限る』ってボクが言った言葉を忘れていたのかにゃ? さっきの試合だと実戦なら100回は死んでるのさー」
「ぐはああっ!!」
「レベル差がそれだけあって無様やなあー、アジーン。ちょっと同情するわー」
「うがああ!!」
「兄さん、超絶ダサいし、ヴァカ過ぎー」
「ぎゃああああ!!!」
うん、言葉のナイフは避けられない。そしてウチの女性陣は容赦ない。暫く反省してもらうか。
「よーく試合を思い出して、反省点を洗い出しとけよー」
他の仲間にも色々と言われて白くなったアジーンは燃え尽きた様に客席に座っていた。
『えーと、次の試合に移りたいのですが、舞台がメチャクチャですので、復旧までしばらく時間が掛かりそうですね、アリアさん』
『まあカーズがすぐ直してくれますよー。ここから魔力を飛ばしてもいいんですけど、どうせ暇してますからねー。ということでカーズー、お願いしまーす』
「あいつは後で絶対しばこう。直してくる」
「何だかんだでやってあげるんだから」
「優しいよねー、ウチのヴァカ兄貴と大違い」
「カーズは何だかんだでそういう子だもんねー」
「さすがカーズ様です」
アヤやみんなの勝手な声を聴きながら、舞台の側まで近づいて、土魔法を唱える。
「クリエイト・アース、そんでソイル・ハーデン」
パアアアアアッ! キラーン!
「「「おおおおおおー!!!」」」
「すげーぞ、あの姉ちゃん!」
「舞台が一瞬で元通りだ!」
「可愛いー!!」
「結婚してくれー!」
うわー、観客ウザいな、雨でも喰らわせてやろうか……? いやハゲさせたろうかな? いやいや、止めとこう。もういい加減慣れたんだ。優雅に戻ろう。
『ほらねー、すぐ直してくれたでしょう?』
『え、ええ、本当に一瞬でしたね……』
『ナギくんは優しい子なんですよー』
母さん止めてくれ、悪意がない分たちが悪い。
『まあ俺の息子だからなー、ハハハハ!』
クソ親父、後でぶっ飛ばすからな。
『うむ、カーズが初めてギルドに来た時を思い出すのう。バカのエリック相手にちゃんと手加減してくれおった』
『ステファンよ、カーズは我が国を救ってくれたのだ。あの正義感と清廉な魂の持ち主、当然であるな、ワハハハハ!』
実況席が一番の敵に思えて来た。こいつらマジでいい加減にしろ。戻って自分の席に着く。
「次、あとはディードとチェトレか、流れ的には龍人族繋がりで来そうだな」
「そうだね、ディードが負けることはないだろうけど、チェトレ頑張って」
「ムフフー、アヤ、あんなヴァカな兄さんと一緒にされたら困るなあー」
まだ真っ白に燃え尽きているアジーンを見ながら答えるチェトレ。アジーン、こいつはメンタル豆腐だな……。
『えー、では第五試合を開始します。こちらも次代の竜王候補、アジーン選手の妹のチェトレ・バハムル選手とここより南の獣人国ヴァナ・フィールよりSランクの深淵暗殺者、ハーフエルフのタマユラ・ノワール選手です! 準備ができたら舞台に上がって下さい』
相手はハーフエルフか、やっぱり名前が和風な響きがするんだよな。どうでもいいけど謎だな。獣人国なのにハーフエルフがいるんだな。まあ人間とのハーフとは限らないもんな。
『チェトレ選手は兄のアジーン選手と同様の龍拳闘士、対戦相手のタマユラ選手は深淵暗殺者という、相手の意表を突き一撃で勝負を決めるタイプのジョブ。レベルはチェトレ選手が1720に対してタマユラ選手は1280と結構な開きがありますが、アリアさんどう見ますか?』
『うーん、むにゃむにゃ…。ふわー、そうですねー、真っ向から打ち合う格闘術とトリッキーな動きと不意打ちなどが信条のジョブですからね。相性は悪そうですねー。チェトレが脳筋アジーンみたいな闘いをしてしまうと、かなり厳しいんじゃないですかねー?』
「やっぱチェトレだったな、頑張って来いよー! アジーンみたいになんなよー」
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「はい、黙ってさっさと行きましょうか、チェ・ト・レ?」
うわー、久々に見た。かなりキレかけてるアヤだ。
「そうですよ、試合に集中しなさい、チェ・ト・レ?」
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「苦労するな、カーズ……」
「何のだよ?」
エリックから同情の眼差しを向けられたが、よくわからん。取り敢えずは舞台へと無理矢理送り出されたチェトレの試合を見ることにしよう。アジーンみたく、まだこの二人は実戦経験が少ない、足を掬われる可能性もあるしな。
まあアジーン程酷いことにはならんだろう……と思いたい。
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