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第四章 混沌の時代・7つの特異点
70 共に闘う理由・矜持の果てに
しおりを挟む襲い来る悪魔の大軍勢にエリックとユズリハが死を覚悟した瞬間だった。
「エクスプロージオ・カノン!!!」
「スターライト・ブレス!!!」
二人の目の前を凄まじい威力の閃光が走った。眩しさで瞑ってしまった目を開けると、つい先刻前に高嗤いをしていた二匹の悪魔もその大量の配下共も跡形もなく消滅しており、抉れた地面が残されただけだった。
「…これは…?!」
「師匠達…、遅えよ……」
力なくその場に仰向けに倒れる二人。ルクスとサーシャが間一髪で救ってくれたことで、安心感から一気に脱力してしまったのだ。
「うるせえぞ。なーにあんな雑魚共にやられそうになってんだー?」
「遅くなってしまったわ。でも簡単に命を投げ出そうとしたのは減点ね」
「アリアから貰って来た。ほら、これでも飲め、ここからが本番だからな」
ユグドラシル・ドロップを受け取るエリックにユズリハ。一気に飲み干すと、失った体力に魔力が全快し、疲労までも一瞬で消え去った。
「うおっ、すげえ! 何だこのポーションは?!」
「完全回復した上に…、師匠達が斃した悪魔共の経験値でレベルまで上がったわ」
「さあ二人共、これからが私達の大切な役割…。よく聞きなさい」
・
・
・
「そんな…、メキアでそんなことが起きているなんて……。しかも世界中にそんな…」
「カーズ達は堕天神相手にメキアを奪還しに行ったってのか……。それに特異点とは……あいつはやっぱすげえな…」
サーシャとルクスの話を聞いた二人は、今世界で起きている危機、異変を知った。
「いいか、カーズは俺達にメキア奪還まで、ここで魔界の門の封鎖と魔王を可能なら捕獲するという役割を託したんだ。お前達にも頼むと伝えてくれとな。だってのに、早速死にかけてんじゃねーよ」
「「すいません……」」
ルクスに痛いところを突かれ、シュンとなる二人。
「でもルクス、この魔王領の瘴気結界の様なものは通常の人族の力を半減させてしまう。この二人のレベルはそれなりでも限界があるわ、それにこの夜の闇も…」
「…そうだな、仕方ねえ。カーズの大事な仲間を失わせる訳にはいかねえしな。……アレをやるぞ、サーシャ」
「ええ…、この二人もカーズにアヤという特異点に導かれた、強き魂の持ち主。きっと耐えられるでしょうからね…」
そう言うと二人は人差し指を噛み、そこから血が流れだした。
「お、おい、ルクス師匠…、何してんだよ!?」
「血が…。サーシャさんまで…一体何を…?」
二人の神の行動に驚きを隠せないエリックにユズリハ。
「これからお前達に俺らの神格の一部を与える。特異点に導かれたお前達なら耐えられるだろうとは思うが……」
「強く生きる意志とその魂を燃やしなさい。先程命を燃やした時の様に。それ程凄まじい衝撃があなた達の肉体と精神を駆け巡る。神格を受け入れるということは、命を懸けるに等しい覚悟が必要とされるのよ。……あなた達にそこまでの覚悟がありますか?」
「これから先、カーズ達と共に闘いたいのなら死をも乗り越える覚悟が必要だ。お前達にはその資格があると踏んでの提案だ。どうしたいか決めろ。まだ今なら引き返して、普通の人としての生を全うすることができる。覚悟はあるか?」
「「あります!!」」
神二人の真剣な眼差しの提案に、二人は一瞬も躊躇わずに返事をした。
「俺は、あいつらの仲間でダチだ…。あいつの背を任せられる様になれるのなら…、今更死など怖くはありません!」
「私も…、カーズやアヤちゃん、アリアさん達とこれからも一緒に闘うと決めています。その試練、必ず乗り超えてみせます!」
力強く決意を伝える二人。
「ハハッ、それだけの覚悟があるのなら充分だ。サーシャ、いくぞ」
「ええ…、いいですか、心を強く保つのですよ」
二人が祝詞を唱え始める。
「「特異点に導かれし、強き魂を持つ闘士よ。今ここに神の御名の下、我が神格の一部を授ける。この勇気ある闘士の行く末に光あれ!!!」」
ズッ!!!
ルクスの血液が指先ごとエリックの胸を突き心臓へと、サーシャのそれがユズリハへと流し込まれる!
「「神格譲渡!!!」」
ドクンッ!!! ゴオオオオオオッ!!!!!
「ぐっ…?! う、ぐああああああああああ!!!」
「う…くっ…! ああああああああああ!!!」
神の血を介して流し込まれた神格が、二人の心臓に強烈な負荷を掛ける! 体がバラバラに、心が引き裂かれる程の衝撃が全身を駆け巡り、辺り一帯に神格が暴走する竜巻が巻き起こる!
「心を燃やせ! 既に神格はお前達の中にある!」
「それを強く認識し、自らのものとするのです!」
体が焼け焦げてしまう程の熱量を持つ熱き神の血。肉体と精神が悲鳴を上げ、脳内の血管が沸騰する程バチバチと火花の様にスパークする!
「うぐっ!! ぐおおおおおおおおお!!! 俺、は…負け、ない!! みんなの…、あいつの背中は…、俺が支えるんだー!!!」
「う…、が、ああああああああああ!!! 愛すべき、仲間の、為に…、私は強くなる!! 絶対に、負け…ない…!!!」
エリックにユズリハ、二人の心からの叫びが木霊する!
「そうだ! そうやって強い意志で神格をモノにしろ!!」
「暴走する力を抑え込みなさい! そしてそれが自分の力なのだと強く認識するのです!!」
全身を駆け巡る衝撃が、神格を強く認識すればするほど徐々に収まっていく。
「ぐあっ…、これ、は、感じる…、心の奥底に、強い、輝きを!」
「う…く、この、体の奥で、熱く燃える…、これ、が、神格…!?」
「今認識した神格を自分自身のものとして強く輝かせろ!」
「強き意志で、その神格を今度は自らが燃焼させるのです!」
「う…、ぐおおおおおおお!!! 目覚めろ、俺の魂の神格よーーー!!!」
「あ、…くっ…、今こそ、輝け!!! 私の心の神格よーーー!!!」
カアアアアアアアアッ!!! ドゴオオオオオオオゥッ!!!
埋め込まれた神格から暴走して吹き荒れていた神気の竜巻が、二人の体に吸い込まれると同時に今度は体から神気の輝きが溢れ、自身の凄まじい力となって渦を巻いた。そして体全体を覆う様に薄っすらと安定した輝きに収まっていく。エリックからは青白い炎の様な、ユズリハからは太陽の輝きの様なオレンジの神気が立ち昇っている。
<神格を獲得・制御に成功しました。以後解放することで全能力が大幅にアップします。神格獲得により、スキルが新たに更新されます>
二人の頭の中に声が響く。勿論、それは神格を与えたルクスとサーシャにも聞こえていた。
「うぐっ…、ハァ、ハァ……う、あ……」
「ハァ、ハァ…、う、うう……っ」
地面に倒れ込むかの様に両手を着く二人。しかし神格が定着したことで、呼吸も、全身を駆け巡っていた雷の如き衝撃も立ち所に収まっていった。
「よくやったわ二人共! あなた達の闘う理由に、命を懸ける程の闘士としての矜持も。見事だったわ!」
「よしよし、見込んだ甲斐があったってもんだぜ!」
サーシャにルクスも、神格譲渡が上手くいったことに満足気な表情をした。体を起こし、その場に座り込んだエリックにユズリハは、自分の力が急激に上昇した感覚に唯々驚くばかりだ。
「すごい…、これが神格を得た力なの…? それにこの輝くオーラ…これこそが神気なのね…?!」
「今までカーズ達が放っていたのがこの神気…。今なら視える…。この青白い炎…これが俺自身の神気なのか…?! しかも暗いのに周囲が明るく見える…何なんだこれは?!」
「そいつは心眼、神格者のスキルだ。お前達は目を閉じたカーズやアリア、俺達にも稽古で攻撃が当たらなかったことがあるだろう? そのスキルの影響だ。360度、死角からの攻撃にも対処できる。感覚を鋭敏にし、相手の動きや呼吸さえもを捕らえることができるのさ。そいつを鍛えれば神眼という更に上位のスキルにも昇華させることができるぜ」
「そしてスキルは従来の武技の他に、その神格の神の流派が使えるようになるわ。そしてその負荷にも肉体が耐えられる程の強度に、体内の魔力の循環も激しくなっているはずよ。ちゃんとステータスを確認しておくこと、いいわね?」
ルクスにサーシャが色々と指南をする。そして早速ステータスを確認する二人。
「こいつはすげえ…、カーズやアリアさんが見せてくれたときに持っていた様なスキルがある…。それにマルクスリオ流大剣スキルに格闘スキル…。これはカーズのアストラリア流と同じ様なやつか…。そうか師匠の神格を授かったからこの流派ってことなんだな?!」
「私にはアザナーシャ流槍術スキルっていうのが…。それに魔法のランクも上がってるし、ステータスも……、すごい上昇してる…」
自らのステータスを確認して、更に驚く二人。
「そういうことだ。お前達の基礎能力に熟練度が上がれば、いつかはさっき見た奥義も使えるようになる。神衣を纏うことができるかどうかは、これからの心・技・体の成長次第だ。普通の神格者程度では不可能だが、お前達はカーズにアヤという特異点の影響を色濃く受けている。そして神であるアリアとも供に過ごしてきた、それは確実に今の小さな神格にも作用するし、神格はその持ち主の成長と共に変化し、大きく成長する。可能性がない訳じゃない。だが、そのレベルの神気を放てる程になると神器か精霊武器が必要になる。地上の鉱物ではオリハルコンでさえ、手にするだけで砂になるからな。お前達はカーズの創造武器を使っているんだったよな? それはあいつがイメージを魔力で具現化した概念武装だ、神気で強化すればそのまま使えるかも知れない。カーズは最早普通の特異点の域を凌駕しているからな」
「兎も角、これから堕天神や魔神みたいな相手と闘うには神気が扱えなければ対峙することも不可能。神気が視認できないのだから。先ずは神格と神気の扱い、そして神の闘技を学ばないといけないわね」
「もう既に魔界の門が開いている。魔王にされたのは竜王の末裔の兄妹二人だ。カーズはその呪縛を解くことができるらしい。だからもし対峙してもリストリクションかフリージング・リングで捕らえろ。殺す訳にはいかねーからな。俺とサーシャはこれから魔都ヴォルグザードにある魔王城の最奥の門へと向かう。お前達はここで神格の扱い慣らしに、狂暴化した魔物が大陸に出ない様に食い止めろ。魔王が出てきたらさっき言った通りだ、いいな」
「「はい! ありがとうございます!!!」」
生まれ変わったかの様に元気な返事をし、頭を下げる二人。
「じゃあ私達は行くわ。ユズリハ、あなたは回復に支援魔法をキッチリ使いこなせるように鍛錬すること。攻撃一辺倒ではこの先の成長はないわよ」
「は、はい…、わかりました!」
「おう、エリック、お前も魔法の練習しとけ。剣での接近戦しかできないなら、この先やっていけねーぞ、いいな?」
痛いところを互いに突かれてしまう二人。
「え、マジすか師匠…。魔法は苦手なんだよな…」
「ユズリハ、この剣術バカから金取っていいから多少は教えてやれ。その内こいつは役立たずになるぞ」
「はあ…、はい、努力します…」
「「じゃあな/ね」」
フッ!!
二人の気配が消える。魔都の奥まで転移したのだと神格が繋がった二人にはわかった。
「あーあ、魔法は憂鬱だが…。この戦線はカーズ達が来るまで持ち堪えるぜ!」
「そうね、先ず神格と神気に、互いの課題の克服を一番にしないとね!」
カーズ達のメキア解放に到着まで、互いがその役割を果たすために、そしてエリックとユズリハは新たなスタートラインに立つことになったのだった。
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