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第二章 王国奪還・記憶の煌き
26 決戦!魔人軍団
しおりを挟む霧が一瞬で消えて、上位魔人がその姿を現す。何だこいつは? まるで紫色の衣装に身を包んだピエロのような恰好をしている。だが皮膚はドス黒く口は耳まで裂けており真っ赤に光る目は三日月型で、こちらをニヤニヤと笑っているように見える。
「私の名は魔人メフィストフェレス。愚かな人族の悪意を愛し、変幻自在な姿と誘惑を得意とする上位魔人。唯一神の人形とその眷属よ、此度はこのクラーチ王国の崩壊までの輪舞をまんまと阻止したつもりだろうが、最早魔王様復活は近づいている。まずは貴様らをその贄としてやろう、クハハハハハ!!!!」
「メフィストフェレス? ファウストに出てくる奴か? ルシファーの配下とも言われる」
まあ神話とか好きだから何となく聞いたことあるだけどね。
「眷属よ、良く知っているな。私達は元は他の次元で生まれた概念がこの世界にしかない魔法を形作る魔素が実体化したものだ。想像上の恐れや畏怖といった人族の感情で出来ていると言ってもいい」
「何だと、じゃあ地球の神話とかで語られてる悪魔みたいな奴がこの世界で実体化してるってのか? ならこんなのがたくさんいるってことかよ?」
だったら神話とか宗教上の悪の存在なんて腐るほどいるじゃないか、笑えないな…。
「ハハハ、理解が早いな。貴様らが他の世界で他者の信仰というものを利用して勝手に生み出した宗教、祈る神などいもしないというのに。自らの争いの種になる架空の敵などを勝手に描いてくれた概念の御陰で私達はここで実体を得たのだよ。人類に魔法などという大それたものを与えた神々の驕りから生まれたと言ってもいいがな」
チッ、マジかよ。科学の発展を抑える代わりに生まれた概念のしわ寄せがこんなところに来ているってのか。上手く回っていそうな世界だと思ってたってのに、それなら2回の大虐殺は無駄だったってことになるのかよ。犠牲になった人達が浮かばれないじゃないか。
「カーズ、耳を貸す必要はありません。何が原因だろうが、こいつらは純粋な悪そのもの! 何を言おうがこの世界を貶める悪なのです。滅却することが私の神としての使命でもあります。こいつは私自身がこの世界の管理者である神として直々に屠ります。あなたは残りの、こいつが生み出した下位魔人を滅却してください。いいですね?」
真面目モードのアリアだな、これは相当怒ってる。
「あ、ああ、わかった。そいつは任せる。残りは俺が滅却してやるよ! 任せろ」
馬鹿笑いする魔人メフィストフェレスに切り込み、一瞬で後ろへと吹き飛ばしてそのまま追撃するアリア。なるほど俺が残りを纏めて相手しやすくしてくれたんだな。ありがたい!
<精神耐性SS、明鏡止水、未来視、心眼、弱点看破、標的化が発動します>
やはり弱点は聖属性魔法、所謂光だ。全部で調度7体、全て標的化した。俺は武具だけじゃなく魔法創造も色々とアイデアで生み出した。既存の魔法よりも俺のイメージが反映されやすく、使い勝手もいいからだ。状況に応じた魔法が創れるからな。先刻クレアに使ったラウダー・ヴォイスも俺のオリジナルなんだよ。状況にピッタリだろ? じゃあ7体、聖属性、光の一撃が良いだろう。7つの星…、うん、北斗七星のイメージだ! こちらに言葉にならない笑い声を上げながらのろのろと近づいて来るヨーゴレを始めとした下位魔人達。後ろへ距離を取って聖なる魔力を練り上げる。
「じゃあ大いなる光によって消えてもらうぜ! 裁かれろ! 7つの星の輝きに! 創造魔法! グラン・シャリオ!!!」
カッ!!! ドドドドドドドオォオオオン!!!!
城の天井を突き破って天上から7つの光の柱が魔人達を包み込むように落ちる!
「「「「「ウギャアアアアアアアア!!!」」」」
ちっ、さすが妄執に取り憑かれた奴らだ、あと一歩足りなかったか。致命的な一撃には変わりないが、練度が足りなかった。消滅にはあともう一押しだな。ならば今の光に嵐を加えてスタズタにしてやるぜ!
「左手からグラン・シャリオ、右手からテンペスト・ストーム、光嵐融合! 消滅しろ! 合体魔法<プレアデス・テンペスト>!!!」
カッ!! ゴゴオオオオオオオオオ!!!!!
プレアデスってのも七星の集団だったはずだ。
「「「「グガアアアアアアアアアアーーー!!!!」」」」
光の輝きと嵐の刃に切り刻まれ、7体全て完全に消滅した。俺だって成長してるんだ。毎日アリアに1回殺されてるくらいだしな。レベルは300を超えている。下位魔人など恐るるに足りん。因みに魔法名を口にしてはいるが、それは発動した後なのだよ。無詠唱と同じなのだ。ユズリハとこれのがかっこよくない? って話して決めたんだよね。やっぱ技名は口に出した方がカッコいいだろ?
じゃあアリアの手伝いに行くか、必要ないだろうけどさ。俺は未だに一本も取れてないしね。
「さてと、色々と知っていることを吐いてもらいましょうか、自称上位魔人さん?」
女神刀の切っ先を突き付けているのは、魔人メフィストフェレスの首から上の部分のみ。胴体はもうどうやったのか知らないが、粉々に四散している。あーあ、相変わらずとんでもない強さだな。俺は下位魔人に2発の魔法を使ってやっとだというのに。
「ハハハハ! 人形とはいえさすがは唯一神、まさか手も足も出ないとはな!」
こいつ、首だけで普通に喋ってやがる、キモイなあ…。何で生きてるんだ?
「魔王復活を企んでいるということは、他の国々にも同様の上位魔人が紛れ込んでいるということですか?」
「フハハハ、今更嘯くにしても意味はないからな。その通りだと言っておこう。時期に各国で人類同士による争いが起きるだろう。私達はそこで集めた負の感情を新たな魔王に相応しい種族の最強の者にそれを植え付けるだけよ」
「なるほど、そういうことですか。しかし何故今になってそのようなことを? この数百年あなた達は大人しくしていたでしょう。だから私も敢えて黙認しておいたというのに」
ほう、静かにしていたからアリアも放置していたのか。こいつらにしても見つかればこうなるのは分かっているってことだな。
「ハハハハ、その通りだな。人形とはいえ私達では唯一神に勝てるとは思っておらん。だが我らがただ静かに過ごしていたかというのは大きな間違いよ」
「なっ、それはどういうことです?」
「分らぬか、その世界を見渡せる目を持っておきながらも! 一体では敵わぬ私達が再び蠢き始めた理由を! ならば見せてやろう、フハハハハ! 直ぐに止めを刺さなかったことを後悔するがいい! 我が命を触媒とし、この地上に顕現せよ、邪神召喚!!!!!」
何だ、何を言っているんだ? 邪神?
「なっ!!! 何ということを!!」
一体何が起きているんだ?? アリアがこれほど取り乱すなんて。
「ハハハハハハ! 切り札がないのに出てくる訳がなかろう! さらばだ、この国共々滅びるがいい!! ハハハ……」
こと切れた魔人の頭部を中心軸に黒い大魔法陣が展開される。そしてそこから、魔人とは比較にならないレベルの禍々しいオーラと共に巨大な化け物がゆっくりとその姿を現す。
何だこいつは? ヤバいのは間違いない! 俺の鑑定ではこいつの情報がまるで分からない。これはレベル差がとんでもないということだ…。
「パズズ…」
アリアが声をあげた。この邪神という奴の名前か? ライオンのような頭と上半身と前足に鷲のような下半身に後ろ足、背中からは4枚の黒いカラスのような巨大な羽、更にあれは尾か? まるで巨大な蠍のような尻尾をしている。そしてどこから生えているのか分からないが、その異形な体にこれまた巨大な大蛇がヌメヌメと巻き付いている。そして体から吹き荒れる嵐のような突風。邪神パズズ…、なんて異形に巨体だ。俺の全身が危険信号を発している、「逃げろ!」と。だが逃げる訳にはいかないだろう。グッと弱腰になった足に力を込めて地面を踏み締める。
「アリア、何なんだアイツは?! 邪神って何なんだよ!」
「邪神というのは2度の大虐殺の際に殺戮の快感に取り憑かれ、自ら天の神格を捨てた、元天界の神々のことです…。天の加護を失っているとはいえ、神です。地上の生物では太刀打ちすることは不可能です。彼らはその異常性から天界の神々によって地獄の奥底の更に最深部に天の鎖によって封じ込められているはず。たかが魔人如きが召喚できる存在ではないのです。カーズ、逃げて下さい! これは天界の神々がどうにかしなければならないレベルの案件です! 人間のあなたを関わらせるべきことではないのです!」
「くっ…、でも、今のアリアは本当の力を発揮できないんじゃないのか!? 義骸に入ってるってそういうことだろ! 奴らも人形とか言ってた。そのアリアをここで見捨てて逃げろってことかよ! そんなことが出来るわけないだろ! 敵わなくとも、一矢報いることくらいはしてやる。それに俺が血の繋がった姉を見捨てるような男だとでも思ってるのかよ」
やれやれといった顔をするアリア。
「はあ、そう言うと思ってましたよ。でもまずは身を守ることを第一に考えて下さい。最初は私が話をしてからです。大人しく帰ってくれるとは思えませんがね…」
俺達が言い合っているのを退屈そうに見ていたパズズが口を開いた。
「ハアアアアアアアアアアアーーー!!! 地上の空気を吸うのは何千年か振りだ。よくもまあ悪魔如きが天の鎖に縛られた我らを呼び出せたものだな」
獅子の顔から凍り付く様な声を発するパズズ。その巨体にアリアが話しかける。
「パズズ、お久しぶりです。何故あなたが地上に出て来れたのです? あなた達は冥界の奥深く封じられているはずではないのですか?」
「ん? 貴様アストラリアか? 久しいな、義骸に入って下界で何をしている? それに、そいつは眷属か? 神格を人間に与えて共に地上で人類に関わっているとは。好き勝手にやっているようだな。唯一神となって調子に乗っているとは、面白い…」
挑発だな、乗るなよ、アリア。
「あなたの知ったことではありません。私はこの世界がまた滅ぶようなことがないように下界を見て回っているに過ぎません。それよりもこちらの質問に答えなさい!」
ああー、怒ってるな。アリア結構短気なんだよな、頼むから冷静でいてくれ。
「ガハハハ、若造が生意気な口を訊きおるな。確かに我ら邪神の烙印を押されたもの達は天上の加護を剥奪され、このような異形に姿を変えられ、冥界のコキュートスよりも更に奥へと天界の鎖によって封じ込められた。だが上位とはいえ魔人如きに召喚出来たということは、もう大体わかっておるのではないのか?」
「天上の神々の中に通じてる奴がいるってことだな?」
話の最中で大体予想は付いた。神々が封じたのならそれを解けるものもその中にいるはずだ。
「ツッ!!」
「ガハハハ! アストラリアよ、貴様よりよっぽど頭が切れるようだな。眷属よ、その通りだ。残念だが誰かまでは定かではないがな。邪神とされた我らとそうではない者達の線引きというのは実に曖昧でな、殺戮に取り憑かれた者と捕われかけた者との線引きなど漠然としているだろう? アストラリアよ、私は覚えているぞ、貴様もたかが一度の大虐殺に加わっただけだというのに、殺戮に取り憑かれそうになっていた正義の女神よ。狂ったように笑いながら剣を振るう貴様のことをな! グワーッハハハハハ!!!」
くっ、こいつアリアの性格をよくわかってやがる。抑えろアリア!
「黙れ!! 私は飲まれてなどいない! それがそのまま私達の立ち位置の違いでしょう」
「アリア…」
そうか、お前は辛くて心が狂わずにはいられなかったんだろ。でも完全には堕ちなかったってことだろ? こいつとは違うはずだ。
「カーズ、私は…」
「ああ、わかってる。何も言わなくていい。自ら殺戮に取り憑かれたこいらとは違う、辛くて狂わずにはいられなかったってことだろ。お前が後悔してるって言ってたのを俺は信じる」
「ありがとう、姉の私が励まされててはいけませんね」
少しは落ち着いてくれたか。
「ガハハハ! 中々気配りのできる眷属を作ったな、なるほど、言い得て妙だ。だがそれでどうするのだ? 自由の身となった私と人形の中の貴様、未熟な眷属で私を止められるのか?」
マズイな、俺が未熟なのはその通りだとしても、あの言い草からして今の状態のアリアよりは強いってことだ。そしてそのアリアにすら敵わない俺は完全に足手まといってことだしな。くそっ、何なんだ、何でこんな奴が出てくるんだよ!
「さあ、やってみなければ分からないでしょう。どちらにせよ、邪神であるあなたを放置など出来ません」
刀を納刀し、抜刀術の構えを取るアリア。奥義か、一撃で決めるつもりだろう。それにアリアの最大火力が全く通用しないなんてことはないはずだ。俺は邪魔にならないように数歩距離を取った。
「ほう、やるというのだな。若造なりに研鑽してきたのだろう、見せてみろ」
四つん這いの状態から上半身を起こし、巨大な獅子の顔で不敵な笑みを浮かべるパズズ。こいつ腕を組んで、構えもしないってのか。
空気がピリピリと張り詰めて重い。アリアの奥義は必殺必中だ。手加減されているとはいえほぼ毎日喰らってきたんだ、本気で放てば同じ神とはいえ、無傷なんてことはないはずだ。
「アストラリア流抜刀術・奥義」
「グフフ…」
笑いを崩さないパズズ。
「神龍!!!」
カッ!!!!!
出た! 突進しながら神速で繰り出される空間さえも切り裂く程の一撃必殺の抜刀術! 決まった! あれをそう簡単に躱せたり防げたりするはずがない!
「カハッ…?!」
「えっ…?」
次の瞬間俺が目にしたのは斬られたはずのパズズではない、抜刀途中にアリアの影から飛び出した無数の針の様な鋭利な棘。それが後ろからアリアの体を貫通し、串刺しにしている光景だった。<シャドウ・スタブ> 高位になれば針の本数や太さ貫通力も増す闇魔法だ。だが神眼で敵の発動する魔法がわかるアリアがあんなのをまともに喰らうなんて…。
「ガハハハ、頭に血が上ると目の前しか見えなくなるのは変わっておらんな。まさかこんな程度のものを全て喰らってくれるとは!」
「アリア! おい、大丈夫か!!??」
地面にドンッと落下したアリアに駆け寄る。酷い、義骸とはいえ全身が穴だらけだ。それに出血も酷い、ヒーラを何度も重ねてかけるが効果がない、どうしたらいいんだ!
「アハハ、油断しちゃいました…。もう義骸がもちません、魔力を無駄に、しないで…。このまま天界に、報告に…向かいます。いい、ですか…、逃げて、生きて、下さい…」
意識が神域に戻るだけなんてわかってる。でもこれじゃ本当に死ぬみたいじゃないか。
「おい! アリア!! アリアーーー!!!」
義骸が動かなくなる。まるで本当の死体の様に血の気が引いてリアル過ぎる…。悔しさにゴンッと床を叩く。
「くそっ、このまま逃げるなんて冗談じゃない。俺はお前の弟子だぞ、師の仇を討たなくてどうするってんだよ。それにここで俺が退いたらこの国は一瞬で終わる」
心臓が馬鹿みたいにうるさい。くそっ、覚悟を決めろ!
「グハハハ、眷属よ、止めておけ。貴様が何をしても無駄だ。できたとしても絶望だけだ」
バカ笑いをするパズズ。いいぜ、どうせ倒せるなんて思っちゃいない。アリアが天界で報告する時間くらいは稼いでやるぜ。
「嫌だね、あれでも俺の師であり姉なんだ。黙って退けるかよ」
「そうか、中々肝が据わっているようだな。まあいい、楽しませてみろ。久々の地上だ、多少羽虫と戯れるのも悪くないしな、ガハハハハハハ!!」
笑いやがって、いいさ、一矢くらいは報いてやる。虫ってのはしぶといんだ。アストラリアソードを左手に持ち、無行の位をとる。魔力ヴェールは最大展開。心眼、未来視、明鏡止水に精神耐性SS、既に発動できるスキルは全て使っている。さあ、どうくるんだ? 奴の動きの全てに注意を払う。
「そのままで、一体何がしたいのだ? …そうか、待ちの構えか。だが私はもう既に一撃を放っているのだぞ」
「は? 一体何を言って…つっ!!」
何も視えなかった。ただ痛みが走ったその部分に目をやると、俺の右の肘から下の腕半分が切断されていた。
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