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第一章 転生と新世界

10  冒険者登録試験 その1

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 ギルド内の冒険者の部署に大きな声が響く。何だ一体?

「え…本当に男性??? ちょっとよく顔を見せて下さい!!」

 ガシッと頬をマリアンナさんに掴まれた。そして俺の顔を近くでじー-っと見てくる。何だろう既視感があるなあ。アーヤ姫も頬を掴んできたし、今日はよく顔をのぞかれるもんだ。

「ええーっと、近いんですが…」

 まだこちらの顔をもう遠慮なしにぐいぐい見てくる。怖えよ。

「信じられない、こんな綺麗な顔なのに…、負けたわ」

 何に? あれ、俺は何かの勝負を挑まれてたのか? 更に回りからガヤガヤと他の冒険者が集まって来る。何なんだ一体。

「マリーさん、マジかよ!」

「この子本当に男なの? どう見ても超絶美人な女の子じゃない!」

「とんでもなく綺麗な子が来たなーと思ってたら男なのか!? 残念だわー」

 とりあえず誰もが口々に俺の性別についてワイワイ騒ぎ出した。まーたこの展開? もういいよ、こっちは辟易だ。て言うか自分でもそう思うしな。早く処理を済ませて欲しい。誰だ、残念とか言う奴は!

「彫刻のような整った顔、スベスベの白い肌、サラッサラで綺麗な髪…、超絶美少女じゃない! まるで唯一神のアストラリア様のよう…」

 マリアンナ=マリーさん、とりあえず放してくれないかな。さらにむぎゅっと顔を掴まれる。もう勘弁してくれ。俺が予想したパターンじゃないが、これはこれで恥ずかしい。

「あの…、そろそろ放してもらえますか…」

 もごもごと何とか伝えると、マリーさんはようやく手を放してくれた。やれやれだ、ほっぺたが痛い。

「ああーごめんなさいね。あまりにも衝撃的過ぎて…」

「いや、もう慣れてますので…。でも俺は男なんで女性にそんなに近づかれると恥ずかしいですよ」

 至近距離は勘弁して欲しい。男なのでさすがに照れる。

「えーと、登録はどうなるんですかね?」

 さっさと済ませたい。視線が集まるのはキツイ。

「そうですね、いつもはBランク冒険者がいれば試験監督役をしてくれます。武器の扱いの技量と、魔法の試験です。今日は、街の周囲に魔物があまり見つからないらしく、暇している冒険者が多いので。人員も揃っています。すぐにでも試験は可能です。このまま試験も受けていかれますか?」

 手っ取り早く済むならそれは願ったり叶ったりだ。あー、街の周囲は昨日狩り尽くしたしな。道理で駐在してる人数が多いのか、悪いことしたな。

「えーと、じゃあ書類の再確認をしますね……。ってどの属性も使用可能!? ええええええ!」

 また周囲がざわつき始めた。騒々しいなあ。

「マジかよそんな奴が存在するのか!?」

「私でも2属性が限界なのに、どういうことなの!?」

 ん、これは無知が招いたってことかな? でもそんなこと知らないし、スキル欄に乗ってるし使えるんだから仕方ない。また目立っている。アリアの馬鹿! そういうことは先に色々教えてくれよ!

「どういうことと言われても…、使えるものは使えますので」

「普通は逆の属性の魔法というものは使えないんですよ、火が使えたら水属性は使えない、聖属性が使えるなら闇属性は使えないって言うように。相反する属性を操るなど古の賢者様にも無理だったと言われてますから」

 マジかよ。そんなこと知らんのだよ俺は。嘘だって吐いてないしな。

「マリーさんよ、試験したら分かることだろ、今日はメンツも揃ってるし。間違ってるならすぐ分かるさ。ってことで剣技の試験はBランクの俺が担当するぜ、俺の名前はエリックだ、頼むぜ嬢ちゃん」

 グッと手を握られる。でっかいな、180㎝以上はあるが身体付きは無駄な筋肉がなく理想的な肉体だ。短めの金髪、明るくてムードメーカー的な奴だな。悪い印象も湧かない、不思議な奴だ。

「嬢ちゃんは止めてくれ。俺はカーズだ」

「おっと悪い悪い、ならカーズよろしくな!」

 声もでかいなー、豪快な奴だ。

「じゃあじゃあ、エリックがやるなら私も試験監督やるわ! 魔法の部門は私が担当する! 気になる新人はチェックしなきゃね!」

「おい、ユズリハ。遊びじゃねーんだぞ。ちゃんとやれんのかよ?」

 どうやら魔法の試験は今エリックと話しているユズリハという女性が担当するらしい。長い耳だが、エルフよりは少し短い、ハーフエルフってやつかな?

「初めまして、私もBランクの冒険者よ。コイツ(エリックを指さして)とは腐れ縁なの。私は火と風属性の魔法が得意よ。よろしくカーズちゃん!」

 手を握ると更にぶんぶんと振ってくる。背丈は女性体のときと同じくらいだ。これぞ魔法使いって感じのローブにハットを被っている。明るい、陽キャって感じだ。

「よろしく、だがちゃん呼びは勘弁してくれ」

「あっははー、ごめんねー。可愛いもんだからついね(笑) マリーさん、これで試験はすぐできるわよね?」

「そうですね、うちのギルドで指折りの実力者だし。人選に問題はありませんね。では試験官はお二人にお任せします。ではその前に魔力量を測定させてもらいますね」

 マリーさんが測定値のような台座に据えられたクリスタルの水晶のような玉を持ってきた。なるほど、これで測定するのか。

「この測定クリスタルに魔力を流して下さい。測定なので全力でお願いしますね。」

「はい、やってみます」

 クリスタルに左手を置き意識を集中させる、装備に魔力を収束するイメージでいいだろう。瞬間、俺の魔力が渦となって可視化できる程立ち上る。その魔力をクリスタルに収束させたと思った瞬間。

 ピシッ! バキキキキ! バリィィーーーン!!!

「「「「キャー!!!」」」

「「「うわあああ!!!」」」

 割れてしまった。これはどうなるんだ? しかもみんな吹き飛んだぞ。

「おいおい、マジかよ…」

「こんなの初めて見たわ…」

 エリックとユズリハはさすがBランクというか、その場で踏ん張っていた。しかし他の冒険者は魔力の余波で腰を抜かしたり、吹き飛ばされて転がり唸っている。辺りは散らかってぐしゃぐしゃだ。

「えーと、これはどうなったんだ?」

 カウンターの下からそーっと顔を出したマリーさんは、ワナワナと震えて信じられないという顔で俺を見る。そして砕けた測定器の台座の数値を見た。

「測定不可能…。何よこれ…」

 俺ヤバいことしたのか? 測定器壊しちゃったしなあ。謝っておこう。

「すいません、壊してしまって」

 深々と頭を下げる。

「いえいえ、カーズさんの魔力が強すぎてクリスタルが耐えられなかっただけです。気にしないで下さい。測定器は予備もありますしね」

 どうやら問題なかったらしい。ならいい、次にもう試験するのかな?

「今から実技ですか?」
 
 俺はエリックとユズリハの顔を見た。まだポカーンとしてるみたいだが。大丈夫か?

「はい、では裏手の試験場に行きましょう」

 マリーさんの案内で、俺達は裏手に向かう。

「俺達も見学にいくぜ!」

「私達もいくわ!! なんかすごいことになりそうだし」

 どうやらここにいる全員が見物に来るらしい。参ったな、あまり目立ちたくないのに。
 

 ・

 ・

 ・


 裏手にある、まるで闘技場のような舞台に到着。観客席までついてるし、本格的だな。

「この舞台の上で試験をします。武器は手持ちのものでも、そこに備えられている予備の武器でも構いません。一本入るまでが勝負になります。では少々お待ちください、ギルマスを呼んで来ますね」

 そういうとマリーさんは事務所の方へ走って行った。戻って来るまでまだ時間はあるが、とりあえず舞台に上がるか。ほっ、とジャンプして舞台に乗る。さて武器はどうするかな。同じ冒険者相手にアストラリア流の刃を向けるのはまずい。下手したら殺してしまう。武器の性能が異常なんだ、剣を刃でガードするだけでも相手の武器がスッパリ切れる可能性もある。魔力を流すなんて以ての外だ。うーむ、回避に回るか、それで峰打ちでいいだろう。武器を壊して続行不能にさせるのもありだな。もしガードするにしても剣の腹で受けよう。刃で受けないように気を付けるか。

「よろしく、エリック。お手柔らかに頼む」

「おう、しかしカーズだったか、見れば見るほど見たことのない不思議な装備だな。それは自作とかそういうやつか?」
 
 ああ、このバトルドレスが珍しいのか。神様が作ってくれたとは言えないしな。

「そうだな、俺の師の手作りだ。動きやすいし防御性能も高い」

 嘘は言ってない。アリアには実際師事しているしな。まあ、ボロが出たらまずいからあまり装備やらの話はしない方がいい。

「エリックはそのデカい剣を使うのか?」

 自分に興味を持ってくれたのが嬉しいのか、歯を見せて笑う。

「そうだ、この大剣バスタードソードが俺の相棒だ。数多の戦いをこいつと一緒に戦ってきたんだ。お前はその腰にある剣、2本持ってるのか。それを使うのか」

「そうだな。そこの練習用でも使おうと思ったが、エリックの大剣じゃあ折れてしまいそうだしな」

 仕方ない、練習用のは鑑定しても粗悪品なのが分かる。エリックの大剣はBランクだ、軽く折られるだろう。

「それは英断だ、そいつらじゃ斬り結んだだけで折れちまうよ。でもお前の獲物はかなりの業物みたいだな。見た感じ普通の剣だが、何となくわかるぜ」

 こいつ、中々鋭いな。完全に隠蔽してるはずなのに、歴戦の戦士の直観ってわけか。

「そうだな、師から譲り受けた」

 まあ量産できるらしいし、俺専用だしな。

「お前の師匠はきっとすげえ実力だったんだろうな。何となくお前を見てればわかる。まだ存命か?」

 うーん、この世には出てこないから天界か、死んではないが。実力も何も神様だしな。

「この世にはいないな」

「そうか、そいつは悪いことを聞いた。そんな人なら俺も師事したいもんだと思ってな」

 あの駄女神にか? 悪いけど止めといた方がいいぞ。頭が痛くなっても知らねーよ?

「師は変わり者だからな。教えてくれるかはわからんよ」

「そいつは残念だ」

 その時ギルドマスターらしき人を連れて、マリーさんが戻ってきた。まだ若く見える、高齢というわけではないが老いているという感じはしない。結構できそうだ。ギルマスだもんな。まあ無闇にやたらと鑑定するのは控えよう。

 「ほほう、今日はやけに盛況だな。新人試験にこれだけ人が見物に来るなど前代未聞だ。あの少女のような青年か、皆が注目しているのは」

 こちらに視線を送ってきたので軽く会釈をした。

「ふむ、できるな。エリックが相手か、これはこれは…」

「よー、じいさん。ちゃんと生きてたか。カーズは俺の獲物だ、交代とかはナシだぜー!」

「そんなことはせんよ。あとじじい呼びはやめろ。まあとりあえず殺されるなよ、悪ガキ」

 仲いいな、ギルマスをじじい呼びって。

「カーズくん、ちょっといいかな?」

 おいでおいでと手を上下に振られたので、舞台の端まで進んで座り、顔を合わせた。

「初めまして、ギルドマスター。カーズと申します」

 挨拶くらいはしとこう、ここで活動するんだし、悪い印象は与えたくない。するとスッと右手を出してきた。その腕を掴んで握手する。

「ここリチェスターの冒険者ギルドの支部長ステファンだ。よろしくカーズくん」

 中々の威厳だ、そして落ち着きも雰囲気もある。やっぱ結構できるなこのじいさん。

「よろしくお願いします。まだ受かってはいませんが。登録出来たら色々とお世話になるでしょうし」

「ふむ…、強く良い目をしておるな。しかも魔眼持ちか。珍しい。頼むから手加減してやってくれ。ではな、私も外から見ている。あんな馬鹿でも殺さんでくれよ、はっはっはっ!」

 魔眼を見抜くとは…すごいなギルマス。年齢からくる観察眼ってとこかな。侮れん。

「てめー! じじい! 誰が殺されるって!? 好き勝手言うんじゃねーよ! すまねえなカーズ、水を差したみたいでよ。思いっきりいかせてもらうぜ」

「ああ、よろしくなエリック」
 
 マリーさんが外から大声で呼びかける。

「では、実技試験開始!」

 俺達は互いに剣を抜いて、カツンと合わせる。そしてバックジャンプで互いに距離を取る。さてアリアは寝てるみたいだし。ここは俺自身が上手く立ち回る必要がある。鑑定、エリックのレベルは42、雑魚盗賊よりはよっぽどできるな。だが元のステータスも装備による補正値も俺に比べると遥かに落ちる。まずは回避に回って様子を見るか。加減しないと危ないしな。
 <精神耐性SS、明鏡止水、未来視が発動します>
 さてどう来る? 2回目の対人戦だ。俺はアストラリアソードを左手に持ち無形の位むぎょうのくらいを取った。もちろんアリアに習ったものだ。剣を持った手をだらりと下げ敵の前に立ちつくすという構えである。一見無防備なようだが、「これこそ敵のいかなる攻撃に対しても千変万化・自由自在に対応できるものなのですよー」とアリアが言っていた。俺が自分から切りかかるのは武器性能だけでもマズい。スキルも選ばなければならない。だからこそのこの構えだ。アリアめ、まだ寝てやがるな。だがアリアが常にサポートしてくれるとも限らない、俺なりの戦い方を見つけなければならないしな。

「あいつ、エリック相手に構えないぞ。どうするんだ?」

 外野の話し声がざわざわと聞こえる。無視だ、これが構えなんだよ。

「よっしゃ、いくぜカーズ! うおおおおおお!」

 最初は戸惑っていたように見えたが、まっすぐ突っ込んで来るとは、テンペスト・カウンターなら一瞬で片が付くが、下手したら殺してしまうな。ここは回避に徹する。エリックが振り下ろした剣撃を、すれすれでスッと躱す。

「なっ、まだまだァー---!!!」

 エリックは大剣をぶんぶん振り回し、攻撃してくる。だが俺にはかすりもしない。斬撃が通る軌跡が先に視えているのだ。それを体捌きと足運びでその場からはほぼ動かずに躱しているんだよ。ガキィーーン! 地面に剣戟が叩きつけられる。自重もあるため受けるとバトルドレスでなければ大ダメージだろう。だが当たらなければ何のことはない。

「マジかよ、その場からほとんど動かずにエリックの攻撃を躱してるぜ、お前見えるか?」

「いやほとんど見えねー。何だよあの動き!」

 俺がアリアから大剣をもらわなかった理由がこれだ。大きいが故に威力はあるが、その大きさ故に攻撃の型が限られる。叩き切るか薙ぎ払うか、ぶっちゃけそれしか出来ない。それ故に至極読みやすいのだ。その上両手で振り回すために隙も大きいし体力も使う。現にエリックは既にかなり息を乱している。

「はあはあ、すげえなカーズ。ここまで避けられたのは初めてだぜ。だがまだまだァー---!!!」

 息を乱しながらエリックが再び突進してきた。では賊共を壊滅させたときに得たスキルでも試してみよう。
 <スキル心眼が発動します>
 フッと目を閉じる。心眼、目を閉じても他の感覚をより鋭敏にし、敵の攻撃を察知できるスキルだ。しかも視界は360度、死界からの不意打ちにも対応可能だ。寧ろ目を閉じた方がよく視える! エリックが振り回す大剣の動きがより鋭敏に感じ取れる。なるほどこれは便利だ、暗闇で戦うことだってあるだろうし、視力を奪われても致命打になることはない。常時発動させておいてもいいくらいだ。目を閉じたままエリックが繰り出す斬撃を悉く躱す。

「なっ! あいつ目を閉じてやがる!!!」

「おいおい、嘘だろ…。次元が違い過ぎる…」

 ヤバい、ギャラリーが騒ぎ出したな、そろそろ終わらせないとな。

「くっ、カーズお前はマジですげーよ。ただでさえ当たらないってのに、更に目を閉じてるのに当たる気がしねえ」

 肩で息をしながらエリックが吠える。

「だがな、避けてるだけじゃあ勝てねーぞっ!!!」

 上段に構えた大剣を、離れた場所から打ち下ろす。何だ? 武技か?

「いけええええ、武技アーツ 真空斬!!!」

 鑑定、衝撃波を扇状に飛ばす技らしい。さすがに大きく避けないと当たるな。瞬時に右手側に光歩で範囲外へと逃れる。その瞬間エリックが眼前に迫る。これは、勘で反応したな。

「ここだあぁあああ!!!」

 なるほど、俺が回避する前提で武技を放ち、躱して態勢を崩すと踏んでそこを狙ったのか。こういう戦い方もあるんだな。アストラリアソードの腹で一撃をガードする。くっ、中々パワーが乗った一撃だな、でも俺の狙いはこの瞬間だ。

「アストラリア流ソードスキル」

 受けた大剣に自分の剣をススッと搦ませる。弱点看破、大剣のほぼ中心部分が一番耐久が減って脆くなっているようだ。そこに搦ませた剣で一気に魔力を集中させて切り上げる。

「アームズ・ブレイク」

 ガキィイイイイイイイーーーーーン!!!

 入れ替わるようにエリックの武器を破壊しながらその背後に回り込む。エリックの大剣は中心部からヒビが入り、

 ピシッ…バキッバリィィーーーン…

 とつかの部分を残して粉々になった。相手の武器を搦め捕り、弱点看破で視える武器の脆い部分を目掛け、その部分に高圧縮した魔力の一撃を打ち込む。まさしく攻防一体の武器破壊技アームズ・ブレイク。やられる側からすると相当嫌な技に違いない。

 エリックはその場に信じられないという顔でガクリと両手を着いた。

「勝負あり! エリック戦闘継続不可能のためカーズさんの勝ちとします!」

 マリーさんの声が響く。もはや軽く殺し合いになってたぞ。これ絶対試験のレベルじゃないだろ!

「「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」

 見物客の冒険者達の声が響く。まずいなー、エリック自体に攻撃することが出来なかったとはいえ、愛用の剣を破壊してしまった。悪いことしたな、武具創造のスキルなら創れるんじゃないか? Aランクまでなら作れるはずだ。後で創ってやるとするか。そう思いながらまだ地面を見ているエリックに近づく。

「ありがとう、本気で戦ってくれて。戦い方を色々学ばせてもらった、礼を言う」

 そう言って俺はしゃがみ込み右手を出した。エリックは無言で俺の手を取り顔を上げた。

「強いな、すげーぜカーズ。完敗だ、清々し過ぎて愚痴の一つも出ねえ」

「お前もな、今まで戦った相手では一番だったよ」

 グイッと引っ張ってエリックを立たせる。エリックは俺の手をそのまま上に突き上げるように引っ張る。勝負の相手を称えるポーズだろ、これ?

「お、おい、何だよ?」

 エリックはそのまま見物人達に大声で言った。

「こいつはカーズ! 最高に強え、俺らのギルドにとんでもない奴が来てくれた! お前ら歓迎しろー---!!!」

「「「「「「おおおおおー----!!!! カーズ!カーズ!!!」」」」」」

 ええー、何で? また無自覚に目立ってしまった、まずいなこれは、やれやれ。

「エリック、恥ずかしいからもういいって!」

「硬いこと言うなよ、お前は強い、俺はお前が気に入ったし、文句を言う奴は許さねえ」

 ひょいっと抱え上げられ、肩車される。勘弁してくれ…。俺はそのままカーズコールが鳴りやむまで大人しく肩車され続けた。ただ武器壊しただけだろ…。

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「馬鹿エリック、あっさり負けちゃって情けない。でもあの子の動きが凄過ぎたのは確かね、一体何者なのよ? って次は私が魔法の試験するってのに。もう決まったみたいな感じにしないでよね、全く」

 ふふっと笑いユズリハが試験場に向かう。

「どうでしたか、ギルマス、カーズさんは?」

 マリアンナに問われたステファンはニヤリと笑い、

「とんでもない逸材だな。Sランクいや幻のSSランクにも届くかも知れんのう。大切にせねばならんな」

 確かに聞いた、「アストラリア流ソードスキル」と。しかもあの一撃に込めた魔力量、人類の壁を大きく超えている。唯一神の流派の技を使う少女のような美しき剣士。一体どこからきたのやら。

「ではこのまま魔法試験も見ていくとしようかの」

 そう独り言ちて、ステファンはまだ肩車で歓声を浴び、困った顔をしているカーズを優しい目をして見つめた。

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