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第一部:婚姻編

⑭混色リメンバー

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 響き始めた水音から視線を逸らすと、残っているクラスメイトが4分の1ぐらいになっていることに気がついた。……今更だけど。

 残りの顔ぶれを見るに、僕が見ていない間……というか熱を抑えている間に嫁にもらわれていったのは、縹くん、茶都くん、桜くん、それから天路くんだ。彼等は一体どんな魔族に見初められたんだろう。

 そんなことを考えていると、何やら難しい顔をしていた珊瑚くんと目が合った。

「……っ」

 バッと、反射的に顔ごと逸らしてしまった自分が嫌になる。こんな反応されたら、誰だって良い印象はもたないだろう。

 ……それなのに。

「うわ~、バリぐるぐる巻きにされとうやん。黒河君はその魔族の嫁になっとると?」

 何てことはない様子で近付いてきた彼は、悪魔とは反対側の方に腰を下ろしてきた。流石にぴったりくっつくことはしないとはいえ、碌に話したことがない相手に距離を詰められるとドキドキしてしまう。
 いっそのこと、灰島くんみたいに何かパシってくれた方が楽だ。

「はは、そんな警戒せんでも。別に取って食ったりはせんよ?」
「ぁ……。いや、ご……、ごめん」
「なして謝るん?悪いことなんもしとらんやろ。それとも本当に食うつもりやったとか?」
「ちっ、ちが……。食べないし、嫁でも……、うわっ」

 ない、と言おうとしたところでハート型の尻尾にぺちりと鼻を叩かれた。もしかして本当は起きてるんじゃ……と思ったけど、聞こえてくる寝息が嘘かどうかなんて僕には判別出来なかった。

「今さぁ、だいぶ混乱しとーとよ」

 珊瑚くんは人好きのする笑みを浮かべると、そう切り出してくる。彼は3年になってからの転入生で、九州出身だと言っていた。方言は分からない程じゃないし、彼自身も明るい方だけど、どこか一線引いているような感じだったと思う。
 どうして僕に話しかけてるのかは分からないけど、ちょうど都合がよさそうだったのかな。

「クラスの皆がどんどんいなくなっとるやん?その後で殺されたりしとらんか~とか、本当はこれ全部オレの夢じゃないんかとか、色々考えちゃってさ」
「……うん」
「まあでも、夢じゃないってことは思い知らされたっちゃけどな。黒河君は天路君達が嫁になったとこ見とった?」
「み、見てない……」
「ふーん……。オレさ、知らんなら教えたくなるタチっちゃんね~」

 そう言って悪戯めいた笑みを口元に浮かべた彼は、内緒話をするように声を潜めて、『彼等』のことを教えてくれた。
 お喋りが好きなのかもしれないし、本人が言う通り教えたがりなのかもしれないし、この状況から現実逃避したいだけだったのかもしれない。
 理由が何にせよ、僕は期せずして認識外の出来事……彼等と四人の魔族のあれこれを知ることが出来た。

 まずは、剣道部の主将だった縹くん。恋愛より部活一筋って感じの硬派な彼は、美少女のように可愛い見た目の兎獣人の嫁になったらしい。エグい勢いの種付けプレスで、自分よりも上背のある彼のことをメスにしてしまったそうだ。
 外見に反してやばいくらいの性欲で、連続で何度も犯されることになった縹くんは、大きなおちんちんから大量に潮吹きしてメス堕ちしたらしい。

 少しふくよかな茶都くんは、多腕のゴーレムの嫁になったとのことだ。ふにふにな感触を気に入られて、ひたすら長い愛撫をされて。その結果、茶都くんの乳首は、びっくりするくらいぷっくりと膨らんでしまっていたらしい。
 六本の腕で性感帯を責められまくって、最終的にはとても幸せそうに乳首イキしていたそうだ。

 品行方正で性欲とは無縁そうな桜くんと、糸目で関西弁の天路くんは、そんな縹くんや茶都くんの痴態を見てオナニーを始めてしまったらしい。気づかれないようにこっそりおちんちんを扱いていたみたいだけど、狐獣人と狸獣人にバレて、クラスメイトにもバラされてしまった。それからは四人でくんずほぐれつの契りだったらしい。
 狐と狸と聞くと仲が悪そうに思えるけど、嫁を貫きながら彼等同士でもキスをしていたそうだ。桜くんと天路くんも互いを昂らせるかのようにキスをして、それからパートナーを交代して……と、聞いただけでもかなり濃厚だ。この場合は、魔族二人で二人の嫁を共有したってことでいいんだろうか。

「…………す、すごかったん……だね」
「やろ?まあでも、こっからやと離れとうけん、黒河くんが見とらんのも頷けるったい」
「……珊瑚……くんは、近くに……?」
「近くも近く、その契りの真ん中で囲まれとったんよ」
「え」
「場所を移動しようにも、潮やら尿やら嬌声やらで上手く動けんくてな。何もかもリアルで流石に夢っち思えんやろ?仕方ないけん、終わるまで待っとったっちゃけど、いやー……刺激強すぎてやばかったったい」

 いや、それは刺激強すぎで終わらせていいのか……?僕だったら意識を飛ばしかねない。一定の距離があるから見れているだけで、至近距離でたくさんの契りが始まったら……、恥ずかしくて死にそうだ。

「で、さ。思ったんやけど、オレはこのまま選ばれることないんやなかろうかって」
「……は?」
「現に、ここまで誰にも見向きされとらんしなぁ。視線すら合わんし、魔族も田舎臭いそばかす男は嫌っちゃろ」
「そ、んな……、ことは……」
「ごめんな、黒河君もこんなこと言われたら困るやろ。ちょっと愚痴りたくなっただけやけん、さらっと忘れてほしいばい」

 田舎臭い、というフレーズは、いつだったか金見くんが珊瑚くんに対して言ったものだ。九州の田舎の方から来たのは本当のことだからと、珊瑚くんは気にしていない様子だったけど。

 浮かんでいた笑みが、作り物のように見えてくる。
 こういう時に気の利いた言葉の一つや二つ、ぱっと出てきてほしいのに。その、とか、あの、という焦った言葉しか出てこない。多分、僕がこういう性格だということを見越して、吐き出してきたんだろう。余計な慰めなんて、いらないからと。

 それでも、どうにか言葉を探そうとした矢先。

「──選ばせるわけないだろう。君には私のニオイをたっぷり染み込ませているからな」

 気付いた時には、音もなく現れた喋る馬が、珊瑚くんの首根っこを咥えていた。
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