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⑥弱小魔術師、婚約する

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 意識が浮上して目を開けると、心配そうなディラザード殿下の顔が飛び込んできた。
 右手にはニーザス王、左手にはコメット王妃。
 シンキングタイムスタート。
 ぴんぽん。
 これは夢だ。
 頬を抓ってみる。痛い。不正解。

「よかった、目が覚めたのだな。どこか痛むところはないか?」
「え、あ、え?」

 混乱する僕の手を握り、ディラザード殿下は熱い眼差しを向けてくる。やばい、なんだこれ恥ずかしい。というか両親の前で何をやってるんだこの王子は……!

「ありがとう。呪いが解けたのは貴殿のおかげだ」
「呪い、って……。ああ!ご、ごめんなさいっ、おま……貴方が王子だなんて知らなくて失礼な態度を取ってしまって……」
「気にしないでくれ。寧ろ、狼だった時と同じように接してくれると嬉しい」

 口調とは裏腹の有無を言わせない雰囲気に、僕は思わず頷いてしまっていた。ディラザード殿下は優しく微笑むと、視線を僕から王様へとシフトした。

「父上。何度も言いますが俺はこの方を愛しています」
「あいっ……!?いや、だってそもそも僕はおと」
「彼も俺を慕ってくれているという証明もしました。心のこもった口づけで呪いが解ける……。その心が恋心であると言われたのは父上でしたよね?」
「こいっ……!?」
「……ああ、確かに、呪いを解く方法としてそう伝えた。だが、しかしだな……」
「あなた。ディラが決めたことに口出しするのはどうかと思うわ。それにほら、この子女の子みたいに可愛いじゃない。ふふ、何を着せてあげようかしら」
「コメット!私はだな、息子の行く末を心配して……!」
「はいはい。その話は後で聞くわ。それじゃあ後は若い二人でゆっくりやりなさい」

 想像していたよりフランクな王妃が、嘆く王を無理矢理引き連れて部屋から出ていく。
 いや、ちょっと待ってくれ。
 さっきから爆弾発言が多すぎて思考が全く追いついてくれない。狼さんがディラザード殿下で、男である僕に愛しているとか伴侶になってほしいとか言ってきて、呪いは恋心を含んだ口づけで解けて、勢いとはいえ僕が唇を合わせたことは事実で、それで呪いが解けたということは、僕はディラザード殿下を恋い慕ってい、る…………?

「っ……!!」

 そんなはずがない、そんなはずがないのに……、鼓動が早まるのは、顔が熱くなるのはどうしてなんだ。
 ああ、そうか、殿下が眉目秀麗すぎてうっかりドキドキしているのかもしれない。もし狼さんの姿でこんなことを言われたと想像してみたら……、…………嘘だろ、なんでドキドキが収まんないんだよ。

 深層心理で仄かに抱いていた想いが、一気に溢れ出してくる。どうしよう、こんな感情、初めてだ。

「……改めて、言わせてくれ。俺の伴侶に、そして俺直属の魔術師になってくれないだろうか。性別など関係なく、俺は貴殿が好きだ。勿論、いきなり結婚などという真似はしない。婚約期間を経て、貴殿の気持ちに整理がついた時に正式に俺の伴侶となってほしい。……もし、了承してくれるのならば、貴殿の名前を……教えてほしい」
「………………」

 狼さんと過ごした時間は決して長いものじゃない。だけど僕は、その短い時間の中で心がことんと落ちてしまっていたらしい。

 赤くなっているであろう顔を隠しつつ、僕はふてぶてしく自分の名前を口に乗せた。

 その瞬間、名前を発した口を塞がれて、あまりのことに平手打ちをかましてしまったのだけれど、僕は悪くない。いきなりあんなことをした殿下が悪いんだ……っ。

 ──男と男。王子と平民。
 前途多難な婚約生活は障害の連続だ。そんな壁を乗り越え、僕が完全に彼に陥落し、盛大な結婚式が開かれるのは……、もう少し先の未来の話。
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