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閑話:王様、嘆息する

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 私はハインドシュタイン国の王、ニーザス・サナターク・ハインドシュタインである。
 王としても魔術師としてもその才能を遺憾なく発揮しているのだが、最近悩みの種が増えたせいで胃が痛くて仕様がない。

 悩みの種とは、私の実の息子であるディラザードのことだ。
 誰に似たのか分からないほどの美貌に、女のみならず男までもが傾倒しかけているのを危惧し、伴侶を決めるためのパーティーを開いてやっているというのに……。あやつは一向に嫁を連れ添って私の前に現れない。……いや、それはまだいいとしよう。
 私の知らないうちに、とある貴族の醜い嫉妬のような逆恨みで呪いをかけられていたのも、まあ命に別状はないので置いておこう。

 一番問題なのは、

「父上、何度も申し上げている通り、俺……私はあの方と添い遂げたいと思っているのです。どうして分かって下さらないのですか……!」
「お前に恋い慕う相手が出来たということは喜ばしい。……が、無理に決まっているだろう!その相手というのは男ではないか!」

 数週間前、王宮に忍び込んだ罰として、給仕として働かされている平民の二人の男。そのうちの一人に、恋をしてしまっていることだ。

「性別は関係ありません。私の呪いがかかった姿を見ても悲鳴一つあげず、そんな姿の私と談笑して下さったのは後にも先にもあの方だけです。父上でさえ逃げて机の下に隠れたというのに、あの方は私に笑いかけてくれたのです!」
「昔の話を持ち出すな!……たとえそうであっても、我が国には後継ぎが必要だ。お前には必ず女性と結婚して後継者を育てるという義務があるのだ」
「後継者についてはレイアに一任しました。レイアは野心が強いですからね。喜んで引き受けてくれましたよ」
「妹に丸投げする兄がどこにいるっ……!」
「それより昨日聞いたのですが、どうやら彼は王宮専属魔術師を目指しているようです。そうなると私の伴侶兼私直属の魔術師として迎え入れてもよいと思うのですが」
「………。一つ、聞いておこう。その給仕も、お前のことを好いているのか?」

 言い返すのも億劫になり、話題転換も兼ねてそう尋ねると、ディラザードの饒舌だった口がぴたりと止まった。……なるほど、なるほど。どうやらディラザードの一方通行らしい。それならまだ軌道修正は可能というものだ。まずはその給仕をこの王宮から追い出して……。

「……父上。明後日のパーティーで必ずや証明してみせます。その間に彼を追い出す真似をした場合は……、彼を攫って駆け落ちしますので」
「な……っ!お前、一体何を……!」
「では、失礼します」

 私の話を最後まで聞くことなく、退室するディラザード。
 胃がきりきりと痛んでくる。駆け落ちすると脅してきた上に、……証明だと?嫌な予感しかしない。これ以上私の胃にダメージを与えてどうする気だ。

 柄にもなく零れてしまった溜息は、誰に聞かれることもなく静かになった部屋に霧散した。


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