今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね

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閑古鳥武器屋来客中

キューピッドは甘い蜜

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 妖精の世界でもイジメってのは存在するんだな……と、しんみりしていたところで爆弾を落とされた。

 改めて第三者からそう言われると、居たたまれないというか恥ずかしいというか何というか……っ。

「なんでもさぁ、アルジュが今よりもっとちっさい時から好きだったんだって。一歩間違えたら犯罪だよね。あ、魔族と人間って時点で犯罪とか関係ないか」
「え、いや……え?」
「種族が違うと時間の流れが違うしねー。それよりさ、もうアルジュはルダ様とちゅーした?」
「なっ……!そ、そんなこと言えるわけないだろっ」
「なんで?付き合ってんならそれくらいしてても不思議じゃないでしょ」
「そういう意味じゃなくてっ、……というか、その、まだ付き合ってるってわけじゃ…………」

 ごにょごにょと尻切れトンボになってしまう俺を、クーロンは信じられない物を見るような目でまじまじと見つめてきた。

 ……正直、以前よりかはルダセイクを怖いと思うことは少なくなった。
 好意を向けられているということを知ってから、怖いと思うより先に照れが勝ってしまう。
 それに、俺だって本気で嫌だと思っているなら相手が魔王様でも抵抗くらい出来る……はずなんだ。
 でも、ルダセイク相手にそんなことをしようなんて考えは浮かんでこない。

 …………つまり、これは、そういうことで。

 だけど、男同士だとか種族の違いとか身分の差とか考えると、俺はどう頑張ってもルダセイクに釣り合える相手になれそうもない。

 ……認めるまで時間はかかったけど、俺はルダセイクのことが好きなんだ。認知したところで、どうしようもないことが分かってしまって、たたらを踏んでいる状態だ。

「ふーん……。でも、まだってことは付き合う気はあるってことだ」
「!?い、いや、それは言葉の綾というか……!」
「…………何、ルダ様のこと好きじゃないの?」
「(怖っ!妖精らしからぬ黒いオーラが見える……!)…………す、好きだなぁとは思うけど、俺とセイじゃ月とすっぽんだし、ほらやっぱ魔王様の隣に俺なんかがいたら不釣り合いだろ?」
「そんなこと、誰が言ったんだ?」
「誰がってわけじゃないけど、一般論という、か…………?」

 …………あれ、この場にいないはずの人の声がしたよう、な。

 ぎぎ、とロボットのように首を動かして反対の方を向くと。

 天使のような悪魔の微笑みを浮かべたルダセイク様が、仁王立ちで顕現していらっしゃいました。

「う、うわあああぁぁっ!!?いっ……いいいいいつからそこに!!!?」
「さあ、いつからだろうね。…………それよりアルジュ、僕が今何を思っているか分かるかい?」
「ひぃっ!」

 怖い怖い怖い怖い怖い!
 口元は笑ってるのに目が冷え切ってます魔王様!!

「クーロン、少し席を外してもらってもいいか」
「うん、いーよ。あんまりアルジュをイジメないようにね」
「ちょ、待っ……」

 俺の制止の声は届くことなく、クーロンはあっという間に姿を消してしまった。
 この状況でルダセイクと二人きりとか俺の精神が持たないんですが……!

「アルジュ」
「は、いっ。な、ななな何でしょうか!」
「君が僕と釣り合わない、なんてことは今後絶対言わないように。あと、僕に対して言うべき返事を、どうして僕以外の人に伝えるんだい。気にくわないな」
「……っ!あ、あれは、質問されたから答えた、だけで……」
「それじゃあ、僕の目の前で言ってもらっても構わないよね、アルジュ」
「あ……、う…………」

 ばくばくと鳴り始める心臓。顔全体が火照っていくのを嫌でも感じてしまう。

 座っている俺にぐいっと顔を近づけてくるルダセイクに耐えきれなくなって、ほぼ叫ぶように俺は答えを口にした。

「お、俺も……っ、セイのことが、好きだっ…………!」

 その瞬間。
 俺とルダセイクの距離がゼロになった。今までの戯れのようなそれとは違う、深くて長いキスに思考がぐるぐるしながらも必死に応える。

 うぁ、やばい。
 好きだと自覚したら尚更恥ずかしくて、う、嬉しくて、そんな感情が浮かぶ自分に悶えてしまうという悪循環。

 ぬるりとした熱が口内に侵入してきた時は頭がパンクした。え、嘘、と戸惑っている間に俺の舌が絡め取られて厭らしい音が響く。

 どうしよう、キスをされているだけなのに身体が熱い。今にもとろけてしまいそうだ。

「ふぁ……、っふ、……セイっ…………!」
「アルジュ…………、キスだけで感じるなんて、可愛い子だね」
「……っ!これは、ちがっ……!」

 あ、あああああれ……?
 ほんとマジでおかしいって俺!いくら気持ちが昇ぶっているとはいえ、いくらルダセイクのテクが無駄に凄いとはいえ、…………この短時間で、こんなにアレが元気になってる、なんて。

 羞恥やらなんやらでテンパる俺と、傍に置いていたキャンディの包み紙を見比べて、ルダセイクはどこか納得したかのように頷いた。

「……ああ、もしかしてクーロンが出したお菓子を食べたとか?」
「…………た、たべた、けど」
「魔力を持たない者が人外の創った物を摂取すると、どういうわけか媚薬に似た症状が出るんだよ」
「びっ……!?」
「クーロンがわざとやったのかは分からないけれど……、僕が楽にしてあげるから安心して身を委ねるといい」
「媚薬って、え、そんな、待って、」
「これまで充分待たされてきたんだ。もう、待たないよ」
「せっ、せめて場所をいど……んぅ──!!!」




 ──……後日。
 身も心も結ばれた俺と魔王様を、どこから聞きつけたのか祝いに来たメリダールとアーク、更にレオルガとクザリ、クーロンに散々弄られて羞恥と歓喜がごちゃ混ぜになってオーバーヒートしたのは、今ではもう思い出すのも恥ずかしい出来事だ。


【閑古鳥武器屋来客中】


(お久しぶりです、レオルガ君。ようやく魔王様達が結ばれたみたいでほっとしましたよ)
(……メリダールですか。まあ、あのルダセイクが人間に惚れ込んでいると知った時はどうしようかと思いましたが……、なかなかお似合いだと思わないこともないですね)
(ふふ。素直にお似合いだ、と言わないところがレオルガ君らしいです)
(む……。それよりメリダール、貴方はまだあの道具屋に住み着くつもりなのですか?)
(住み着くだなんて心外ですね。ちゃんとお仕事はしているんですから。それに僕は魔王様の使い魔ですけれど、当の彼から自由にしていいと言われてますので、その言葉に甘えるつもりです。アルジュ君に悪い虫がつかないよう見張っていた分、そろそろ僕自身が動いてもいい頃合いですしね)
(ふん……、確かアークでしたか?貴方が入れ込んでいる人間は)
(はい。まだ僕の正体は話してないんですけどね)
(…………全く、ルダセイクといい貴方といい、どうして人間に惚れ込むのか分かりません)
(そうですね……、使い魔とラブラブなレオルガ君からしたら不思議に思っても仕方ないですね)
(全くです。……、……?……なっ!わ、私とクザリはそんな関係では……っ!)
(そのクザリ君から直接聞いたんですよ。凄いですね、惚気られすぎて砂を吐くところでした)
(ク……っ、クザリイイイィ!!)

(あーあ、アルジュ腰痛そー。もう少し手加減してあげたら?)
(……随分アルジュと仲良くなったようだな、クーロン)
(うわ、嫉妬とかやめてよ?間違えて飴あげちゃったことは悪かったと思ってるし)
(そのことに関しては怒っていないよ。寧ろよくやった)
(うわー……、悪い笑顔……)
(それはそうと、クーロンに会わせたい奴がいるんだ)
(俺に?)
(ああ。クーロンを救ってくれと僕に頼み込んできた氷の精霊なんだけど)
(へ…………?)
(彼は妙な呪いにかかっていて、解くのにだいぶ時間がかかってしまったよ。……クーロンをあの場所から連れ出したのは僕だが、間接的に救ってくれたのはその氷の精霊だ)
(…………氷の精霊だなんて言われても、俺そんな奴知らないし。それに、精霊は俺達のこと見下してくるから嫌い。頼み込んできたとか何かの間違いじゃないの?)
(……クーロン、主である僕のお願い、聞いてくれるよね)
(う……。お願いというか命令じゃん。…………変な奴だったら、潰してやるから)

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