絶頂快楽ランド

桜羽根ねね

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壱:観覧車は回らない

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 そんな願いも空しく、嫌な予感は的中した。

 観覧車、コーヒーカップ、お化け屋敷、ジェットコースター。
 どれもメジャーなアトラクションだが、その全てに頭が痛くなる名前が付けられていた。

『絶頂オナニー観覧車』
『絶頂おもらしカップ』
『絶頂女装ちかん屋敷』
『絶頂合体コースター』

 何でもかんでも絶頂という言葉をつければいいと思っているのか、とツッコみたくなるようなラインナップに、僕もベガも既に精神がすり減ってしまった。
 所々、無視出来ないワードがあるのがとてつもなく怖い。

「う……、どうすればいいんだ……」
「どうもこうも、帰るためにはやるしかねーんだろ……」
「……ああ。覚悟を決めるしかないか」

 お互い頷き合って、まずは比較的軽そうな観覧車から行くことにした。

 ──観覧車といっても、スケルトン仕様なゴンドラが一つ、クレーンのような物でポツンとぶらさがっているだけだ。回ってすらいない。
 絶頂オナニー観覧車……ということは、この中で自慰をしろということなのだろうか。
 僕達以外誰もいないといえど、外で性的なことをするのは流石に恥ずかしい。

 観覧車を前に怖じ気づいていると、どこからともなく覆面男達がわらわらと集まってきた。
 ひ、とあがりそうになった悲鳴をぐっと堪え、ベガの腕にしがみつく。

「なっ、なんだあいつらは……!」
「俺が知るかよ!」
「ち、近付いてきてないか!?」
「……チッ」

 逃げたくても、園内に閉じこめられている以上、逃げ場なんてない。
 覆面男達の手が伸ばされてきて思わずぎゅっと目を瞑ると。

『こちらは一人乗りとなっております。搭乗されますか?』
「……へっ?」

 予想していたのと違う機械めいた丁寧な口調に、思わず閉じた目を開けて間抜けな声を出してしまった。

『そちらの方ですね。では、ご案内します』
「うわっ!?やっ、離せ!了承した覚えは……っ!」
「っ、シリウス!」
『もう一人の方は我々と一緒にお楽しみ下さい』
「はぁ!?何寝ぼけたこと言ってんだ変態共!」

 いくらベガでも屈強な男達の力には適わない。
僕より身長が高いベガの力が通じないのに、僕の微々たる抵抗が通じるはずもなく。

「あ……、ベガぁ……!」

 無情にも透明なゴンドラの中に放り込まれ、がちゃりと鍵をかけられてしまった。
 どうやら中から開けられる構造ではないらしく、閉じ込められたのだと気づくまでそう時間はかからなかった。

 隔たれたガラス越しに、男達から後ろ手に拘束されているベガが見えて、この状況がどう足掻いても良い方向に転ばないことを嫌でも理解した。

 …………元々、乗るつもりではあったんだ。手荒な方法を取られたが、このアトラクションに乗らなければ、どっちみちこの異様な場所から出ることが出来ない。

 それなら、腹をくくるしか、ない。

「……ベガ、僕は大丈夫だ。だからもう抵抗するな。それ以上暴れたら怪我をしてしまうぞ」

 声が聞こえるかどうか分からなかったから、安心させるように柔く微笑んでみせる。
 途端、端正な顔があからさまに歪んだ。

「……っ、この、バカが!」

 ガラス越しに聞こえてきたベガの声を皮切りに、ゴンドラが動き出した。正確に言うならクレーンが動き出したみたいだが、まあそれはこの際関係ない。

 ゴンドラはごうんと浮き沈みしながら、ベガや覆面男達の目線の高さで止まった。

 そして360度、ぐるりと周りを囲まれる。幾数もの視線が突き刺さって居心地が悪い。……目の前にいるのがベガなのがせめてもの救いだ。

『絶頂オナニー観覧車へようこそ!』
「っ!?」

 突然上から聞こえてきた声に驚いて反射的に見上げると、小さなスピーカーが目に入った。一体何がくるんだと身構える僕を余所に、ノイズ混じりの声がつらつらと響いてくる。

『快適快楽なオナニーを楽しんでもらうために必ずボクの指示に従ってね!もし逆らったら周りにいる皆にマワしてもらうよ!観覧車だけにね!』
「はぁ!?」
『じゃあまず下半身裸になってね!』

 つまらないジョークの癖に内容は怖すぎる……!何なんだマワすって!?そんなの絶対ごめんだ……っ!

 恥ずかしくてたまらない気持ちを無理矢理抑え込んで、僕は一気にスラックスをずり下ろした。
下着も一緒に下ろしたから、萎えたペニスがぽろりとまろび出た。
 目線を戻すとベガと目が合って、無性に泣きたくなってしまう。

『次はおちんちんを勃起させてね!まだイっちゃ駄目だよ!』

 それでも、ここでやめるわけにはいかない。
 僕は周りを見ないようにしながら、萎えたままの性器に手を伸ばした。

 震えながらいつもと同じように扱いていくと、こんな状況だというのに簡単に芯を持ってしまった。泣きたい。

 次第に先走りが溢れてきて、手をしとどに濡らしていく。ぐちゅ♡ぷちゅ♡とゴンドラ内に響く水音が恥ずかしい。

「……っん、あ…………。ベガぁ……♡」

 ちら、と前を見ると、ベガは呆然としながらも欲を孕んだ目で僕を見つめていた。ズボンの前が少し膨らんでいるのは、間違いなく僕の所為だろう。
 それすら今の僕には興奮材料になってしまって、今まで以上にペニスを激しく扱いてしまう。

「ふあっ!……ん、っう、あぁ……っ♡」

 自身が完全に勃起したのを確認して、僕は息を荒げながらそっと手を離した。ここでイってしまったら全てがパァだ。

『綺麗に勃起できたね!それじゃあ最後、壁オナしてね!射精する時は壁に向かってしないと問答無用で罰を与えるよ!』
「かっ……、かべ……?」

 そんなこと、やったことがない。というか壁といってもあるのは透明のガラスだから……向こうからは更に見えてしまうということで……。

 今まで以上に、顔が熱くなるのが分かった。

「…………っふ……♡」

 仕方ない。
 仕方ないんだ。
 脅されて、仕方なくやっているんだ。

 何度も何度も自分に言い聞かせながら、僕は勃起した性器をぴとりとガラスの壁に押し当てた。ペニスが熱を持っている分、ひんやりとしていて気持ちいい。
 そのまま腰を揺らめかせながらぐにぐに押し付けると、痛いような気持ちいいような不思議な快感が背筋を突き抜けた。

「ひぁっ♡ん、ああっ、あ…………んぅっ!」

 ……ベガや、周りの奴等に、僕のはしたない姿を見られている。そう思うだけでぞくぞくとした何かが脳を痺れさせて、射精感が一気に高まっていった。

「あっ♡や……っ、きちゃ、イっ……ちゃ…………っ、ひあああぁっっ♡♡」

 痛いくらいに陰茎をぐりぐり押し付けて、僕は自分でも引くくらいの高い声をあげて精液を吐き出した。

 壁に飛び散った白濁も、一部始終を食い入るように見つめていたベガも、見ることが出来なくて。

 精液に濡れた竿を隠す気力もなく、僕はその場にへたり込むことしか出来なかった。
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