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悪役令嬢な王妃は、全てを受け止めるのです!

第57話 剣と盾、そして――

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 それから数日後―――。


 放火による大規模な火災で亡くなった特別老人院の合同葬儀が行われました。
 国民一人一人とまではいかずとも、一人ずつ花を献花台に置き、祈りを捧げ……すすり泣く声と共にリコネルに渡された献花の花は、プリザーブドフラワーでした。

 本来、葬儀の時には使われないプリザーブドフラワーが使われるのは、その花こそが国の象徴であり、リコネルの花と呼ばれているからです。
 静かに、そして木霊すようにすすり泣く声が響き渡る会場。
 一人、また一人と献花台を去る姿を、王家の者である私とリコネル、そしてクリスタルが見送り、最後にやってきたのは――。


「リコネル様……ジュリアス様……父は最後まで幸せだったと思います……」
「本当に、この様な大きな合同葬儀を有難うございます」
「………」


 涙を流し、三人寄り添うのは――リコネルの花屋で働く元孤児院の女性たち。
 あの放火で亡くなったのは、彼女たちを育て上げた孤児院の院長夫妻であり、院長である男性こそが――以前私と会話をした男性だったのです。
 妻の写真を最後まで抱きしめて亡くなっていたと言う院長の言葉を今も覚えて言います。


『最後まで、ベッドの上で死ねるのは……本当に幸せな事です』


 ……ええ、本当にそうですね。
 あのような事件がなければ……貴方は、血は繋がらなくとも、沢山の子供と孫たちに囲まれ、天に召されることが出来たでしょうね……。


「痛ましい事件でした……そして、私の罪でもあるのでしょうね」
「ジュリアス様?」
「あなた方のお父様を守れなかった私は、国王として失格でしょう……。ですが、こんな不出来な王でも、また国民である、あなた方を守らせていただけますか?」


 思いがけない言葉だったかもしれません。
 ですが三人は涙を拭い「無論です!」と口にして下さり、私は一筋の涙を零すと「ありがとう」と口にします。


 これから先、どんな事が起こるかは分かりません。
 私を狙う誰かによる犯行で、今後も国民が被害を受けないとは言い切れないのです。
 そして――それは、リコネルや、我が子にも及ぶことも……無いとは言い切れないのです。



 強くならねば。
 国を守るためだけではなく、国民を守るだけではなく、家族を守るために。

 クリスタルに頼るだけではいけない。
 国自体が強くならねば、それは、何かの弾みで他国との戦争にも発展することも、今後考えていかねばならない事。

 民を守るためには、国が強くならねばならない。
 その為に出来ることを、兵士や自警団だけではなく、別の【力】をも、必要になることを考えなくてはならない。


 ――その時は、もうそこまで来ているのかもしれませんね。






 ……それから数年が経ち、私とリコネルの間には、あの忌まわしい事件から程なくして次代となる王子が産まれました。
 私に似た顔立ちに、性格はどちらかというと二人の間を取ったような性格をしております。


「シャルティエ王太子! お待ちください!!」
「ジッとなどしておられません! 何せ今日は―――!」


 今日は、王国で初めて【冒険者】を受け入れる施設が出来上がり、各国にいた冒険者達がこの国で活動するための冒険者登録をしにやってきておりました。
 血気盛んな彼らへの期待も不安も大きいですが、近隣のモンスターを魔物討伐隊が倒すだけでは足りない時もあるため、彼らに国として依頼することも出てくるでしょう。

 そして、この国でも【冒険者】になりたい若者は多く、その為、わが国では禁止していた【ジョブ適正診断】を解禁しました。
 多少のお金を払えば、自分に合う職業を知ることが出来る程度のものではありましたが、そのジョブ適正を行うのも本日だったのです。


 国王である私も例外なくジョブ適正を受けましたが、私のジョブは『聖騎士』と言うジョブでした。
 以前クリスタルの言っていた【剣と盾】を思い出し、思わず笑ってしまったのは許してほしい所ですね。


「リコネルは何でしたか?」
「……」
「リコネル?」
「可笑しいんですのよ? わたくし……聖剣って出ましたの。これってジョブですの?」
「聖剣……」
「母上凄い!!」
『だから言うたではないか。リコネルは剣、お主は盾じゃと』



 ――ここにきて納得させられました。
 なるほど、確かにこれほど相性のいい夫婦はいませんね。


「良かったですねリコネル」
「何がですの?」
「ジョブに、悪役令嬢と出なくて」


 クスクスと出会った頃を思い出し口にすると、シャルティエは「悪役令嬢?」と首をかしげましたが、リコネルはキョトンとした表情をしたのち、同じようにクスクスと笑い出しました。


「悪妻でもなくて良かったですわ」
「おやおや、貴女が悪妻になるはずがありません。愛しの妻ですからね」
「ふふっ きっとわたくしの持つ聖剣って……アイスピックの事ですわね」
「ブハッ」


 思わず大きく吹き出してしまいましたが、その様子を見てクリスタルは『アレが聖剣……』と苦笑いを浮かべておりました。


『アイスピックが聖剣ならば、盾はなにかのう?』
「そうですねぇ……」
「国民と家族……そして、疲れたわたくしを包み込む優しさですわ!」


 その言葉にリコネルを抱きしめ「本当に貴女には叶いません」とキスを落とします。


『シャルティエ、お主に弟か妹が生まれる日も近いかのう?』
「そうだといいですね!」


 素直に育ったシャルティエは私たちのもとへと駆け寄り抱き着いてくると、私がシャルティエを肩に乗せ、親子三人で城の窓から見える城下町を見つめます。


 子供を育てて分かるのです。
 子育てとは難しい。
 子供とは、基本的に親の言う事など聞きません。
 当り前です。一人の人間なのですから。
 けれど、手作りの優しさを褒めて伸ばして、時に叱って……それが出来なかった弟は、きっと悔やんでも悔やみきれぬほど辛い死を迎えたことでしょう。


『シャルティエ……か、ジュリアスはまだ、弟の事を忘れられぬのであろうな』


 クリスタルの言葉に、私は小さく頷き、今は亡き弟を思い出しました。
 本来、仲の良かった兄弟だった。
 何時も「兄上」と言って、後を追いかけてきていた弟であった。
 本当は、誰よりも、私よりも優しい弟であった――シャルティエ。

 その名を我が子につけたのは、私なりにケジメを付けたかったのかもしれません。


「さて、シャルティエはジョブは何でしたか?」
「私ですか? 私は――」



 続いた言葉に驚きながらも微笑みあい、この先の未来は、シャルティエの未来は明るいのだと悟り、私とリコネルは我が子に微笑みます。
 どうか、多くの冒険者が、そして冒険者からの転職を許可した【魔物討伐隊】が、この先この王国を更に強くしてくれることを祈って……。




 ……――その頃、城下町では。





「ちょっと! 大丈夫ですか!?」
「うぅ……っ」
「血だらけじゃないですか!! しっかり!!」


 リコネルの花屋の前で倒れた冒険者に駆け寄ったラシュアは、自分の服が血に染まることも厭わず彼を支え店の奥へと消えていき、彼に回復魔法を掛けた。
 そして別の所では――。



「ふはははは!! 素晴らしい……実に素晴らしい案が浮かんでくる……インスピレーションの涎祭りじゃああああ!!」
「うるせーぞババア!! 今度はどんなエロ本書くつもりだこの変態!!」
「黙りたまえ! 私は性癖に素直なのだ!! 実直と言って欲しいものだね!」
「……ものはいいようだなオイ」
「物書きだからね! ふははははは!!」


 そんな声が木霊す、リコネルの本屋のアトリエ。



 そこから、新たな物語が始まっていく―――。




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