上 下
56 / 57
悪役令嬢な王妃は、全てを受け止めるのです!

第56話 最期の時まで悪あがきを――

しおりを挟む
 屋敷の対策室にて入ってくる情報の整理をしていた時でした。
 護衛騎士の一人が部屋に入ってくるなり、犯人であるチャーリーとアルジェナを捕らえたと言う報告が来たのです。


「直ぐに向かいます」
「わたくしも行きますわ」
「ですが、身重の貴女に無理はさせられません」
「いいえ、わたくしも行きますわ」


 頑なに譲らないリコネルに私も折れ、無理をしないと言う約束を交わしてクリスタル輝く玄関へと向かいました。
 そこには床に顔面を抑えられながらも叫び声を上げるチャーリーと、両腕が爛れた状態で罪人の焼き印が押されたアルジェナの姿があり、リコネルも私も唇をきつく結ぶと、ゆっくりと二人のもとへと歩み寄りました。


「無様ですわね」


 リコネルの言葉に二人がこちらにやっと気づきました。


「リコネル……本物か!?」
「偽物でもいましたの?」
「いたとも!! 私を騙した……私を裏切ったクリスタルが!!」
『簡単に騙される方が悪いと言うものじゃ、ジュリアスならば我とリコネルの違いなど即見分けて語りかけるぞ? お主のリコネルへの愛情など、ジュリアスの足元にも及ばぬわ』
「―――っ!!」


 クリスタルはそう告げるとチャーリーの頭を足で踏みつけました。
 ですが、その姿はリコネルそのままで……一部の護衛騎士が「ゴクリ」と喉を鳴らしたのが聞こえ、咳払いをしました。


「それで、各所への放火は貴方たちの仕業ですか? 理由は何です」
「ハッ! 誰が化け物に話すか!」
「ではアルジェナ、あなたならご存じですね?」
「いだぃぃぃいいいい!! うでがぁぁぁあああ!!」
「話すのであれば、その腕を治す薬を出すことも考えましょう」


 涙を流し、鼻水と涎まみれのアルジェナにそう告げると、アルジェナは這い寄りながら私の許へと来ると額を床にこすりつけた状態で話し始めました。

 ――全てはチャーリーの所為だと。
 ――自分は止めようとしたけれど、チャーリーを止めることが出来なかったと。


「あだじは……チャーリーにだまされてだだけで……っ」
「嘘をつくなアルジェナ!! 貴様も率先して放火を楽しんでいたじゃないか!」
「うぞじゃないんですぅぅぅぅぅ!!」


 号泣しながら語るアルジェナに、クリスタルが溜息を吐くとツカツカと彼女に近寄り、髪をつかみ上げて後ろへと投げ捨てました。


「クリスタル!!」
『嘘をつくでない、我の目が騙されるとでも思ったか? 極刑は免れぬのじゃ、薬を出す必要もない』
「では、アルジェナの言葉は嘘だと言う事ですね」
「最初から最後まで嘘でご自分を包んで、そうやって死んでいくのですわね」
「リゴネルだすけてぇ……」


 蹲って泣き続けるアルジェナは、最早話が聞ける状態ではありませんでした。
 反対にチャーリーは……。


「私の王国だ! 私の勝手にして何が悪い! ジュリアスが全てを奪ったんだ! 私の! 全てを! クリスタルも何もかも!!」
「貴方の王国ではありません。そして、まるで貴方が必要としない施設を選んで放火したような口ぶりですね」
「だとしたら何だと言うのだ!」
「………」
「何とか言ってみろ!!」


 そう叫んだチャーリーに、私は静かに歩み寄ると、彼は興奮しすぎてなのか鼻血を出しながら私を睨みつけていました。


「……非常に残念ですよ、あなたのような人間がいることにね」
「なん……だと?」
「貴方は人として最低限の慈しみも、思いやりも、気遣いすらも出来ない人間なのですね。それは、王家の者としてという枠組み等と言う物の前に、人間として欠如しております。誰も貴方に教えなかったのですか? 慈しむことも、憐れむ事も……人を、愛すると言う事も」


 私の言葉にチャーリーは呆然とし、玄関にはアルジェナのうめき声とすすり泣く声だけが木霊しています。


「自分だけを愛し、他人を傷つけることしか知らない貴方が、あなたを育てた弟の責任ですね……」
「違う!! 父上は何時も訳の分からない事ばかりを」
「弟はね、貴方の御父上は……貴方に、人間になって欲しかったのですよ」
「……どういうことだ?」


 意味が解らないと言った様子のチャーリーに、私は一通の手紙を手渡しました。
 そこには、どうすればチャーリーが人として生きることが出来るだろうかと言う親の悩みが書かれてあったのです。


「弟は結婚も子供もいない私に、貴方の相談をしていたのです。人の痛みが分からない、常に自分を優先し、誰かが苦しんでいるとそれを見て笑い、慈しむ、憐れむ事をしないのだと、悩んでいたのです」
「……そんなことはない!! 父上が私を憐れむ必要などないのだ! 私は完璧な人間だ!」
「いいえ、欠陥品です」


 私の静かな言葉に鼻息荒くしていたチャーリーは周囲を見渡し、自分の今置かれている状況に冷静になりかけているようでした。


「人の痛みが分からない等……人の不幸を喜ぶなど、人としては欠陥品です」
「……」
「そんな人物が次期国王になれるはずがないでしょう。貴方ならばそういう国王のもとで安心して生活ができますか?」
「……違う」
「何が違うのです?」
「私は完璧だ! 母上は何時も私を完璧な人間だと褒めていた! 私を父とは違い完璧な人間だと!!」
「けれど、その母親も、不貞を働いていたわけですけどね。同じ女性として軽蔑致しますわ」
「―――っ!」


 リコネルの言葉にチャーリーは唇を噛みしめ、血が出ても気にもせず、目は血走り震え始めました。


「そもそも、貴方はわたくしを愛してなどないでしょう? 幼少の頃からそうですわ」
「違う!! 違うんだリコネル……あれは照れ隠しで」
「あら、照れ隠しで婚約者のいるわたくしの前で別の女性と手を繋いでいたり、多種多様の女性のお友達を作ってはわたくし無しでお茶会をしてましたの?」
「それは……」
「貴方も元王妃様の血を濃く受け継いでおられるようですわね。不貞を働くなんて病気ですわ。気持ちの悪い。ただでさえ気持ち悪いのに……今になって愛してるなんてどの口が言えるのかしら? 人としても欠陥品、王族の品位もない、まぁ王族ではないんですけど」


 リコネルの棘のある言葉がチャーリーの何かに触れたのでしょう。
 大きな声で叫び声を上げると暴れ始め、護衛騎士が数人がかりで押さえつけました。


「もうあなた方が生きていける場所はどこにもありませんわ。罪を償うにしても罪状が重すぎますもの。あなた方二人とも、死刑ですわよ。ただ火炙りの刑になるか、斬首刑になるのかは分かりませんけど」
「法の下では……火炙りでしょうね」
「致し方ありませんわ」
「違う! だってちゃんと私に教えなかった大人が悪いじゃないか! 私は被害者だ! 私は……私は――死にたくない! 死にたくないんだ!!」
「あら、沢山人を殺しておいてご自分は死にたくないなんて、都合がよすぎでしてよ? 同じように苦しんだ民以上の苦しみの中地獄に堕ちなさいませ」
「いやだぁぁあああああ!!」
「だすげてぇぇぇえ!!!!」


 彼らは叫び声を上げながら、外に用意された十字架の前に連れていかれました。
 犯人が捕まったらと用意していた、最も罪を犯した罪人にのみ使われる十字架に、彼らは両手足を釘で打ち込まれ、屋敷中に彼らの悲鳴が木霊します。


「明日の朝、刑を執行します。それまで今受けている痛みを、貴方が犯した罪を感じなさい」
「あぁああぁぁああああああ!!」
「絶対に許すものがぁあ!! 恨んでやる!! この国に災いをぉぉおおおお!!」
『災い等おきぬよ、我が守るのじゃからのう。ジュリアス、火は我がつけてやろう。中々死ねぬように火を操ってな。それくらいがこの阿呆どもには丁度良い』
「お願いします」






 こうして、翌日。
 城下町の広場の中心にて、火炙りの刑が執行されました。
 民は二人に怒り、火炙りになる前は石や棒を投げつけられていましたが、最早アルジェナは言葉もなく、死んでいるようにも見えました。
 そしてチャーリーは、最後の最後まで「この国に災いを!」と叫んでいましたが、大きな石が頭に当たり、その声は小さくなっていきました。


 そして――クリスタルから放たれた炎は二人を包み、身を焼かれ、焦がし、それでもなお死ぬことが出来ない苦しみを二日味わった後、原型を留めない程に燃え上がったのち、灰になって地面に落ちていきました。
 これでようやく……この王国に平和が戻った瞬間でもありました。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...