上 下
51 / 57
悪役令嬢な王妃は、全てを受け止めるのです!

第51話 わたくしは剣、そしてジュリアス様は盾ですわ

しおりを挟む
 焼け落ちた特別老人院に、リコネルの姿をしたクリスタルと共に出かけようとしたその時、騎士が走りこんできて、次は子供病棟が狙われたという知らせを受けました。
 警戒態勢を最大限まで上げての犯行……けれど、特別老人院程の被害はなく、直ぐに鎮火されたと言う話でした。
 ホッと胸を撫でおろしたものの、子供たちのショックは強いもので、泣き叫ぶ子供が多く存在していることが判明しました。


『子供院にはリコネルと共に向かうがいい、我ではリコネルのように子供たちを包み込むことは出来ぬ』
「申し訳ありません……」
『まだまだ続くじゃろう。ほれ、一人駆け込んできたぞ』


 冷静に勤めるクリスタルの言葉に顔をあげると、一人の兵士がリコネルの本屋が焼け落ちたと言う情報を口にしました。
 従業員は無事、そして有益な情報を持っていると言う情報すらも口にしたのです。


「ディロン様、ディラン様が犯人をとなる証拠を持っているのだとか! 是非お話をと思い、今馬車でこちらに向かっております」
「手口など分かるかもしれませんね」
『はは! 本屋を犠牲に、奴らの手口を探らせたのかもしれんな』
「まさか!」


 リコネルは身重の身、あまり無茶をしないようにさせているのですから、そこまで動いていたら流石に私も母子の健康が心配になってしまいます。
 とはいえ、特別老人院への訪問はディロンとディランの話を聞いてからと言う事になり、私とクリスタルは対策室にて待っていると、双子の彼らが一礼して入ってきました。


「お待たせいたしましたこと、申し訳ありません」
「いえいえ、有益な情報を持っているとのことで、待っていたのです」
「はい、ではこちらを見て頂ければと思います」


 そういうと、リコネル商会には欠かせないアイテムである、客の行動を監視できる魔道具が置かれました。
 そこから投影される姿には、夜、店の者が帰ってから窓を破り入ってくる男女の姿がしっかりと移っていたのです。
 そして、炎の魔石を三か所に入れると、発火の魔法を唱えて立ち去る二人……間違いなく、二人はアルジェナとチャーリーでした。


「決定的な証拠ですね、これから顔写真は作れますか?」
「作れます、燃え残った隣のアトリエに、最新の機械が導入されたばかりです」
「では、直ぐに印刷して各詰め所と自警団の元へお願いします。街の人にもわかりやすい場所に貼って頂けると助かります。放火の犯人ですので、捕まえた者には賞金500万ギルが送られる事も書いておいてください。王都を巻き込んで犯人を捕まえるのです」
「はい!!」
「所で、本屋の警備を薄くしていたようですが、指示を出したのは……」
「「リコネル様です」」


 その言葉に、私は深い溜息を吐き、クリスタルは『じゃろうな』とクスクスと笑い声をあげました。


『ジッとしているはずがないからのう……肉を切って骨を断つ、まさにリコネルのやり方じゃ』
「褒めてません。とにかく、リコネルには再度、無理をしないようにと言わなくては」
「ご安心ください、金額の高い本はアトリエに避難させていたので、本屋にあった本は中身の書かれていない表紙だけの本です」
「いえ、そういう問題でもなく」
「ですが、作家が頑張って書いている小説にすら火をつける。作家が目の下にクマを作って前で頑張って描いている絵に放火する……我々リコネル商会本屋部門では、許されない行為……必ずこの魔道具を使い、犯人を捕まえて見せましょう」
「本屋を狙わせることに関して反対意見もでましたが、リコネル様からの指示書通りに動けば必ず食いつくと書いてあったので……流石リコネル様ですね!」


 ――そういう問題じゃない。
 そう叫びたかったですが、頭を抱え「そうですね、確かにそうです」と返事を返すのがやっとでした。

 その後、ディロンとディランはアトリエにある最新式の機械で、顔がハッキリと移っている場所を印刷し、詰め所、騎士団、兵士、そして、城下町の至る所に写真を張り付けていったのです。


 此れでも動けるものなら動いてみろ。
 その時こそは……国の法に従い罰を与えましょう。
 積み重なる罪を重ね、普通の死刑では終わることはないでしょう。




 馬車に揺られ、特別老人院へと向かう最中、人々の声はチラホラと聞こえてきます。
 ――王都を脅かす男女は一体何者なのか。
 ――国王夫妻はこの二人に何かしたのか。
 ――国王夫妻は精力的に国民の為に働いているのに、どうしてこんな非道なことが。
 私もそう思います。
 私もリコネルも国民の為に身を粉にして働いてきました。
 リコネルの懐妊すら、まだ国民に伝えることが出来ないほどに今は混乱の危機の中にあります。
 そして――自分の商会の警備を一番低くして狙わせ、証拠を集めたリコネルの機転の速さには、そして潔さには感服してしまいました。


「私はまだまだダメですね……守るばかりで、リコネルのような思い切った行動が出来ない」
『阿呆、国王が思い切った行動をするより、王妃が思い切った行動をした方が国は良く回るのじゃ。リコネルに感謝しながらも、お主は守りに徹せよ。リコネルは剣、そして、ジュリアス、お主は盾なのじゃ』


 そう語るクリスタルに、私は小さくため息を吐き、出来れば剣の方が良かったと思いながらも、特別老人院へと到着したのでした。
 そして、仮設で立ち並ぶテントの多さ、そして――外に、白い布を顔につけ、白いシーツで体を巻いて横たわる遺体の多さにも……言葉が詰まりました。


 なんの罪もない彼らが、哀れで、可哀そうで、自分が不甲斐なくて……それでも、リコネルがお守りだと言って手渡してくれたハンカチを握りしめ前を向くと、涙を乱暴に拭い真っすぐと特別老人院対策室へと向かったのでした――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

【完結】悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?

冬月光輝
恋愛
 私ことアレクトロン皇国の公爵令嬢、グレイス=アルティメシアは婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に呼び出され、平民の中で【聖女】と呼ばれているクラリスという女性との「真実の愛」について長々と聞かされた挙句、婚約破棄を迫られました。  この国では有責側から婚約破棄することが出来ないと理性的に話をしましたが、頭がお花畑の皇太子は激高し、私を悪女扱いして制裁を加えると宣い、あげく暴力を奮ってきたのです。  この瞬間、私は決意しました。必ずや強い女になり、この男にどちらが制裁を受ける側なのか教えようということを――。  一人娘の私は今まで自由に生きたいという感情を殺して家のために、良い縁談を得る為にひたすら努力をして生きていました。  それが無駄に終わった今日からは自分の為に戦いましょう。どちらかが灰になるまで――。  しかし、頭の悪い皇太子はともかく誰からも愛され、都合の良い展開に持っていく、まるで【物語のヒロイン】のような体質をもったクラリスは思った以上の強敵だったのです。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...