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悪役令嬢な王妃は、全てを受け止めるのです!

第47話 名も無き幼子に、わたくし達からの愛を――

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 園への放火。
 この事件は、国民の不安を大きくさせました。
 一体誰が、何の為に……。
 園は国王夫妻が力を入れている施設の一つであることも踏まえ、国王夫妻へ対する反逆行為だと怒る国民も多く、犯人捜しは本格的に始まりました。


 園の視察に向かった際、半分が焼け落ちた園を見てリコネルもショックを受けたようですが、それ以上に子供たちの学び舎を失ってしまったことへの落ち込みは凄まじいものがありました。

 それでも、前を向いて気丈に振る舞うリコネルは、直ぐに仮設の園を用意することを伝え、同じ敷地内にて、運動場に仕方なく仮設の園を建てることを決め、燃えてしまった園の修復作業にも直ぐに取り掛かるよう指示を出しました。


「園と言えば、弱い立場である母子家庭や父子家庭、また、共働きの家族が子供を安心して預けられるべき施設です。そこを攻撃するとは……放火した犯人はそこを狙っての犯行なのでしょうね」
「なんて酷いことを……」
「そして、国王夫妻への反逆罪とも取れます。犯人は捕まれば処刑が妥当でしょう」


 私も少なからず怒っていたようで、私の様子を見た騎士たちは震えあがっていました。
 エリオから注意されなくては、自分が圧を出していることに気が付かなかったほどです。
 しかし、問題が二つも浮上してしまいましたね……。


 リコネル商会に訪れた可笑しな客の事も調べなくてはなりませんし、こちらは追々探すことになりそうですね……まずは園に放火した犯人を捕まえることを優先せねば。


 しかし、暗がりの、誰もが寝ている時間での犯行。
 目撃者はおらず、犯人捜しは思ったように進みませんでした。
 悪意ある行為に、眉間にしわが寄ってしまいますが、リコネルもショックからなかなか立ち直れずにいたようです。
 そんな折、一つの情報が、思いがけない所から入ってきました。
 それは――王都にある教会からの一報でした。


「教会から……ですの?」
「ええ、書状が届いておりますので一緒に読みましょう」


 その書状を開けると、中にはアルジェナがその教会にて保護されていることが書かれていました。
 子供は孤児院に置き去りにしてきたと言い、教会にはアルジェナのみ……。
 そんなアルジェナは、自分がリコネルの知り合いだと横暴な態度をとっているらしく、事実確認の為の書類でした。
 親となる資格も無く、自分をリコネルの知り合いだと言って横暴な態度で過ごすアルジェナ。
 そんなアルジェナがある日、煙臭い臭いを付けて夜中に帰ってきたことがあったと書いてあったのです。


 この事に、リコネルは頭を抱えてため息を吐き、直ぐに子供が無事に保護されているのか孤児院へ確認を入れると、確かに数日前に、孤児院の門の前に子供が置き去りにされていたことが判明しました。
 衰弱していたものの、今は快方に向かっているそうです。


「煙臭い臭いをしていただけでは、信憑性が高いとは言えませんわね……ちゃんとした証拠がなくては」
「そうですね……まだ犯人とは決めることは出来ないでしょう」
「頭の痛い問題ですわ……」
「取り合えず、この教会に赴き、事実確認を取る方がいいでしょう。何より貴女の知り合いだと言うのは事実ですが、それを盾に横暴な態度をとることは夫であり、王である私が許せない」
「ジュリアス様……」


 こうして、その日のうちに教会と孤児院へ赴き、子供の様子とアルジェナの様子を聞きに行くことにしました。
 他に仕事があっても、リコネルを冒涜するような行為を繰り返すアルジェナには、大きな処罰が必要でしょう。

 孤児院に到着すると、園長が出迎えてくださり、アルジェナが置き去りにした子供の様子を見せてもらいました。
 ミルクを貰えてなかったのかやせ細り、肌の状態も悪い……女の子なのに、跡が残るような傷跡もいくつも見受けられます……。


「酷い……」
「呼吸は安定していますね、栄養は足りているのでしょう」
「ええ、ですが体の傷を治す治癒の魔石が足りず、少なからず将来跡が残るようなものがいくつかあります。使っても薄く残ってしまうでしょう」


 そう語る園長に、私は近くに待機していたサリラー執事に「直ぐに治癒の魔石を用意するように」と伝えると、園長は驚いていました。
 治癒の魔石は高価で、この幼い子供を治すにはそれなりの数が必要になることでしょう。
 ですが、罪なき幼子に、将来悲しむようなことがあってはならないと思ったのです。


「親の愛を受けずにここまで頑張ってきたのです……せめて、傷が残らない程度への私からの愛情があっても罰は当たらないでしょう?」
「ええ、この子の将来の励みになりますわ」
「国王夫妻の愛は必ずこの子の将来の宝となりましょう」

 深々と頭を下げる園長に私は頷き、隣で今にも涙を流しそうなリコネルの頭を撫でてから抱き寄せると「大丈夫ですよ」と囁きました。


 スヤスヤと眠る幼子の頬を撫でると、小さいながらも声をあげて身動きを取りました。
 力いっぱい動けるようになるには、まだまだ時間がかかりそうですが、昼頃には城から治癒の魔石が届くはずです。
 そうすれば、痛みが残る体も癒され、元気に動くことも出来るようになるでしょう。
 憎きアルジェナの娘であっても、命に差別はしない。
 親に捨てられたのであれば、私たちが少なからず愛情を届けてあげればいいのです。


「それで、この子の名前はなんと?」
「それが……母親であるアルジェナはこの子に名前を付けていなかったようで、出生届も出ていないようなのです」
「なんと……」
「そのような事ありますの?」
「残念ですが……少なからずある事案です。名も無く、出生届も出ていないので、保護をしてからまだ出していないのです」
「生まれた日にちも分かりませんしね……」
「ですので、恐れ多い事ですが、国王夫妻にこの子の名を付けて頂ければ……」


 そう言って深々と頭を下げる園長に、リコネルと顔を見合わせ名づけに困りました。
 将来きっとかわいらしい娘に成長するであろうこの子にピッタリの名前となると……。


「ミューゼなんてどうかしら?」
「ミューゼですか?」
「ええ、親の名前を取るのが習わしですけれど、この子にはあのような親の名を取ることは出来ませんわ。それにこの子の顔を見ていたら、その名が浮かんで」
「リコネル王妃様につけて頂いた名前でしたら、この子にとって何にも勝る名となりましょう。有難うございます」


 こうして、保護されたアルジェナの娘の名は、ミューゼと名づけらえました。
 出生届には、私たち国王夫婦が彼女に名を付けた今日が誕生日として登録されるそうです。
 この先、ミューゼの未来が明るいものになることを信じて……私たちは孤児院を後にし、気合を入れなおすとアルジェナのいると言う教会へと馬車を走らせました。
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