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悪役令嬢は愛妻なんです!

第17話 新しい事業を進めるのには色々準備が必要ですの

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急ぎ屋敷に到着すると、部屋と言う部屋を開けて中をチェックしました。
クリスタルが移動すれば、国民全員に伝わるとは聞いていますが不安だったのです。
どの部屋にもクリスタルが無い事を確認すると、やっとホッと息を吐くことが出来ました。


「どうかなさいましたの?」
「いえ、少々確認したいことが出来て急いで……ね」
「そうでしたの。ナサリーにお茶の用意を頼みますわね」
「ありがとうございます」


そう言うと、部屋に戻り、私とリコネルは紅茶を飲みながらホッと一息つくことが出来ました。
その中で思うのは、やはり避難民の事。
私達夫婦を化け物夫婦と呼んだ事は、今になっては少し腹が立ちますが、それ以上にリコネルの毅然とした態度のおかげで、彼らを甘えさせる事はしなかった。


「リコネルには感謝せねばなりませんね」
「見積もりとしては一週間の間に必要な書類を提出させることですわね。まだまだ問題は山積みですわ」
「そうですね……」
「それに、厳しい事を言いましたけれど、避難民の方々を批判するわけではありません事もお解りになって」


少し悲しそうに微笑むリコネルに、優しく頭を撫でるとホッと息を吐けたようです。


「ザッと見た感じ、まともな教育を受けている人間は殆どいなかったと思いますの」
「そうなのですか?」
「見た目が麗しければ学業は疎かでよい……という風潮が生まれていて、文字の読み書きが出来ない大人もそれなりにいるのです」


第二妃の起こした弊害がそんなところにまで……それを正せなかった自分にも非を感じつつも、リコネルの言葉を聞きました。


「そんな中でも、レゴラスはそれなりに教育を受けていた様子。それでもあの様子ですものね……悲しいことですけれど、自分の身に起きた不幸を他人の所為にして逃げたい気持ちは解りますわ。けれど、それでは前には進めませんものね」
「そうですね……その為の準備時間を差し上げたのですから、一週間後、書類を見て今後を決めましょう。ソレまでに私達もやるべき仕事が山積みですし、リコネルは商会の方も忙しいでしょう?」


そう言うとリコネルは「確かにその通りですわ」と苦笑いをした。
商会は軌道に乗り、絵本の売り上げもかなり上がっているという報告を受けています。
また、文字の読み書き用にと『文字の練習帳』『絵日記帳』なる商品も出すと、これまたそちらもヒットしたらしく、絵日記帳は特に、文字を覚えたての子供が新商品のクレヨンと一緒に日々の日記を書いて親に見せるという習慣が、少しずつこの領地に広がり始めました。


「仕事に忙しい親たちも、一生懸命書いた絵日記を見ないと言う事は無いでしょう」
「ええ、その他にも商会ではなく領地でやりたい事が幾つかありますもの」
「御聞きしても?」


その言葉にリコネルはまず、幼い子供達を預かる『園』と言う施設を作りたいのだと仰います。


「共働き世代が多いこの領地ですもの、幼い子供を抱えている家では、片方の親が子供を見ながら生活しなくてはなりませんわよね? そうなると必然的に収入が安定しなくなっていく」
「そうですね」
「かといって、子供が熱を出せば親は仕事をしていてもお迎えに行き、子供の世話をしなくてはなりませんわ。そうなると……仕事場では穴ができてしまいますわね」
「ええ……それで傾くような店は早々ないとは思いますが、子育てをしている女性の再就職とは難しいのが現状です」
「そこなのです、問題は!」


突然大きくなった声に驚いていると、リコネルは頬を膨らませて「そこなのですのよね」と再度口にした。


「穴の開いた仕事を何とか埋める方法は難しいですわ。けれど、短時間で人員を回していくという方法を取れば、わたくしの考えている案もなんとかなりそうですの。問題は妊娠、出産で仕事を離れたら、次の仕事を探すのが大変ですわよね?」
「……そうですね」
「なので、【休職】という形を取れれば、仕事に戻りやすいと思うんですけれど、それを領全体に浸透させるにはまず、商会で広げていくしか方法がなさそうで……」
「ふむ……確かに領全体となると、大規模な改革が必要になりますし、まずは試験運用も必要ですね」
「そもそも、男性も育児休暇を取って育児を手伝うべきですわ。そのモデルケースを商会で作るための新しい事業及び、詳しい内容を考えてますけれど、少し手詰まりで」


そう言って溜息を吐くリコネルに、私も確かにそんな夢のようなプランが出来ればどれだけ領が活性化するだろうかと考えてしまいました。
出生率は上がり、領民も増える、税収も上がる。
それだけでなく、領民が文字を覚え、数字を覚えることで最低限の教育も施される。
就職先が広がるのですから良い事尽くめですが、領で政策を無理やり進めるだけでは、やはり無理があります。


「モデルケースは作れそうですか?」
「幾つかジュリアス様に領を上げて作ってもらうべき事もありますけれど」
「園と言うものですね、具体的に何歳から何歳までの子供を預かろうとしているのです?」
「幅広く、とりあえず事情があれば0歳から6歳までの子供をと考えてますわ」
「なるほど」


この領では6歳を過ぎてから親の手伝い、店の手伝いをする子供が多いのも調べ済みなのでしょう。その為にその年代の子供達に前もって文字の読み書き、数字を教えようというのはわかります。


「けれど、まずは商会を挙げて幾つかの本屋以外の事業を立ち上げるべきですわよね。本屋と別の事業を軸に、モデルケースを作っていけば広がっていきそうですもの」
「その新しい事業と言うのは、もう決まっているのですか?」
「目処は立ててますわ」
「御聞きしても?」


そう質問すると、リコネルは一枚の書類を私に手渡して下さいました。
中に書いてあるのは、生花を魔法で永遠に保つというプリザーフラワーと王都では呼ばれている花を作る工房及び、それらを使ったアレンジの販売……それらは貴族向けだと書かれていました。

確かに、この世界では少なくとも魔力、魔法を使える者がいるのは確かです。
大きな魔法を使える人材は王都の学園にいったり、護衛騎士や一部は兵士にもなり、治安維持に努めています。

ですが、一般人の中にも魔法が使えるものはいますが、そう言う彼らは領で小さい頃に魔法の使い方を少しだけ覚えるだけで、実際使って仕事をする……というのは殆どありません。
プリザーフラワーを作るのは、安定した魔力があれば作れるといわれています。
ですが……。


「安定した魔力をずっと使うのは難しいことですよ?」
「解ってますわ。ですから本屋の近くに花屋を作り、互いに連携させた事業をしながらその中で魔力の安定を練習させようと考えてますの。ちゃんとしたプリザーフラワーが出来た場合は出来高払いも考えてますわ。まぁ、小さい花屋からのスタートですけれどね」
「小さい花屋からのスタートですか?」


リコネルにしては珍しい発案です。
それだけ、モデルケースを作る事は難しいことなのだと実感しました。


「それに伴い、領地で園芸店を営む場所との提携を考えておりますの。そこから花を下ろして貰わないとそもそもの事業が成り立ちませんわ」
「そうですね」
「まぁ、園芸店を商会で買い取ってしまえば簡単なのですけれど、そこは提案してみてから考えますわ」
「まずリコネルはプリザーフラワーを商売にしながら、モデルケースを進めていこうという事なのですね」
「そうなりますわね。貴族や裕福な家庭は家に毎日花を飾るのが多いですし、市民も花を買うことが多いでしょう? そこで、先日父の日や母の日と言った子供が相手に何かを残すといったプレゼントついでに……大人も父の日母の日敬老の日で花を贈ると言うのも広めていこうというのもあったりしますわね」
「逞しい考えですね」


思わず苦笑いが出てしまいましたが、リコネルはニッコリ笑って「商売ですし、記念日は誰にとっても大事だと思いたいですわね」と口にした。


「まずは、近い内に、園芸店の店主を屋敷に呼び、諸々の提案をしてみようとおもいますわ」
「動きが早いですね」
「商売とは早さが命ですもの! まず一つ、といった感じですわ」


そう言って笑うリコネルに私も微笑み、いつかこの屋敷でもプリザーフラワーを使った花を飾れれば最高だと思ってしまいました。


魔法の安定が寿命を決めるといわれているプリザーフラワー。
それが、思わぬ形で我が領の特産の一つになっていくのは……まだ先の話。
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