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103 闇夜に紛れての奇襲作戦、ならばうちの子達の力を見るがいい!!(上)

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 あらゆる意味で不安だけはどうしても残ったのは言うまでもなく、また鉄の国サカマル帝国は更に『女払いも出来ぬとは嘆かわしい!!』と言ってのけ、対する宝石の国ダイヤ王国は『女性を金や物のように扱うなど言語道断!!』と対抗――こうして戦争へとジワジワと突入して行くのである。

 そこでまず動いたのがロウさんだった。
 陛下に謁見し、自分こそが鉄の国サカマル帝国の帝王であることを家臣たちの前で初めて伝えたのだ。
 そして、これまでの経緯も話し、今鉄の国サカマル帝国は上層部や家臣たちが好き勝手している事、自分が毒を飲まされ余命幾ばくもない時に妹であるカヒを宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドへ向かわせて、レジェンドモンスターの主であるユリ殿に助けを求めた事、そして今鉄の国サカマル帝国にいる自分はタキの分身が擬態して自分の姿でいる事や、もう一匹のタキが情報収集をしてくれていることを話した。

 その上で、上層部が『ワイバーン部隊』で宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドを襲う計画をしている事、それが奇襲作戦であることを伝えると周囲は騒めいた。


「ワイバーン部隊だと!?」
「本来ならば、ワイバーン部隊は魔物がサカマル帝国に入らぬようにする為の部隊。だが、そのワイバーン部隊でダイヤ王国を襲撃し、略奪する物は略奪し、破壊する物は破壊しようとしている」
「何という事だ」
「すまんのう……ワイバーン相手ではフェアリードラゴンのレジェンドモンスターであるワシでも不利じゃ。そこで、イワタに分裂を覚えて貰った」
「イワタ……?」
「タランチュラ盗賊団を殲滅したと言うレジェンドスライムのイワタじゃ。コヤツの力ならばワイバーンも容易かろう」
「ワイバーンが……容易い……だと!?」


 思わぬ言葉だったのだろう、私の足元で撥ねる岩田は嬉しそうにしている。


「しかし」
「こやつはな、金鉱山に巣くっておったドラゴンを串刺しにして殺しておる。信じられぬと言うのならそのドラゴンを出してやってもいいが?」
「それは……ハク殿、本当なのですか?」
「うむ、我の爪ですら中々通らぬドラゴンだったが、イワタは簡単に殺しおったわ」
「ボクガ イチバン ツヨイ♪」


 そうは言うが簡単には信じられないだろう。
 何せスライム。普通のスライムならば例えレジェンドであっても余り強さを感じない。
 だが、ありとあらゆる鉱石をその身に宿した岩田だからこそ強かったのだ。


「ユリ殿……」
「実際岩田は強いです。ありとあらゆる鉱石の武器を生成して相手を殺しますから」
「ありとあらゆる……」
「ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン等の希少鉱石……ですかね」


 これには周囲の家臣や参加していた魔物討伐隊も騒めいた。


「恐らくスライムの見た目ですが、身体を守ろうとすれば身体をその石に変える事も可能かと」
「デキルヨー♪」
「「「「おおおおおおおおお」」」」
「後は製薬ギルドで魔物寄せを作って貰い我と岩田につけて置けば被害は甚大ではなくなるだろう。例え出ても最小限には抑えられるはずだ。我らは良い餌になりそうだと言う事だ。ちなみにイワタは分裂もある。最大4匹だが何とかなるだろう」
「そんな恐ろしいレジェンドが合計5匹に!?」
「イッピキハ ユリノコウジョウ ネラウトオモウカラ ソッチニイルケドネ♪」
「カクショ レンラクカカリハ ボクガスルヨ!」
「余り悲観することはない。ワシ等はこの国を庇護すると言うたのだから、守るのはしょうがなかろう。だが、今回は空からの奇襲じゃ。夜間に行われるじゃろうが、ある程度ハクが倒せたとしても束になってこられると難しい。被害は避けられんがイワタとハクに頼るしかないのもまた現状よ」
「その代わり、住民を城と教会、それとギルド内にて保護せよ。タキが結界を張るから攻撃は防げる」
「ありがたい……タキ殿、頼みましたぞ」
「イイヨー! ソトニアル ナンミンタチモ マモリタイカラ ソッチニモイッピキ イカセルネー」
「ありがとうタキちゃん」
「エッヘン!」


 そう言って褒められて嬉しいタキちゃんは小さい身体でプルンと胸らしきものを張ったようだが、その行動もまたこの緊急時には癒される。


「ワイバーン全てでなくとも、我らで対処は可能。そもそも戦争は名目であって本気ではない。そうであろうタキ」
「ウン アルジ ツカマエルノガ リユウダネ。 ツカマエラレナクトモ コロスコトガ デキレバ オンノジ ソウ オモッテルヨ」
「ユルセナイヨネ♪ イッパイ コロシチャオウ♪」
「少なくともワイバーン部隊が半分でも倒せれば奴らも和平を望むでしょう。ただ、それは帝王として許せる事ではない。その先は以前お教えしたように、サカマル帝国にいるタキ殿に城を破壊して貰う予定です」


 その言葉に陛下は沈黙し、周囲は騒めいた。
 それもそうだろう。自分の城を壊すと言っているのだから。
 だけど、それがいらぬ重鎮達を一気に潰す為の方法でもあった。


「我が毒で苦しんでいる間に重鎮達はやり過ぎた。最早許せぬ!!」
「分かった……サカマル帝国の帝王の言葉を信じよう」
「ありがとう御座います!」
「ユリ殿達はその間城で守ろう。狙ってくると言うのならそっちの方が安全だろうからな」
「お世話になります」


 ――こうして、奇襲作戦をした所で全て筒抜けになっている状態だとは全く気付いていないサカマル帝国の者達は、嬉々として準備を進めるのである。
 姿を消したタキちゃんがあちらこちらで話を聞き、情報を軍部に伝えて行き、その為の作戦などが此方でも作られて行く。
 岩田とハクはどっちが多く仕留められるか話し合っているし、お爺ちゃんは「役に立たんですまんのう」と言っていたので「傍にいてくれるだけで心強いわ」と抱きしめると嬉しそうにしてくれた。

 そして、明日奇襲作戦が行われる日と言う時に――ノシュマン王国から魔物討伐隊が派遣されてやってきた。
 これでまたワイバーンへの処理、処置が早くなると喜ばれ、そして翌朝――……住民たちの避難が始まった。
 城へと向かう者、ギルド方面に行く者、城の隣にあるテリサバース教会へと逃げる者、列をなして民は続き、夕方前には炊き出しも行われ不安な夜が始まる事になる。

 私は陛下とロウさん、カヒさん、そして私の家族たちと一緒に謁見の間にて待機し、タキちゃんからの情報を待つ。
 ダイヤ王国は初夏の国ゆえに日が落ちるのも遅い。
 時計はそろそろ夜23時を回ろうとしていた。


「ユリ」
「ミモザさんどうしたの?」
「一応お守りと思って作って来たんだ」
「【身代わりの雫】ね、ありがとう。全員分あるの?」
「ああ、此処にいる皆の分は作ってある。先ほど陛下たちにも渡してきた」
「少し安心出来るわね……ありがとう!」
「タキの結界を壊せるような魔物は早々居ないと思うけどね!」
「いや、ブラックドラゴンがいたら厄介じゃぞ?」
「そうなの?」
「ブラックドラゴンはとても硬い。結界を突き破る等出来るくらいにはな」
「「うわ……」」
「一応予備としてあった方がよかろう」
「イッパイ ケッカイ ハッテモ ブラックドラゴンハ ツキヤブッテクルカモ」
「来ない事を祈りたいわね」
「使役するのも大変じゃと言うし、レアスキル持ちでないと無理な話じゃ。そうそうおらんだろうよ」
「それもそうね」


 そう会話をしているとタキちゃんがピクリと動き、それに合わせて岩田も動いた。


「キシュウアリ!! キシュウアリ!!」
「「「「!?」」」」
「ケッカイノ ハツドウヲ オコナイマス!」


 そうタキちゃんが叫ぶと魔法陣が現れ、数か所に結界が張られたようだ。
 城と隣にあるテリサバース教会全体を包む結界。
 ギルドが立ち並ぶ辺りの結界。
 難民キャンプへの結界。
 工場地区への結界が一斉に成された。
 それでも物が、建物が壊れる音は木霊している。
 最初破壊させて油断させようと言うのが此方の狙いだ。


「コレヨリ ハンゲキヲカイシスル!!」


 そう口にしたのは岩田だった。
 ここからはうちの子達の出番だ。
 悪夢を見るがいいわ!!!

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