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84 ギルドマスターによる話し合い。

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 ――ギルドマスターside――


「やぁ、今日は大勢の御集まりで嬉しいよ」
「緊急会議なんて久しぶりだねぇ。なんぞあったかい?」
「ああ、鉄の国サカマル帝国の魔物討伐がレジェンド様たちの言いつけを守らずほとんどが死んだだろう? その責任はレジェンド様にある、そしてユリ様にあると言った上に、鉄の国サカマル帝国はユリ様とレジェンド様を国に寄こせと言っているらしい」
「「「「ほう」」」」
「これは本人から聞いた話なので信憑性は何よりも高いよ」


 そう語る俺に我が国のギルマス達は殺気だった。
 そして、本日より参加しているノシュマン王国のギルドマスターたちも困惑しながら「鉄の国サカマル帝国は何を考えているのだ!?」と騒めいている。


「それでか。緊急だと言ったのに鉄の国サカマル帝国のギルマス達が居なかったのは」
「そうだね、敵国のギルマスを呼ぶ必要はない」
「敵国とは言ったもんだね!」
「しかし、我がノシュマン王国としてもガーネットの商品はとても輸入したい商品ばかりだ。もしかしたら次はガーネットそのものも寄こせと言いかねん」
「困った国です事」
「そこで、俺としてはダイヤ王国のギルマス達は腸煮えくり返っていると思うが、どうかね?」


 そう伝えるとダイヤ王国のギルマス達は手を上げて意志を表明した。
 彼等は流石に鉄の国サカマル帝国を許す気はないらしい。


「今後ダイヤ王国のギルドは鉄の国サカマル帝国に一切の素材やアイテムを送らない事を決定する」
「鉄の国と言う割には冒険者ギルドが頼んでいる鉄の半分も寄こさないのに金だけは一丁前に倍以上取りやがる。もう我慢の限界だ」
「以前の鉄の国サカマル帝国の製薬ギルドマスターの一件もあるというのに、問題は解決すらしていないのに次から次へと……腹立たしい!」
「ノシュマン王国のギルドはどうなさいます」


 そう俺が問いかけると、ノシュマン王国の冒険者ギルドも同じように「持ってくる素材が少ない上に値段を吹っかけられて溜まったもんじゃない!」と怒りを露わにしており、その他のギルドもご立腹のようだ。


「あそこの国と取引しても金がないからと言って女払いしようとしてくる。それに対して受け取れないと言えばツケ払いだと言われるのにドンドン要求は悪化する」
「我がノシュマン王国のギルドでも流石にこれ以上は許せぬ」
「大国だと言うがやっていることが野蛮人そのものだ」
「もう我慢ならん!」
「そちらもいい感じにあの帝国には怒りを露わにしておられる。そこで、全ての物流をストップさせようと思うんだが、皆はどうだろうか?」
「ああ、それはいいと思うぞ。ノシュマン王国との取引だけで充分だ」
「ノシュマン王国の鉄の方が鉱石の国なだけあって綺麗なものが入ってくるしな。大国は屑石が多すぎる」
「宝石の国であるダイヤ王国は付与アイテムの宝庫。是非今後はノシュマン王国とだけのやり取りを致しましょう。大国との取引は全てストップさせて貰います」


 そう、ダイヤ王国は宝石だけではなく付与アイテムの宝庫なのだ。
 付与師の殆どが自国にて細々と彫金したり付与したりと言う国もあるが、代々的にあらゆる付与師や彫金師が集まるのがダイヤ王国な為、他国よりも頭三つ分くらいは質のいい付与アイテムが揃う事で有名だ。


「そもそもあの大国から入ってくる製薬も質が悪い。うちではもう取引を辞めるよ」
「その癖倍の値段を吹っかけられますもんね」
「幾らスタンピード中と言え、余りにも酷い」
「ノシュマン王国でもですよ。我が国の製薬ギルドで働いている者達の方が素晴らしい製薬を作ってくれる」
「もう全面取引きなしで良いだろう」


 と、ノシュマン王国も大国と縁を切る事を決定した。
 これによりノシュマン王国の全てのギルド長と、ダイヤ王国のギルド長達は、鉄の国サカマル帝国との取引を全面停止処分としたのだ。
 これがどういう結果になるのかは、目に見えて分かっている訳だが――。


「ノシュマン王国とて、レジェンド様には借りが沢山ある。魔物討伐隊だけではなく冒険者にまで回復を行い、ガーネット店からは美味しい温かいスープを貰えるだけでどれだけ士気が上がると思う」
「そのレトルトと言うのも発案したのはユリ様だと言う」
「「「おおおおお」」」
「眼鏡もサングラスも補聴器もだな」
「その女性を寄こせと?」
「レジェンド様は確かに注意して止めたのに足を引っ張ったのは、かの国だぞ」
「それをレジェンド様とユリ様の責任にするなど言語道断!」


 こうなればかの国のギルド長たちは慌てるだろうし、国のトップにも掛け合うだろう。
 それでも上が動かない、やらないとなれば、国内が荒れる。
 今でも充分荒れているというのに、最早国が国として成さなくなるのは時間の問題だ。
 各ギルドがやり取りを辞めると言う事は、農産物も入ってこなくなると言う事だ。
 民は飢えるだろう。
 それでも上が何もしなければ国から民は逃げていく。
 そうなった時に、崩壊が起きるのだ。

 何も国王が動かなくとも、ギルドが動けばそれくらいの事は出来る。
 ギルドこそがもう一つの国の様な物なのだから。
 下はそうやって大国を揺さぶり崩壊へと持って行く。
 上は大国に揺さぶりかけることができる。
 かの国の船を入れさせなくさえすれば――後は煮るなり焼くなり好きなようにだ。

 武力で来るというのならそれもアリだろう。
 こちらにはタキ様の分身がいる。
 武力で言う事を聞かせようとしたその時はタキ様の分身をお一人ノシュマン王国に借りればいい。
 武力でも勝てないとなった際、かの国はどうなるだろうな。


「しかし、大国が武力で来た際にはレジェンド様達の怒りも頂点に達するだろうな」
「国が亡ぶだけだろう」
「一度作り変えた方が良い。あまりにも女性を軽視し過ぎるわ」
「大元から根本的改善が必要だね」
「時に、女払いされた女性は今どこに?」
「ユリ様が連れて帰って今は平和に暮らしているよ」
「それは良かった……」
「ユリ様もかなり大国に対してご立腹だった。そう遠くない未来にあの国が消えそうな気がするよ」
「そっちの方が良い気がするがね」
「全くだ」


 こうして緊急ギルド会議は終わり、二国のギルドの総意で「鉄の国サカマル帝国との取引は全て辞めて船も入れない」と言う結果に落ち着いた。
 入国拒否をギルドが決めたのだ。
 これを後は陛下に伝え、陛下がどう大国とやり合うかも楽しみだけれど、鉄の国サカマル帝国から難民が来た場合は、やってきた国の法に従って生活をして貰うのは言う間でもない。
 男尊女卑が他国で通用すると思わない事だ。


「と、言う事になったよ」
「そうですか。かの国も慌てるでしょうね」
「それで、生理痛を抑える付与アクセサリーの効果は?」


 そう、今日ガーネットに行った女性の内の一人はうちの副ギルドマスターだ。
 彼女は笑顔で「素晴らしいですね」と口にしていたのでホッとした。


「早く君を妻にしたいんだけどねぇ」
「私のような行き遅れを欲しがるのはレイルさんくらいですよ」
「だって、婚約破棄を3回もされたのは君の所為ではないだろう?」
「婚約者の浮気2回に彼女を孕ませが1回でしたね」
「ほら、君の所為じゃない。良い加減俺のモノにならないかい?」
「かの大国が大人しくなるか消えたら考えます」
「なら、本気を出さないとね」


 そう言って愛しい彼女を抱きしめつつ、気合を入れ直したのは言う迄もなかった。
 そして次の日にはギルドの総意として陛下に手紙を送り、それが更にかの国を追い詰める一つの札となるのは言うまでもない。

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