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30 商業ギルドのツケ払いと投資。

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 こうしてお父様だけ先に帰り、一時間後商業ギルドには合計100人の彫金師と付与師があつまり面接を行う事になった。
 すると――皆さん悪意察知も危険察知も感じなかった。
 正に、「仕事に困ってます!!」 と言う状態だったのだろう。
 その為、全員に傘下の方々にして貰った魔法契約をして貰い、ガーネットで雇う事になったのだ。
 ただ、お店がまだ改装中な為、働きだすのは大きな工場と言うか、そちらが出来てからとなる事も伝えると全員ホッとしていた。
 無論私もホッとした。悪意察知と危険察知が反応したらどうしようかと思っていたからだ。


「後は受付ですけど……」
「受け付けはベテランさんと若手さんが欲しいですね。早々来られないと思いますが一応金額を安く雇えるならですが」


 そう言ったのはセンジュ君で、レイルさんもそれには同意。
 面接をしてそちらの方々にも魔法契約をして貰う事になるけど、悪意と危険が無ければ受け入れますよと伝えると、直ぐに商業ギルドにいる二人を呼び出した。
 一人は50代の身奇麗な女性で、もう一人は私と年の変わらない若い女性だった。
 が、その若い女性が問題だった。凄く悪意と危険察知を感じる。
 笑顔なんだけど、ビンビン私に来る。


「この二人はどうかな?」
「若い方はなしで」
「そうかい?」
「笑顔でいらっしゃいますけど、悪意察知と危険察知が凄く反応してます」
「あ――……羨ましいんだろうね。君はなしだそうだ」
「あの、頑張りますからおいて貰えませんか?」
「無理ですよ。それだけ悪意と危険出しまくってたら命の危険すら感じますので遠慮します」


 私が徹底的に嫌だと伝えると、舌打ちしながら出て行った。
 これにはレイルさんも呆然としていたけれど、「君のスキルは本当に当たるね」と苦笑いしていて、その代わり30代の女性を連れて着てもらうと全く何も感じなかったので了承した。
 受付嬢は二名。二人は工場が出来次第受付で働いて貰う事になった。
 一通り何とかなった所で私達も家路に就き、ロザリオスさんがバタバタ内股で走ってくると「丁度良かった~~!」と私達の元へやって来た。


「お父様からお話は聞いていたんだけど、工場借りれる上に彫金師50人と付与師50人雇えたのね!」
「ええ、何か困ったことありました?」
「それが、王国騎士団からも銀鉱石で【体感温度が下がる付与】と【身体を若干冷やす冷風付与】のネックレスの依頼が来ちゃったの。80個程」
「「「うわぁ」」」
「それも一先ず80個ですって。騎士団って凄く人数多いからこの80個は第一部隊ね。多分第二部隊、第三部隊も来ると思うわ。それと魔法騎士団からも依頼が来ていて、同じものを銀で50個注文来てるわ。それと王妃様からの御呼出しで、ユリちゃんを王城へとの連絡よ。馬車をこの際買った方が良いわね……。王妃様への謁見は、アイテムを納品する時でいいそうよ。帰りに寄って欲しいんですって」
「馬車……ですか? しかも王妃様の御呼出し……」
「ユリちゃん稼ぎ頭だから恰好の餌食よ?」
「それは、急いでユリ用の馬車を購入して、更に工場が出来上がらないとですね」
「そうなのよ……一か月じゃ無理だから二か月納期下さいって送ったら了承して貰えたけれど、『庶民なら仕方ないな』っですって! 貴族が多い部隊とは言え腹立つわ!」
「その分見返してやればいいんですよ。そのうちね?」


 そうセンジュ君が伝えると、ロザリオスさんは「それもそうね」とニヤリと笑い、「精々最後に回して涼しい顔をしている皆さんから笑われると良いわ」と依頼を最後に回すことにしたらしい。


「そもそも魔物討伐隊が頑張っているから私たちの国の周辺は魔物に襲われる心配が少ないのに、そっちを優先すべきよね!」
「そうですね!」


 そう先に声を上げたのはエンジュさん、どうやら王国騎士団とは何かしらあったようだ。


「魔法騎士団は兎も角として、王国騎士団は最後に回しましょう」
「ええ、次期オーナーがそういうのならそれでいいと思うわ」
「兄上……」
「色々あったのね……」
「あいつ等プライド高いからな。へし折るにはいい機会だろう」


 ボソッと口にした低い呟きに、私とセンジュ君は震えあがった。
 こうして暫くは今のスタイルで一週間過ごしつつ、皆さんにアイテムつくりを頑張って貰いながら各傘下の人たちに作業場所の引っ越し案内を出し、エンジュさんの要望で頑丈な馬車を一つ購入し馬も一頭購入した。馬車を操縦する方は一人雇う事が出来た。
 大きな倉庫付きの【ガーネット二号店】は一週間経つ前日に全て出来上がったらしくレイルさんが待っていると連絡があり、私とエンジュさんとセンジュ君は真新しい馬車に乗り、新しい【ガーネット二号店】を見に向かった。
 すると、真ん中の建物でレイルさんが手を振って待っており、案内されながら見て回ると、古い建物から真新しい見た目に代わり、三つある作業場のうち、真ん中が本社らしく、一階には作業スペースと受付があり、奥には扉で閉められた鉱石や宝石を入れる巨大倉庫があった。


「これ、後ろに巨大倉庫付きの作業場だったんですね」
「これはいいですね。姉上は大変でしょうが鉱石や宝石類が沢山入れられます」
「ツケ払いで工場には暑さを飛ばす魔道具を置かせて貰っているよ。快適に過ごせるね!」
「余程溜まってたツケがあったんですね……」
「そりゃもう!! 商業ギルドの首が回らない程のツケがね!!」
「「わぁ」」
「ありがたく頂きますね?」
「こちらこそ本当に支払えずすまない。魔道具は心ばかりの御礼だから受け取って欲しい」
「頂きます」


 と、三つの建物すべてに魔道具が置かれているらしく、連絡用魔道具も置かれていて、移動しなくとも連絡しやすくなっているそうだ。
 作業机も椅子も沢山あるし明かりも申し分ない。
 出来上がったアイテムを入れる箱やアクセサリー箱も十分数が揃っていて、今回のように山のような依頼が来ても捌ける程の箱が多めに揃っていた。
 これらの箱は商業ギルドで販売しているらしく、商業ギルドに連絡があれば直ぐ持って来て貰えるらしい。無論料金は掛かるが。


「本社は基本的に君たちが使う場所になるね。隣二つは傘下の彫金師や付与師たちだろうし、水筒は作りにくいと聞いているから、本社の一階はシンジュさんが教えながら水筒を作るスペースになりそうだね」
「そうですね、二階の応接室は商談室にもなるので、そこで商談をしつつ……来るのか不明ですが」
「ははは! 来ると思うよ? まぁ基本的に魔道具でお伺いを立てる人が多いかな? あとは希望通りキッチンに冷蔵庫もシッカリ完備したからね。あとは書類関係の仕事場と、開発部が使う机と椅子と、休憩室だね」
「ありがたいです」
「明日から全員こっちに来るのかな?」
「そうなりますね」
「楽しみだねぇ……頑張って稼いでくれ! それとガーネット二号店には盗難防止の魔道具をこれもツケ払いで用意してある。貴族の屋敷が使うタイプだから強いよ。三人の血が必要だけど今登録するかい?」
「「「します」」」


 こうして盗難防止の魔道具に血を少し垂らして開けたり閉じたりできる上に店自体穴をあけて入れない強いバリアを張れる魔道具を貰い、出入り口に装着すると、これでお店自体が安全になった。


「これ、後二つ欲しいですね」
「そういうと思って、後二つ持って来てるよ」
「こちらはお父様とも契約して使おうと思います。思い出の詰まった一号店が何かされるのは嫌ですし」
「そうだね。火事なんかにも対応してる奴だからね」
「高い物を態々すみません……」
「エンジュ君、これは投資だよ」
「投資ですか?」
「そう、君たちガーネットへの投資。君たちはもっと儲けを出すよ」


 そう言って微笑んだレイルさんに、二人が私を見ると「ん?」と首を傾げたが、二人は「「間違いなくそうですね」」と答えていたので何事かと思いつつも、二人がそういうのなら儲かるのだろうと理解した。


「明日からのスタート、頑張ってね!」
「「「はい!」」」


 こうして馬車に乗り込み私たちは【ガーネット二号店】を後にし、【ガーネット一号店】に戻ってくるとお父様に話をして血を垂らし4人でしか使えない盗難予防の魔道具を入り口にセットし、私とエンジュさんで購入した家にもつけた。


「これで【ガーネット一号店】も無事ですね! 火事にすら対応してるそうです」
「凄いな……。そして【ガーネット二号店】にもついてる訳だな?」
「「「はい」」」
「明日から本格的な始動だ。準備を怠らず頑張ろう」
「「「はい!!」」」


 こうして今日は早めに仕事を切り上げ、来ていた皆さんには明日から【ガーネット二号店】で仕事を行う事を告げると「頑張ります!」との事だったのでホッとした。
 そして翌日、私たちは早めの起床と早めのご飯を食べると馬車で【ガーネット二号店】へと入り、朝から三つの工場で鉱石と宝石を出しまくって用意を急いだのは言うまでもない。

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