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17 やる気に満ちたエンジュさんを応援しつつ、聞き込み作業と宝石細工スキル上げに勤しむ

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「ユリ」
「はい?」
「俺は、君を一生大切にすると誓う」
「ええ、大切にして下さいね?」


 そう言って笑顔で返すと、エンジュさんはこの上なく幸せそうに胸を張って前を見つめていた。――それからのエンジュさんはとても覇気を感じる。
 覇気と言う言い方もアレだけど、今までは何となくそう生きて来た……っていうオーラから、生命力溢れるような、そんな感じに。
 エネルギッシュ! と言う言葉がとても似合う様になった。


「兄上なんだか王子様が来てから生き生きとしてるというか」
「そうですね、彫金の腕もまた一つ上がってお父様と同じ8ですよ?」
「倒れないか心配ですが、こう……魔物を倒した後って感じのオーラですよね」
「ある意味倒したと言えば倒しましたが」


 私も含めてノヴァ第二王子を。
 それで自信がついてくれたならそれはそれでアリでは? と思う私もいる訳で、王子ありがとう御座います……と、内心手を合わせて感謝した。
 そして、相変わらず『体感温度が下がる付与』のついたアクセサリーの注文は殺到しており、【一日10個が限度】と縛りを付けた為、貴族の間でもプレミアム感が出ているらしい。
 その売り方を進めたのは私だけれど、レアだから欲しいと言うのは貴族にとっては何よりの需要ではないだろうか。
 何より夜会だのお茶会とかで話題には上るだろうし、持っていればそれだけで鼻が高い。
 そう言う売り方もあると言う話をした時は驚かれたけど、実際その方法をとって身体に負担が掛からないようにするのも大事なのだ。

 何より、ジュエリーは奥が深い。
 その為、他のジュエリー関係の本も【お取り寄せ】して手渡し、勉強する時間だって大事だ。
 髪留めから指輪からネックレスからイヤリング、ブレスレット等多岐にわたるアクセサリーはとても大事だし、付与アイテムは何も貴族だけが買う物ではない。
 冒険者だって買うのだ。

 お金を持っている冒険者だって付与アイテムは欲しい。
 毒無効とか、麻痺無効とか、そっちでも稼ぎたい為、ダリルシェイドの冒険者ギルドマスターのドナンさんに少し『冒険者が一番欲しがる付与って何ですか?』と言う聞き込みもした。
 その結果、『作るのは難しいが、【命の花びら】は欲しがる人が多い』と言う情報を得た。
【命の花びら】と言うのは、もし即死攻撃を受けても、そのアクセサリーについている花びらが落ちて死を防ぐと言うとても彫金でも難しく、付与も難しいアイテムらしい。
 高位冒険者になればなるほど、そう言うのは持っていて当たり前になって行く為、何時も品切れのアイテムなんだとか。

 その話をエンジュさんとセンジュ君にすると「聞き込みって大事なんですね」と驚かれたが、「聞き込みや調査って地味だけど大事なんですよ」と伝えたものの「その手の伝手が無いと聞けないですよ……」と苦笑いされた。
 確かに一般人にとって冒険者ギルドは敷居が高いのは否めない。
 私も絡まれる事は度々あるものの、お爺ちゃんとタキちゃんのお陰で最近では私が通るだけで道が出来る。
 とってもありがたい事だ!


「で、あの話を聞いてから午後は花びらの練習ですか」
「そうなんですよ。色々薔薇とかユリとかも試しているみたいで」
「だって凄く難しいんでしょ?」
「なんか兄上凄く真剣でして……」
「もしかして……魔物討伐隊でも使っていたのかしら」


 ふと思い出すのは、エンジュさんが元は魔物討伐隊だったこと。
 それで苦い経験は沢山したのではないだろうか。
 そのアイテムがあれば、助かった命もあったと思っているんじゃないだろうか。
 もしそうだとしたら、今はそっとしておくべきだろう。
 でも花のお手伝いはしたいかな?
 そう思い【お取り寄せ】で【花図鑑】を購入すると、黙々と彫金で花を作っているエンジュさんの隣に置いた。


「ん……これは」
「それ、【命の花びら】の練習ですよね?」
「あ、ああ。そうだが?」
「花は色々あるので、調べてみると良いですよ。薔薇も素敵だけど、花びらが多い花は他にもありますから」
「すまない。俺はどうも花には疎くて困っていたんだ」
「そう思いました。是非使って下さい。でも『体感温度が下がる付与』のついたアクセサリーの製作はお忘れなく」
「ははは! ああ、そこは抜かりなくな!」
「ふふ、最近のエンジュさんは生き生きしていて素敵です! 惚れ直します!」
「そ、そうか?」
「はい! 頑張ってくださいね?」
「ありがとう、ユリ」


 ニッコリ笑って邪魔をしない。
 出来る範囲の応援はする。
 職人している人ってそう言うタイプが多いと思うし、私もそっちのタイプだ。
 故にアレコレ邪魔はしない。

 センジュ君と微笑み合い、二人コツコツと【宝石細工スキル】上げに勤しむ。
 カッティングと呼ばれるこの作業は、宝石に取って何よりも大事だと思う。
 カッティングだけで光の入り方が変わるし、美しい宝石はソレだけで価値が高い。
 私の今の宝石細工スキルは4まで上がった。
 後一つ上がれば私も店に出せるカッティング技術が手に入るという訳だ。
 ただ、レベルが上がれば上がる程上がりにくいと言うのは言うまでもない為、中々に厳しい道のりだし地味だけれど、出来上がった品は満足とまではいかなくても、今の持てる技術が詰まった宝石。


「そう言えば、付与アクセサリーって女性が付けている人が多いイメージだけど、男性も付けてるのかしら?」
「ええ、付けている方は多いですよ」
「どんなの付けるのかしら? 加齢臭防止とか?」
「それは……聞いたことが無いですね」
「頭皮の問題とか?」
「それはとてもナイーブな内容かと」
「では例えば?」
「髭を薄くしたいと言う方は偶にいますし、後は深酒しても二日酔いにならない付与とか」
「男性ならではだね」
「そう言えば姉上はお酒に強いですか? 弱いですか?」
「女友達としか飲んだことないけど、私深酒すると脱ぎ魔になるらしく」
「「え!?」」


 反応が早いな!!
 今エンジュさんも反応しなかったか!?


「なので深酒はしないようにしてますね」
「それは……流石にそうでしょうね」
「いや、俺の前でだけなら……」
「兄上」
「エンジュさん……」
「すまん、聞かなかったことに、」
「してやらんぞい!! このムッツリめ!!」
「ムッツリムッツリー」


 と、今まで黙っていたお爺ちゃんとタキが反応!!
 耳まで真っ赤にしたエンジュさんが可愛いというか、萌える。


「そうですね、何時か二人でお部屋で飲みましょうか」
「良いのか!?」
「ええ、何時か、そのうち、どこかのタイミングで、それは明日かも知れないし、5年後かも知れない……」
「哲学的ですね」
「そういう約束は切ない」
「ふふ、集中しましょうね?」
「俺も男なので……すまんっ! 不甲斐ない!!」


 そう言って必死に集中したけれど、一度集中力が欠けると駄目だったようで、失敗作に溜息を出していたエンジュさんがいた。
 すると、私の隣に座り失敗作を延々と操作し始め、銀の糸を作り上げると、棒に丸めてアイテム入れに仕舞いこんだ。


「銀の糸って何かに使うんですか?」
「ああ、銀細工の模様とかに」
「凄く細かったですが」
「俺もあそこまでようやく到達したって感じだな。二人は何処まで進んだ?」
「俺は【宝石細工レベル5】に先ほどなりました」
「羨ましい! そしておめでとう!! 私はまだ4レベルだわ」
「それでも姉上は上がりやすいですね」
「ん――。でも目指すなら【ラウンドブリリアントカット】欲しくないです?」
「「欲しい」」
「アレは凄い! 宝石が宝石じゃないんだ!」
「まるで妖精か精霊ですよね!!」
「目指したい、生きている間にその域に」
「分かります……っ」


 熱く拳を作って絞り出す声。
 その様子にエンジュさんは笑顔で私とセンジュ君の頭を撫でて「頑張ろうな」と言ってくれたのも嬉しかった。
 うーん、大きな手……凄く気持ちがいい。
 撫でられ続けるとこの手は危ない。きっと寝落ちさせる手だ。
 安心感が違う手って、本当希少だわ~。


「ふふ、エンジュさんと一緒に寝たら、直ぐ寝落ちしそうね」
「それは困る……」
「兄上、そこは微笑むだけでいいんですよ」
「む、すまん」
「男性は色々大変ですね?」
「そうだな!!」
「そうですね!!」


 こうして私の棘のある言葉に顔を真っ赤にして答えた二人に笑顔で返事を返し、その夜はオムライスを作って美味しく食べて、諸々明日に備えて寝たのだけれど――。



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