上 下
20 / 29

20 最高位太陽神と仲間たちに愛される駄肉女神と初めてのキス。

しおりを挟む
――エルグランドside――


フィフィが半年の眠りについた話は、あっという間に神々に知れ渡った。
どこから情報を得ているのかは定かではないが、あらゆる神々が訪れたようだ。
俺はフィフィの傍から離れられない為、それらはタイリスに頼んでいたのだが――。

時折、暴風吹き荒れ神が飛んでいく姿も目撃した。
何か無礼なことでも言ったのだろう。
そんな中、フィフィの神脈詰まりは確かに治り、後は治療に専念しているのだが――今日は思わぬ客がやってきた。


「お前の妻が倒れたそうだな」
「ファシス……」
「神脈詰まりに呪いとは……中々面白い状態じゃないか」


フィフィから離れられない俺に対し言いたい放題。
だが、それも後ろから追いかけてきたタイリアが対応してくれることになった。


「エルグランド様は愛しい唯一を治すことに専念していると申しましたが。ここまでやってきてまで邪魔をしてフィフィ様を殺したいと仰るのでしたらアタシが相手になりますよ?」
「風の女神程度が俺に歯向かう気か?」
「フィフィの命が掛かってるならね」
「面白い女だ。俺を前にしても臆さぬとは見上げた根性よ」
「タイリス、無茶をするな。放っておけ」
「いいえ、フィフィはアタシと古い友人でもあるんだ。友人を害そうとするのなら命を懸けるまで!」
「友人……か」
「そうだよ、今も昔も未来も、フィフィはアタシの友達だ。手出しはさせない」


タイリアの言葉にファシスは暫く黙り込み、ジッとタイリアを見つめると吹き出して笑い始めた。


「そうかそうか、お前にとってもあの下っ端は大事な友人か」
「何が言いたいのさ」
「いや失礼。俺には縁のない事でスッカリ忘れていた。エルグランドの唯一は随分と愛されているようだ。最下位の下っ端女神でありながらも、此処まで神を引き付けるのも珍しい。エルグランドの妻でなければ俺が欲した位だ」
「馬鹿も休み休み言え。フィフィは誰にも渡さない」
「だが、俺も唯一を決めてもいいかもしれないな。そう、この俺を叱り飛ばすくらいの気概のある女性……タイリア、君は得難い女性のようだ」
「お断りするよ! 人の話も聞かないような相手の妻になるなんて気持ち悪い」
「それもそうか。マイナスからのスタートだがそれも良いだろう。エルグランド、またタイリアに会いに来る」


そう言うと文句を言うタイリアを無視して颯爽と歩いて帰った。
アイツは何がしたかったのだ?


「クソ! 暴風で吹き飛ばせばよかった!!」
「まぁまぁ……好みのタイプでないのならお断りすべき事ですし」
「だな!」
「それで、お前に仕事を任せているがどんな感じだ?」
「釣書に釣書に釣書。全部燃やしてるけど構わないよね?」
「全て燃やしてくれ」
「失礼な事を言う神々は吹き飛ばしてるけどそれもいいね?」
「ドンドン吹き飛ばせ」
「了解、じゃあ持ち場に戻るよ。フィフィは安定しているかい?」
「ええ、今のところは安定しているわ」
「そっか……神々で言う半年ってあっという間なのに、フィフィがいないと寂しいね」
「そうね……」
「んじゃ行ってくるよ」


そう言って嵐のように去って行ったタイリアを見送り、俺とエリナはフィフィの治療に専念した。
詰まりは全て焼き去り、後は残った小さな詰まりも流している所だ。
フィリフィア様によって柔らかくなっていたお陰で随分と治療しやすかったが、全てを無くすにはやはり半年はかかる。
またあの新緑の瞳が俺を見つめてくれるだろうか……。
フィフィの身体に翳した手をそっと彼女の頬にあてると、しっかりと呼吸しているのが伝わる。
豊穣の女神フィリフィア様も時折様子を見に来るが、ホッと安堵している所を見ると治療は出来ているのだろう。

数日おきにやってくるフィリフィア様が言うには、フィフィは最後の子供だったのだという。
豊穣の女神にしては気が強く、目が離せない子供だったらしい。
何ともフィフィらしいと言えばそうだが、周囲の女神――特に姉たちからは疎まれていた。
豊穣の女神のトップであるフィリフィア様から産まれたのに下っ端で生まれたことも災いしたのだろう。
それでもフィリフィア様はフィフィを守ろうとはした様だ。
だが、守り切れず姉たちに絶縁状を叩き付け神殿を後にした。

それからは、豊穣の女神フィリフィア様の娘と悟られぬよう生き、あのボロ小屋で毒と知らず毒を飲みながら子供達の世話に明け暮れていた。
豊穣の女神らしく、子供達への愛は深かった。
他の豊穣の女神たちが上を目指す中、フィフィは一人残り続けた。

フィフィにとって、この成長は何よりの幸せだったのだろう。

その中に、俺の成長も含まれている。


俺は成長したぞフィフィ。
君を妻に迎えたくて死に物狂いで修業した。
あの日、フィフィが庇わなかったら、きっと神々の子を殺していただろう。
尊敬と感謝、恋を飛び越え愛になった。
俺はあの日から――君を唯一と定めて生きてきた。
他の女神など気にも留めず、ただ君を攫いたいと――。


それから一カ月が過ぎ、二カ月が過ぎ……三カ月が過ぎる頃には、詰りは一つも見当たらなくなった。
後は自然治癒に任せ、彼女が目を覚ますのを待つだけとなったがもどかしかった。
たまった仕事も片付けながら、いつフィフィが目を覚ますか指折り数えながら待ち続け、その半年の間に色々な事があった数日後――。


「う――ん」


君は寝返りを打ちつつ……目を覚ました。
最初にその瞳に映るのは、俺であって欲しい。
そう思い隣で眠っていた。
彼女の瞳がゆっくりと開き、俺を見つめる。


「おはようフィフィ、気分はどうだ?」
「……エルグランド様!?」
「半年は長かったぞ?」


耐えきれない。
もう無理だった。
布団に入ったまま、裸のままフィフィを抱きしめると彼女が慌てたのが分かったが、もう待ちきれなかった。
生きてることも、神格が上がっている事にも喜びを感じたが、フィフィに抱き着いても彼女を燃やすことが無かった自分にも安堵した。


「離れてください!! 燃やされます!」
「もう燃やさない……安心していいんだフィフィ」
「安心できませんよ!!」


俺の唯一、俺のフィフィ。
太陽神の執着は凄いんだ。
これからその身に焼き付ける程分からせてやろう。


「お帰り……フィフィ」
「……ただいま戻りました」


その言葉を聞いた瞬間――俺はフィフィの唇を奪っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。 衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得! だけど……? ※過去作の改稿・完全版です。 内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。

皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。 だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。 そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

加奈子の受難 堕ちてゆく人妻がなぜかすべてを手に入れ全部丸く納まっちゃうまで

take
恋愛
タイトルの通りです。やむを得ず夫以外の男に身を委ねた人妻が快楽も経済も子供も地位も、そして愛もすべて手に入れる、そういう話です。 ムーンライトノベルズさんに掲載してたものを投稿します。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

処理中です...