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第四章 これからも世紀末覇者で心乙女な君と一緒に!

第66話 マイケルの意外な事実と、好きな人

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 ――マイケルside――


「全く、あの兄妹には振り回されたが……中々刺激的で楽しかったな」
「ギルマスたちの事は良いですから~!もう少し企画計画書の納期の時間を多めに取ってくださいよぅ」
「錬金ギルドではそろそろ販売用の納期がギリギリです。増員を求めますわ」
「彫金師も新たに雇用を考えています。現在の人数ではギリギリですので」
「付与師も増やしてください。マリリン様とカズマ様だけの付与だけで現在限界です」
「はいはい。増員と納期ね」


 実質、レディー・マッスルに一番貢献しているのは俺でもあった。
 各所への連絡や困ったことが無いか、全てはギルドがスムーズに動くための人員であり、いわば中間管理職。
 渡される紙を読み進めて各箇所の問題点を洗っていくのが仕事だ。


「全部のアイテムにSランクの敵が落とすアイテムが入ってるのはどういう事だ?」
「今一番人気の商品です」
「AランクとBランクが主ですが、どうしてもSランクは入ってきてしまいますね」
「現在マリリンさんとジャックさんがお忙しいようですし、暫く値上げして調整しますか?」
「是非そうしてくれ、俺一人じゃ回らないな。一応ミセス・マッチョスに声を掛けておいてくれ」
「畏まりました」
「それと、マリリンとカズマ様に送る書類を全員このボックスに入れておいてくれ。後で魔法転移させて確認を行う。マリリンに送る依頼書はピンク、カズマ様は青だ。間違えるなよ」


 こういう細かな指示も忘れない。
 俺は元々、ジャックが貴族として立ち振る舞う際の執事として育てられてきた。
 だが、ジャックが家を飛び出すついでに自分もついてきた為、執事としてのスキルを活かしつつ二人を支えてきたのだ。


「それよりマイケル様こそ好きな女性いらっしゃらなんですか?」
「心に決めた御方とか」
「飯が美味い女性が良いな。一人気になってる人が居る」
「「「「おおおおお」」」」
「ギルドも賑やかになりますねぇ」
「俺の春は当分先だ。納期の方が早く来るぞ。気を引き締めろ」


 そう言うと各箇所の面子は急いで席を立ち持ち場へと戻るが、まだ早朝の7時だ。
 朝飯でも食いに行くかとマイケルは席を立ち、レディー・マッスルの経営する飲食店へと向かった。
 平民に人気の高いこの店は朝から既に大賑わいで、仕事に行く前の独身男性が沢山集まっている。
 その中に俺もいるのだが、何時もの席に座ると決まった朝食を頼む。


「野菜スープとサラダ、後は肉を挟んだパンをくれ」
「かしこまりました~!」


 今日も元気よく働くその女性目当てでもある。
 彼女は未亡人のファナ。一般市民だ。
 夫とは別居婚だったそうだが、結婚して一か月もせずに夫が酒におぼれて死亡。
 未亡人のまま生活をする羽目になった不幸な女性だ。
 しかし……彼女の作る飯は美味い。
 年齢的には26歳と、普通に考えれば行き遅れとも言われる年齢だが、彼女は全く気にしていなかった。

 一度酒を飲みに誘って話を聞いたことがあるが、『男なんてもうウンザリ』と言って、当時自分には脈が無かった事をマイケルは知っている。
 それでも毎日通ってしまうのは、胃袋を掴まれたと言う事だろう。
 出された温かな食事を楽しみ、周囲の声に耳を澄ませると、この国が良い方向へと進んでいるのが良く解る。
 庶民の会話は国の幸福度を測るには丁度いい。
 確かにまだ不満は聞こえるが、大きな問題ではなさそうだ。


「食べながらお仕事中ですか?」
「まぁな」


 水差しを持ってやってきたファナに声を掛けると、持ってきていた新聞のチェックを始める。
 この時間こそが俺の至福の時間でもあった。
 大きな災害も無い、ムギーラ王国は安定して国を回しているのが良く解る。
 どこかの国できな臭い話がでれば、小麦などの値段が上がるが、そう言う兆しも見当たらない。
 仮に戦争になった場合、冒険者は国からの依頼で準ずる事もあるが、負け戦なら断ることが出来る。
 マリリン達とギルドを立ち上げたばかりの時は、準ずることもあったが、今では大手ギルドだし、カズマもいることから準ずることは無いだろう。


「……この国は平和だな」
「私も今から朝食ですがご一緒して良いですか?」
「ああ、構わないよ」


 そう言うと、ファナは俺と共に朝食を頂く。
 二人は付き合っている訳ではない。
 だが、こうして当たり前のように、二人で食事を共にすることが多かった。
 公認の仲ともいえる二人だが、敢えてそれを言いふらすことはしない。
 ファナに関しては身に危険が迫った際には俺の名を出すことがあるが、「それは女性が身を守る事として大切な事だろう」と容認している。


「今日の野菜スープは絶品だったな」
「あら、私が作ったんですよ」
「やっぱりそうか。味付けも塩加減も良くて幾らでも入りそうだったぞ」
「まぁ! お褒め頂き光栄です」
「そろそろ暑い時期がやってくるからな、厨房に少し香辛料を多めに降ろすように伝えておく。後はカズマ様がカレーを食べたいらしい。マリリンとカズマ様が帰宅したら料理を頼めるか?」
「お任せくださいませ」
「農地や野菜関連で困ったことは?」
「やせた土地が幾つかあり、そこで育つ野菜か果物を探していると言う話を聞きました」
「了解だ」


 業務的な会話だが、これも改革には必要な事だ。
 と、言うのもカズマからの受け売りだが、カズマは異世界の野菜の種を、場合によっては持ってきてくれる。
 痩せた土地に適した野菜は育ちが良く、病気にも強い。
 ムギーラ王国の人々が飢えずに済むのは、そう言う細々とした配慮もあるのだろう。


「それで、そちらでは変わった話は御座いませんか?」
「ああ、ジャックが貴族に戻って嫁さんを近々貰うらしい」
「まぁ! おめでたい事ですね!」
「おかげで周囲からマイケル様はどうなんですか? って言葉が耳に痛いよ」
「まぁ! ふふふふ」
「いっそ、飯の美味い未亡人さんが嫁に来てくれるといいんだがな。仕事に張りが出る」
「そうですね、マリリン様にお子様がお生まれになりましたから考えましょうか?」


 思わぬ言葉で水を吹き出しそうになったが、ファナはニコニコしながら言葉を続けた。


「離乳食作りには自信があります。暫く孤児院で働いてましたから」
「そいつは助かるな。なら、早い雇用が求められるな」
「ええ、子供の成長は早いですので、出来れば早めに貰って頂けると嬉しいです」
「綺麗なウエディングドレスを用意して直ぐにでも結婚しよう」
「ふふふ」


 穏やかな朝食の時間、とびっきりの場所でのプロポーズでもなく、まるで普通の日常会話のように繰り広げられたプロポーズ。
 だが、二人にはそれが丁度良いのだろう。
 ファナは食事を終えると俺の分の食器を片し、仕事へと戻っていった。
 そして俺も新聞を片手にギルドへと戻る。
 マリリンとジャックが諸々終わって帰ってきたら報告することが出来た。
 自分たちが結婚するのは最後だろう。
 それでいい、それがいい。


「さて、ギルドの近くに大きな屋敷でも買うか」


 マリリンとカズマが子育てを平和に出来るように。
 そして、ファナがそこで働けるように。
 そうなると雇用問題が更に解決するだろう。
 やる事は山積みだ。
 だが、それがいい。
 俺は青い空を見上げて大きく深呼吸してからギルドへと戻っていった。
 それから数年後――。

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