上 下
45 / 66
第三章 結婚して新たな人生のスタートには波乱がつきもので!?

第46話 『ミセス・マッチョス』の出す本で信者が増える

しおりを挟む
 渋々僕とマリリンが向かうと、馬車から颯爽と降りてきたのは伯爵ではなく、ダメリシアだった。手には分厚い本をいくつか持っているが、ご令嬢とはいえ筋肉質だなとつい思ってしまう。


「嗚呼……お二人とも。愚かなるわたくしを許してくださいませ!!」
「「へ?」」


 思わず僕とマリリンがそう口にすると、涙を流しながら柵越しに本を見せてきた。
 その本は――『ミセス・マッチョス』が書いた僕とマリリンの二次創作小説。
 最近本を出版したと連絡を聞いていたが、まさか……ダメリシアが本を読んでいるとは思っていなかった。


「あなた方が如何に尊く、それでいて燃えるような恋愛をし、そしてあらゆる困難を超えて結婚したのか知りましたわ……。たかだか冒険者……そう思っていたわたくしが恥ずかしい!!
 この聖書にはこうかいてありましたの!! 『カズマの国は規律厳しく、妻は一生に一度だけ、愛した女性にのみ己を捧げるのだ』と……。お父様に聞いたら、今カズマ様のお言葉を聞いてダリュシアーン様は一夫一妻制を王家に課そうとしていると。
 それは正に、カズマ様がマリリン様を一途に愛し、人生を捧げた事と同義!」
「え――っと」


 ダメリシアは涙を流しながら本を抱きしめ「なんてわたくしは浅ましい事を考えていたのかしら!!」と叫んだ。
 すると――。


「そうだな! カズマは一夫一妻制と言う規律の厳しい国で生まれ育った! 浮気をすれば仕事を失い、子供以外と妻以外の女性を愛そうとすれば、親兄弟から針の筵にあい、友人たちはいなくなる……。そんな全てを受け入れ、カズマは我を生涯唯一の妻にしたのだ!! その一途な愛はとても重い。受け入れる側とて並大抵のことでは無いのだ!!」
「そうですわよね! 嗚呼、分かりますわ……本当に、どう謝罪すればいいか分からず。そして今までの自分の行い全てを悔いてますわ。わたくしは本当に、本当にダリュシアーン様の足枷な事しかしていなかったのだと勉強しましたの、そして反省も致しましたの!」
「そうか! 実に素晴らしい事だ!!」
「真実の愛を前に、わたくしはなんて愚か者だったのでしょう! この聖書を今後もあらゆる地方、あらゆる大陸に広める事を使命とし、わたくしは結婚を諦めましたわ!!」


 れ、令嬢が結婚を諦める!?
 それは並大抵のことではない筈だが、悪評が広まってしまった以上、結婚が難しいのかも知れない。
 それならば、仕事に打ち込んだ方がまだ……と言う奴だろうか?


「わたくし、『ミセス・マッチョス』の方々と提携して各所に本屋を作ることにしましたの。印刷も致しますわ。そこでこの聖書を並べるのです。そして世界の人々に、如何に英雄とその夫が深い愛、オリハルコンでも切れぬ赤い糸で結ばれているのか、そして死をも恐れぬカズマ様の一途な愛を伝えねばと思ったのです!!」
「な、なるほど!」
「馬車だけ送り付けていた理由を聞いてもいいかね?」
「普通に連絡を取っていては、NOを突き付けられるだけだと理解してましたの。それで、何時なんどきでも連絡が来てもいい様に、無人の馬車を毎日通わせましたわ」
「嫌がらせかと思ってたけど……本来の目的はこっちの本だったんだね」
「その通りですわ!!」


 そう語るダメリシアに僕が大きく溜息を吐いて「納得したよ……」と口にすると、彼女は嬉しそうに微笑み、馬車からダメージョ伯爵が出てきて深々と頭を下げた。
 そして、最初こそダメリシアが自分とマリリンを恨んでいた事を聞いたが、「敵を知る為には敵の情報が欲しいですわ」と『ミセス・マッチョス』達が出した二次創作を読んで人生が一変したらしく、反対に感謝された。

 今ダメージョ伯爵家は彼女達と連絡を密に取り合い、次なる本の制作などを話し合っているのだとか。
 正に敵を知ろうとしたらハマった、沼った、という奴だと理解した。


「娘の曇った眼を、そして腐っていた心さえも聖女のようにしてしまう……。あなた方の愛とは本当に素晴らしいですな! 一人の親として、大変感謝しております」
「いえ、そんな。僕は心の底から彼女を、妻を愛し敬っているだけです」
「嗚呼、本当にその心根が素晴らしい。一夫一妻制を重んじるカズマ様でなければ、我が娘をと思いましたが……とても無理な話なのは理解しております。実にマリリン様は良き夫、よき旦那様と巡り合いましたね」
「うむ! 我の夫は素晴らしい! どこを切り取っても、どこを捻り取っても我への愛が詰まっている!!」
「はははは! 物理的に切り取られて捻じり取られそうですな!」


 本当にやり兼ねないので勘弁願いたい。
 とは言え、本気でキレたマリリンならするだろうが、何時もの調子のマリリンならそんな非道な事はしないと理解している。
 だからこそ、怒らせられない妻でもあるのだが。


「娘は布教と言う道を選びました……。どうか、今後我がダメージョ伯爵家とも、仲良くしていただけたらと……」
「ふむ、確かに布教してくれる相手がいると、彼女たちも書き甲斐があるだろう! ダメリシア次第だが」
「よろしくお願いしますわ!!」
「心得た!!」


 と、勝手に進めていくマリリン……。
 その勢いが素敵で無敵で好きだ……。
 そして、尻ぬぐいが必要な時は僕が頑張ろう。

 ――こうして、ダリュシアーンの元婚約者で問題児であったダメリシアは『ミセス・マッチョス』の書いた僕とマリリンの小説で目が覚め……たのか、洗脳されたのかは不明だが、いい方向に進んだようだ。
 これからも幸多からん事を祈りたい……茨の道でも。そう思った午後の事だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

異世界から来た皇太子をヒモとして飼うことになりました。

おのまとぺ
恋愛
ある日玄関の前に倒れていた白タイツコスプレ男を助けた森永メイは、そのまま流れで一緒に暮らすことになってしまう。ロイ・グーテンベルクと名乗る男は実は異世界から来た本物の王子で、その破天荒な行動は徐々にメイの生活を脅かしはじめーーーー 「この俺の周りをウロつくとは大層な度胸だな」 「殿下、それは回転寿司です」 ◆設定ゆるゆる逆転移ラブコメ(予定) ◆ヒーローにときめくようになったら疲れている証拠 ◆作者の息抜き用に書いてるので進展は遅いです 更新時間は変動します 7:20

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
鍵を手に入れる…………それは獲得候補者の使命である。 これは、自身の未来と世界の未来を知り、信じる道を進んでいく男の物語。 そして、これはあらゆる時の中で行われた、付喪人と呼ばれる“付喪神の能力を操り戦う者”達の戦いの記録の1つである……。 ★女神によって異世界?へ送られた主人公。 着いた先は異世界要素と現実世界要素の入り交じり、ついでに付喪神もいる世界であった!! この物語は彼が憑依することになった明山平死郎(あきやまへいしろう)がお贈りする。 個性豊かなバイト仲間や市民と共に送る、異世界?付喪人ライフ。 そして、さらに個性のある魔王軍との闘い。 今、付喪人のシリーズの第1弾が幕を開ける!!! なろうノベプラ

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...