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第二章 新天地、ムギーラ王国にて!!

第35話 カズマとマリリン、ナシュランと対峙する

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 ――翌朝。通いなれた王城へ向かい王太子の執務室へ呼ばれたので向かう。
 陛下は「ナシュランが気に入らなければいつでも言って欲しい」との事だったので、マリリンが笑顔で頷きつつ、僕は王太子の部屋へと向かった。


「ダリュシアーン様。カズマです」
「入ってくれ」
「失礼致します」


 こうして中に入ると、王太子としての仕事をしながら書類の確認に追われるダリュシアーンの姿が目に入る。
 陛下はダリュシアーンに仕事の半分を任せている様だ。


「おはようカズマにマリリン。今日は新しい農業に関する草案を出す予定だったね。直ぐに陛下の元へと向かうが、まずは紹介させて欲しい。一応現段階では右腕として働いて貰っているナシュランだ」
「初めましてナシュラン様」
「ミスリルの匂いがするなぁ?」


 マリリンの鼻が何かを察知。
 ミスリルの匂いがするという事は、短剣か何かを忍ばせているという事だろう。
 王太子と二人で仕事をしてるのに、ミスリルの短刀を持って仕事をするのは確か御法度の筈だ。


「自衛の為にミスリルの短刀は持っていますが」
「ダリュシアーン様が許可を出しているのなら構いません」
「そうだね……。一応注意はしたんだけど自衛の為だと言ってきかなかったんだ」
「はぁ……。その為に見張りの兵士が増えたんですね」
「そうなるね」


 ダリュシアーンの部屋に見張りの兵士が二人増えていたのはそういう事か。
 どうやらナシュランは全面的にウエルカム……と言う事ではないらしい。


「現段階と言う事は、ヘマをやらかせば頸が飛ぶという訳だな」
「物理的に飛ぶかはナシュラン次第だけどね」
「物理的に頸から上が無くなるかどうかは、今後見極めたいところですね。下手に僕に攻撃を……とでも思っているのなら、妻の拳が顔面を破壊しますよ」
「な、なにを仰る! 歩く狂気……いや、凶器を持っているカズマ殿には負けますよ」


 そう醜い笑みを浮かべながら口にしたナシュランに、僕はスン顔でにこりともせず口を出す。


「我妻を褒めて戴けるとは思いもよりませんでした。マリリンの実力あれば、人ひとり、ミスリル程度の武器程度ならば紙切れ同然ですからね。実に素晴らしい力を持つ愛しの妻ですよ。しかも僕の護衛としてついてきてくれる……。四六時中見張っててくれるなんて、僕にとってはご褒美の様なものですよ」


 そこまで早口で伝えると、ナシュランは目を見開いて驚き、ダリュシアーンはクスクスと笑って声を掛けてきた。


「ははは! カズマ殿は妻に一途だからね」
「恐れ要ります」
「では挨拶も済んだことだし、陛下の元へ移動しよう。カズマ殿も持ってきた草案はマギラーニ宰相が絶賛していた。とても興味がある」
「はい、幾つかの草案を持ってまいりました。直ぐ陛下の元に向かいましょう」


 こうして俺とダリュシアーンは先に部屋から出て、その後ろにナシュランとマリリンが続く。ナシュランの殺気は感じていたが、マリリンの威圧の前では羽虫と同じだ。
 陛下の執務室の入り、いざプレゼンの為に用意した紙を陛下、宰相、ダリュシアーン用に手渡し、自分のも用意してプレゼンを始めると、『脱穀機』と、水車を使った籾殻外し、そして粉までの工程を水車の力を利用して……と言う方法を伝え、その図案も別途紙に書いて用意してある。


「なるほど、今は全て稲を取る時は手作業だが、この脱穀機を使えばまとめて稲穂が取れる上に無駄少なくなる」
「そうですね、地面に叩きつけて取るだけよりは、各段に上がるでしょう」
「そうか、そこまで国民の生活、いや、麦の国なのにその大事な麦の事を考えてまでと言うのは考えがいたならなかった。これは早速会議に回したい」
「畏まりました。またこの脱穀機に関しては、城の魔導具師に依頼して、風の魔石等で改良が出来なかどうかもお願いしたいです。もしそれが出来た場合、その脱穀機をムギーラ王国からの輸出品として考え、大きな利益が出るでしょう」
「素晴らしい!!」


 そこまで語ると、ムギーラ国王は目を輝かせて褒め称えてくれた。
 ナシュランは何がどう違ってくるのか理解していないようで、「脱穀機? 水車を使う?」と頭が混乱していたようだ。


「手作業に勝る仕事はないですが、粉にするまでは重労働ですからね」
「ああ、そう言う報告は来ている。水車を使った自動化があるとは思わなかった。
「また、籾殻も捨てるには惜しいんですよ。火をつけるのにも最適ですし、田畑の栄養になるという点でも中々に魅力的です」
「ほうほう」
「藁は安く民や冒険者に卸して火種にして売っても良いでしょう」
「ふむ、直ぐに手配しよう」


 こうして別途備考欄に書いていると、「使い道が沢山ありますね」とダリュシアーンは喜び、国の財政が更に潤うのだから当たり前だろう。
 すると――。


「ただのゴミが金に変わるのか……?」
「ゴミではなく資源と言います」
「そ、そうか」
「ははは、こうして国のゴミだと思っていたものが、国を潤すための『資源』として再確認させられる。だからこそカズマの力とは偉大なのだ」
「そうですね」
「……」


 タダの人が見ればゴミと見間違う物でも、俺からすれば資源にもなりうる。
 その視点の違いがきっとムギーラ王とダリュシアーンには堪らなく楽しいのだろう。
 マリリンは得意げにしているし、ナシュランは「ゴミが資源に? ゴミが金に?」と困惑している様だ。


「我が夫は着眼点が普通とは違う! そこがまた魅力的なのだがな!」
「そう言ってくれると嬉しいよマリリン」


 マリリンにそう言われると嬉しくなる。
 彼女の故郷で無ければ捨ておいたかもしれないが、ここまで手広く僕も手を出したなら、最後までは付き合うつもりだ。一応は。
 ダリュシアーンにはそれだけの価値を見出している。
 問題があるとしたら――。


「ゴミが金になるのなら、実に素晴らしいな!! やはり金に勝るものはない!!」
「ええ、その金で今度はしたいと思う事がありますので、ムダ金を使う気はありませんが。一々貴族を集めてパーティーを開くとかですね」
「っ!!」


 そう突っ込みを入れると、レディー・マッスルの諜報部が仕入れた情報で釘をさす。
 未だに貴族を集めて虎視眈々と王位を狙っているナシュラン。
 その意味も込めて、知っているぞ? と警告を鳴らす。
 無論この事はムギーラ王とダリュシアーンにはリーク済みだ。


「身の程をわきまえない馬鹿と言うのは、どこにでもいますからね」
「気をつけねばなりませんね」
「ああ、頸がいつ飛ぶか分かったものではないからな」
「――っ!!」


 こうして牽制もしながら話は進み、僕の進めた脱穀機は城お抱えの魔導具師にも改良をして貰う事も決まり、国は更に発展するだろうと少しだけ安心した。
 国が潤えば民が潤う、そう信じて僕は動いてきた。
 しかし――僕の出したこの草案は、後に想わぬ方向へと話が進むのである――。
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