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第二章 新天地、ムギーラ王国にて!!

第30話 ムギーラ王国の夜会にて③

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 救護室へ入り、叩かれた頬の為にポーションを飲むと痛みも赤みも消え、休憩室へと入るとマリリンは世紀末覇者の顔に似つかわしくなく、ポロポロと涙を零し始めた。


「マリリン!?」
「カズマ……我は悔しい!!」


 ――マリリンの悲痛な叫び声だった。
 今までこんな涙を見せたことのないマリリンが、大粒の涙をポロポロと零し、兄のジャックさえも慌てたが、マリリンは僕に向き合うと、骨が折れない様に抱きしめた。
 それは……とても慈しみを持つ優しい抱擁。
 思わず僕も驚き固まってしまった。


「我といるばかりに、カズマが傷ついていると思うと悔しい! 我がこんな見た目であるが故に、カズマが不幸になるのが悲しい!」
「何を言うんだマリリン!」
「我がもっと普通の女性らしい見た目ならば、こんな苦労は無かったかもしれんのだぞ!」
「馬鹿な事を言うんじゃない」
「しかし!」
「僕はマリリンがマリリンであるからこそ、君が君であり続けてくれるからこそ、心の底から大事にしようと、愛したいと思っているんだぞ!」


 僕の言葉に両目を見開くマリリンに、僕は目を反らせる事無くマリリンの目を見つめた。
 ――確かに見た目は世紀末覇者。
 どう足掻いても、普通の令嬢等とは言えない。
 だが、普通の令嬢ではない代わりに、マリリンにしかできない事が山ほどある。
 マリリンにしか感じることのできない悲しみがある。
 強いからこそ、強く生まれたからこそ――守ろうと必死に手を伸ばすことが出来る。


「君は君だ。そして、僕の唯一無二の妻だ。何を恐れる、何を怖がる。僕が傷つくことより、マリリンが自分を嫌う方がずっとずっと嫌だ。マリリンが僕の言葉を信じてくれないのが嫌だ!」
「――っ」


 僕の必死の言葉に、マリリンは涙を数滴落すと震える両手でカズマから手を離そうとした。
 だが僕はその手を思いきり引っ張り、マリリンの唇を奪った。
 それは直ぐに離れるものだったが、マリリンを驚かせるには充分すぎる衝撃であった。
 顔を真っ赤に染めたカズマは、マリリンから目を離さず言葉を繋げる。


「僕は愛した女性にしかキスはしない」
「――……」
「まだ信じられない? 僕が傷つくのが嫌だというのなら、僕だってマリリンが傷つくのは嫌だ……一緒に、一緒に幸せになりたい。どうしたら僕の気持ちが伝わる……?」


 僕の苦痛に歪む表情に、マリリンは涙を乱暴に拭うと僕を折れない程度に強く抱きしめた。
 もう二人の間に言葉なんていらない。
 ――愛し合っているのだから。


「……ありがとうカズマ」
「うん……」
「私は私のままで……良いのだな?」
「ありのままのマリリンが一番大好きさ」


 暖かい抱擁。
 隣で涙を流すジャックとマイケルを他所に、僕たちは再度口付けた。
 もうお互いに不安なんて無い。


「もう、化粧がグチャグチャじゃないか」
「ははは! 困ってしまったな!」
「全く、化粧も崩れたことだし、ギルドに先に帰っちゃおうか」
「そうだな、ファーストダンスが踊れなかったのは残念だが、これは致し方ない」
「いつでも何処ででもマリリンと踊るさ。お互いに年寄りになってもね」


 そう約束するとマリリンは嬉しそうに笑い、僕たちは先にギルドに帰る事にした。
 救護室の人間に先に帰る事を伝えると、快く了承してくれたし、後で陛下にも伝えておくと言ってくれた為、心置きなく馬車に乗り込みギルドに帰る。
 繋いだ手は二人の愛情を強くしたようにも見え、ジャックとマイケルは更に泣いた。



 ◆◆◆◆



 ――翌日、城に赴いた僕に陛下はイザベラ王女の王国との断交を発表。
 夜会での出来事がきっかけとなり、今まで断交していなかった国々も次々に断交し、もう国として成り立つことは難しいだろうという結論に至った。
 最も決め手になったのは【魅了アイテム】の出どころであった。

 各国との繋がりが減ったかの国は、魅了アイテムを大量に作る事で他国の貴族に売り外資を得ていたのだ。
 それが王配の口から話された事もあり、かの国とのあらゆる取引が無くなった。

 王配はイザベラ王女から保護される形でムギーラ王国に留まることが許され、長らく帰っていなかった実家に身を寄せることになったらしい。

 最後まで抵抗をつづけたイザベラ王女だったが、彼女はその後、民衆の暴動により捕らえられ、斬首刑となったのは――後に知る事になった。
 こうして、一つの国が亡くなったのである。


 さて、マリリンの実家とその後のマルシェリティたちの事だが。
 マギラーニ宰相がレディー・マッスルに赴き、事の次第を教えてくれた。
 マルシェリティはやはり男遊びが激しく浪費家であった上に、既に純潔ではなく、子供も一度産んでいた事が分かった。

 それも、平民の男との間の子供だった故に、生まれた子供は国の教会で育てられているのだと言う。
 こんな醜聞を外に出すことも出来ず、尚且つ第一夫人としては価値もない。
 故に、マギラーニ宰相がマルシェリティをカズマの第二夫人にと言われた時に、是が非でも貰ってもらおうと思ったらしいが、僕の強烈な拒否により断念。
 マルシェリティは規律の厳しい修道院に入れられることが決まった。

 例え見目麗しかろうとも、心根が腐っていれば、他人を見下し馬鹿にし続けていれば自分に帰ってくる。
 ――それが分かる二人の女性の人生であった。

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