上 下
25 / 66
第二章 新天地、ムギーラ王国にて!!

第26話 やってきたマリリンの弟と、怒りで火柱を上げるマリリンと

しおりを挟む
 2週間と言う貴重な休みの最後の日、マリリンと一緒に眠っていた僕はジャックの怒声で目が覚めた。
 時計を見れば朝の8時……少々寝過ごしてしまったようだ。
 外から聞こえるジャックの怒声と共に、違う怒声も聞こえてくる。
 どうやらジャックとマリリンの弟――アスランがやってきたようだ。
 マギラーニ宰相の声も聞こえるところからして、アスランが我儘を言って連れて来て貰ったのだろうが、一体どうしたと言うのか。


「マリリン、マリリン」
「ンン?」
「外からジャックさんの怒声とアスランの怒声と、狼狽えているマギラーニ宰相の声が聞こえるんだけど」


 そう伝えるとマリリンは大きく溜息を吐きながら起き上がった。
 何とも覇王らしい色気漂う起き方だったが、眠そうな顔のまま窓へ二人で向かうと、そこからは確かにジャックがアスランを叱りつける声が聞こえてくる。


「カズマはあの怪物より、マルシェリティを妻にするべきだ!!」
「何を言うか! マリリンこそがカズマに相応しいのが何故わからん!」
「解りたくもないね!! マルシェリティの美貌を持ってすれば、我が家は更に栄えるじゃないか! お前たちは追い出された不要者だ! だからカズマを寄こせ!」
「やめないかアスラン! 確かにカズマが次期宰相になればとは言ったが、お前がカズマのレベルまで上がれば、」
「宰相なんてつまらない役職なんてヤダね! ボクは一生遊んで暮らすんだ!」
「「この大バカ者が!!」」


 ――と言ったやり取りが聞こえてくる。
 アスランは現在10歳。マリリン達が追放されてから生まれた子供らしいが、元々の性格も相まって、中々最低な性格をしている。
 また、宰相には絶対向かないレベルの人間性で、父親であるマギラーニ宰相は何時も愚痴を零していた。

(あの子も追放されるのかな)

 なんて思っていたのは内緒にしておこうと思った。
 それにしても、先ほどから名前が出ている【マルシェリティ】とは一体誰の事か。
 頭を捻らせていると隣のマリリンが掴んでいた窓の縁がメシリと音をたてて粉々になった。


「マリリン、僕はマリリン以外の妻を持つ気はないよ」
「ああ……分かっている。わかっているとも……だがマルシェリティを出してくるとは、最早これは戦争だな」
「戦争……」


 それだけを言うとマリリンは怒りの覇気を出したままピンクのパジャマの上にマントを羽織り、部屋を出て行った。
 きっと血の雨が降るだろうと予想される。
 取り敢えず、マルシェリティとは誰だと聞きたいのを呑み込んで、僕は慌てて着替えてマリリンの後を追った。


「朝から威勢だけは良いな小僧」
「出たな化け物!」
「お姉様と呼べ!」
「嫌だ!!」


 最初のやり取りがコレである。
 年の離れた可愛い弟に、未だに「姉」と認識して貰えないとマリリンが小さくボヤいていたのを思い出しつつ様子を伺った。


「ボクは今日、カズマに新しい女を紹介する為にやってきたんだ! 貴様はさっさとカズマと離婚しろ!」
「黙り為さいアスラン! 命が惜しくないのか!」


 マギラーニ宰相も必死である。
 どうすれば此処まで子育てを間違えられるのか、非常に不思議ではあったが物陰から様子を伺うことにした。


「マルシェリティは僕の従姉だ! その従姉がカズマの為に養女に来ても良いと言っているんだぞ! 化け物はさっさと身を引いてカズマを寄こせ!」
「ふむ……アスランよ、貴様の命我が握っていることは言うまでも無いが……マギラーニ宰相よ。どういう事か説明できるかね?」
「それは」
「お父様がマルシェリティに言ったんだ! カズマの第二夫人、もしくは次期宰相の妻になる気はないかって! そしたらマルシェリティは花が咲き誇らんばかりの笑顔で了承してくれた! だから化け物は邪魔なんだ! わかったか化け物!!」


 これは、確かに戦争だな。
 僕は他の冒険者達と隠れながら様子を伺った。
 暫しの沈黙……そして木々が、そしてアジトが揺れる程の怒気を発しながら、マリリンは顔を上げた。


「良かろう……お前たち二人とマルシェリティは処刑だ」
「マリリン落ち着け!!」
「ムギーラ王国でも屈指の溺愛夫婦、最高の夫婦仲と呼ばれる我とカズマを引き離そうと言うのならば……。そちらが権力を使って引き離そうと言うのであれば!!! 力を持って貴様たちを屠る!!!」


 ドゴオオオオオオオ!!!


 マリリンに火柱が上がった!!!
 熱気で転がるアスランとマギラーニ宰相、そして二人が乗っていたであろう馬車は一気に燃え上がり、馬は嘶きを上げて走り出した。
 地獄絵図だった……。


「カズマと私の赤い糸はミスリルにも負けず、超合金にも負けず、ダイヤモンドよりも硬く、オリハルコンすらも一刀両断するものだ!! それを権力程度でねじ伏せられるとでも思ったか!! この戯け共が!!」
「ヒェ!!」
「お父さん!! ボクの髪がチリチリに……っ」
「愛するカズマの為ならば、血の繋がりすら鬱陶しいわ!! 命乞いは済んだだろうなぁ? 今から貴様らの処刑時間だ!!」
「ちょっと待った――!!!」


 燃え上がるマリリンの拳が二人に伸びようとしたその時、僕は燃え盛るマリリンに抱き着いた!
 こんな時の為の炎耐性付与効果のアクセサリーや服は本当に助かるっ!


「カズマ!」
「止めるんだマリリン!! 君の手が汚い血で染まる事は許さない!」
「カ……カズマッ!」
「愛してるんだマリリン! 愛しているんだ!!!」


 マリリンの頬に手を当てながら叫ぶ僕に、マリリンの火柱は徐々に落ち着き……複雑骨折させない様に、優しく抱きしめるマリリン……。
 僕もまた、マリリンを強く抱きしめ、その様子を見ていた町の住民やレディー・マッスルの冒険者達は息を呑んだ。


「僕だけのマリリン……君は化け物なんかじゃない……。愛しい僕だけの妻なんだよ」
「カズマ……ッ」
「愛してる……。さぁ、笑って? 僕は君の笑顔が何よりも大好きだ」


 その声に、周囲の人々は涙を流し、マリリンもまた男泣きしながらも世紀末覇者の笑みを浮かべた。
 そして――僕はそんな世紀末覇者のマリリンの頬にキスを落とす。
 途端。


「ファァァァァァアアアアアアアアアアアア!! カズマからの頬っぺたチュー頂きましたぁぁぁあああ!!!」
「おめでとうマリリン!! おめでとう!!!」


 一斉に拍手喝采である。
 呆然と佇むチリチリになった髪とのアスランと、チリチリになった髪と髭をそのままに呆然とするマギラーニ宰相を放って、周囲は拍手喝采の嵐である!!
 鳴りやまない拍手にマリリンは僕を片手で抱き上げ、手を振って周囲の人々からの喝采を受け取っている。
 そんな異様なまでの様子を見て、アスランはお漏らしをし、マギラーニ宰相は助かった命に感謝したと同時に、アスランを最悪廃嫡するしかないだろうと決意した。


「この通り、カズマは我に夢中! 切っても切れぬ赤い糸、切れるものなら切ってみるがいい!!」
「クッ」
「安心しなさいマリリン……イイ感じに私は理解出来たよ。いや、理解せねばならなかったのに理解したくなかっただけなのだ……マルシェリティの事はすまなかった。無かった事にする」
「お父さん!?」
「全ては私が間違っていたのだな……。アスラン帰るぞ、お前の今後も決めねばならない」


 そう言うとマギラーニ宰相は立ち上がり、アスランの首根っこを掴んで歩き出した。
 もう、後ろを振り返る事もない。
 きっと腹を括ったのだろう、命の危機を感じてやっと……。


 こうして、その日は【カズマに初めてほっぺにチューされた記念日】と称し、レディー・マッスルの所有する店では盛大な祝い事が行われたのは、言う迄もない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡
恋愛
此処は乙女ゲームに似た世界。 婚約破棄されて平民に落とされる悪役令嬢のルナリア。 生粋のお嬢様であるルナリアは平民として生きていけるわけもなく人買いに捕まり奴隷として売られる。 ゲームのシナリオはそうなるはずだった。だが、婚約破棄されたルナリアの前に現れたのは攻略対象の姉。転生者だという攻略対象の姉に飼われることになったルナリアだが、彼女が仕える主人は攻略対象だった。 侍女侍従を育成する育成科に通う為、通っていた学園に戻る事となってしまう。 元婚約者やヒロインとは違う学科に通うことになるが、同じ学園内の為、目の敵にされてしまう。 それもこれも、ヒロインの本命はルナリアの元婚約者では無かったから。ヒロインの本命はルナリアの主人だった!? 本命キャラを攻略せんと色仕掛けで迫るヒロイン(ヒドイン)だが……?(第一章) 夏休みが明けたら物語は第二部へと移行する。 隣国からの恋の障壁として現れる予定だった留学生達。 生徒会役員も変わり心機一転。 ルナリアに対する害意は沈静化したものの、ルナリアとディオンの間に新たなる問題が発生する。留学生達も加わり刺激的な日々が二人を待ち受ける(第二章) !注意! 見切り発車且つ殴り書きです。 矛盾や隙間をなるべく埋めるようにはしてますが、設定が緩く甘い部分もあるかもしれません。 息抜きで思い立った内容を殴り書いた作品です。 読み手を選ぶ作品かもしれませんので、以上を了承の上ご高覧ください。 ※いじめの表現がありますのでご注意下さい。 ※小さな布石がパラパラと落ちているので後から回収されたり回収され無かったり、一つ一つの言動に意味を持たせてたり持たせてなかったり……書いている時は本人布石になると思ってないので分からんぞって思ったら聞いて下さい。"気紛れ"で答えるかも?

見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖
ファンタジー
年の差のある夫に嫁がされ、捨て置かれていたエレオノーラ。 ある日、夫を尾行したところ、馬車の事故にあい、記憶喪失に。 記憶喪失のまま、隣国の王宮に引き取られることになったものの、だんだんと記憶が戻り、夫がいたことを思い出す。 幼かった少女が成長し、見向きもしてくれなかった夫に復讐したいと近づくが・・・?

転生しました。

さきくさゆり
ファンタジー
転生しました。 生きるために必死に頑張りました。 結果、家族からは見放され、友人はできなかったけど、学園に入れました。楽しい異世界生活をおくろうとおもいます。 なろうでも書いてます。 読みやすい方でお楽しみください。 http://ncode.syosetu.com/n1839dj/

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

異世界から来た皇太子をヒモとして飼うことになりました。

おのまとぺ
恋愛
ある日玄関の前に倒れていた白タイツコスプレ男を助けた森永メイは、そのまま流れで一緒に暮らすことになってしまう。ロイ・グーテンベルクと名乗る男は実は異世界から来た本物の王子で、その破天荒な行動は徐々にメイの生活を脅かしはじめーーーー 「この俺の周りをウロつくとは大層な度胸だな」 「殿下、それは回転寿司です」 ◆設定ゆるゆる逆転移ラブコメ(予定) ◆ヒーローにときめくようになったら疲れている証拠 ◆作者の息抜き用に書いてるので進展は遅いです 更新時間は変動します 7:20

処理中です...