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25 俺はお茶を飲みつつ、二人が今後の交渉をするのを見守る。

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「止まって頂きましょうか」


 礼儀を欠いて急いでやってきた二人に対し、ダーリンさんが聞いたことも無い恐ろしい声で二人を止めた。
 流石古代の軍人人形、ダーリンさんはその軍部人形のトップだったと言う事から、普段はとても穏やかだけれど……最も攻撃力の高い人形でもあるのです。


「妻が怯えますので」
「これは失礼を……このような事は初めてな事で驚きました。トーマ君とは何時、どうやって知り合ったのでしょうか?」
「彼の祖先が保護していた人形が、実は『アンク・ヘブライト』の妻、『ニャム・ヘブライト』でしてね。お返ししてくれたお礼に仲良くさせて頂いております」
「祖先が持っていた人形ですので、俺もまさか古代人形とは思わなかったんですよ」
「そ、そうか……」
「それで、お二人はトーマさんと大変仲の宜しい方なのでしょうか?」


 そうダーリンさんに問いかけられ、一人は元上司であり良く会話をするモリミア・ポマーで、渋みのある男性がこの領地を収め、ハルバルディス王国では人形大臣をしているローダン侯爵様だと伝えると、ダーリンさんの代わりにシャルロットが喋り出した。


「そうですわねぇ……でもこれだけ多い人数はいりませんわ。そこのモリミアだったかしら? 貴方はトーマの元上司で今も仲がいいと言う事で、特別に! 入れてあげても宜しくてよ?」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、だってわたくしたちが探していたニャムを連れて来てくれた【トーマ】と仲が宜しいのでしょう? そうよね? トーマ?」
「そうですね。モリミアさんは同じ歴史学者として信用できるかと」
「ではもう一人は私がご案内しましょう。ローダン侯爵様、宜しければ中をご案内しますが?」
「よ、良いのか!?」
「他の人形達もおりますから刺激の強い動きはお二人共お控え下さいませね? わたくしたちって古代人形で御座いましょう? ついウッカリ、ポックリさせてしまうかもしれませんものねぇ?」
「こらこらシャルロット、怖がらせてはいけませんよ。それと、トーマさんに礼儀を通さない方は一人として通しませんからね。私たちはトーマさんに恩があるからこそ、お二人が施設に入る事を許可しますが、そうでないのなら扉を開ける事は致しませんよ」


 そう二人が伝えた事で全員の目が信じられない者を見るように俺を見ている。
 畏怖と敬意もあるが、欲も嫌でも感じるのは仕方ない事だろう。


「では、皆さんにも会いに行きましょうか」
「そうですわね」
「ご案内します。ああ、護衛の方なんて必要ありませんよ。心配せずともこのお二人でしたらウッカリ、ポックリ行く事もないでしょうからね」
「おーほほほほほ! ダーリンったら面白い冗談ですわね!!」
「ははははは!」


 こうして俺達が扉の中にはいると、扉は自動で締まって行き『ガコン!』と言う音と共に扉が閉まると明かりがパッとつく。
 初めて来た時は驚いたものだけど、これにはモリミアとローダン侯爵様も驚いていて、そのま「では着いてきて下さい」とダーリンさんが口にすると俺達は歩きだした。
 興味深そうに周囲を見渡す二人は、俺に声を掛けて来た。


「トーマ君、君は何度かこの施設に入ったことがあるのかい?」
「ええ、よくここには来ますね」
「なっ!」
「色々な会話が聞けて楽しいですよ」
「羨ましい……もしやアルマティやイルマティの事も、もしや!」
「ええ、シャルロットさんから聞きました」
「あらあら、今の世もアルマティやイルマティが出回っていると聞きましたけれど事実でしたのね。あんな物人間も人形も不幸にするだけの人形用の麻薬だというのに」
「「あの話は事実だったのですね!?」」
「だって、わたくしが大元の開発者ですもの。今作られているアルマティやイルマティがどんな形かは知りませんけれど」


 そう言って歩くシャルロットさんに、モリミアは興奮しローダン侯爵様は顔面蒼白だ。
 そして小さく「シャルロット・フィズリー?」と問い掛けている。
 学園ではその名は必ずと言っていい程習うだろうと思っていたが、やはり事実のようだ。
 すると――。


「ええ、わたくしの名はシャルロット・フィズリー。【悪魔のシャルロット】でしてよ」
「おやおや、私の前では可愛らしい天使なのに、悪魔だなんて」
「あん、もう嫌ですわダーリンの前で!」
「あの、お二人は……どのような関係で?」
「見て分かりませんの? その眼、ちゃんと機能してますの? どこからどう見ても夫婦で御座いましょう?」
「「人形同士が夫婦!?」」
「古代では当たり前でしたけれど、今の時代では違うとは本当でしたのね」


 そう会話をしてから辿りついた扉が自動で開くと二人はビクッとしていたけれど、中にはいると、人形保護施設で生活する人形達がズラリと待っていた。
 これには流石の二人も腰を抜かしてしまったようで、ハクハクと口をさせながら声が出ず、ダーリンさんがひとりずつ椅子に座らせていた。


「よ! トーマやっと来たか!!」
「ええ、お待たせしてしまいましたかね?」
「俺は待った!」
「それは申し訳ないです」
「兄さん、トーマを虐めるんじゃない」
「さて、トーマさん。この二人の名を教えて貰えないでしょうか」
「はい、若い男性の方がモリミア・ポマーで俺の元上司であり、よく話をする考古学者です。そしてダンディな男性の方がこの人形保護施設のある地域の領主様で、ローダン侯爵様です」
「なるほど、今は侯爵領になっていると聞いていましたがこの男性がそうでしたか」
「ト、ト、トーマは何故そんなに堂々としていられるんだ? 初回でもそんな感じだったのか?」


 驚きのあまりそう口にするモリミアに俺は暫く考え込んでいると――ヤマさんとニャムさんが話しかけて来た。


「そうね、基本的にトーマちゃんはブレナイ子だから緊張ってあんまりしてなかったわね」
「そうですか? 意外と小心者ですよ?」
「小心者だったら大胆な行動はしないと思うのよ」
「ははは、そうかも知れませんね」
「でも、トーマのお陰でアタシは施設に帰る事が出来た。本当に助かってるよ」
「いえいえ、ニャムさんがアンクさんの元に帰れて良かったと思っています」
「さて、時間は有限だ。呆けてないでビシッとしたらどうだ」


 そうアンクさんが口にすると二人は必死に身体を起こしつつ、目の前に並ぶ古代人形達に向き合いました。


「こんな情けない体勢で失礼する。私はこの辺りの領地を治めるローダン侯爵家のカティス・ローダンだ」
「初めてお目にかかる。俺はトーマと考古学と歴史学者をしているモリミア・ポマーと申します。ですが本当の名は初めて明かすが――モリミア・ハルバルディス。王弟殿下の息子です」
「そうだったのか」
「トーマは驚かないんだな」
「いや、人の生まれなんて自分で決められるものじゃないからな」
「ははは、豪胆な奴だ。だがそこが気に入っている」


 その後、施設にいる人形達も挨拶をした。
 管理者であるアンク・ヘブライト。その妻ニャム。
 同じく管理者であるピリポ・ハルディア。その妻ヤマ。
 医者のセレスティアと、その手伝いをするピリポたちの子供、プリポ。
 人形師であり人形のコウとエミリオ兄弟。
 護衛人形である山茶花と、その妻エリカ。その子である千寿。
 そして最初に会った、ダーリン・エゾイフに妻シャルロット・フィズリー。

 早々たる面子だった。
 名前の載っていないのは山茶花とエリカに千寿、セレスティアとプリポくらいで、後は一度は必ず名を聞いたことがある人形達ばかりだったのだ。


「アンク・ヘブライトと言えばハルバルディス王国地下に眠る、脳だけの人形の元となった」
「そうだな、アッチは既に壊れて動かないが」
「やはり壊れているのですね」
「俺と回線を切断したことでどう足掻いても機能はしないだろう」
「では、予算をつぎ込むだけ無駄と言うことですね。管理していた人形達が壊れて久しい。彼らが動いていた時代でも全く動かなかったと聞いております」
「だろうな。過去の遺産として残すか壊すかやってくれ。俺と切断した以上あの脳は最早動かない」
「畏まりました」


 その後も会話は続き、食事面に関しては俺が補助してくれていた事などを聞いて驚いていたし、俺の箱庭が憩いの場になっていることを聞いて驚いていたが、「それで箱庭には入るなと言ったのか」とモリミアは驚いていて、今後ローダン侯爵が俺にお金を支給し、彼らの食事となる食材等を運ぶ仕事を依頼してきたので、有難く受け取り支給をして行く事で合意した。

 無論彼ら人形達も外には出る事はある。
 俺の箱庭から俺のいる家に来てマッタリとお茶を飲みつつ外を見る事もあるのだと知ると、「聖地が本当の聖地の誕生に」とモリミアは口にして居たいが、俺の家は二つある事から、「どちらに行けば会えるんだ」と悩んでいた。


「他に聞きたいことは?」
「あなた方を陛下に紹介したいと言えば、良い返事は貰えるのでしょうか?」
「それは無いな。用がないのに行く会う理由もない」
「そうですが……」
「現王は役に立たん男だと聞いている。王が変わり、まともな王ならば可能性はあるがな」


 その一言で、ハルバルディス王国の城内や大臣たちは大慌てする事になるのは、もう少し後の話となる――。
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