上 下
23 / 49

23 ポマー兄弟からみたトーマの印象と膨大なる知識。

しおりを挟む
 ――モリミアside――


 ――流石トトリーマ夫妻の孫という事か。
 トーマは的確に今のハルバルディス王国の事を理解していた。
 その上で「国を捨てる」と言う選択もあるのだと言う、一番国が考えたくはない事実を訴えた。
 トーマとの話はゾクゾクする。
 俺の周りではあのように的確に話が出来るものがいなかった。
 それは父上もそうだ。
 王弟と言うだけで周囲は媚びへつらう。まともに会話できる相手が当時はトトリーマ夫妻しかいなかったのだと嘆いていた。
 俺の本当の名は、モリミア・ハルバルディス。
 ポマーは母上の名字を使って学者として動いていた。
 知っている者は知っているが、知らない者達は俺の様な若輩者を嘲笑って「先の事なんて」と全く気にしない老害ばかりだ。

 自分たちの世代はそれでいいかも知れない。
 後は老いて死ぬだけだ、死んで責任逃れ出来るのなら簡単だろう。
 だが、俺達の様な若い世代がこの先苦労する事を全く考えていない。
 それもこれも、今の王であるファバリス陛下が全く頼りないからだ。

 城のアレコレを決める事が全くできない優柔不断。
 家臣の目ばかり気にして発言力の無い力弱き陛下。
 その上王妃や側妃との間には長い事子供が出来ない。
 心臓が悪く今では自分の部屋から出る事も儘ならない。
 次に発作が来ればもう駄目だろうとさえ言われている。
 そうなった時、王弟である父が次の王となる訳だが――まともな家臣が少ないと言うのも問題でもあった。


『トトリーマ夫妻やトトリーマの息子夫妻が生きていれば、どれだけ良かっただろうか』


 それが何時も口癖だった。
 所がだ。
 まさか孫が生きていようとは。
 聡明かつ的確に物事を見る目、それを分かりやすく端的に答える様。
 正に父上や俺が求めて居る人材でもあった。
 ――トーマ、君は実に素晴らしい人間だ!!
 トーマの事を知っている人間が他にいるとしたら、ローダン侯爵家の人間だろう。
 あのモリアティの問題を解決したのもトーマだと言うのなら、ローダン侯爵家は必ずトーマを離さない筈だ。
 息子であるハロルドにと思うだろう。
 だが、俺だってトーマ程の人間ならば傍に置きたい。
 恐らくモリシュがトーマを気に入ったのも、そういう所があるのだろうな。

 モリシュは分かりにくい性格だが、頭の悪い相手とは一切喋らない。
 直ぐに「お前つまんねぇ」と言って去ってくのだ。
 そのモリシュがトーマには自分からドンドン話しかけていた。
 あんなに自分以外の誰かと話すモリシュを見たのは初めてだ。
 自由奔放なだけに掴みにくい所のあるモリシュだが……根は悪いやつではないが――。


「ただまぁ~」
「お帰りモリシュ」
「きいてきいて~? さっきねぇ、トーマの奥さんとあったんだよぉ」
「ほう、やはり結婚してたのか」
「名前はわすれちゃったけど~。トーマってああいうタイプが好きなんだねぇ」
「俺は会っていないから分からないが、どんな感じだった?」
「ん――冷静なトーマとは反対の、元気印って感じぃ?」
「ほう」
「あの人がトーマの弱点かーって思ったねぇ」
「弱点なんていうんじゃない、奥さんだ」
「同じじゃーん?」
「まぁ確かにそうだが」
「人形師してるって本当だったねぇ。人形配達屋が来ててぇ、介助人形出してたよぉ」
「話したのか?」
「んーん? 遠くで見てただけ。トーマに嫌われたくないじゃん?」


 一応そういう理性はあったか。良かった。
 思わずホッとしていると、モリシュはソファーに寝転がりひと眠り始めたようだ。
 その間に父上に手紙を書いてしまおう。
 トトリーマ夫妻の孫が生きていた事と、やはり聡明で判断力の早い男であり、物事を見る目は確かである事など、感じた事を書いて父上宛に送った。
 何時読んでくれるかは分からないが、今や死に怯えて仕事をしない国王の代わりに仕事をしているのは父上だ。
 最政務はかなり滞っていたと聞いている。
 父上にとっても頭の痛い問題だろう……。

 小さく溜息を吐き、椅子から立ち上がろうとした時――魔道具がぼんやりと光りノートが浮かび上がって出て来た。
 そのノートには『トーマ・シャーロック』と書かれていて、中を読むと【アルマティ】と【イルマティ】の事が詳しく書いてあった。


「これはっ!」
「え――なに~?」
「トーマからノートを受け取ったんだ」
「トーマのノート?」


 それくらいでは興味を持たなかったモリシュだが、俺が食い入るように中を読んではノーとを捲り、「あり得ない」と口にするとモリシュは眉を寄せて「どうしたのさー」と近寄ってきた。
 すると魔道具が光りもう一つ手紙が届くと――。


『こちらのノートと同じものを人形大臣である、ローダン侯爵様宛に送っております。そちらのノートは差し上げます。どう使うかはご自由に。トーマ・シャーロック』


 そう書かれていて、確かにこのノートを読めばどれだけ西の国が持ってきたアルマティとイルマティが危険なのか良く分かる。
 こんなものが東の大陸で使われようならば、間違いなく西と東とでの戦争、もしくは東だけで人形を使った戦争が起きる。

 人形大国ハルバルディス王国だからこそ、アルマティとイルマティを止めることが出来たと考えても仕方ない事だった。
 しかし――。


「これらの知識、何処で得たんだ……」
「トトリーマ夫妻の秘蔵の本の中にあったんじゃねーの?」
「可能性は0ではないが。何故これだけの知識を持ちながら発表しない。学者ならば発表して名誉を貰える程の内容だと言うのに!」
「なーんか隠してるよね?」
「何を一体彼は隠しているんだ……?」


 その謎は解けないまま、日にちだけが過ぎて行った――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。 日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。 そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。 魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

処理中です...