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16 当時の人形達と、世界政府との戦い。

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 古代の時代、脳だけの人形であったアンクは大切な家族を奪われる形で国にいいように使われ、今はハルバルディス王国の地下にある【脳だけの人形】となったのは考古学者や古代文明を調べる人にとっては当たり前の話ですが、その脳を再度コピーして作られたのが、目の前にいるアンクと言う人形である。

 見た目の製作者というか依頼人はピリポとヤマ。
 作り手は――人形でありながら人形師であるコウとエミリオ。
 無論ニャムの製作依頼もピリポたちが出し、作り上げたのは二人だ。


「当時の人間、政府たちは動かなくなった脳だけの俺の代わりに、俺を寄こせとこの施設に訴えて来た。しかしそれを全員で拒絶すると、施設を突然攻撃するという馬鹿な事をやり出した」


 その結果、4人の人形が死に、ニャムは吹き飛ばされ行方知れずとなった。
 何時また政府が攻撃するか分からない為、施設にはバリアを張り壊れた人形を弔い、長い年月閉ざされたままの世界が出来上がったのだという。


「そもそも可笑しいんですのよ? 脳だけの人形をうっかり壊したのはアチラだというのに、わたくしたちに責任を取らせようなんて馬鹿げてますわ!」
「シャルロットのいう通りです。私たちは静かに暮らしていければそれで良かったのです」


 そう語るのは恋愛小説の元になった、【シャルロット・フィズリー】と【ダーリン・エゾイフ】の二人。
 このシャルロットこそが、自分の脳をコピーして生まれた最初の人形でもあり、軍人人形であるダーリンの妻でもありました。


「でも、アタシ達でも色々と食べて魔素を手に入れないといけないのに、諸々足りなくてね。バリアを張って生き残った野菜で何とか繋いできた命でもあるんだよ」
「それは長い年月掛かりましたね」
「もし可能なら、野菜の苗とか持って来てくれると助かるねぇ……肉があれば最高だけど」
「ふむ」


 そう語るのは元娼婦人形だったが、娼婦は嫌だと医者人形となった【セレスティア】で――。


「確かトーマさんは箱庭師でしたよね? 良ければこの施設とそちらの箱庭を繋げるという事は可能でしょうか?」


 そう声を掛けて来た10歳くらいの少年人形は、ピリポとヤマの息子でプリポ。
 驚いたことに、当時は人形も申請を出せば我が子を作れるというのがあったらしい。
 その為――。


「それは名案だと思いますぞ。でも、迷惑にはならないか不安じゃのう」


 と答えたのは、10歳くらいの鉄の国サカマルにいるような服装の少年、千寿(センジュ)。
 侍人形である山茶花と、子育て施設で働いていたエリカの子供人形である。


「いえ、俺の箱庭でしたら自由に使って貰って構いませんよ? 野菜も豊富に育てていますから野菜に関しては問題ありません。となると、鶏等いたほうが良いでしょうか?」
「鶏や肉になりそうなのがいるといいねぇ……。ダーリン捌けるだろう?」
「ええ、捌けますよ」
「そういう事でしたら、俺の箱庭と繋げましょう。鶏やヤギに関しては少し遅れますが用意は可能です。支援致します」
「ありがてぇ……俺たちも魔素がギリギリで動いてるんでね」
「それなら、お一人ずつ魔素を入れ込んでいきましょうか?」
「お? 可能なら是非お願いしたい。俺と兄さん二人でも、今を保つのにギリギリだったんだ」


 そう言うと、その日は一日魔素を入れ込む作業を行い、その間にも会話をしながら情報を集めて行く。
 アニマやアルマたちは既に人間の体としての寿命を迎えており、長い眠りについたことや、同じ人形であったデュオもまた、眠りについたことを知った。
 人形の身体を持っていても、人間の体の部分が死ねば死に至る――……。
 それが人工生命体の末路なのだと聞かされたのだ。
 ガラスケースの棺に彼らは入っているらしく、見た目は腐らずそのままだが、後で墓地に行くのなら見せてくれるとの事だった。


「――と、これで全員魔素が満タンになりましたかね?」
「すっかり身体が楽になったよ!」
「悪いな、スゲー助かった。毎日動くだけでカツカツだったんだ」
「いえいえ、身体のパーツなんかは足りてますか?」
「これだけ魔素が潤沢にあれば、一人ずつなら身体を新しく出来るな」
「もし良かったらだが、男性陣の身体をトーマにも手伝って貰いたい。出来るか?」
「ええ、一人ずつ脱いで貰って見せて貰ってになりますが」
「それでいいなら幾らでも裸になるぜ!!」
「兄さんは露出狂なんだ……」
「「「「ああ……」」」」


 人形にも何かしらあるんだな……と思った瞬間だが、「ちゃんと服は着てるだろ!」と言うコウに対してエミリオは「寝る時は何時も全裸の癖に」と睨みつけている。
 コウは黒髪黒目の高身長の男性で、エミリオは白髪に少し長めの髪に青紫色の目をしている。
 一見兄弟には見えないが、製作者は兄弟として作ったらしい。
 この二人こそが、あの伝説の人類初めての人形でありながら人形師なのだ。


「それで、トーマさんの箱庭にはどうやって行けば宜しいのでしょうか?」
「そうですね、使っていない部屋はありますか? 出来れば台所に近い方が良いでしょう」
「それならこちらにどうぞ」


 そう笑顔で案内してくれる元軍人人形であるダーリンさんに着いていき、案内されたのは台所に程近い一つの部屋。
 コウとエミリオも着いてきて「ここならアンタ達好きに使って良いぜ」と部屋を貸してくれたのだ。


「野菜なんかを貰う礼だ。夫婦用の部屋だけど、後でマリシア用の部屋も用意するよ」
「それは助かるけどいいのかい?」
「アンタの主人には助けて貰ったからね」
「では、野菜畑をもう少し広くしますね。あなた方が食べられる量は確保したいですし」
「ありがたい……とても助かるが、箱庭に入らせて貰っても?」
「野菜は好きなだけ取って行って下さって結構ですよ。一応余分には作っていたので」


 そう言うと箱庭との道を作り、皆さんを入出OKにすると興味があるらしく全員箱庭に入ってきた。
 そこで働く小さい妖精さん達に驚きつつ、「これからこの人形たちも野菜を貰うから、もっと畑を大きくして、鶏やヤギも飼うつもりだ」と伝えるとキャッキャと喜んでいた。


「こんなに広い野菜畑が!」
「肉が欲しいならこの時期は外に出れないからって沢山狩って来てたんだよね。トーマ、半分くらい分けて上げたら?」
「それもそうですね」
「ジビエですか!?」
「今の時代はジビエが主流ですよ」
「冷蔵庫と冷凍庫は生きてるんです! 是非お肉もお願いしたい!」
「ええ、卵もありますよ。お分けしますし、調味料も色々買いためておいたのでそちらもお渡ししましょう」
「ああ、神よ……感謝致します」
「ほっほっほ! 感極まっておられるぞ」


 こうして必要な野菜を収穫し、全員で戻って冷蔵庫に入れて行き、アイテムボックスから血抜きした新鮮なウサギや鹿を出して行くと、ダーリンはニコニコしながら巨大肉包丁を手にして小分けにダンダンとカットしていき、冷蔵庫に入れて行く。
 その間に調味料なかを机に並べて行くと、「本当に頂いても?」と聞かれたので「美味しい料理を振舞って差し上げてください」と伝え、牛乳も置いた。
 俺は何時でも村に戻って買う事が出来るが、彼らはそうではないのだ。


「これから量はそう買えませんが、牛乳や卵等はヤギと鶏を手に入れるまでは俺が店から買ってきますよ。鶏やヤギは流石に春の嵐が過ぎてからになりますが」
「ありがたいです……」
「何のお礼も出来ねぇけどな」
「いえいえ、古代の事を色々聞けるのはこう言っては何ですが興奮します。何より今も生きておられる。動いているという事に感動して麻痺してるくらいです」
「そうね、私もこうなるとは思っていなかったわ……。もう廃墟になっているとばかり。きっと今度このボルゾンナ遺跡を調べようとしている人たちもそう思ってるわよ?」
「ボルゾンナ遺跡って言われてるのには違和感あるなぁ。ここは【人形保護施設】なのに」
「たまに外が騒がしいことがあるが、あれはこの施設を調べに来ていたのか?」
「そうですね。今度俺も参加するように任命されてますので来ることになりますが」
「ふーん……」


 そういうとアンクとピリポは二人顔を見合わせ「となると……」「そろそろ頃合いか?」等と話していて――。


「トーマが来たら、バリアを解いてやろう」
「ついでにトーマさんと仲がいい事をアピールして差し上げます」
「え!?」
「少なくとも、私達古代人形と呼ばれる者達と親しいともなれば、あなた方が手酷く扱われる事は無いでしょう」
「ですが、何処で知り合ったんだといわれますよ」
「そこはアタシの出番さ」
「ニャムさん」
「たまたまアタシを連れて来たら施設が動いて、アタシが古代人形だったことにすればいい。その時、『確かに祖先が持っていた人形ですが、古代人形だとは思いませんで』って言えばいいだろう?」
「なるほど」
「アタシ達はアンタにとっても借りがある。じゃんじゃん利用しな」
「と、言う事だ。アレコレ質問されてもトーマの質問には答えるが、他人の質問に答える義理はないと伝えよう」
「ふむ、確かに嬉しいですが」
「後は、俺達がトーマの事を気に入っている事も伝えれば無理やり連れて行かされないだろう? そういう狙いもある」
「ありがたいです」


 こうして、俺は古代人形である彼らに守られるという形で今後の生活の基盤も出来上がったが、一つだけお願いしたいことがあった。


「でも、俺がモグリの人形師であることは黙っていて欲しいんです。人形師は今国が管理していて、俺は国に管理何てされたくない」
「分かった。そこは秘密にしよう」
「助かります」


 ――こうして、定期的に野菜は箱庭で取って貰い、牛乳や肉、卵や調味料と言うのを配達に来るようになるのは決定済みで、今後共仲良くしていくことが決まったのだった。

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