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第三章 ラスカール王国とダングル王国に光を!!

76 ラスカール王国のストレリチア産直市場と、シュウとナノの秘密。

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 そして翌朝10時、俺とカナエはラスカール王国の商業ギルドに向かうと、そこには50人の従業員が集まっていた。2日後に従業員を集めて産直市場の説明、3日後から稼働と言っていたがゾナードさんが頑張ってくれたようだ。カナエにはゾナードさん達と産直へ移動を御願いすると、俺はストレリチア村に行きヴァリオンと一緒に産直の搬送入り口からラスカール王国に入り、皆が来るのを外で待つことにした。
 流石に50人雇うのは初めてだが、果たしてどうなるだろうか……。

 するとガヤガヤと喋りながら歩いてくる大人数が見え、俺が手を振ると早歩きで産直前まで来てくれた。
 初めて見る建物に従業員となる方々は驚いていたが、この産直の責任者は獣人であるヴァリオンである事を告げると「本当に獣人だったんだな」と言う声と驚きの声がしていた。


「初めまして、ストレリチアのアツシだ。ヴァリオンは市場の経験がある為起用している。またストレリチア村と言えば獣人達が住んでいる村だ。ノスタルミア王国では避暑地として貴族たちも多く来る場所でもある。ノスタルミア王国では獣人差別はないが、この国でもないと思いたい。よろしく頼む」俺が挨拶した後、

「ヴァリオンです。皆様を統括させて頂きます。産直市場への商品の搬送には倉庫を使います。倉庫にはストレリチア村と繋がる搬送扉がありますが扉から行き来出来るのは俺と村の獣人になります。皆さんは扉から村に行き来出来ませんのでご了承ください。獣人達も食品を運んでくれたりしますが、基本的には今ここにいる皆さんで倉庫より運び出して各売り場に商品を並べ、レジでお会計をして貰います。中に入ってご説明しますのでついて来てください」


 そうヴァリオンがいうと男女50名がゾロゾロと店の中に入り余りの広さに呆気にとられ、野菜コーナー、果物コーナー、鮮魚コーナーと別れて作られている構造に驚きつつ、またパンを売る場所まであった為、これには従業員が喜んでいた。

 パンは一日二回焼き立てが届く事と、一応卵コーナーはあるものの、まだ数が少ない事を説明。売り場となる裏手、つまり倉庫に入るとそこも広く、大型冷蔵庫を初めて見た従業員達は驚きながらも説明を受けていた。また食品売り場なので掃除はシッカリするようにという指示も出ているので、手が空いた者が掃除に取り掛かるように伝えていた。


「また、俺は皆さんを統括する立場だが、皆さんの方にもリーダーは必要だろう。誰がそちら側のリーダーを務めますか?」
「それは俺だな。ドルトだ。よろしく統括殿」
「呼びにくい名で悪いな」
「確かに呼びにくい名ではあるが、親から付けて貰った名なら変えようがねぇ。だろう?」
「うむ、確かに親から貰った名だからこそ大事にしたいとも思う」
「だが俺達人間にはちょい呼びにくい。そこで統括殿と呼ばせて貰うが宜しいか」
「構いません」
「ありがたい。今後統括殿の右腕として働く予定です。不測の事態も起こりえますので、統括殿にはビシッと決める時は決めて頂きたい」
「例えばどのような不測の事態が起きると想像しますか?」
「盗み、スリ、この辺りは鉄板かと」
「確かにそれはあり得る話だ。見つければ捕えて兵を呼ぶこととしよう。子供ならば親を」
「了解しました」
「また不測の事態が起きた場合は速やかに連絡を。俺の方から魔道具にて兵舎へ連絡をいれますので」
「はい」
「明日からの搬入ですが朝5時から収穫及び搬入が行われ、市場は朝6時に開きます。暫くは搬入や陳列に戸惑い開店が遅れるかもしれません。その時は臨機応変に対応します。閉店は夕方6時ですが商品が売り切れてしまえば閉店時間は早まります。閉店後は清掃などを行いその日の仕事は終わりになります。皆さん元気に働きましょう」
「「「「はい!!」」」」


 と、やはり狼獣人だからか統括が上手い。
 本人は気付いてないだろうが、彼から感じる威圧は確かに強い物ではないにしろ、上に立つ者のオーラと言う奴だ。
 それは自然と人間側にも恐怖ではなく、真面目に働かねばと言う意思を持たせる。
 ダングル王国は惜しい人材を逃したのだなと理解した。
 また市場には週に一日だけ休みを用意している為、その日だけは搬入もなく休日となる。
 毎週木曜が休みだが、その時に英気を養うよう指示が出た。


「ではアツシ殿。私も明日早くからここにきて仕事を致しますので、初日は大変でしょうが、何とか回してみます」
「ええ、よろしくお願いします」
「今日の仕事はもう無いでしょうから、暫くラスカール王国の奴隷市場を見て回りたいのですが」
「それなら俺が昨日見て来たが、虎獣人は売られていなかった」
「……そうですか」
「見つかったと言う話は聞かないが、亡くなったと言う話も聞かない」
「!?」
「俺も情報を集めてみるよ」
「……はい」
「では明日からよろしく頼む」
「畏まりました!」


 こうしてストレリチアのエプロンを産直の従業員に配り、無論ヴァリオンにも配ると、全員やる気に満ちていたので楽しみだ。
 その後カナエと共にノスタルミア王国の拠点前に飛び、部屋に入るとシュウとナノを呼んで来て貰った。
 二人はキョトンとした顔をしていたが、ニノは張り切って仕事をしていた様で着いてきてはいない。


「実は二人に話があるんだ、ちょっと着いて来て貰えるか?」
「「はい」」


 そう言うと俺はラスカール王国の今は誰も住んでいない拠点へと二人を呼び、久々に四人で会話することになった。
 シュウもナノも初めての建物にキョロキョロしているので、俺の方からまず話を切り出す事にした。


「シュウ、ストレリチア村の皆から『虎獣人の王子と王女を探している』と聞いた」
「「!?」」
「虎獣人は王族の証だとも聞いている。今、王子と王女を探している悪い奴らがいるらしい。王子と王女は命を狙われているようだ。シュウとナノが前国王の息子であるシュナイダー王子とナノリシア姫でいいのか?」


 そう真っすぐ目を見て伝えると、二人は泣き出しそうな顔をして小さく頷いた。
 その返事に俺は小さく息を吐き「そうか……」と答えると二人をギュッと抱きしめた。


「バルガス国王の手の者に、元オスカール王国の奴隷市場に売られたんだな?」
「……はい」
「……そうなの」
「そして、俺とカナエが二人を奴隷として購入し、ノスタルミア王国に移動して、奴隷から解放した」
「その通りです」
「うん……」
「さっき悪い奴らが二人を探していると話したが、二人が売られていた奴隷商は既になかった。悪い奴らが潰したらしい。向こうは二人が奴隷として誰かに買われた事を知っているはずだ。それが俺達だとバレているかはわからない。あちらの国が動くまで、君たちは俺が保護をする」
「「!」」
「今まで通りでいい。俺とカナエ以外は誰も王子だとか王女だとか知らないから、何もかわらない。それに、まだ子供だから虎獣人と言っても猫獣人と余り大差がない。だからこそダグラスたちも気が付いていない。だろう?」
「はい、父上も母上も立派な虎の耳と尻尾を持っていたので……そのイメージが強いのだと思います」
「そうか。シュウとナノはストレリチアでいつも通り過ごしていい。だが時が来たら、内戦を起こしてまで国王に立ち向かう者たちが居たらどうする」
「その時は俺も戦います!」
「私も」
「……君たちの心は俺にも分かったよ。ストレリチアは君たちを支援する。だが、今のままでは確実に此方が負ける。君たちはストレリチアよりも大きな後ろ盾を持つべきだ」


 そう言うと目を見開き、俺は二人の頭を撫でながら「此処からは大人の役目だ」と伝えると涙を零して抱き着いた。


「ストレリチアも後ろ盾になるが、俺達だけでは心もとないから味方を増やす。それまで待っていてくれ」
「「――はい!!」」


 そう言って泣きながら抱き着いた二人だったが、シュウは今まで心に溜めていた言葉を口にする。


「本当は国民の事が心配なんです……。叔父上は独裁者の考えをしていて、国を我が物、国民を奴隷みたいな扱いをする人なので」
「だからこそ内戦の話がちらほら出ていたのか」
「まだ内戦は始まっていないのですよね」
「まだ始まってはいない。だが、王子と王女を保護した事はいずれ明らかにしなければならない。その時こそ内戦は始まるだろう。何が切っ掛けで内戦が起きるかは分からないが、二人が理由ではないかもしれない。別の理由が上がる場合もある」
「そうですね」
「まだ先は見えない。だが、少なくともノスタルミア王国で暮らしている今はまだ安全だ。出来るだけ拠点の近くか、ダグラスの傍に居ろ」
「「はい」」
「今まで言えなかった事を教えてくれてありがとう。シュウもナノも優しいな」
「先生達は殺処分されそうだった俺達を助けてくれた命の恩人です」
「ふたりがいなかったら、しんでたの」
「ああ、そうだな……あの時二人を守れて良かった」


 そう言ってシュウは俺に抱き着き、ナノはカナエに抱き着いた。
 苦しかった、言いたくても言えなかったと語る二人を抱きしめ、何度も頭を撫でて頷いた。
 俺のすべきことは二つ。

 ノスタルミア王国の後ろ盾を得てはいるが、まだ二人の事を話していない。女王陛下に話をして、ストレリチア、俺の元で保護をさせて貰う事。
 もう一つ――。ラスカール王国の後ろ盾を得る事だ。

 その為には早急に市場で国民全員とまでは行かずとも、食品が回るようにすることと、銭湯で疾病を防ぐ事、その他出来る事を考えてあの国の為に動けば、おのずとラスカール王の信用と信頼を得て此方の話に耳を傾けてくれるだろう。
 まずはラスカール王の信頼と信用を得ることからだ。


「よし、じゃあノスタルミア王国の拠点に帰ろうか」
「いつも通り過ごしていいの?」
「ああ、いつも通りでいい。このことは暫くは四人だけの秘密だ。」
「「「はい」」」


 こうして俺達はノスタルミア王国の拠点に戻り、「産直市場は明日からが本番だが軌道に乗れば別の支援も考えている為、暫くまだラスカール王国にいる」と告げると皆頷いていた。
 次は孤児院を見て回らねば。
 孤児院ならばストレリチアからの『支援』として支給できる物が増える。
 もっと動いて国王の目と……敵の目が俺の方を見た時が、動く時だろう。

 シュウとナノを狙っているのなら間違いなく俺に目が行くはずだ。
 刀は使いたくないが、いざという時は使う事になるだろう。
 カナエを守れればいいが……。
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