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第二章 女王陛下からの依頼で、獣人の避難所を好き勝手してやります!!

68 改心した井上と、腐る水野についに――!(井上side)

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 ――井上side――


 先生の持つ店の一つである【ストレリチア酒店】で研修生として働き始めた俺は、店で見た酒の数々に圧倒されていた。
 俺の実家は酒屋だった。
 それでもこれだけの数の酒を用意できたかは分からない。
 客は全員貴族で、酒を堂々とケース買いしていく。
 買った後はそのケースを戻すことが義務付けられていて、ケースを戻すついでに新しく酒を買うと言う富豪らしい買い方をしている貴族に驚かされた。
 そして、オスカール王国とは違い、国が豊かで国民も賑やかな声で生活していることを初めて知る事になった。
 オスカール王国では国民は何時も辛気臭い顔をして笑ってもいなかった。
 路上には物乞いすら居たくらいだ。

 それが、このノスタルミア王国には全く無い。
 国民も貴族も笑い合い楽しそうに生きている。
 魔物も多いオスカール王国とは違い、この国では余り魔物が出ないそうだ。
 冒険者ギルドは一応あるが、あるだけで機能はしていないのだと言う。
 冒険者は依頼を受けることでモンスターと戦い、金銭を得る。
 そのモンスターがいないとなると、別の国で冒険者は働いているのだと言う。


「冒険者になる方法? それなら中央のジュノリス大国に行くしかないだろうな」
「やっぱりジュノリス大国ですか」


 昼休みの休憩時間、冒険者になる為にはどうしたらいいかと相談したところ、この酒屋の社長が教えてくれた。
 このノスタルミア王国にモンスターがいないのは、女王陛下が代々受け継ぐレアスキルのお陰なのだと言う。
 モンスターが入れぬように存在するだけで結界を張る事が出来るそうだ。
 その為、この国ではモンスターが出る事は無いのだと言う。
 ノスタルミア王国は平和な国で、冒険者やある程度他国で商売をして儲けた商売人等は、最後はノスタルミア王国に移住し、余りある財産で余生を楽しみながら生活するのだそうだ。
 無論孤児院もあるにはあるが、孤児たちは裕福に暮らしているし、定期的に医者が行って検診もしているらしい。
 余程財力のある国でなければそんな真似は出来ない……。
 本当にオスカール王国との違いを感じる事が出来た。


「お前さん、オーナーの所で一時預かりだろう? 酒に詳しいならこのままここに就職すりゃいいのに」
「でも、一時預かりですしどうなるか分からないです。オスカール王国に戻る覚悟もしておかないとですし」
「何をやったか知らないが、あの方をそこまで怒らせるって相当馬鹿な事をしたんだな」
「すみません……」
「まぁ、俺の方からも後数か月此処にいるっていうなら、オーナーに話を付けてやるさ。断られる可能性もあるが、言うだけはタダだからな。その代わり仕事内容はシッカリと見定めさせて貰うぜ」
「ありがとう御座います!」


 そう言って頭を深く下げ、俺はそれからも必死に働いた。
 毎日毎日汗だくになりながら働いて、掃除もシッカリ怠らずやって、気づけばアルコール依存症は治っていた。
 先生の家に帰れば、日本に居た時のような味の濃い、本当にやっとまともな食事が出来るようになった。
 食後の珈琲は美味しいし、また明日も頑張って仕事しようって言う気分になった。

 汚れた服はテリアちゃんとロスターナさんが洗ってくれて綺麗にしてくれるし、お風呂だって入る事が出来た。
 それだけでも贅沢だって言うのに、週休二日制で銭湯にも入れる上に、おやつ時間には甘い物まで食べられた。
 それがどれだけ贅沢な事か理解できたし、日に日にやる気は湧いて仕事に打ち込んだ。

 社長は俺の父親によく似ていて、ヘマをすれば拳骨が飛んできたが、愛情を持って仕事を教えてくれた。
 一度だけ「父ちゃん」と呼んで驚かせてしまったが、「俺にも息子がいるからな」と笑って許してくれた。
 毎日の仕事は体力仕事できつい日もあったが、弁当を食べれば元気になるし、自室の部屋は寝やすいし、疲れも取れやすく毎日シッカリ働いた。
 その内、俺が改心したのに気づいた菊池から声を掛けられ「やっと改心したっすね?」と言われて「俺って馬鹿だったよな」と言うと「本当に屑だったっす」と言われて謝罪した。

 ――もう、あの頃みたいに、オスカール王国に居た時みたいな馬鹿な真似はしない。
 しっかりと地に足を付けて、真っすぐ仕事に打ち込んで、親父の跡を継ぐはずだった酒屋だと思いながら仕事をすると毎日が楽しかった。
「俺はまだやれる」「まだ頑張れる」……そう思いながら毎日を過ごした。
 剣を振るより、酒屋の方が俺には合ってる。
 良い事をすれば頭を撫でまわされて褒められるし、とても幸せだった。

 けれど……そんな俺とは反対に、水野は腐り始めていた。
 毎日「仕事に行きたくない」と小さくぼやき、それでも毎日仕事に行っていた。
 姫島も様子を見に行ったようだが、仕事で上手く働けないでいたらしい。
 やる気がないと叱られている姿をよく見かけたのだと言う。
 そこで、仕事終わりに俺の部屋に呼ぶと、二人で話をする事になった。


「水野、お前オスカール王国に帰りたいのか?」
「………」
「どうして真面目に仕事出来ないんだよ」
「だって、慣れない仕事ばかりだし」
「俺だって慣れないけど腐らず頑張ってるよ」
「だけど、でも」
「お前は言い訳ばかりだな」
「なっ! 酷い、そんな言い方ないじゃない!」
「いや、お前は言い訳ばかりで自分が悪いとは一切思わない。お前だって真摯に受け止めて仕事をしていれば腐らないで認められるっていうのに、その努力すらしない。いじけて文句しか言わず働きもしないなら、この家にも居れなくなるんだぞ? もうカウントダウンは始まってるんだぞ」
「!」
「本当にいいのか? そのままで本当に後悔しないな?」
「じゃあどうしろっていうのよ!! 私は働く事なんて考えてなかったし! 何で毎日汗水たらしながら働かなきゃならないの!? 楽して生活するって決めてたのに、決めてたのにこれじゃ奴隷と一緒よ! 社畜よ社畜!! そんな人生なんて絶対イヤ!!」


 ――そう叫んだ水野の声は一階にまで響き、静かに階段をのぼってくる音に俺は冷や汗を流し、その足音は俺の部屋の前で止まった。
 ノックをする音に喉が嗄れながら返事を返すと、姫島が笑顔で立っていた。


「下まで水野の声が聞こえたわ。井上は此処にいていいけど、水野は追いだし決定ね」


 水を打つような声に俺はヒヤリとし、水野はキッと姫島を睨みつけた。
 これ以上水野が口を開いたらと思ったが、その時には既に遅かった。
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