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第一章 要らないと言うのなら旅立ちます。探さないで下さい。

21 その頃オスカール王国では。(菊池side)

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 ――オスカール王国(菊池)side――


 あの日、気合十分で近くの森に魔物討伐隊と共に向かった。
 スキルも高いから楽勝だと笑う井上、怖いわと震える水野、魔物図鑑を見ていた俺は、シルバーウルフが今発情期であることを知っていた。
 それ故、オスがメスを求めて苛立っている。
 普通の状態ではない事を知っていた。
 それを二人に伝えると――。


「えー? 発情期で苛立ってるの~?」
「面倒くせぇなぁ」
「だから、何時もより強いと思うっす。じゃないとこんなに魔物討伐隊が出ないと思うし」


 そう声を掛けた途端、遠吠えが聞こえて周囲の魔素を確認すると、確かに魔物に囲まれているのが分かった。
 水野が強化魔法を掛けてくれたが、魔法のスキル上げとは結構時間が掛かる事を授業で教えて貰っている。
 この程度の強化魔法だと持って20秒だろう。
 こうして始まった魔物討伐隊とシルバーウルフの群れの討伐。
 井上は俺と水野の中ではたった一人の前衛な為、真っすぐ突っ込んでいった。
 最初こそ有利に戦えていたし、水野も強化魔法を掛け続けていたが、次第に数に押されて行く。


「くそ、なんでだよ、なんでこんなに数が多いんだよ!!」
「次々湧いてくるぞ!!」
「誰か魔物寄せでも持ってるのかってくらい多いな……」
「魔物寄せ……確か鈴のアイテムでしたっけ?」
「ああ、魔物にしか聞こえない鈴のアイテムだ! 魔法使いの勇者よく知ってるな!」
「物知りだが! ……魔法も当たっているが!! くそ! 数が多い!!」


 その時、水野が大事そうに何かを持っているのに気づき、俺は駆け寄って腕を引っ張り、掌から落ちた鈴を見て愕然とした。


「水野……お前なんで魔物寄せなんて」
「ち、違うわ! 私は王太子にお守りだって言われて持って行けって言われただけよ!」
「!?」


 王太子が!?
 信じられなかったが事実のようだ。
 俺は懐に隠し持っていた短剣で魔物寄せの鈴を壊すと、数分もせずにシルバーウルフの群れはいなくなった。
 呆然として「何故? どうして?」と口にする水野には悪いが、このままだと俺たちの命が危なかった。


「例え王太子でも、魔物寄せの鈴を渡すなんて、死んで来いって安易に言ってるもんっすよ!」
「ち、違うわ!! 彼は、彼はそんな人じゃ」
「本当に言ってるすか?」
「菊池?」
「おうおう、どうしたお前ら、喧嘩か?」
「「……」」


 ――俺は、近いうちにこの二人とは別れる道を選ぶかもしれない。
 この国は可笑しい。
 国の住民はやせ細っているし、暗い顔をしている者ばかりなのに、王族ばかりが贅沢をしている。
 それも違和感を拭えない理由の一つだ。
 それに、婚約者がいるのに言い寄ってくる王女も気に入らない。
 尻軽女は嫌いだ。
 高校時代は楽しいから毎日過ごせていたけれど、真面目に知らない国の事を勉強して、知らない魔術を勉強して、必死に訓練して……でも、金すら貰えない俺達は社畜以下じゃないか?


「取り敢えず、討伐報酬が貰えるのかどうか国王に聞くっす」
「確かに報酬は大事だよな!」
「そうね……」
「水野、次は無いっすよ」
「っ!」


 そう言うと俺は二人とは離れて魔物討伐隊と共に歩いた。
 多分、今俺達がいるレールの上は茨以上の地獄の道だ。
 使い潰されて終わるか、騙して勝つか。

 ……先生を探すしかない。

 謝って済む問題ではないけれど、先生を探しに行こう。
 その為には騙して騙し尽くして、金を貰ってここから去る。
 それしか方法はない。
 先生の事を門番は何か知らないだろうか?
 外に出た時におかしな点等無かっただろうか?
 取り敢えず、勇者一行ではあるが冒険者ギルドには登録しているから出入りは自由だ。
 先生も……姫島も冒険者ギルドに登録したんだろうか?
 一度冒険者ギルドに聞いてみるのもアリかもしれない。
 多分ないとは思うが、一応商業ギルドにも聞いてみよう。

 その為には一人の時間が欲しいと外出の許可を貰わねば。
 一日ぶらぶらしたら帰って来ると言えば納得されるだろう。
 特にこの戦闘の後だしな。
 この討伐を隠れ蓑に、俺は先生の痕跡を探す。
 そして、報酬で金を貰えたら――俺は此処を去る。

 井上は危機感が全くない。
 水野は男の事しか考えてない。
 自分の身を守れるのはもう、自分しかいないんだ!!

 この国への不信感が一気に膨らんで、もう何も信用できない。
 相手が騙すのならこちらも騙し通してドロンだ。
 問題は移動手段だが……どうしたものか。

 そう思って顔を見上げた時、全ての国に拠点があるというボルドーナ商会に目が行った。
 いっそ、ダメもとで先生の事を聞いて……一緒に乗せて行って貰えるなら乗せて行って貰えないだろうか?
 だが、此処は最後の砦だな。

 そう言って深い溜息を吐き、城についた俺達は美味しくもない食事をして風呂に入り、倒れ込む様にベッドに沈んだ……そんな日の事。


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