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第一章 国民が飢えることなく、まずはそこを目標に!

01 転生前の親も毒親で、転生後の親もクソ親で。

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 砂漠の国シュノベザール王国は、今日も国も民も飢えている。
 限られた食料、限られた水、限られた土のある生活……それが、俺の転生したシュノベザール王国の全てだった。
 何故転生したか分かるかって?
 ハッキリ覚えているからだよ。

 ――前世で実の両親に階段から突き落とされて死んだことを。

 俺の前世は生粋の日本人だった。名は中村キョウスケ。
 だが、俺は幼い頃から心臓が弱く、何時も病院のベッドで過ごしていた。
 二十歳までは生きられないと言われながら……。
 親からは「無駄金使い」と罵られ、それを見た看護師は悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
 それでも勉強が好きで、暇さえあれば、体調さえ良ければ本を読んだり勉強をしていたし、世情に詳しくなろうとテレビも見て色々と学習した。
 弟とは唯一仲が良かった。
 色々な遊びを教えて貰いながら、弟のように健康ならばと羨ましく思う事はあっても、恨む事は無かった。
 それでも時代と共に医療は進み、俺は30歳まで生きて自宅静養となった。
 そしてその日――二階の階段を降りようとした時、後ろから両親から突き飛ばされ、階段から落ちた事で打ちどころが悪く命を落とした。

 ――土砂降りの雨の降る、そんな日だった。

 しかし、自分の記憶がハッキリしたのは、俺がこの体――砂漠の国シュノベザール王国の第一王子であるシュライだと知ったのは、5歳の時の高熱を出した日の事だった。
 医者を呼ぶ金もない王家等笑えるだろう?
 三日三晩熱にうなされたお陰で、俺は過去を、前世を思い出すことができた。

 それと同時に、自分のスキルボードを見ることが出来るようになり、自分のスキルが【天候を操る程度の能力】しかも特大である事を知った。
 本来スキルは10歳の誕生日に知ることが出来るものだ。
 それを5歳で知る事が出来たのは助かった。
 自分のスキルを上手く使う練習をしながら、生まれたばかりの第二王子……俺にとっては弟の世話をしながら頑張った。

 暇さえあれば城にある図書館に通い、弟の隣で読んだ。
 この国の歴史、砂漠地域故に海沿いが近く隣国に常に狙われている事。
 文字の読み書きも自力で頑張った。
 両親は俺と弟に興味がなく、何時も飢えていてどうすれば国が豊かになるか等考えても居なかった。
 そんな両親、国王夫妻を俺はとても冷めた目で見ていたと思う。
 ――子供らしくもない目で。

 それから10歳になった頃、スキル鑑定が始まった。
 王族でありながら庶民に混ざりスキル鑑定を行う。
 それは、シュノベザール王国では当たり前の光景だと両親は言うが、参加した際の子供たちの目はクスクスと笑うような眼だったのは覚えている。
 だが、真っすぐ前を見据えスキル鑑定をすれば――この国に最も欲しい【天候を操るスキル】だったこともあり、両親は両手を叩いて喜んだ。
 ――今まで全く興味が無かった癖に。


「これでこの国も安泰だ! シュライ、その力は是非この国の為に使うんだよ」
「これで水不足や飢餓から少しでも脱する事が出来れば最高だわ!」
「はい、父上母上」
「ああ、とても賢い息子を持てて幸せだよ」
「自慢の息子ですわね」


 そう言って喜ぶ両親にほの暗く笑い、その笑みは誰かに見られる事なく闇に消えた。
 それから弟が10歳になるまで、この国で俺が成人したとみなされる15歳まで、両親にとって「出来た息子」と言うのを演じ続けた。
 弟に全く興味を示さない両親に変わり、俺はたった一人の弟――シュリウスの事を徹底して勉学から何から教えて行った。
 忙しくはあったが、俺が弟といると笑顔でいることが多いからか、文句ひとつ言わなかった。
 弟もとっくに両親は自分に関心がない事を気付いていて、必要以上に近寄ろうとはしなかった。

 俺に従順な弟のシュリウス。
 シュリウスのスキルがレアスキルと知れば、また父上たちは掌を返すだろう。


「シュリウス。お前のスキルがレアスキルである【緑の手】の持ち主だと言う事を俺は既に知っているが、父上と母上が知ればまた掌を返してお前を自慢だと言い出すだろう。嬉しいか?」
「面倒で厄介ですね……いっそ兄上が成人した暁には、あの二人には消えて貰いたい位ですのに」
「消えて貰う手はあるが……手に入れるのが面倒だな」
「面白いお話をしておいでですね、シュライ様にシュリウス様」


 そう声を掛けて来たのは父上に使える宰相――サファール宰相だった。
 切れ者でこの者がいなければとっくの昔に王家など滅んでいる。
 そして俺は敢えてこの男が通る時間帯に、廊下でその話をしていたのだ。


「サファール宰相、子供故の戯言ですよ」
「おやおや、私はシュライ様が王になった方が色々と不便が無いと思いましたが?」
「そうだろうか? まぁ色々改革したい事は山の様あるがな」
「その考えが出る時点で、現国王陛下よりは100倍マシですね」
「ははは、父上と母上は良くも悪くも頭が馬鹿だからな」
「自力で文字の読み書きを覚え、それを弟シュリウス様に教え、図書館の本は全て読み終えた貴方に仕えたほうが、私としても幸せなんですがね」
「ほう……ならば、お前のその忠誠心とやらを試そうか?」
「何なりと」


 そう言って恭しく頭を下げたサファール宰相に、俺はニヤリと笑みを浮かべると、即死に値する毒を二人分用意して欲しい事を伝えた。
 それに加えて、その毒が無味無臭であれば尚よし。そして美味い酒に混ぜられれば、更によしと伝えると、暫し考え込んだ末――。


「それを用意すれば、私はそのままシュライ様の宰相として扱って頂けますか?」
「無論だとも。貴殿の息子は俺の補佐官にしてやろう」
「ありがたき幸せ……」
「すまんな……父上と母上が無能すぎて辛い目に遭わせた。俺についた暁には、この国が変わる様を見せてやる」
「――……楽しみにしております」
「狙い目は俺の成人の儀の祝いの後だ。家族とサフィール宰相と共に酒を飲んで祝う席が設けられるらしい。そこで仕掛ける」
「はっ」
「最後まで酒を飲む両親に付き添う事は無い。毒の入った酒を最後に俺からの感謝の印とでも言って持たせていれば勝手に飲むだろう。後は冷たくなった二人が朝発見される。それでいい」
「畏まりました。酒瓶はどうしましょうか」
「毒鑑定が出来るものもいない……後で処分しておいてくれ」
「分かりました」


 まるでザルのようなこの王宮で、死者が出たとしても不思議はない。
 それが国王と王妃であってもだ。
 俺が国王になった暁には色々改善はするが、その為には頭の切れる宰相と補佐官、そして弟のシュリウスが必要だった。
 そして俺の15歳、この国では成人と呼ばれる年齢となった時、多少なりと天候が安定したこの国では僅かながらに取れた果物などを持ちより、祝いの席が設けられたのだった。


 ――さぁ、始まりの鐘が鳴る。
 無能な親は消え、俺の時代がやってくる。
 上手く事が運べば良いが……。
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