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272 戦いの後でのリディアの変化。

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――カイルside――


元姫殿下であるノジュが、オリタリウス監獄で死亡したという話は、直ぐにナカース王国全土に広がった。
特にダンノージュ侯爵領では『祝いの宴』が開かれる程に、国民からは祝された。
箱庭の皆も喜んだが、リディアは小さく「そう」とだけ告げ、余り感心が無いようだった。
薬を作ってからの今日、リディアの食欲は前程戻ってはいない。
元気もあまりなく、疲れが出ているのだと言って休む日も多かった。
リディアの健康状態に関してはドミノが付きっ切りで見ている為、問題は無いが……一カ月もこの状態だと心配になってくる。
ドミノに聞くと、一種の『燃え尽き症候群』ではないかと言われた。
その間は、ゆっくり過ごさせる方が良いと聞かされていた為、皆もリディアを気遣いゆっくりさせていたのだが――。

5か月後……リディアは何も食べれなくなった。
食べては嘔吐し、水すら受け付けない身体に俺達箱庭の皆も、祖父母も心配した。
話を聞いた国王陛下とナジュ王太子殿下ですら慌てたという。
しかし、検査の結果――リディアが妊娠していることが判明した。
それも妊娠3カ月ほどで、紛れもない、俺との子供だった。

すると、物は食べれず嘔吐は繰り返すが、リディアは少しだけ元気になった。
しかし、これまでの無理がたたっていることもあり、リディアには絶対安静が言い渡され、安定期に入るまでは祖父母への報告も控えた。


「大丈夫かリディア? 辛いな……苦しいな」
「そうね……胃がふやけそうよ……妊娠ってこんなに大変だったのね」
「いや、ライトの時、母は平然としていたから、個人差だと思う」
「不公平だわ! でもお腹の中で元気に生きているってことよね……頑張るわ」
「ああ、俺も出来るだけ付き添うから」
「ありがとうカイル……」


そうは言っても、俺に出来る事なんて少なかった。
洗濯はキッチリやったし、部屋の掃除だって完璧にしつつ、嘔吐袋を交換したりと、その程度しか出来なかったが、毎日検診にくるドミノに色々相談しながら日々進んでいった。
そして安定期に入ったころ、やっとリディアの悪阻も収まり、お腹も少し目立つようになってきた為、緩やかなワンピースが作られた。
美女三人組による、渾身の作品らしい。
その後もワンピースは大量に作られていき、婆様達は小さい服を沢山作り始めた。
リディアの気分転換に休憩所にリディア専用のゆったりとした椅子が作られ、そこに座っているとフォル達がやってきた。


「リディア姉!!」
「今日は外に来れたんですね!!」
「皆、元気そうで良かったわ! 今日は気分も良いし、少しでも運動できたらと思ってやってきたんだけど、子供達も元気だし皆楽しく働いていて安心したわ!」
「だってこの箱庭ですもの。皆が快適に楽しく過ごせるのは当たり前だわ!」
「ふふふ、マリシアの言う通りね!」
「ボク、リディア姉の赤ちゃんの為に色々作ろうと思ったんですけど……既に色々作られていたので、既存の物を作るくらいか出来ませんでしたよ。リディア姉は本当に凄いです」
「ええ、粉ミルクに哺乳瓶に乳首! それに紙オムツに御風呂に入れる為の赤ちゃん用の桶も!!」
「質のいいガーゼもありますし、赤ちゃんをあやす為のバウンサーもありますわね」
「おもちゃも沢山あるよ!」
「赤ちゃんの世話は私とフォルにお任せください! 元スラムで赤ん坊の世話もしてきた私たちがついてますから!」
「心強いわ! その時はよろしくね?」
「「はい!!」」


そう言って笑い合っていると、ナウカが一礼して俺たちのもとへとやってきた。


「それと、ご報告です。ダンノージュ侯爵領の託児所は現在も滞りなく、問題なく子供達が生活しています。数日泊まり組も偶にいますが、親が冒険者なので仕方なくという感じらしいです」
「そう、良かったわ。そう言う話も聞くとホッとするわね」
「私の方からもご連絡しますね、リディア姉さん」


と、背後からやってきたのはライトとロキシーだ。
此方も報告することがあるらしい。


「現在、王太子領とダンノージュ侯爵領にて、ダンノージュ侯爵家出資の孤児院と老人ホームの建設が進んでいます。老人ホームの方は、入所したい方を募集に掛けていたのですが、かなりの人数が集まりました。それで、介護が出来る介護師を多数応募したところ、かなりの人数を雇う事も出来ました。これで後は老人ホームが出来れば、終の棲家として提供できます」
「素晴らしいわ! もうそこまで進んでいたのね!」
「お腹に赤ちゃんがいるリディアちゃんに無理はさせられないからね。そこはアタシたちだって頑張るさ。ねぇライト?」
「ええ。兄さんにはリディアさんについていてもらいたいですし」
「悪いなライト、でも助かってる」
「いえいえ、私もついに叔父になるんですよ? 楽しみじゃないですか!」
「そう言えば、つい最近ライトさんは誕生日でしたわね。12歳おめでとうございます」
「有難うございます。早く成人してロキシーを妻に迎えたいとばかり思ってしまいますね」
「あらあら!」
「大丈夫だよリディアちゃん、口説かれ慣れた」


そう言って笑い合うリディアとロキシーに、周りの皆もホッとしている。
やっぱり、リディアは元気なのが一番だ。

それに、リディアと出会ってから様々な事があった。
王太子領がまだ前の王国だった頃から、彼女と共にいて。
初めて道具店サルビアを持って。
ネイルサロンを開いて。
娼館で働いていた女性達を助けて。
色々な店を次々に作って。
その上、ダンノージュ侯爵領では商店街まで作った。
食の革命もおこし、焼肉店と丼物屋は今では知る人ぞ知る料理店だ。
角打ちのお陰で情報には事欠かない。

リディアは様々なものをドンドン作り上げ、沢山の人たちの為に成る物を作り続け、やっと一息付けた今――お腹に宿った俺との間に出来た命がある。
子育てはゆっくりだ。急いて子育て出来るモノではない。


「次は、我が子をしっかりと導きつつ冒険させてやらないとな」
「あら? 女の子だったら冒険させられるの?」
「無理だな!」
「よね?」
「まぁまぁ、アタシはリディアちゃんの子供なら男の子でも女の子でも絶対可愛いと思うけど? 護衛術ならアタシが師匠になってあげる!」
「それは……」
「頼もしいわ!!」
「ここの箱庭には各種スペシャリストがいますからね」
「スペシャリストしかいない気がするわ」
「じゃあ将来有望ですね!」


そう言って平和に笑い合える今こそが、一番求めていた時間かもしれない。
明日は久しぶりに祖父母に会い、その後、陛下に呼ばれている。
一体どんな話が飛び出すかは分からないが、リディアの負担になるようならば直ぐに帰ろう。
そう心に誓った。

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