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224 リディアの考えた、体験型商売!

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――カイルside――


新しく弟子をとってからのリディアはとても忙しそうに日々を過ごしていた。
特に王都での商売については悩んでいる所もあるようで、寝ている時も偶に魘されている事もあったくらいだ。
それが吹っ切れたようになったのは――今日の朝だった。


「おはようリディア……なんだ、何時から起きてたんだ?」
「おはようございますカイル。実は案が湧き出て溢れ出て……今までにない商売をしたいと思いますの!」
「今までにない商売?」
「ええ、今までわたくしが作った事がない事例……と言いますか、いえ、似たような物ならあるのですけれど」
「一体どんな商売を考え付いたんだ?」


バリバリと音がなる程書きなぐっているノートの音に苦笑いして問いかけると――。


「体験型の商売ですわ!」
「体験……型?」


聞いたこともない商売が飛び出した。
そして幾つかのノートを見せて貰うと、リディアは興奮した様子で語り始めた。


「マリシアやファビー達と話し合っていたんですけれど、貴族女性とはとても見た目を気になさるそうなの。男性もだわ! そこで、わたくしが寝る前に色々と動きをしているでしょう?」
「ああ、確か……ヨガとかピラティスとか……そんな名前だったな」
「その他にも太極拳とかもありますし、フラフープにトランポリンはしてますわよね?」
「ああ、しているな」
「それらは身体を整える為の儀式としてやっていたのですけれど、よくよく考えると体型維持、もしくは細い腰を作る為、お尻を垂れさせない為、脂肪を減らすための運動でもありますの。男性で言えば体幹がよくなり、多少ぶつかってもブレナイ体にはなりますわ」
「確かに冒険者も体幹が命だと言われているし、貴族男子だと体幹は馬術なんかで鍛えると聞いたな」
「そう、でもそれは室外での話。室内でのそう言った運動が出来るとしたら?」
「貴族なら……するんじゃないか?」
「そこですわ」
「――なるほど。それを商売にするってことか?」
「ええ、女性なら30分で効果の出る運動も用意できますわ」
「そいつは凄い!」
「名付けて――ダイエット・サルビア!」
「ダイエット……美しくなるためのか?」
「それ以外にありますの? ダイエットを目的とした商売ですわ。無論ファビーとの提携も必要ですし、アラーシュ様からの許可も必要とはなりますけれど」
「そんな大掛かりな商売にするのか?」
「相手は貴族ですわ。何か起きてからではわたくし達では対応できませんし、貴族社会をよくご存じのアラーシュ様の許可が必要ですの!」


そう息巻くリディアに、確かに女性は常に美との戦いだと聞いているし、需要にあった商売だろうとは思ったが……。


「だが、男性はどうするんだ? 男性はダイエットよりは筋肉を付けたいと思う方だと思うが」
「わたくしは、悲しきかな女性に生まれましたので、男性の方は良く解りませんの。でも人間半分は女性ですわ。そして結婚した場合、女性と男性どっちが強いかと言うと女性ですわ。そこを逆手に取ります」
「そ、そうか」
「美しいスタイルと言うのは、女性に自信を与えます。自信がつけば自ずと美しくなろうとするものですわ。そうでなくとも、わたくしのように健康オタクであれば食いつくでしょう」
「な、なるほど」
「これは、絶対に売れますわ。いいえ、ダンノージュ侯爵家の威信をかけて売りますわ!」


そこまで言い切ったリディアに、俺は最早言葉はない。
寧ろリディアがそこまでやる気になっているのなら止めることは不可能だろう。
しかしダイエットか……。
健康的に痩せる為のダイエット、と言うのは確かに大事だ。
健康維持のために運動する女性がいても良いだろうし、リディアの事だから運動音痴でもなんとかなる運動を取り入れるだろう。


「それで、どういう感じで展開するつもりだ?」
「ええ、ヨガやピラティス、太極拳にフラフープを隔週に入れ込んだジム……では分かりませんわね、教室にしようと思ってますの。毎月月謝を支払って貰い、既に引退した女騎士さん辺りを8人程雇って覚えて貰いますわ。後は既に引退したメイドさん達。特にお嬢様や奥様のお肌のメンテをしていた方々を雇いますの。温泉で美容関係もしようかと思ってますわ」
「身体を美しくさせる為に特化した商売か」
「ええ、温泉も元々は体験型といっても問題ないですもの。そこで美に追求した場所を作ってやると、どうなります? 運動して汗を掻いた後、温泉で身体を癒し、畳のいい香りがする場所で身体を解し肌も美しくする事で、常日頃抱えているストレスも発散する。これは一つの大きな解放ですわ!」
「その為にはファビーの協力も必要だし、お爺様の許可も確かに必要になってくる」
「ええ! 何よりこの商売に関しては、完全予約制ですわ!」
「完全予約制……ネイルサロンみたいにか?」
「そうですわ。ネイルサロンに付加価値をつけたいんですの」
「付加価値」
「ラストの温泉が終わり、ゆったりと過ごしている時に指先が綺麗になる……素晴らしいとは思いませんこと?」


きっと、女性にしか分からないアレだろう……美へのナンタラとか言う奴だろうか?
リディアもやはりその辺は女性らしかったんだな。
何時も駆け回って化粧っ気も全くない彼女だが、リディア自身が美しくなりたい願望もあるんだろう。
――元々は健康オタクではあるが。


「良いんじゃないか? 体験型商売。やっているとしても馬術を各家で教えるくらいしか体験型なんてないだろうし」
「ええ、ですので目新しい事が好きな貴族には持って来いだと思いましたの。しかも結果がでて美しくなるのなら問題もありませんし、もし結果が出なくともラストの温泉での美しくなれると言う事だけでも大きく変わりますわ!」
「結果がでても出なくてもラストは美味しいってところか」
「そうですわね。結果は出て欲しいですけれど、人間の身体って早々簡単には結果は出ませんから」
「そこで、温泉での癒し効果に美を加える訳だな」
「そうですわ」
「分かった。後はファビーを踏まえて皆で話し合おう」


俺はリディアの考える商売が外れたことが無いのを知っている。
ましてや美をメインにした商売なら絶対に外れない。
他にも子供用の店を作ると言うし、まずはそこから手掛けて、話を広めていくのだろう。
広告も織り込んで配っていくのだろうし……そうなると広い屋敷が必要になる。
確かに……お爺様案件だな。


「しかし、暫く夢でうなされる程悩んでいたのにあっという間に案を思いつくなんて凄いなリディアは」
「生みの苦しみですわ」
「そうか……」
「でもハッキリと、今までにない商売のカタチとして出しますわ。ダンノージュ侯爵家の名に懸けて」


――実に頼もしい。
本当にリディアは商売人だ。
こんないも頼もしい妻を持てたことは、誇り以外の何物でもないだろう。


「しかし、成功例が無いとダメなんじゃないか?」
「ええ、ですからわたくしのスタイルを売り込みますわ」
「は?」
「わたくしの存在自体を宣伝塔にしますの。結果をだしているのがわたくししかいませんから」


――これは、思った以上に俺が大変かもしれない。
そう思ったのは俺だけではなかったようで……。
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