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218 カイルの祖母との初対面。
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お泊り保育から数日後――。
わたくしとカイルは、王都へと向かいましたわ。
向かったのは王都にあるダンノージュ侯爵家のタウンハウス。ここが王都と箱庭の最初の行き来の場所になりますの。
アラーシュ様は朝と夜はこちらで過ごされているそうですわ。
「ミーヤ、帰ったぞ」
アラーシュ様が帰宅する時間帯にあわせてわたくし達も向かうと、白衣を着たロキシーによく似た美しい女性が出迎えてくれましたわ。
「お帰りなさいませあなた。そちらがカイルとリディアね? 改めて初めまして。カイルの祖母のミーヤよ」
「初めましてお婆様」
「初めまして、リディアと申します」
「わたくしの事は大まかにはアラーシュから聞いているかしら? わたくしは薬師なの」
「存じ上げております」
「今、王都では困った薬が出回っていて……その為の薬を何とか作るべくスキルを上げている所よ。全く、貴族達にも困ったものね」
「困った薬ですか?」
「ええ、液体なのか錠剤なのかは不明なのだけれど、依存性の高い薬が出回っているの。特に貴族の間で多いわ。薬師たちも頑張っているのだけれど……」
「液体なのか錠剤なのか区別がつかないとなると、とても恐ろしい薬に思えますわ」
「そうね、でもお陰で煩わしい茶会なんかは国王陛下の命令で禁止令が出されたわ。夜会も殆ど無くなって平和な限りよ」
そう言って廊下を歩く姿はロキシーが年を取ったらこんな感じかしらと思ってしまう程に似ていて、わたくしはどう接して良いのか悩みますわ。
でも、とっても凛と為さったお方。尊敬できるお婆様に違いないわ。
「今日から此処も拠点にすると言う話を聞いていますわ。明日からは王都を回るのでしょう? 商売人としてどんな商売をダンノージュ侯爵家にもたらすのか楽しみです。特に王都の商売だと、色々と難しいでしょう」
「そうですわね……王都が今どんなものがあるのか、流行っているのかも知りたいですもの」
「最初の商売をするにしても、貴族がどれくらいの多さでいるのか、庶民層は、貧困層はと調べることも多いな」
「王都には冒険者はいないのよ。だから道具店は開くとしても無駄になってしまうかしら」
「そうなのですね」
「ただ、ダンノージュ侯爵領で売っている商品の話題は聞くことはあるわ。泡切れの良い洗剤や汚れ落ちがいい洗剤とか、特に多いのはネイルサロンの話かしら。貴族が多く住む王都だからこそ、女性の美への追及は凄いみたいなの」
「ネイルサロンですか」
「後は話題として今一番人気なのは、陛下御夫妻が病みつきになっている温泉と言うものね。陛下御夫妻が若返ったと評判よ。リディアに関しては、箱庭師の根本から考えなおす機会を与えた者として名を知らぬ者はいないんじゃないかしら」
「恐縮ですわ」
「今、王都に何が必要なのかはあなた方が見て決めるのが一番ね。ただ、我がままを言わせて頂けるとしたら……貴族よりも庶民や貧困層を何とかして貰えると助かるわ。私は月に一度だけ庶民や貧困層の治療に向かうのだけれど、やはり貧困層は大変みたいで」
やはり貧困層とはどこでも辛い立場にあるのね。
でも、彼らが辛い立場なのは仕事がないと言う意味合いではなさそうだわ。
「仕事がないと言う訳ではなさそうですが、貧困層は何故多いのでしょう」
「良い着眼点ね。貧困層の半分は、自堕落に過ごした元貴族が多いわ。仕事をしたがらない人間が多いと言う事ね。もう一つは、仕事中なんらかの事があって腕や足を落とさねばならなかった者たち。彼らには罪はないと思うわ。そしてそんな彼らの子供達や妻もまた、同じように貧困層に落ちているのよ」
「腕や、足ですか。それが治れば彼らは仕事に復帰できると言う事でしょうか」
「ええ、仕事に戻りたいと言う方々はとても多いわ。酒におぼれるわけでもなく出来る仕事をコツコツしているけれど、一度貧困層に落ちると、中々這い出てくるのは難しいの」
「「……」」
「それに、一度身体が壊れると、元の職場に戻る事も出来ないのが問題ね。それに、手足が戻ったとしても、偏見を持つ方々はとても多いでしょうし」
「手足が戻ってもですか?」
「急に手足が戻ったとしても、王都では気味悪がれるのが関の山ね。そういう所は保守的なの」
「そうなのですね。ところでミーヤ様。その腕や足のない方々はどれくらいの人数いるのでしょうか」
「数はそんなに多くは無いわ。30家族前後くらいかしら」
「では、近いうちにそちらに伺う事はありますの?」
「ええ、明後日には行くわ。それがどうしたの?」
「わたくしの箱庭では、お年寄りから若い子供まで幅広く生活をしていますが、彼らだけでは足りない仕事も多いため、30前後の家族でしたら箱庭でも生活が可能だと思いましたの。それに寒い冬に痛めた足が痛いのもお辛いでしょう。箱庭で保護をすると言う形でも宜しいでしょうか」
「そうして頂けたら嬉しいけれど」
保護したついでに、破損部位修復ポーションを使って腕や足を治しても問題は無さそうですわね。新しい職場というのは見つかりにくいかも知れませんけれど、王都が保守的だと言うのなら、王太子領でも職を探しながらいつかは出て行く、もしくは、箱庭で仕事をするのでも良さそうですもの。
「ではそうさせて頂きたいですわ。それとスラム孤児はいるのでしょうか」
「それは居ないわ。皆が孤児院を頼っているのが多いの。王都の孤児院は王家が管理しているのだけれど、成人していない子供達なら全員がそこに集まって生活をするわ。親も子供を捨てる場合は孤児院の前に……と言うのが、昔からあることなの」
「そうなのですね」
良かった……王都ではスラム孤児はいないのね。
そう思いホッとすると、ミーヤさんは少しだけ嬉しそうな表情でわたくしをみましたわ。
「他者に優しく出来る心を持つ事は美しい事だわ。でも、利用される事もあるの、人間とはそう言うものよ」
「はい……」
「人間関係とは、利害が一致してなければ成り立たないモノだとわたくしは思うわ。悪意あるものは悪意を持って人の良い仮面を掛けて近づいてくるし、利益が欲しい人も同じね。純粋な心を持っている人は食い殺されて終わるわ」
思わぬ言葉にわたくしとカイルが目を見開いてミーヤ様を見ると、少しだけ悲しそうに語られましたわ。
「貴族とはそう言う生き物よ。一般の人間でも同じでしょう。人間とは二面性を持っている生き物ですから」
「そう……ですわね」
「リディアは外に出ることは無いでしょうが、カイルは違うわ。貴方が食われればリディアも食われる事を肝に免じなさい」
「はい」
「人間とは、利害が一致している間は仲良くできるわ。それを上手く使いなさい。一致しなくなれば相手の弱みを握って動かしなさい。貴族社会において、情報こそが全てよ」
「「はい」」
「後は慣れね。貴族の事はカイルに任せて、リディアはどんな商品にするか、商売の方を考えていれば大丈夫よ。あとは、箱庭師を弟子に取るのでしょう? 一週間後には皆さんお集まりになるから、用意を進めておいてね」
「はい!」
こうして挨拶も終わり、箱庭に戻ると王都は一筋縄ではいかない空気を感じましたわ。
それに出回っていると言う薬も気になりますわね。
それはカイルも思っていた様で、少し渋い顔をしながら「貴族社会は厳しいな」と呟いておられましたわ。
「まぁ、何とかするしかないさ。リディアは30家族程度のテントを用意か?」
「そうですわね、まずはテント暮らしになりますけれど、保護した彼らが王太子領で仕事を探すにしても、なんにしても大変ですもの」
「そうだな、一組二組くらいの家族は残って欲しい所だが」
「こればかりは分かりませんわ。流石に大人の方を入れるので神殿契約は結びますけれど」
「そうだな」
「毎回思う事ですけれど、変な方がいらっしゃらない事を祈るばかりですわね」
「全くだな」
――こうして日は過ぎて三日後。
カイルと一緒にわたくしはお婆さまと一緒に貧困層の多い地区へと向かう事になる。
わたくしとカイルは、王都へと向かいましたわ。
向かったのは王都にあるダンノージュ侯爵家のタウンハウス。ここが王都と箱庭の最初の行き来の場所になりますの。
アラーシュ様は朝と夜はこちらで過ごされているそうですわ。
「ミーヤ、帰ったぞ」
アラーシュ様が帰宅する時間帯にあわせてわたくし達も向かうと、白衣を着たロキシーによく似た美しい女性が出迎えてくれましたわ。
「お帰りなさいませあなた。そちらがカイルとリディアね? 改めて初めまして。カイルの祖母のミーヤよ」
「初めましてお婆様」
「初めまして、リディアと申します」
「わたくしの事は大まかにはアラーシュから聞いているかしら? わたくしは薬師なの」
「存じ上げております」
「今、王都では困った薬が出回っていて……その為の薬を何とか作るべくスキルを上げている所よ。全く、貴族達にも困ったものね」
「困った薬ですか?」
「ええ、液体なのか錠剤なのかは不明なのだけれど、依存性の高い薬が出回っているの。特に貴族の間で多いわ。薬師たちも頑張っているのだけれど……」
「液体なのか錠剤なのか区別がつかないとなると、とても恐ろしい薬に思えますわ」
「そうね、でもお陰で煩わしい茶会なんかは国王陛下の命令で禁止令が出されたわ。夜会も殆ど無くなって平和な限りよ」
そう言って廊下を歩く姿はロキシーが年を取ったらこんな感じかしらと思ってしまう程に似ていて、わたくしはどう接して良いのか悩みますわ。
でも、とっても凛と為さったお方。尊敬できるお婆様に違いないわ。
「今日から此処も拠点にすると言う話を聞いていますわ。明日からは王都を回るのでしょう? 商売人としてどんな商売をダンノージュ侯爵家にもたらすのか楽しみです。特に王都の商売だと、色々と難しいでしょう」
「そうですわね……王都が今どんなものがあるのか、流行っているのかも知りたいですもの」
「最初の商売をするにしても、貴族がどれくらいの多さでいるのか、庶民層は、貧困層はと調べることも多いな」
「王都には冒険者はいないのよ。だから道具店は開くとしても無駄になってしまうかしら」
「そうなのですね」
「ただ、ダンノージュ侯爵領で売っている商品の話題は聞くことはあるわ。泡切れの良い洗剤や汚れ落ちがいい洗剤とか、特に多いのはネイルサロンの話かしら。貴族が多く住む王都だからこそ、女性の美への追及は凄いみたいなの」
「ネイルサロンですか」
「後は話題として今一番人気なのは、陛下御夫妻が病みつきになっている温泉と言うものね。陛下御夫妻が若返ったと評判よ。リディアに関しては、箱庭師の根本から考えなおす機会を与えた者として名を知らぬ者はいないんじゃないかしら」
「恐縮ですわ」
「今、王都に何が必要なのかはあなた方が見て決めるのが一番ね。ただ、我がままを言わせて頂けるとしたら……貴族よりも庶民や貧困層を何とかして貰えると助かるわ。私は月に一度だけ庶民や貧困層の治療に向かうのだけれど、やはり貧困層は大変みたいで」
やはり貧困層とはどこでも辛い立場にあるのね。
でも、彼らが辛い立場なのは仕事がないと言う意味合いではなさそうだわ。
「仕事がないと言う訳ではなさそうですが、貧困層は何故多いのでしょう」
「良い着眼点ね。貧困層の半分は、自堕落に過ごした元貴族が多いわ。仕事をしたがらない人間が多いと言う事ね。もう一つは、仕事中なんらかの事があって腕や足を落とさねばならなかった者たち。彼らには罪はないと思うわ。そしてそんな彼らの子供達や妻もまた、同じように貧困層に落ちているのよ」
「腕や、足ですか。それが治れば彼らは仕事に復帰できると言う事でしょうか」
「ええ、仕事に戻りたいと言う方々はとても多いわ。酒におぼれるわけでもなく出来る仕事をコツコツしているけれど、一度貧困層に落ちると、中々這い出てくるのは難しいの」
「「……」」
「それに、一度身体が壊れると、元の職場に戻る事も出来ないのが問題ね。それに、手足が戻ったとしても、偏見を持つ方々はとても多いでしょうし」
「手足が戻ってもですか?」
「急に手足が戻ったとしても、王都では気味悪がれるのが関の山ね。そういう所は保守的なの」
「そうなのですね。ところでミーヤ様。その腕や足のない方々はどれくらいの人数いるのでしょうか」
「数はそんなに多くは無いわ。30家族前後くらいかしら」
「では、近いうちにそちらに伺う事はありますの?」
「ええ、明後日には行くわ。それがどうしたの?」
「わたくしの箱庭では、お年寄りから若い子供まで幅広く生活をしていますが、彼らだけでは足りない仕事も多いため、30前後の家族でしたら箱庭でも生活が可能だと思いましたの。それに寒い冬に痛めた足が痛いのもお辛いでしょう。箱庭で保護をすると言う形でも宜しいでしょうか」
「そうして頂けたら嬉しいけれど」
保護したついでに、破損部位修復ポーションを使って腕や足を治しても問題は無さそうですわね。新しい職場というのは見つかりにくいかも知れませんけれど、王都が保守的だと言うのなら、王太子領でも職を探しながらいつかは出て行く、もしくは、箱庭で仕事をするのでも良さそうですもの。
「ではそうさせて頂きたいですわ。それとスラム孤児はいるのでしょうか」
「それは居ないわ。皆が孤児院を頼っているのが多いの。王都の孤児院は王家が管理しているのだけれど、成人していない子供達なら全員がそこに集まって生活をするわ。親も子供を捨てる場合は孤児院の前に……と言うのが、昔からあることなの」
「そうなのですね」
良かった……王都ではスラム孤児はいないのね。
そう思いホッとすると、ミーヤさんは少しだけ嬉しそうな表情でわたくしをみましたわ。
「他者に優しく出来る心を持つ事は美しい事だわ。でも、利用される事もあるの、人間とはそう言うものよ」
「はい……」
「人間関係とは、利害が一致してなければ成り立たないモノだとわたくしは思うわ。悪意あるものは悪意を持って人の良い仮面を掛けて近づいてくるし、利益が欲しい人も同じね。純粋な心を持っている人は食い殺されて終わるわ」
思わぬ言葉にわたくしとカイルが目を見開いてミーヤ様を見ると、少しだけ悲しそうに語られましたわ。
「貴族とはそう言う生き物よ。一般の人間でも同じでしょう。人間とは二面性を持っている生き物ですから」
「そう……ですわね」
「リディアは外に出ることは無いでしょうが、カイルは違うわ。貴方が食われればリディアも食われる事を肝に免じなさい」
「はい」
「人間とは、利害が一致している間は仲良くできるわ。それを上手く使いなさい。一致しなくなれば相手の弱みを握って動かしなさい。貴族社会において、情報こそが全てよ」
「「はい」」
「後は慣れね。貴族の事はカイルに任せて、リディアはどんな商品にするか、商売の方を考えていれば大丈夫よ。あとは、箱庭師を弟子に取るのでしょう? 一週間後には皆さんお集まりになるから、用意を進めておいてね」
「はい!」
こうして挨拶も終わり、箱庭に戻ると王都は一筋縄ではいかない空気を感じましたわ。
それに出回っていると言う薬も気になりますわね。
それはカイルも思っていた様で、少し渋い顔をしながら「貴族社会は厳しいな」と呟いておられましたわ。
「まぁ、何とかするしかないさ。リディアは30家族程度のテントを用意か?」
「そうですわね、まずはテント暮らしになりますけれど、保護した彼らが王太子領で仕事を探すにしても、なんにしても大変ですもの」
「そうだな、一組二組くらいの家族は残って欲しい所だが」
「こればかりは分かりませんわ。流石に大人の方を入れるので神殿契約は結びますけれど」
「そうだな」
「毎回思う事ですけれど、変な方がいらっしゃらない事を祈るばかりですわね」
「全くだな」
――こうして日は過ぎて三日後。
カイルと一緒にわたくしはお婆さまと一緒に貧困層の多い地区へと向かう事になる。
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