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184 リディアのストレス発散と、お泊り保育での冒険譚依頼。

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「リディア様、お疲れさまです」
「ええ、皆さんもお疲れさま。あら? フォルは何処に行ったのかしら?」
「フォルさんなら、キリアさんと一緒に厨房の方へ行きましたよ。明日孤児院に持っていくカレーのルーとハーブソルトをロストテクノロジーで作るのだそうで」
「ああ……フォルなら大丈夫ですわね。甘口しか今は教えてませんから」
「それにしても、人が多いのなら、人を育てて財産にすればいい。そして技術者をお金にするのだという発想は驚きました。流石リディア様です」
「ほ……本当です! それが実現したら、沢山の人たちが手に職を持ち、仕事も安定して出来ると言う事ですよね!」
「わたくしは提案を出しただけに過ぎないわ。細かい調整は王太子様に押し付けてきましたもの」
「人こそが財産と言う発想が凄いんです! 私感動しました!」


何かしら……お二人から只ならぬ尊敬の念を感じますわ。
元の世界では派遣社員と正社員の違いで悩んだりと色々したのに、その案をこちらにあわせるようにして言ってみただけですの……わたくしが凄いんじゃありませんのよ!!


「それで、リディア様は保護活動にも慈善事業にも熱心だったんですね」
「人こそ財産……リディア様のお考え、確かに私たちは受け取りました!」
「そうだと嬉しいわ。でもその財産も、衣食住があって当たり前の幸せがあってこそだとも思うの。王太子様達には頑張って頂きたいわね」
「「はい!!」」


カフェラさんとファビーに押されつつも何とか答えると、二人は嬉しそうに頷きあっていましたわ。
きっと何か感じるものがありましたのね。
その後、二人が見守る中子供達用のワンタッチテントや寝袋、それに魔石で簡単かつ丈夫なランタンを作っていると、いつの間にか帰ってきたフォルが興味深そうに触ったりしつつ観察していて、その頃カイルがレインさん達を連れて帰ってきましたわ。
丁度仕事が終わったのでしょうね。
黙々と一人用のキャンプ道具を作っていると、わたくしを見たカイルは無言で近づいてきて、わたくしの肩をトントンと叩きましたわ。


「リディア、今日はお疲れ様」
「ええ、カイルもお疲れさま」
「それで、こちらの商品は一体何に使うのか教えてくれないか?」
「ええ、ちょっとストレス発散に、子供達の『お泊り保育』で使うワンタッチでテントになるものや、頑丈な魔石ランタン、暑さ寒さに対応の寝袋などを作っていましたわ」
「あ――……そうか、今日はリディアの嫌いな貴族連中もいたからストレス発散で作っていたのか」
「ええ、ストレス発散には新しい商品、それも、近々使うモノを作るのが一番ですもの! オムツも各孤児院用に各種大きさを揃えて50個ずつ作りましたわ!」
「リディア姉、僕も同じくらいの個数を作れました!」
「流石わたくしの弟子ですわフォル!」
「リディア……相当ストレスが溜まったんだな。今日はもう無理をするな。そしてこの商品に関しては後日話し合おう」


一体何をどう話し合うのかしら。
ただのキャンプ用品でしてよ?


何とかカイルの手を使って立ち上がると、レインさん達の目が死んだ魚の目になっていますわね。その目線はキャンプ用品に注がれていますけれど、これはお泊り保育用ですわ。
まぁ、売り物にするかどうかは、また別の機会にでも話し合えばいいですものね。
すると――昼間にキリアさんに呼ばれていたミレーヌさんもやってきて、食事をしながらの報告会となりましたわ。

各店舗売り上げは上々、そろそろ新商品も落ち着きつつあるとの事で、売れ行きもやっと穏やかになりつつあるそうですわ。
特に主婦層や冒険者層からは、洗剤系が良く売れているようで、大口依頼が殺到しているのだとか。
飲食店は無論、宿屋協会からも是非にと大口依頼として定期的な仕入れをお願いしたいという連絡があったそうで、定期収入は美味しいですわ! なんて思いながらニコニコしながら聞いていましたの。


「店の話としてはこんなところかな」
「全ての店が順調そうで良かった。だが、王都の貴族用ネイルサロンの出入りが少なくなったというのであれば丁度いい、6人程ダンノージュ侯爵領のネイルサロンで働いて貰い、残り計算や予約を取れる人を別途雇う事で何とかなりそうだな」
「そうですわね。後はミレーヌさんとのお話がありまして。キリアさんからはお話を聞いていると思いますけれど、6歳から12歳までのお子様たちに対し『お泊り保育』をするのはどうかしらと言う案ですわ」
「はい、キリアさんから聞いています。書類も頂いたのですが、本当に宜しいのでしょうか? 6歳から12歳と言えばわんぱく盛りですから、皆さんの迷惑にならないか心配です」
「最初に言っておけば宜しいのよ。午後は社会勉強の為の時間ですと。他人に迷惑をかける等と言った行為は社会では許される事でない事も教えて置けば、目立った悪さはしないでしょうし、社会に出る大人として行動してみるようにと言えば、少しは理性が働きますわ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
「そのお泊り保育のラストでは、砂場にテントを張って冒険者の真似事をしてみるという催しもしてみようかと思いまして、準備は進めていますの!」
「冒険者の真似事! 男の子が喜びそうです! でも6歳から10歳となると50人規模になるので、まずは6歳からとかに分けた方が良いと思います」
「う……それもそうですわね。全員は無理ね」
「はい……」
「では、6歳組、7歳組みたいに、順番に回していきましょう」
「はい!」
「冒険者の真似事なら、夜の少しの時間ならSランク冒険者が助太刀するぜ?」
「Bランクでいいなら俺も参加しよう」
「助かりますわ!」
「なんて心強い!! 冒険譚も話して頂けると嬉しいです!」
「おう、焚火の前で皆に冒険譚を話してやるよ」
「でも、怖い話はなしですわよ? 子供達が夜怖がって寝なくなりますわ」


ノイルさんを始めとするSランク冒険者からの話となれば、きっと喜んで話を聞いてくれるかもしれませんわね! でもダンノージュ侯爵領での冒険譚も聞きたいですわね。


「ライトさん、ナインさんたちに頼んで、ダンノージュ侯爵領の冒険者の冒険譚を話して貰える事って出来るのかしら?」
「王太子領だけじゃ物足りないってか?」
「いえ、二カ所の冒険譚を聞くのは、いい刺激になりそうだと思いましたの。違う土地の冒険も大事ですけれど、地元の冒険も知りたいでしょうし」
「なるほど、一つで二度おいしい」
「ですわ」
「それなら、ナインさんが明日も来られますし、話をしてみます。お泊り保育での出来るだけ怖くない冒険譚ですよね」
「そうね、一度ナインさんとノイルさん達も、同じSランク冒険者として交流してみるのも刺激になるのではなくて?」
「刺激にはなるだろうけど、俺達は冒険者と言うより経営者になったからなぁ」
「だが、ダンノージュ侯爵領のSランク冒険者と会ってみる価値はありそうだと私は思うよ。色々な情報交換も出来そうで楽しそうじゃないか」
「じゃあ、お互いに会う時に是非、このリディアのストレス発散に作ったテントとかを見て貰いたいね。現役冒険者でも欲しいと思える品かどうか」
「その場で欲しいって言いそうだけどね。アタシが現役だったら是が非でも買ってたよ」
「では、大人用の大きな多人数用も用意してみますわ。そちらは設置に少し時間が掛りますけれど、使い方はカイルと一緒にやっていけばすぐ終わると思いますし」
「分かった、手伝うよ」
「合間を見て作りますから、ナインさんの予定を聞いてからわたくしもお会いしますわ。丁度薬局の様子も見に行きたかったですし。ネイリスト用の部屋も用意しなくてはなりませんもの。カイルはそろそろパティシエが見つかったか聞いて来て下さいませね」
「分かった」


貴族が減った事で王太子領の貴族向けのネイリストが少し余っている状態ならば、是非ともダンノージュ侯爵領のネイリストになって頂かねば!
最初から技術を教えてと言う手間も省けて一石二鳥ですわね!


「後は、神殿契約をした販売員を4名ほど欲しいですけど、そちらはどうですの?」
「既に話はしていたはずだから、明日聞いてくるよ」
「分かりましたわ。では話し合いはこの位にして、お昼過ぎにミレーヌさんはこちらに来て頂けたら、一緒に保護者に渡すプリントを作りましょう」
「分かりました!」
「じゃ、俺達は温泉に入ってくるぜ」
「ええ、わたくし達は女子会してから温泉に行きますわ」


こうして、男性陣が温泉で楽しんでいる間は女子会を開き、楽しく過ごしていたのですけれど――。
まさか翌日、王太子領の貴族の間で、わたくしの噂で持ちきりになるとは夢にも思いませんでしたわ。
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