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183 王太子からの呼び出しと、領を富ませる一つの方法。

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今回の王太子からの呼び出しは急な呼び出しでしたわ。
朝一番に使者が道具店サルビアに来て、連絡と招待状を渡すと帰って行かれたんですもの。
それを届けたレインさんは少し不安げな様子でしたけれど、晩餐会でも何でもなく、本当にただの招待状で中身は不明。

とは言え、前々からカイルから「王太子が話をしたいと言っている」と言う事は聞いていたので、今回の呼び出しは碌な事ではないかも知れませんわね。
案を出すだけならまだしも、現在わたくし達が作っている商品を王太子が買いたいといっても無理な話……。
さて、一体どんなことになるのかしら。
一応一つの案として前々から考えていたものはありますけれど……。

城に到着するとカイルは顔パス、わたくしは招待状を持ち、自分の補佐と弟子を連れて来ていることも告げると、すんなり入ることが出来ましたわ。
皆さんは戦々恐々としてらっしゃいますけれど、城の中を歩くと厳しい視線や尊敬に近い視線と、様々な視線を感じますわ。
それでも堂々と胸を張って歩き、王太子の間まで到着すると、中には沢山の大臣だのなんだのと集まっているのが分かりましたわ。


「来たか、カイルにリディア嬢」
「お久しぶりですナジュ王太子様」
「お久しぶりです」
「堅苦しい挨拶はなしだ。二人からの案も色々聞きたくて急いで呼んだんだ。二人はあの道具店サルビアだけではなく、焼肉店等幅広く商売をして成功している。故に案が欲しい」
「唐突ですね。どのような案でしょうか」
「この王太子領を富ませる為の案だ」


――嗚呼、やっぱりね。
自分たちでは答えが出ず、結果成功者の話を聞くというのは一つの良い手ではあるわ。
けれど……この敵視しかない視線の中で話すのは面倒くさいですわね。


「現在王太子領にはこれと言った産業もない。王都と言う事もあって人は多いが難しいのが現状だ。冒険者だけに富ませる訳にもいかず、国民に還元出来るような物があってこそだと思うんだが、幾ら話し合ってもいい案が出ないんだ」
「「でしょうね」」
「そこでカイルたちの案を聞きたい。この国を富ませる為にはどうすればいいだろうか」
「簡単な方法はありましてよ?」
「本当か!?」
「でも、それをすれば教会が許さないのではないかしら」
「どんな案でも良い、言ってみてくれ」
「では王太子様から言質を取りましたので……民全員とまでいかずとも、これから就職をする成人から成人前までに、スキルボードでスキルをチェックさせる事ですわね」


この一言に王太子は目を見開き、他の参加している方々からも「何を言っているんだ!」「教会が許すはずがない!」等など叫ばれていますけれど――。


「ですから、わたくしは王太子様から言質を取ってお話したんですのよ? わたくしに文句を言うのはお門違いでは? いうならば王太子様に文句を言って下さいませ」
「それは……しかし王太子殿下、それはいけません、いけませんぞ!!」
「スキルボードは貴族の為の物です! それを平民に使わせてはなりません!」
「その考えが古いんですわ。何時までもそう言っているのなら国も民も富みませんわよ」
「何を言う! 貴族の矜持が」
「矜持より、民を富ませる事が全てではありませんの? 矜持では食べていけませんわ」


わたくしの言葉に貴族の方々は言葉をかみ殺し睨んできてますけれど、事実ですもの。
知った事じゃありませんわ。


「それで、リディア嬢の案では、平民にもスキルチェックをさせてどうしたいんだ?」
「まず、この国に足りない事から伝えますと、平民の教育が足りておりませんわ。勉強をする暇もなく、勉強を教える相手もおらず、それが原因で、最低賃金で安く働かされるものが多すぎるんです。
そうなってしまえば、子が出来ても子を育てることは出来ず、孤児院で暮らす子供が増える一方です。わたくしたちは孤児院への継続的な寄付等もしておりますが、子供達の数は増える一方。子供を育てていける大人が少ないと言う結果ですわよね?」
「……そうなるな」
「では、どうするべきか。
大人にも学業の他に、職業訓練を受けさせればいいのです。
それは王太子領を上げての職業訓練校ですわ。その為にスキルボードが必要ならば、教会も貸さないということは出来ないでしょう」
「確かに、王太子領挙げての職業訓練場ならば、教会も納得する」
「職業訓練校の第一号と言う功績を王太子様が作られれば、それは他の領でも同じようにするところが出てくるでしょう。王太子領では平民でもスキルボードを使い、職業訓練を受けられるとなれば、王太子殿下に箔もつきます。
更にそれが成功するようになれば、王太子殿下が行う事業としてナカース王に特許を取り、あなた様に入るお金が増えます。その増えたお金でやるべきことも増えるでしょう。
現状、王太子領は兎に角貧しいですので、新たな産業と言うのを生み出そうにも、スキルを持っている人間が多くないと生まれませんわ」


ありのままの現状を王太子に伝えると、強く頷いてからわたくしと向かい合い、口を開きましたわ。


「では、例えばどのような産業が王太子領では出来ると思う? 他の領からも来やすくなるような、収入に繋がるようなものがあればいいんだが」
「そうですわね、王都の内部では、まず――貴族が通う職業訓練校を作っては? ただの社交を学ぶための学園では話にならないわ。貴族の為の職業訓練校を作り、更に、平民の為の職業訓練校を作りますの。なぜ二つが必要かと言うと、競わせる為ですわ」
「競わせる?」


思いもよらなかったのか、ナジュ王太子だけではなくカリヌさんも驚いていますわね。
そう、勉学では確かに貴族が有利になるけれど、職業訓練ともなればいいライバル心が出来るんじゃないかしら。


「競わせることで技術の向上に繋がります。さらに貴族用の職業訓練校を作れば、跡継ぎ以外ならば自分にあった仕事を選ぶことが可能でしょう? 貴族の次男、三男だから騎士になるしかないみたいな古い考えは捨てましょう。
寧ろ、貴族の男子ならば自分の店、自分の工房を持つくらいにはなって貰わねば、頼り甲斐すらありませんわね!」
「なるほど……つまり、他の領からも貴族の次男三男を募集し、職業訓練も受けさせることで学園に入るお金も増え、それを領が使う金にも回せるようになると言う事だな」
「そういう事ですわね。教師ならば、その手の現役から引退した方まで幅広く雇う事も可能でしょう? これで一つの雇用も生まれますわ。材料ならば三つあるダンジョンから出てくるんですから買う事も可能でしょう」
「だが雇用は一つでは、」
「足りませんわね。そこで、スラムになっていた場所や裏稼業の方々が住んでいた場所などを整備し、そこに工房を幾つも立てるんですの。
卒業した方々が店を持てるように、または、現在仕事をしている方々が働ける『専業特化地区』を作る事で、土地を借りる際には少し安くはなるように設定して、自分の店を作れるようにしたり、元からある店を引っ越してそこで仕事をして貰う事も可能ですわ。
ですが、整備はとても大事ですわね。彫金スキル持ちならば付与師との連携は不可欠にもなってきますし、全てがバラバラだとゴチャゴチャの『専業特化地区』になりますから、5区くらいに分けて場所を連携させるように回しておけば、綺麗な地区になりますわ。
更に『専業特化地区』に住む人々からは、働いていない者を除いて、専属特化税を取ればいいんです。多くてはダメですわ。出せる範囲の金額を設定すれば問題はない筈ですわ」
「今ある彫金師たちの店なんかを移動させるってことか」
「初期費用は掛かりますけれど、後々返ってくると思えば安いと思いますわ。また、『専業特化地区』の者たちは、せめてスキル50から店を持てるようにすれば、他の領に依頼として人材を技術派遣することも可能では?」
「他の領に……人材を技術派遣?」
「ええ、専門知識と言うのは、それだけで財産ですわ。お金を貰って知識をもつ人材を貸し出すのです。人が多くなればなるほど、他の領への領民の貸し出しと言う事で他の領からお金が入りますわよね?」
「人を財産と見立てて、他の領に貸し出すのか!」


思いもよらなかったのでしょうね。
前世では派遣社員や正社員等と言ったものもありましたけれど、それを此方に持ってくるとすれば、こんなやり方が妥当ではないかしら?


「ええ、もし自分の領民で技術が欲しいというのであれば、学園に入ればいいだけですもの。貴族を入れるもよし、平民を送って技術を学ばせるもよし。無論学費として領内貴族や他の領の貴族、そして他の領民のお金は頂くことにすればよいのではなくて? 貧困に喘ぐ国民からはお金を取らなければ良いだけですわ。つまり、王太子領は『慈愛の領』ともなり『知の領』とするのです」


この一言に、ナジュ王太子とカリヌさんは生唾をゴクリと飲み込みましたわ。


「確かに今は貧しいですわ。でも、場を整えてあげて学園を作り、王太子領は今後、『慈愛の領』『知の領』『知識の為の領』とすればどうです? 知識を欲しい領はとても多いのではなくて?」
「確かに……知識が欲しいと思うのは、ナカース王国全体としても喉から手が出る程の欲しいものだろうな」
「無論、他の王国からしてみてもだ。知識と言うのは何にも勝る財産だ。それを王太子領では人を財産として動かすのであれば、人の数だけ財産があるという事になる」
「ええ、しかも、知識がそれだけ豊富と言う事は、他の領が作りたいと思っている製品などの受注依頼も来るという事ですわ。受注依頼もそれなりに大きな金額でしてよ?」
「リディア嬢。俺達は君を甘く見ていたようだ」
「そうか、産業が無いのであれば、人こそを産業に仕立て上げればいいのか……。それなら教会も文句は言えない」
「と、いう事ですわ。最初こそ時間は掛かれど、後は富むばかりでしてよ? これ位で宜しいかしら、わたくし予定が詰まってますの」
「すまない、忙しい所に急に来てもらって。だが画期的な発想だ! 凄いぞリディア嬢!」
「わたくしは具体案を出しましたわ。後は王太子領の皆さんで、考えてくださいませ。ですが、再三言いますが、貧困に喘ぐ国民はとても多いのです。彼らが技術を持ち、財産となるまではお金を取る真似は絶対にしないでくださいませ」
「分かった、約束する!」


それだけを言うとわたくしとカイルたちは揃って城を後にしましたわ。
後は王太子とカリヌさんが色々と話を纏めていく事でしょう。


「結局俺はリディアに付いて来ていただけになったな。流石だなリディア、人と技術をセットで財産にするなんて、考えつかなかったぞ」
「リディア様流石です!」
「商売の神様ですものね!!」
「「リディア姉すごい……」」


そんな感想が流れる中、わたくしたちは城をあとにして箱庭に戻り、ふう……と息を吐くと、一息入れてからやるべきことをすることにしましたわ。
すると――。

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