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174 薬師協会最後の日(上)
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――薬師side――
今日からあの忌々しい商店街の薬局が開く日だ。
予め嫌がらせの為に人を雇いたかったが、商店街には世話になっている者が多く、人を雇うことが出来なかった。
幾らあのダンノージュ侯爵、アラーシュ様の孫と言えど行き過ぎは良くない。
金は余る程持っているのなら、薬局を作る際に上納金はたんまりと頂かねば。
そう思いつつ朝の8時、各店舗もオープンしたところでバタバタと商業ギルドにある薬師協会に5人もの男たちが入ってきた。
「何事だ!」
そう叫んだが、彼らの服装を見て皆が震えていた。
そう――彼らの服装は皆、王家が管轄の不正を取り締まる調査員だったからだ。
「これより、ダンノージュ侯爵からの依頼により、貴様たちのスキルを調べさせてもらう。また、調査に関してはダンノージュ侯爵より神殿契約を行ったものが入る為、皆動かぬように!」
「ちょ……調査だと!?」
「ははは、アラーシュ様は何か勘違いを為さっているのでは?」
「我々はちゃんとアラーシュ様がこちらに派遣している者に嘘偽りない報告を、」
そう口にした時、後ろから男に投げ出されるように倒れ込んだのは、教会が懐柔したダンノージュ侯爵家から派遣されている男だった。
「既に彼から、嘘偽りない証言は得ている。金で買収されていたとな。虚偽報告をアラーシュ様にしていたことも全て聞いている」
「貴様っ!!」
そう叫んだが男は既に虫の息だった。
余程酷い尋問を受けたのだろう、あちらこちらから出血していたり、内出血を起していた。
「さて、アラーシュ様が教会に少々、お願いして、貴様たちや薬局にいる者たちのスキルを見る為に、スキルボードを貸して頂いている。協会で働くにはスキル50が最低ラインだが、貴様たちはどうだろうな」
「ぐ……」
不味い、非常にまずい。
ワシ等協会にいる者たちのスキル等、たかが知れている。
全て金で買った地位だと言うのに……スキル等50もあるはずが無いのだ。
それでも、無理やりスキルボードに両手を押さえつけられ、片っ端からスキルを読み上げられると、中には薬師でない者もいた。
不正以外の何物でもなく、協会規定から大きく離れた行為だ。
直ぐに薬師ではない男は縄を付けられ連行されるが、次々にスキルボードでスキルを調べさせられると、ワシの番が回ってくる。
何とか必死に暴れたが、それすら虚しくスキルを読み上げらえると――ワシの薬師スキルはたったの14だった事がバレてしまった。
「情けないにも程があるな。50に達しているのは二人だけか」
「一番上のトップですら14とは笑いを通り越して呆れるな」
「50あった者はここに留まり、ダンノージュ侯爵家から派遣されている調査員に従うように。全ての膿を出し切れとの命令だ」
「お前たちは牢屋でタップリと話を聞いてやろう。冷たい場所でよく人が死ぬが、老い先短いのなら問題ないだろう? 早めに迎えが来るか否かの違いだ」
「放せ! 放せぇぇぇええええ!!!」
「ワシ等はアイツに言われて」
「黙れ!! でたらめを言うな! ワシは、ワシは!!」
「そうそう、カイル様の婚約者、リディア様への暴言も罪状に入っている。安心して牢屋で寛ぐと良い」
「こんなことが許されるものか!! ワシは長年薬師協会の為に、」
「不正をしてきたのだ!!! って言いたいのか? 叫ばなくても分かっているさ」
「全く、薬師協会が此れでは、薬局など見るも無残だろうな」
「おのれおのれおのれ―――!!!」
ワシの叫び声に商業ギルドのメンバーは何事かとみているが、情けなくも服装はよれて縄をかけられた情けない姿を、職員たちが呆然とした様子で見ている。
ヒソヒソとした声すら聞こえてきたが――。
「何があったんだ?」
「薬師協会が全体的に不正を行っていたんですって」
「信じられないわ!! 薬師といったら民の命を守るところじゃないの!」
「あいつら人殺しよ! 殺人罪で殺されればいいんだわ!」
そんな声が聞こえ、睨みつけると相手も睨みつけてきた。
ワシを何だと思っている!
ワシを誰だと思っている!
ワシこそが、ワシこそが薬師協会をずっと束ねてきたのだぞ!!
貴様たちの命を握っていたのもワシだというのに!!
冷たい地下牢に投げ込まれ、仲間であった者たちはワシを罵倒し、その声は地下牢の中ではやけに大きく響く。
何度もこちらも叫んでいると、更に地下牢に白衣を着た薬師たちが放り込まれて行った。
「何故ですか!! 何処から俺達の不正がバレたんです! 誰が俺達を売ったんだ!!」
「スキルが無いのに薬局をしていた事をばらしたのはどいつだ!! 殺してやる!!」
次々に運ばれてくる白衣を着た者たちで地下牢が一杯になろうとした頃、一人の調査員とカイル様と見覚えのある薬師が地下牢に現れた。
調査員の手には録画する水晶が握られており、此処で下手な発言をすれば間違いなく次の日には首が飛ぶ!!
「ははは、見事に捕まってるな。薬師協会の腐敗がどれだけ酷かったか良く解るぜ」
「その声は――ドミノ!」
ガシャン! と言う音と共に、ワシの隣に入れられている薬師が叫んだ。他にも奴の事を知っている奴がいるようで「貴様が何故ここにいる!」と叫ぶ声が聞こえる。
「雇われ薬師ごときが何故カイル様と一緒にいる!」
「酷い言いがかりだぜ。俺はカイル様に雇われた薬師だぞ」
「なんだと!?」
「薬師スキルも43に昨日上がったばかりだしな」
「嘘を言うな! 貴様の様な奴が薬師スキルが高いはずがない!」
「それは、俺の雇っている薬師が嘘を言っているとでも言いたいのか?」
「カイル様、騙されてはいけません! そいつは、」
「安心してくれ、俺もスキルボードチェックを受けた。だが牢屋に入っていないってことは分かるだろう?」
「カイル様に買収された調査員だったんだろ!」
「おいやめろ!!」
「馬鹿かお前、神殿契約した調査員をどうやって買収するんだよ。頭を使えよ頭をさ」
「貴様っ」
「ドミノ、これでお前の言っていた無能な薬師は全員いそうか?」
「ああ、全員いるだろうねコレだけいれば」
「そうか、後の事は調査員がお前たちの隠し持っていた裏帳簿も合わせて調べている所だ。約一カ月は掛かるだろうがその頃には真冬だな。君たちが死なない事を祈る」
「薬師派遣もなしにして貰ったからな、安心しろよ」
――牢屋に薬師派遣をしないだと!?
死ねと言っているのと同義じゃないか!!
「待て、落ち着いて話し合おう。せめて薬師派遣はして貰わねば死んでしまう!」
「お前は何を言っているんだ? 牢屋へ薬師派遣を頼んだ時、お前たち薬師協会からの返答を忘れたのか?」
「カイル様、一体何を」
「『罪人を見るなど、薬師は致しません』だったか? 記録に残っているぞ」
「――!!」
思い出した……以前の道具屋の一件で、確かにワシ等はそう言ったのを思い出した。
だがそれで人が死ぬとは思わなかったのだ。
あの一件で死刑執行になった者はいない。
全員が病気を患い死んでいる。
「そ、そこを何とか!」
「お願いします! 薬師を! 薬師を派遣してください!」
「今残ってる協会幹部も忙しくてそこまで手が回らないと思うぜ?」
「だったらドミノ! 貴様でも良いから診に来い!!」
「お断りします。あなた方を診ようとしたら、毒を盛りかねませんので」
「「「「ヒッ」」」」
「毒で死ぬより、自然に死んだ方がマシでしょう? 他の薬師もそうしますよ」
「――何とかしてくれカイル様!」
ワシがそう叫んだ時、カイル様は大きな溜息を吐いた。
そして、とても通る声で、ワシ等に問いかけてきたのだ。
「お前たちの所為で、どれだけの人が、子供が死んだか知っているか?」
今日からあの忌々しい商店街の薬局が開く日だ。
予め嫌がらせの為に人を雇いたかったが、商店街には世話になっている者が多く、人を雇うことが出来なかった。
幾らあのダンノージュ侯爵、アラーシュ様の孫と言えど行き過ぎは良くない。
金は余る程持っているのなら、薬局を作る際に上納金はたんまりと頂かねば。
そう思いつつ朝の8時、各店舗もオープンしたところでバタバタと商業ギルドにある薬師協会に5人もの男たちが入ってきた。
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そう叫んだが、彼らの服装を見て皆が震えていた。
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「ちょ……調査だと!?」
「ははは、アラーシュ様は何か勘違いを為さっているのでは?」
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そう口にした時、後ろから男に投げ出されるように倒れ込んだのは、教会が懐柔したダンノージュ侯爵家から派遣されている男だった。
「既に彼から、嘘偽りない証言は得ている。金で買収されていたとな。虚偽報告をアラーシュ様にしていたことも全て聞いている」
「貴様っ!!」
そう叫んだが男は既に虫の息だった。
余程酷い尋問を受けたのだろう、あちらこちらから出血していたり、内出血を起していた。
「さて、アラーシュ様が教会に少々、お願いして、貴様たちや薬局にいる者たちのスキルを見る為に、スキルボードを貸して頂いている。協会で働くにはスキル50が最低ラインだが、貴様たちはどうだろうな」
「ぐ……」
不味い、非常にまずい。
ワシ等協会にいる者たちのスキル等、たかが知れている。
全て金で買った地位だと言うのに……スキル等50もあるはずが無いのだ。
それでも、無理やりスキルボードに両手を押さえつけられ、片っ端からスキルを読み上げられると、中には薬師でない者もいた。
不正以外の何物でもなく、協会規定から大きく離れた行為だ。
直ぐに薬師ではない男は縄を付けられ連行されるが、次々にスキルボードでスキルを調べさせられると、ワシの番が回ってくる。
何とか必死に暴れたが、それすら虚しくスキルを読み上げらえると――ワシの薬師スキルはたったの14だった事がバレてしまった。
「情けないにも程があるな。50に達しているのは二人だけか」
「一番上のトップですら14とは笑いを通り越して呆れるな」
「50あった者はここに留まり、ダンノージュ侯爵家から派遣されている調査員に従うように。全ての膿を出し切れとの命令だ」
「お前たちは牢屋でタップリと話を聞いてやろう。冷たい場所でよく人が死ぬが、老い先短いのなら問題ないだろう? 早めに迎えが来るか否かの違いだ」
「放せ! 放せぇぇぇええええ!!!」
「ワシ等はアイツに言われて」
「黙れ!! でたらめを言うな! ワシは、ワシは!!」
「そうそう、カイル様の婚約者、リディア様への暴言も罪状に入っている。安心して牢屋で寛ぐと良い」
「こんなことが許されるものか!! ワシは長年薬師協会の為に、」
「不正をしてきたのだ!!! って言いたいのか? 叫ばなくても分かっているさ」
「全く、薬師協会が此れでは、薬局など見るも無残だろうな」
「おのれおのれおのれ―――!!!」
ワシの叫び声に商業ギルドのメンバーは何事かとみているが、情けなくも服装はよれて縄をかけられた情けない姿を、職員たちが呆然とした様子で見ている。
ヒソヒソとした声すら聞こえてきたが――。
「何があったんだ?」
「薬師協会が全体的に不正を行っていたんですって」
「信じられないわ!! 薬師といったら民の命を守るところじゃないの!」
「あいつら人殺しよ! 殺人罪で殺されればいいんだわ!」
そんな声が聞こえ、睨みつけると相手も睨みつけてきた。
ワシを何だと思っている!
ワシを誰だと思っている!
ワシこそが、ワシこそが薬師協会をずっと束ねてきたのだぞ!!
貴様たちの命を握っていたのもワシだというのに!!
冷たい地下牢に投げ込まれ、仲間であった者たちはワシを罵倒し、その声は地下牢の中ではやけに大きく響く。
何度もこちらも叫んでいると、更に地下牢に白衣を着た薬師たちが放り込まれて行った。
「何故ですか!! 何処から俺達の不正がバレたんです! 誰が俺達を売ったんだ!!」
「スキルが無いのに薬局をしていた事をばらしたのはどいつだ!! 殺してやる!!」
次々に運ばれてくる白衣を着た者たちで地下牢が一杯になろうとした頃、一人の調査員とカイル様と見覚えのある薬師が地下牢に現れた。
調査員の手には録画する水晶が握られており、此処で下手な発言をすれば間違いなく次の日には首が飛ぶ!!
「ははは、見事に捕まってるな。薬師協会の腐敗がどれだけ酷かったか良く解るぜ」
「その声は――ドミノ!」
ガシャン! と言う音と共に、ワシの隣に入れられている薬師が叫んだ。他にも奴の事を知っている奴がいるようで「貴様が何故ここにいる!」と叫ぶ声が聞こえる。
「雇われ薬師ごときが何故カイル様と一緒にいる!」
「酷い言いがかりだぜ。俺はカイル様に雇われた薬師だぞ」
「なんだと!?」
「薬師スキルも43に昨日上がったばかりだしな」
「嘘を言うな! 貴様の様な奴が薬師スキルが高いはずがない!」
「それは、俺の雇っている薬師が嘘を言っているとでも言いたいのか?」
「カイル様、騙されてはいけません! そいつは、」
「安心してくれ、俺もスキルボードチェックを受けた。だが牢屋に入っていないってことは分かるだろう?」
「カイル様に買収された調査員だったんだろ!」
「おいやめろ!!」
「馬鹿かお前、神殿契約した調査員をどうやって買収するんだよ。頭を使えよ頭をさ」
「貴様っ」
「ドミノ、これでお前の言っていた無能な薬師は全員いそうか?」
「ああ、全員いるだろうねコレだけいれば」
「そうか、後の事は調査員がお前たちの隠し持っていた裏帳簿も合わせて調べている所だ。約一カ月は掛かるだろうがその頃には真冬だな。君たちが死なない事を祈る」
「薬師派遣もなしにして貰ったからな、安心しろよ」
――牢屋に薬師派遣をしないだと!?
死ねと言っているのと同義じゃないか!!
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「お前は何を言っているんだ? 牢屋へ薬師派遣を頼んだ時、お前たち薬師協会からの返答を忘れたのか?」
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「――!!」
思い出した……以前の道具屋の一件で、確かにワシ等はそう言ったのを思い出した。
だがそれで人が死ぬとは思わなかったのだ。
あの一件で死刑執行になった者はいない。
全員が病気を患い死んでいる。
「そ、そこを何とか!」
「お願いします! 薬師を! 薬師を派遣してください!」
「今残ってる協会幹部も忙しくてそこまで手が回らないと思うぜ?」
「だったらドミノ! 貴様でも良いから診に来い!!」
「お断りします。あなた方を診ようとしたら、毒を盛りかねませんので」
「「「「ヒッ」」」」
「毒で死ぬより、自然に死んだ方がマシでしょう? 他の薬師もそうしますよ」
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ワシがそう叫んだ時、カイル様は大きな溜息を吐いた。
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